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第15話 救出作戦

2014.4.18 話を大きく修正しました。

 アヤメは第3倉庫を目指して走っていた。

「ひどい目にあって避難してきた人を騙すなんて許せないんだから!」


 途中すれ違う人達が何が起きたのかと驚いて彼女を見ているが構いはしない。


「キスケくん。待っててね!」


 正面に港が見えてきた。第3倉庫は港のすぐそばにある倉庫で、男爵領に食料などを荷揚げする時に使われる倉庫だ。レンガでできた大きなもので、いくつかの区画に分けられている。


「よしっ。着いた」

 そこで、一息つくとアヤメはようやく自分が一人だけでここまで来てしまっていることに気がついた。敏文も置きざりにしてしまっていた。

(どうしよう……)


 アヤメはいつもキキョウに注意されていた。

「あなたは、何かする前に一回立ち止まりなさい。頭に血が上ると周りが全く見えていないんだから」


(またやってしまった。でも、ここまで来てしまったし、私の風魔法で子供を攫って行く人なんて懲らしめてやるんだからっ!)


 この第3倉庫には区画が多く、どの区画に相手がいるのかわからない。


(あ、そう言えば、私キスケくんの顔を知らない!)


 アヤメはますます敏文を置いてきてしまったことを後悔する。 


 どうしようか、迷っている時だった。

 倉庫から何人かの男達がでてきた。アヤメは咄嗟に物陰に隠れる。


「キエモンさん。これで、7人子供らを確保しやしたぜ。あと、3人ですね」

 なんとなく下種な感じがするヤクザものという感じの男達だ。


「おい、お前達。船の出港は明日なんだ。とっとと、あと3人確保するんだ。貸し付けた金の回収も忘れるんじゃないぞ!」

「へい! だんな」

 キエモンと言われた男は、背がひょろっと高く、銀色の眼鏡をかけて、凄く神経質そうな顔をしている。


(やな感じ!)

 アヤメは直感的にそう思っていた。


(でも大変! 明日にはどこか遠くに連れて行かれちゃうんだわ。どうにかしなきゃ!)


 その時、アヤメは突然後ろから左肩をつかまれて、くるっと後ろを向かされると、拳を鳩尾に当てられた。


「ううっ!」

 アヤメは薄くなっていく意識の中で、男の声が遠くなっていくのが聞こえた。

「困るな。お嬢さん……」



◇◇◇◇◇



 敏文は、タケイとその部下の10人と一緒に、第3倉庫に向かって走る。

 やがて港が見えてきた。そこでタケイは部下達を止めて、2人ずつの5組にわけ、それぞれに指示をだす。そして5組はそれぞればらばらに散っていった。


 敏文はタケイと一緒に少しずつ倉庫に近づく。

「あれが第3倉庫だ。いくつか区画があるが、そのうちのどれかだろう。すぐに隊長が倉庫の貸主からどの区画をキエモンが借りているか特定してくれるだろう。少し待ってくれ」

「ああ」

 敏文はアヤメが近くにいるのではないかと思ったが、見渡す限り見当たらない。


(どこに行ったんだ? 少なくともこの場所の事は知っているようだった。あれから少し経っている。先についてどこかにいるかと思ったが……)



 やがて、先ほど散った5組のうちの1組が戻ってきて報告した。

「キエモンが借りているのは右から2つめの区画です。キエモン自身の名前ではなく、別人の名前で借りていましたが、それ以外の区画の借主の身元がはっきりしているため、そこしか考えられないようです」

「そうか、それで隊長は?」

「現在、男爵様にご報告すると共に、第一警備隊の3小隊全員の招集をかけられました。第1小隊は、炊き出しの男達の捜索。第3小隊は、父親を襲った男達の捜索にあたっています。ミヤザ守備隊にも連絡を取られています。そして、第2小隊残り4班40人がこちらに向かっています。全員が到着するまでまもなくだと考えます」


 つづいてもう1組がやってきて報告する。

「我々以外の3組は、倉庫の周囲で監視をしています。我々は周囲を確認して参りましたが、岸壁に1艘、ブンゴ籍の果物運搬用の船と小型の漁船が停泊しています。おそらくは、果物運搬用の船で攫われた者たちを運ぼうと考えているのでしょう。そこに攫われた者達がいるのかどうかはわかりません。倉庫の中の可能性もあります。倉庫には見えている表の入り口と裏に船への搬出用の出口があります」

「わかった。応援が来るまではお前達も引き続き監視をつづけてくれ。それとできれば貨物運搬船の中を探れないか機会を探ってくれ」


 敏文はコウとタクミに今の時点で何かできることがあるか尋ねた。すると、コウが提案する。

『じゃ、僕がこの格好で、近くまで行って様子を見てくるよ』

『大丈夫か?』

『うん。任せて。心配しなくても捕まったりはしないから』

『頼んだ!』

 コウはトコトコと倉庫の方に近づいていった。そしてピョンピョンと山積みされている木箱の上を越えていき、倉庫の開いていた窓から中に入っていった。


 少しするとコウが離れたところから連絡してきた。

『トシフミ。聞こえる?』

『ああ』

『倉庫の中に男が5人いるよ。それと、倉庫の両側の扉から離れた奥のほうに捕まっている子供達もいるみたい』

『そこにアヤメはいないか?』

『うん。アヤメさんは見当たらないね』

『そうか。なあ、コウ。お前アヤメの気配とか匂いとかわかったりするか?』

『ああ! うんわかるよ。これから倉庫の周り探してみるね』

『頼む』


 敏文はタケイに倉庫の中に5人の男がいることと、子供達が扉から離れた奥に閉じ込められているようだと伝える。

 タケイは何故わかるのか不思議そうにしていたが、はっと精霊のことを思いついたのか大きく頷いた。


 その時、第2小隊の残り40人が応援にやってきた。

 タケイは相手が5人で、子供達が中に捕まっていることを伝え、10人ずつの4班のうち、1班は貨物船の中の探索を、残りは倉庫を包囲するように班長にそれぞれ小声で指示をし配置する。



 さてタケイはこれからどうするんだろう。

 するとタケイは敏文に一緒に来るように伝え、倉庫の入り口に向かって歩き出した。


(大丈夫だろうか……)


 倉庫の入り口につくと、扉をノックする。そして大声で呼びかけた。

「すいませーん! こちらで人足の仕事をやらしてもらえるって聞いてきたんですがぁ。どなたかいませんかぁ」


「あんだぁ! 人足なんて頼んだ覚えはねぇぞ! 隣の間違げぇじゃねぇのか!」

 倉庫の入り口の扉が開いて、男が顔を出した。


 その時、倉庫の反対側から爆発音がした。 海側にいた警備隊の隊員が何か仕掛けたようだ。

「なんだ?!」

 入り口で顔を出していた男が、貨物搬出の裏口の方を見た瞬間、タケイはその男の首に腕を巻きつけ絞め落とす。そして、ぴっと指笛を吹き、扉を開け放った。

 すると、表側にいた全員が立ち上がって、倉庫への突入を開始。敏文も一緒に倉庫の中に入る。

 倉庫の中は煙がたっていて視界が悪い。


 その時タクミが叫ぶ。

『じゃあ、トシフミに気配探知の技を!』

 その瞬間、敏文は右手の奥に子供達がいること、そのそばには混乱している男が1人いること、他の男達は隊員たちと争っていることがわかった。

 敏文は慌てふためいておろおろしている男を捕まえると、雷の初級魔法《雷球》をぶつけて気絶させる。そして子供達のいる場所に駆け寄った。

「キスケ! 大丈夫か!」

「トシフミさん! 助けに来てくれたの!」

「ああ、連れて来られた子供達はみんないるのか?」

「うん!」

「よし、よくがんばったな」

「うぁ~ん。トシフミさ~ん。怖かったよ~」

 敏文にしがみついて泣いているキスケに釣られて他の子供達も泣いている。


 敏文はタケイに向かって叫ぶ。

「タケイさん! 子供達は全員無事だ!」


 それを聞いたタケイが、部下達に指示をだす。

「よし、そいつらを表に引きずり出せ!」


 その時、アヤメを捜していたコウから連絡が入った。

『トシフミっ! アヤメさんは岸壁の船の中だよ! 今、眼鏡の男ともう一人の男に捕まって船が出ようとしている!』

『なにっ!』


 敏文は裏の出口に向かって走りながら、タケイに叫ぶ!

「すまないっ! まだ、仲間がいたようだ! 船で逃げるぞ!」

「なにっ!」

 タケイもすぐに後を追ってくる。


 裏の出口から飛び出した敏文は、すでに岸壁を離れ沖に出て行こうとし始めている漁船を見つけた。

 船を動かしている男以外に、キエモンと細身で背の高い黒い服の男、それに猿轡をかまされて、ぐったりしているアヤメの姿があった。


 キエモンはこちらを嘲笑うかのように言った。

「一足遅かったですね。子供達は仕方ありません。あきらめましょう。代わりにこの娘をいただいていきます。なかなか上玉ですしね。それでは皆さんごきげんよう」

 船は速度を上げようとしている。 

「くそっ! 水魔法士が操縦してやがるのか! どうして奴らに気がつかなかった!」

 タケイが叫ぶ!

「すみません! 貨物船の方だとばかりっ!」


「させるかよ! コウ!」

 敏文がそう叫ぶとコウが左手に戻ってきた。

『いけるよ』

「いけぇっ!」

 敏文は左手をかざして船を操縦している水魔法士の目前を狙った。

 炎の槍が飛び出す!


 敏文の怒りが乗った《炎槍》は水魔法士の顔の前を掠めて船の前方に突き刺さり小さな爆発を起こした。


 こちらからも操縦していた水魔法士が気を失って倒れるのがわかった。

 敏文はタクミに聞く。

『ここから飛んで、あそこまでいける技はあるか?』

『あるよ。じゃあ、トシフミに跳躍の技を!』


 敏文は岸壁に向かって走り出し、思いっきりジャンプした。


“ドスン!”


 敏文は、50メートルほどの距離を跳躍して、キエモン、黒い服の男と転がされているアヤメの間に飛び降りた。二人の男は目を丸くして驚いている。


 敏文は片手をついてしゃがんだ姿勢から立ち上がりながら二人の男を睨みつける。

「よう。よくも、アヤメを攫ってくれたな」


 そう言うや否や、敏文は素早く踏み込んでキエモンの腹に当身を食らわせると、黒い服の男を捕まえようとした。

 キエモンは崩れ落ちる。


 黒い服の男は、敏文の攻撃をかわしながら、漁船の先へ走っていく。

「お前はいったい何者だ! しょうがねぇ、今日は逃げるしかねぇな」

 そう言って、黒い服の男は海へ飛び込んだ。


 その時、港のほうからミヤザ守備隊の船が3艘やってくる。先頭の船にはシノハが乗っていた。

「シノハさん! 一人黒い服の男が海に飛び込んで逃げました! 捜せますかっ」

「おう。お前ら聞いたな。捜すんだ!」

「はっ!」

 ミヤザ守備隊の隊員達は船の周りを捜索している。


 敏文はアヤメを抱き起こして、猿轡をはずし声をかける。

「おい、アヤメ! 大丈夫か? しっかりしろ!」

 顔を軽く2、3回ぱしぱしと叩くと、目を覚ましたようだ。

「あ、トシフミ。私……」

「ああ、無事だよ。とりあえず、怪我もなさそうでよかった。もう少しでこいつらに攫われるところだったんだぜ」

 敏文は倒れているキエモンに向かってあごをしゃくる。

「そうだったんだ……。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 アヤメは敏文にしがみついてしばらく泣き続けていた。


 気絶したままのキエモンを漁船に寄せてきたミヤザ守備隊の船に乗せて、敏文とアヤメも岸壁に運んでもらった。

 岸に上がると、タケイが呆れ果てた目で見てくる。

「なんなんですか、あの跳躍は。もはや人間業じゃありませんね」


(しまった。怒りに我を忘れて、むちゃをしてしまった……)


「え?」

 アヤメが首を傾げている。

「この人はあなたを助けるために、炎の魔法を船に向かってぶっぱなしたばかりか、あの浮かんでる漁船のところまでジャンプで飛び乗ったんですよ」

「ええっ!」


(ああ、もう、帰りたい。これは完全にしくじったかもしれない)



 警備隊による倉庫の捜索が終了し、いろいろな証拠物件が押収されたが、あの黒い服の男だけは発見されなかった。


「あいつの顔は忘れない。あいつはそのまま死ぬような奴には思えない。次にあったときは……」

 敏文はそう決意した。


 そして敏文とアヤメ、子供達はタケイ、シノハと共に倉庫に到着していた警備隊の馬車で男爵の屋敷に向かった。

 男爵の屋敷には、騒ぎを聞いて駆けつけたダイカク、キキョウ、マリカ、サラ、ナミもいた。子供達と再会した親達が歓喜と感謝の叫びをあげているのを横に、ダイカクはすぐに近寄ってきてアヤメを叱った。

「お前はっ! いつも言っているだろう! どうして考えなしに行動するんだっ! 今回だって、トシフミがカージやタケイと協力して対処してくれなかったら、お前はどこかに連れ去られていたんだぞっ! わかってるのかっ!」

 アヤメは項垂れて返す言葉もない。


「まあ、それくらいにしてやれ。ダイカク」

 男爵が止めに入る。


「ダイカクさん。お気持ちはわかるけど、アヤメだって怖い思いをしたんだ。今は少しやさしくしてやったらどうだい」

 アケビもとりなす。


「さあ、アヤメ。こちらにおいで。アケビさんが暖かい飲み物を準備してくださったから」

 キキョウはアヤメをつれてアケビ、ナミ、マリカと男爵の屋敷の中へ向かった。


 すれ違いざま、アヤメは、言った。

「トシフミ。本当にありがとう」

「ああ、今日はゆっくり休めよアヤメ」


 ダイカクは敏文の両手をつかんで頭を下げていた。

「トシフミ、アヤメを助けてくれて本当にありがとう。恩にきる」

「そんな、ダイカクさんに魔法や武術を教わっていたから、対処できたことです。それにいつもお世話になりっぱなしなのはこちらじゃないですか」

「そうは言っても、娘の命を助けてもらったのだ。本当にありがとう」

 ダイカクは頭をさげたままだ。

「顔を上げてください。カージさんの指示と、現場でのタケイさんの対応があればこそですよ」


 男爵がそこに割って入ってきた。

「おい、トシフミ。聞いたところだとえらい活躍だったらしいじゃないか。え?」

 にやにや笑いながら近づいてくる男爵に敏文はたじろぐ。


「あ、いや、その話は……」

「あれから、何だかまた新たな力を身につけたんだって? 俺にも教えろよ」

 敏文の顔を下から覗き込むようにして、男爵は言う。


「あ、ですから……」

「じゃあ、酒でも飲みながら話すか。なぁダイカク。サラも来いよ」

 突然男爵はにかっと笑うと、敏文の首に腕をかけて、そのまま屋敷の中に連れて行こうとする。


「ああ。飲むか!」

「私もいいんですか?」

「ああ、歓迎だ。ほら、トシフミこっちへついて来い!」


 その日、敏文は記憶が無くなるまでさんざんに飲まされることになった。

 翌日、この世界に来て初めての二日酔いを迎えることになったのだった。

アヤメは思ったより、暴走癖があるようです。タクミはうまいこと活躍できているでしょうか。

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