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第17話 チーム ミスティック

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 探検者となったその日の夜、ダイカク家の自分が泊まっている部屋で敏文はある重要な事を任されて頭を悩ませていた。


 それは…………、探検者のチーム名を決める事だった。


 探検者登録が終了したところで、ダイカクを除く敏文達4人はチーム登録をすることになった。


 何故ダイカクはチームに入らないのかというと、ダイカクの探検者のランクが紫のクラス2で4人とあまりに開きがあるため、チームを組んだ場合に仕事を受けにくくなってしまうためだ。


 ヤナーガへの旅については、ダイカクは同行者として参加する位置付けにするそうだ。


(チーム名なあ。なんでもいい気もするが、あまりに酷いと依頼を受けにくくなるかも知れないしな)


 さんざん悩んだ挙げ句、翌朝、敏文は3人に2つの名前を提案した。


 ひとつは[チーム エトランジェ]、そしてもうひとつが[チーム ミスティック]だ。

 [エトランジェ]は敏文やサラが呼ばれる[異邦の人]からとったものだ。

 ただ、難点があってこの名前の由来を聞かれると説明に困ってしまう。俺達は異邦の人ですって言って回っているようなものだ。またブンゾーやアヤメは[異邦の人]ではない。


 もうひとつの[ミスティック]は[神秘的な]とか、[謎めいた]とか以外に[秘伝を授かった人]という意味もあったと思う。


 ちょっと奇をてらっている感もあったが、3人に相談してみると、ブンゾーは「どっちでもいい」、アヤメは「なんとなく」、サラは「やっぱり異邦の人って説明するのめんどくさいから」と結果消去法的に[ミスティック]で登録することになった。


 そして馬車の手配、野宿を想定した装備品、食料等を買い込むと、ミヤザを出発することにした。



 ダイカクの屋敷を出るとき、キキョウ、マリカ、ナミが見送ってくれた。マリカは最後まで一緒に旅が出来ないことが不満だったようだが、最後は明るく見送ってくれた。


 馬車の御者台には敏文が乗り込んだ。

 敏文はそれまで手綱なんて握ったことなかったのだが、タクミに聞いたら、『あるよ』とあっさり言うので御者の技を伝えてもらった。

 敏文の手綱捌きが意外にまともだったので、ダイカクもならば任せようということになったのだ。


 次に探検者組合に立ち寄り、チーム名の登録と道中に受けられそうな依頼を確認した。


 するとモンドから男爵からの指名依頼がチーム[ミスティック]にあり、ヤナーガのタチバナ伯爵に届け物を依頼されている事を聞かされた。

 実行期限がなく依頼受諾の申請が必要のない魔獣討伐の依頼等を記録すると、そのまま男爵の屋敷に向かう。


 男爵からはタチバナ伯爵への贈り物だという箱を預かった。木箱に入っているのだが、中身は何なのかはわからない。


 男爵と男爵夫人に見送られ、敏文達はミヤザの街を馬車で後にした。


 これから海沿いの街道を通り、ヤナーガを目指す。車と違って馬車なので、途中休み休み進むことになる。今日は天気も良くて旅行日和だ。


 敏文が手綱を取りながら鼻唄を歌っていると、幌の幕が開いてアヤメが顔を出した。


「ご機嫌みたいね」

「そうかな。でも天気も良くて気持ち良くてね」

「さっき歌っていた歌は、元の世界の曲なの?」

「ああ、俺がドライブに行くときによく聴いていた曲でね」

「ドライブ?」

 アヤメはよくわからないって顔をする。


「ああ、ごめん。ドライブというのは元の世界の言葉でね。車という乗り物を運転しながら、移動する事をいうのさ。う~ん、なんて説明すればいいかな……。馬が引くんじゃなくて、金属で出来た車輪付きの乗り物がガソリンっていう燃料を燃やして出来た力で自分で走るものなのさ。それを馬車の手綱を引くように操る事をドライブって言うんだよ」

「へえ~、それって速いの?」

 感心しながら、アヤメが聞く。


「ああ、この馬車の数倍速いな」

「数倍も? 凄いわね! でもそんなに速いと揺れて大変なんじゃないの?」

 確かに馬車の旅を経験すると、ちょっとした小石に乗っても凄く揺れる。敏文もさっき舌を噛みそうになっていた。

「そうならないような仕組みがついてるのさ」

「へえ、いいなぁ。それなら、乗っても楽でいいもの。トシフミのいた世界って凄いのね」


 アヤメは御者台の敏文の横に座って、元の世界の事を色々と楽しそうに聞いてくる。敏文は聞かれるがままに元の世界の事を話すうちに恵美や娘達の事を思い出していた。


(会いたい……。会って娘達を抱きしめてやりたい。今は無理かも知れないがいつか必ず……)


◇◇◇◇◇


 その日は馬車の旅は無理は禁物というダイカクの言葉に従い、まだ明るいうちに、野営の場所を確保し、準備を済ませた。

 その後、敏文達は中断していたダイカク先生の魔法講座を受ける。


 今回は中級の魔法だ。6種類あるそうだ。

 《刃》と呼ばれる魔力の刃を飛ばすもの。同時に複数の刃を飛ばすことができる。

 《壁》と呼ばれる物理的あるいは魔法を防御する壁を作るもの。

 《霧》と呼ばれる霧を発生させて相手の視界を奪ったりするもの。

 《鎖》と呼ばれる魔力の鎖で相手を攻撃したりするもの。

 《縛》と呼ばれる相手の動きを封じるもの。

 《療》と呼ばれる一部の状態異常にも対応可能な中級の治療魔法。


 これらについてダイカクは自分に適性がない属性の魔法であっても魔力の作り方や魔法の行使の仕方を丁寧に教えてくれた。

 この旅の間に中級の魔法まではモノにしたい、そう敏文は考えていた。


◇◇◇◇◇


 敏文達は順調に旅を続け、4日目の夕方にはクマモの街に入った。ここはホソガ子爵が治める城下町だそうだ。この3日間は野宿だったので、人混みを見ると落ち着くところもある。今日はここで宿をとることにした。


 ダイカクが泊まったことがあるという、川沿いの宿を訪ねてみる。空きがあると言うので馬車を預けて宿に入った。

 するとカウンターにいた女将が、顔を上げて愛想よく迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。あ、お客さまは以前もご利用いただきましたね。ようこそおいでくださいました」

「ああ、以前泊まった際に飯と風呂が良かったからな。世話になる」

 ダイカクはそう言って、馬車から降ろして持っていた荷物を足元に置いた。


 女将はニッコリ笑って聞いてきた。

「お褒めに預かり恐縮です。この度はどれくらい滞在のご予定ですか?」

「ゆっくりしたいが、ヤナーガへの途中でな。1泊で頼む」

「畏まりました。ヤナーガへはこのまま陸路で入られるおつもりですか?」

 女将は少し心配そうな顔をして尋ねてきた。何かあったのだろうか。


「タバルーを越えてヤナーガに入るつもりだったが、何かまずいことでもありそうか?」

 ダイカクがそう尋ねると、少し言いにくそうに女将は答えた。

「最近どうもタバルーの山中に強盗の集団が根城を構えたようでして、旅行者や商人が襲われているようなんです」

「ほう。でもホソガ子爵の領内にも警備隊はいるだろうし、探検者のチームなんかに討伐依頼は出ていないのか?」

「どうもそれがよくわからないのです」

「わかった。あとで探検者組合に顔を出してみよう」


 そしてダイカク、敏文、ブンゾーの男三人は探検者組合に、サラとアヤメは宿でゆっくりして待つということになった。


◇◇◇◇◇


 敏文達は情報収集のために、探検者組合へ向かう。

 宿の女将に聞いて、商店街のはずれにある探検者組合に辿り着いた。カウンターにいる女性に探検者の認証となる腕輪を見せて、ヤナーガまでの道のりでの情報を求めたところ、大体このような話だった。


 先月ぐらいから、ヤナーガとクマモの間にあるタバルー峠で旅人や商人に対する強盗の被害が増え始めた。

 そこで、ホソガ子爵の警備隊への討伐要請が行われるとともに、商人たちは探検者を雇って護衛をしてもらいつつ、タバルー峠を越えようとした。

 ところが赤クラスだけでなく青クラスの探検者のチームも護衛にことごとく失敗。探検者だけでなく、商人達も帰ってこないという。ホソガ子爵の警備隊も1個小隊が討伐に当ったが、待ち伏せにあって全滅したようだ。

 唯一街に逃げ帰った探検者の生き残りが伝えるところによると、盗賊が襲ってくると魔法が効かない上に、腕の立つ探検者たちがまず身動き取れなくなってしまうということだった。


 そのため、現在ヤナーガとクマモの間は陸路で通行する人はほとんどおらず、皆海路を取っているとのことだった。


(なるほど、女将が言っていたのはこのことだったんだ。確かにそんな状況じゃ、陸路で行くって言えば止めようとするよな)


 情報を得た帰り道、敏文達はこれからどうするか相談していた。

「ダイカクどう思う?」

 ブンゾーが尋ねる。

「なにかしらの魔道具を使って探検者達の動きを封じているんだろうな。そして、腕の立つ魔法士がついていて魔法の詠唱を妨害している」


「どうすれば対応できるかな」

 敏文は呟く。


「なんだ、トシフミやるつもりなのか?」

 ブンゾーが少し驚いた表情で言う。

「やるつもりなんだろう」

 それを見てニヤリと笑ったダイカク。


「魔法士に詠唱をさせず、魔道具使いの動きを封じられれば」

 敏文は、頭の中で方法をイメージしていた。

「魔法士の方は任せてもらおうか」

 ダイカクが笑う。

「じゃあ、私は魔道具使いの方を」

 敏文もニヤリと笑った。


 そんな敏文達を、ブンゾーが不思議そうに見ていた。



◇◇◇◇◇


 男性達が情報収集をしている間、サラとアヤメは宿で休養を取っていた。


 アヤメはダイカクがこの宿は食事と風呂がいいと言っていたのを思い出す。


(お風呂行ってみようかな。でも一人で行くのは寂しいし、ここはサラを誘っていっちゃおう)


「ねえ、サラ。この宿お風呂がいいってお父様が言ってたし、一緒に入りにいかない?」

「いいわね! 行きましょう!」


 乗り気になったサラと一緒にアヤメは宿のお風呂に向かう。

 女湯の脱衣所で着ている物を脱いだ二人は、かけ湯をした後、湯船に浸かった。

「ふう。癒されるわね~」

 サラは風呂の天井を見ながらそうつぶやく。


 アヤメが周りを見渡してみると、入っているのは自分達二人だけだ。結構広い湯船と窓の外には沢山の植木とオブジェなどがあり、外からも見えない造りになっている。


 お湯がさらさらしていて体に当てるとすごく肌がすべすべしてくる感じだ。

「お肌にもよさそう」

「アヤメは肌がつやつやしているから、それ以上気にしなくても大丈夫なんじゃない?」

「え~そんなことないよ。そういうサラこそ、背も高くて、スタイルよくて、出るとこ出てて、羨ましいなぁ」

 サラは確かに細身にもかかわらず、豊かな胸と締まった腰とお尻のラインが見事な体つきをしていた。アヤメが同姓ながら見とれてしまうほどに。


「アヤメだってスタイルいいじゃない」

 アヤメも体の線には自信があったが、サラほど胸があるわけではない。ほどよい大きさではあるが。

「あ、それって嫌味だ。世の中の女性の敵になっちゃうぞ。そんなこと言うと」

「え~そうかなぁ」

 サラは笑っている。


 ふと、サラが聞いてきた。

「ねぇ。アヤメはどうして今回のヤナーガ行き、一緒に行きたいって思ったの?」

「だから、それは……」

「あ、本音のところよ」

「え、本音?」

「多分、表向きの理由以外に、本当は他の理由があるんじゃない?」

「え?」

「例えば、トシフミと一緒にいたいと思ったとか」

「ええっ? ち、違うわよ」


 アヤメは少しドギマギしていた。

 実は少し敏文の事が気になりだしている自分に気が付いていたからだ。


(私は今顔赤いのかな。いやこれはお風呂で暖まっているからで……。でも本当はどうなんだろう)


 アヤメはダイカクの事が大好きで尊敬していた。理想の父親であると同時に理想の男性にもなっていた。

 その為気になる男性が現れるとどうしても父親と比較してしまうようになっていた。


 ダイカクは武術も魔法も並ではない。しかも辞めたとはいえ王宮魔法士まで勤めた男だ。比較する対象が悪いのだが、そのせいか周りの男にはあまり興味が持てなかった。


 王都にいたときも、街中で結構声をかけられたのだが、その辺の軽い男には興味もわかなかった。


 でも、先日の第3倉庫での出来事は、アヤメにとって大きなインパクトがあったようだ。アヤメは思い出してみただけでも少し頭の芯がぼうっとしてくるのがわかる。


(私のために岸壁から船まであんな距離ジャンプして助けてくれた。もしかして、私……)


「お姉さんには隠せないぞ~」

 アヤメの肩をつつきながらサラは笑っている。

 アヤメはからかわれているように感じながらも完全に否定できない。


「じゃあ、サラはどうなの? トシフミのことが好きなんじゃないの?」

 アヤメはかっとなって聞いてみた。


「ええ、大好きよ」

「うっ」

 まっすぐに返されるとは思っていなかったアヤメは少したじろぐ。

「……そう」

「私は彼と出会ってからまだ20日ぐらい。多分普通の状態で出会っていたら、まだ仲良くなりかけのお友達って感覚だったんだろうと思うわ」

 サラの話をアヤメは天井を見ながら黙って聞いていた。


「でも、知らない世界に放り込まれて普通だったら、自分の事で手一杯でもおかしくないのに彼は私の命を狼から守ってくれたし、落ち込む私を支えてもくれる。そんな彼を私は好きになってしまったの」


 アヤメは考えていた。

(何? だから私に手を出すなって言いたいの?)


 サラは続ける。

「アヤメ。私は好きな人を巡って、出し抜いたり、相手を蹴落としたり、貶めたりってそんなことは嫌い。あと、好きになった人には好きって誰にも憚らず言いたい」


「そう……」


「確かにトシフミには元の世界に奥さんや娘さんがいるわ。だから彼は何とか元の世界に戻る方法を探そうとしてる。私も出来ることなら帰りたい。でも、彼や私はもう元の世界には戻れないかもしれない。私達はこの世界で精一杯生きるしかないのかもしれない。だったら、自分に素直になりたいの」

「それで?」

「うん。だからね。もしあなたもトシフミが好きなのなら、お互いに素直に話せればって。この何日かのあなたを見ていて多分そうじゃないかって思ったんだけど違ったかな」


「でも、トシフミの気持ちわからないじゃない。私達だけ勝手に盛り上がってもしょうがないでしょ」

 アヤメは素直に好きだって言えるサラに嫉妬しつつも、まだ自分の気持ちの整理がつかない言い訳を敏文の気持ちがわからないことでごまかそうとした。


「そうね。だから、今はこのことは貴女と私の秘密ってことで。フフ」

「なによ」

「よかった。やっぱりあなたもトシフミが好きなのね。一緒に頑張りましょ」

 そう言って、サラはアヤメに握手を求める。

(どうしてこの人はこんなに明るくこんなことが言えるんだろう)


 アヤメはそう思いつつも、サラの手を握ってしまっていた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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