第14話 神技の精霊
2014.4.18 話を大きく修正しました。
「んーっ」
敏文は夜明と同時に目が覚めた。
(体が目覚ましのない生活に少し慣れてきたのだろうか……)
敏文は勢いよく体を起こすと昨日の夜にキキョウから渡された服に着替える。少し厚めの麻のズボンに、上は綿の下着、同じく麻の上着。丈が股下位の短めの着物のようなものだ。
腰を帯で縛るるとぱっと見で作務衣のように見える。
敏文がさすがに汗臭いかなと着ていた服の臭いを嗅いでいたら、キキョウが気を遣ってくれたのだ。
それまで着ていた元の世界の服は、キキョウが洗濯するからと持っていってしまった。
(ブリーフまで……。ちょっと恥ずかしいかな……)
ブリーフのゴムを不思議そうに引っ張っているキキョウを見て敏文はそう思っていた。
◇◇◇◇◇
敏文が囲炉裏のある居間に行くとダイカクとブンゾーが座って茶を飲んでいた。そこにサラも現れる。サラもオーバーオールのスカートとパンツ姿のナミと同じような服装に着替えている。
「よう、今日は早いな。その服意外に似合ってるじゃないか。見た目はホーエンの者と変わらんな。なあ、ダイカク」
「そうだな」
「そう見えますか」
そう言いながら敏文もブンゾーの横に座る。
「今日からよろしくお願いします。ダイカクさん」
「ああ、覚悟しといてくれよ」
ダイカクは笑って言う。
その時ブンゾーが言った。
「ダイカク、俺は今日はキクエの実家に行ってくる。ドタバタの中できちんと話が出来ていないからな。だから俺は明日からの参加になるが、よろしく頼む」
「解った。大丈夫か?」
「ああ」
「よし、それじゃあ、トシフミ、サラ、朝飯食べたら始めるぞ」
「「はい」」
◇◇◇◇◇
最初はダイカク家の庭で始めることになった。先ずは魔力の扱い方からだ。
敏文はコウの手解きで少し魔力を扱うことのイメージが出来ていたが、サラはここから苦労することになる。
ダイカクのアドバイスの元、サラが魔力の揺らぎを感じられるようになるのに半日かかっていた。
「よしっ、やっと出来たっ」
サラは肩で息をしている。
「大丈夫だ。揺らぎを感じられるまでに数日かかる者もいるぐらいだ。早いほうだぞ」
ダイカクの言葉に少し疲れた表情のサラは大きく頷く。
「はい。まだまだこれからです!」
そう返事をしたサラの表情は明るいものに変わっていた。
その間、敏文は魔力を体に行き渡らせる練習をしていた。
魔力を何処まで扱えるのか見せろと言われて、直ぐ様指の先に揺らぎを出して見せた敏文にダイカクが指示したものだ。
午後になると、二人で改めて魔力の動かし方をダイカクに戻りの教えて貰っていた。
自分の魔力の流れを把握することがとても大事なのだとダイカクは言う。体の感覚としてつかんでおかなければ魔力の枯渇に気付かなかったり、許容範囲を超えた魔法を使おうとして、体に異常をきたしてしまうことがあるそうだ。
その日はそれだけで終わってしまったが、二人には前進感と充実感があった。
ただ体力を相当使った二人は疲れきった状態で家のなかに入る。
「初めての魔法の訓練はどうでしたか?」
キキョウが声をかけてきた。
「いや、想像以上に疲れました。でも基本だから疎かにしちゃいけないってダイカクさんが」
敏文がそう言うとサラは拗ねたように言う。
「トシフミは良いわよねぇ。だってコウに少し教えて貰ってたんでしょ。直ぐに魔力扱えてたし。ズルいわよ」
「いや、討伐隊に参加するのにいると思ったからさ……」
実は別の目的で教えて貰ったことは今は言えない。
その時ナミがやって来た。
「トシフミ様、サラ様。お預かりした衣類をお返しします」
手には二人が元々着ていた服があった。きちんとたたまれパリッとしている。クリーニングから受け取った時のようだ。
「ありがとうございます! へえ、綺麗に洗濯してあるなあ。ここまでやるのは大変なんじゃないんですか?」
敏文はその洗濯の出来映えに驚くと共にあることに気が付く。
「あれ、破れを繕ったところががなくなってる……」
「あ、それは私が直しておきました」
「どうやって?」
「魔法で」
さも当然のようにいうキキョウに敏文はめまいがしてきた。
「そんなことも魔法でできるんだ……。魔法ってなんでもありなんだな。あ、生活魔法ってやつですか?」
(そう言えばキクエさんがそんなこと言ってたっけ……)
敏文の問いにキキョウはニコニコ答える。
「はい。そうですよ。お二人もたぶんすぐに使えるようになると思います。この服も生活魔法で汚れが付かないようにしておきましたから。もう洗濯の心配は要りません。もっとも破れたら直さなければなりませんが」
「生活魔法ってべんりぃ~。がんばって覚えなきゃ」
サラは嬉しそうだ。
「まだまだ、始まったばかりだ。少なくともこの世界で生きてくためだ。がんばろうな」
敏文はサラの肩に手を置いて言う。
「ええ!」
◇◇◇◇◇
その日の夕食の後、敏文はサラに話があると言って庭に呼び出した。
庭には月明かりが差して、真っ暗ではない。ローメリアの月は地球でみた月よりも大きくて青みがかかっていた。
二人で縁側にすわると、サラが切り出した。
「どうしたの? 話って」
敏文はポケットからスマートフォンを取り出す。
「スマートフォンがどうしたの? 私のは電池が切れちゃってもう見れないんだ。この世界電気無いみたいだし。もう使えないね。パパやママの写真も見れないし……」
サラはがっかりしたようにつぶやく。
その呟きを聞いた敏文は手に持ったスマートフォンの電源を入れる。
ボワッと明かりがついたそれを見てサラが声をあげた。
「え、トシフミのってまだ使えるの?」
「いや、俺のも一回電池なくなったんだ」
「え、じゃなんで……」
「自分の魔力が使えるようになったときにもしかしたらって少し魔力を入れてみたんだ。そしたら……ついた」
「えっそうなの? じゃ私もっ」
慌てるサラの手を敏文は押さえて言った。
「ちょっと待ってくれ。これを見てくれないか」
そう言って敏文はサラにメールの着信内容を見せる。
「メールがどうしたの?」
サラは敏文の意図がわからないまま、スマートフォンを敏文の手から受け取った。
「恵美さんって奥さんだよね。え、6月8日? え、え、あれって3月30日だったよね! じゃその後のメールってこと?」
「ああ」
「なんで? どうやって受信したの?」
「魔力をスマートフォンに込めたら、突然受信したんだ。そしてその内容を見てみてくれ。4月29日のメールを」
サラがその日のメールを開くとこう書かれてあった。
<4月29日 17:01 恵美>
ついにあなたの通夜の日になってしまった。どうして帰ってきてくれないの。もう会えないの? お通夜なんかしたくない。愛里はあなたがいなくなったこと理解しているわ。愛菜はまだわかっていない。いつ福岡にいけるの? なんでママ泣くのって。お願いあなた帰ってきて。お願い。
サラはそのまま、メールを読み続ける。
<5月17日 18:07 恵美>
今日あなたの49日になるのね。お義父さんとお義母さんに言われて、もう役所の手続きも済ませてしまった。そうしないと保険や遺族年金とかいろいろ手続きできないからって。
私まだ何も手につかない。あなたが生きているってまだ信じてるからこのメールは送り続けるわ。だからお願い、返事を。
〈6月8日 23:31 恵美〉
お義父さんとお義母さんがね、愛菜の受験のこと心配してくれたわ。お姉ちゃんと一緒の学校に通うんだって愛菜が言ってるのを聞いたんだって。お金のことは心配しなくていいからって。あなたが相続するはずだったものは孫の為に使って貰いたいからって。愛里と一緒に通わせられるのなら私も助かるけど……。受験の手伝いまでお義父さんがしてくださるって。私二人の為にがんばってみるわ。だから応援しててね。
サラは涙を流していた。
「トシフミ、これって……」
「ああ、恐らくいたずらなんかじゃない。内容から考えて間違いなく妻が送ったものだ。俺は何度もこれに返信を返そうとしたけどだめだった。だめだったんだ」
「そんな。じゃ、あの飛行機やっぱり。私達向こうでは死んだことになって……」
「行方不明者扱いのようだ。でも、もう2ヶ月以上も経っていれば死んだと扱われてるだろうな……」
「そんな……。だってまだ私達こっちにきてから1週間ぐらいしか経ってないじゃない! なんでそれが2ヶ月も経つのよっ!」
敏文はサラの剣幕に困ったような表情で答える。
「わからないよ。もしかしたら時間の流れ方が違うのかもしれない。もし、10倍以上の速さで向こうのほうが時間が流れるのが早いとしたら、こっちの世界で1年暮らしたら、向こうでは10年以上の時間が過ぎたことになってしまう」
「そんなっ」
サラはわなわなと震えていた。
「トシフミっ。なんで今こんな話を……」
涙で潤んだ瞳を向けてサラは敏文に尋ねる。
「最初は俺も君に話すべきか迷ったんだ」
月を見上げながら敏文は話をつづける。
「君が俺と同じようなことを考えてスマートフォンに魔力を込めるなんてことはしないかもしれない。でも君が魔力を扱えるようになった今、これは俺だけの中に留めて置くべきことではないと思った。俺の口から話すべきだと思ったんだ」
サラは目を潤ませながら聞いている。
「俺達はもしかしたら帰れないかもしれない。もし運よく帰る方法が見つかって帰れたとしても、もう俺達を知っている人がいないなんてことになるかもしれない。それでも、帰る方法を探し続けるか、それともこの世界で暮らすことを考えるのか、覚悟をしなければいけないと思うんだ」
サラは黙って頷く。
「俺はなんとしても帰る方法を探したい。そして帰る。だからここでダイカクさんに魔法やこの世界の事を教わってこの世界で生き抜く。これは絶対だ。このまま野垂れ死になんかできない。ただもし帰る時は君も一緒に連れて帰りたい。だから、力を合わせて生き抜こう」
「……もし、帰る方法が見つからなかったら?」
「そう思いたくはないが、もし、もしもそうなったらこの世界で生きるしかない。生き抜くしかない」
サラは自分のスマートフォンをポケットから取り出して見つめる。
「どうやって、魔力を込めたの?」
敏文は自分がやったのと同じように、サラのスマートフォンの充電口をあけて指先の魔力を吸い込ませた。
「あはは……、ついたわ」
サラは泣き笑いの状態だ。
すると、サラのスマートフォンにも着信音がなる。
サラはメールを開いてそれを読み始めた。
時折涙を流し、両親や祖母の名前をよぶサラを敏文は黙って見つめていた。
「……トシフミ。ありがとう。このことを黙ってないで教えてくれて」
敏文は黙って頷く。
「私も地球に帰りたい。だからがんばる。魔法を覚えてトシフミと一緒にこの世界で生き抜く!」
「ああ」
「もし、帰れなくなっても私のこと見捨てないで。お願い」
「もちろんだ」
「ありがとう。トシフミ……。頼りにしてるから」
そう言うとサラは敏文の胸に顔を埋めてまた泣き出した。
敏文はその背中にそっと手を添えて青い月をずっと眺めていた。
◇◇◇◇◇
翌日からブンゾーも加わりさらなる魔法の修練が始まる。
それから10日間の修練の間に、敏文とサラは魔力の練り方・扱い方を習う一方、生活魔法の一部や初級魔法の使い方も教わり、初級の魔法については適性のある属性について一通り扱えるようになった。
《弾》と呼ばれる属性の弾丸を指先から放つもの。
《球》と呼ばれる属性の球を投げたり、使うもの。
《矢》と呼ばれる《弾》より射程の長い矢状のものを飛ばしたり、実際の矢に纏わせて威力や精度を上げるもの。
《防》と呼ばれる属性の膜を張り、攻撃を防ぐもの。
《癒》と呼ばれる状態異常は回復できないが傷などの治療ができる初級の治癒魔法。
この5種類だ。それぞれ種類によって対応する属性がある。例えば《癒》には水と土しかなかったりする。
ブンゾーは、初級の風魔法のコントロールや威力が上がり、土魔法で《癒》の魔法が扱えるようになっていた。
一方、敏文はダイカクから武術も教わるがそれについては今一つコツをつかめない。まあ、10日やそこいらで簡単に上達したら、何十年も修行にかける武道家なんていなくなってしまう。
(これは地道にやるしかないか……。俺ってこういうのに向いてないんだろうか……)
とは言え、ダイカクにしたたかに木刀で打たれれば、へこんでしまう敏文なのであった。
◇◇◇◇◇
敏文は午前の魔法の修練が終った後、体力の向上を兼ねて近くの河原まで走っていき、そこで剣の形を反復するようにしていた。午後の武術の修練までは時間があったからだ。サラは午後の時間は、キキョウやナミと家事を手伝ったり、自分で魔法を修行したりしている。
一通りの形をやり終えて一息着いた敏文は、顔の汗を手拭いで拭っていた。
何か視線を感じてふと顔を上げると、河原の土手の側にある大木の枝に、誰かが座っているようだ。にこにことこちらを見て笑っている。敏文は河原にあった大岩にかけていた上着を取ってすぐに、振り返って声をかけようと思ったのだが、その姿はもうなかった。
敏文はコウに聞いてみる。
「なあ、今確かに木の枝に誰か座ってたよな」
『そうだね。僕も感じたよ』
「誰だと思う?」
『そうだなぁ、また明日になれば会えるんじゃない?』
「もしかして何か知ってたりする?」
『え、何が?』
敏文はコウが何か事情を知ってそうに感じたが、そろそろ戻らないと午後の修練に遅れると思い、家に戻ることにした。
◇◇◇◇◇
次の日。敏文はまた同じように午前の修練が終わった後、剣の形を反復練習するために河原に向かった。
(今日もあいつはいるだろうか?)
河原に着くと大木の上には誰もいない。敏文は少し残念に思いながら、自主練習を始める。そうして一汗かくぐらいの素振りをした後、ふと視線を感じて大木を見上げると、昨日と同じようににこにこしながら、敏文のことを見ている少年のような姿を見つける。
「おーい、こっちにこないか! 少し話をしようぜ!」
敏文は呼びかけてみる。そうすると、意外にも彼は大木の枝から飛び降りて、敏文の方に向かって歩いてきた。背は敏文の胸ぐらいだろうか。敏文が思ったよりも小柄だ。髪の毛はゆるいウェーブがかかっていて、淡い緑色をしている。肌の色は少し浅黒い感じだ。見た目小学校高学年ぐらいの男の子のように見える。
「よう。昨日もきてたな」
彼は変わらずにこにこしている。何かとても嬉しそうだ。
『ここで毎日何をしてんだい?』
「!」
敏文は声ではなく、頭の中に直接語りかけられたように感じた。これはコウの時と同じだ。
「君はもしかして精霊……なのか?」
そいつは、こくんと頷いた。
『ここで毎日何をしてんだい?』
「ああ、すまない。先に質問したのは君だったね。見てわかると思うけど、俺はここで剣の練習をしているのさ。なかなかうまくならなくてね。少しずつ毎日練習してなんとかうまくなろうと思っているのさ」
『なんでうまくなりたいのさ?』
彼は、不思議そうに聞く。
「うーん。まずは自分を守るため。そして、大事な人を守るためかな。ついこの前に魔獣に襲われたことがあってね。その時にこの世界で暮らして行くには、自分も含めて人を守る力がないといけないって思い知ったんだ。でも、そんな力すぐにはつかない。だから、少しずつ練習していかなきゃね」
『ふーん』
そして、彼はにこにこしている。その時、風が吹いて淡い緑色の髪を撫でる。すると、髪の間から細い角が2本頭に沿って生えているのが見えた。
「君は前からここにいるの?」
彼は首を横に振る。
「じゃあ、どうしてここに来たの?」
『なんとなく、暖かい感じがしたから』
そう言いながらこっちをずっと見てにこにこしっぱなしだ。何だかとても嬉しそうに見える。
「そうか。ああ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね。俺は敏文っていうんだ」
『トシフミ。力がほしいんだよね』
彼は自分の名は名乗らず、敏文に聞いてくる。
「そうだね。でも他人を打ちのめすための力じゃなくて、守る力がほしいね」
『そっか。じゃあ、ボクが手伝ってあげようか?』
「え?」
『ボクは神技の精霊。色々な「技」を司る精霊だよ。ボクはトシフミの暖かい感じがとても気に入ったんだ。だから、トシフミがやりたいことできるように手伝ってあげるよ。どう?』
「それは嬉しいけれどいいのか?」
『うん。だからボクに名前をくれない?』
「そうか、手伝ってくれるのか。わかった。とても嬉しいよ。そうだね。色々な技を司っているんだよね」
敏文は少し考えてから、こう伝えた。
「じゃあ、君は今からタクミ(巧)だ! これは色々なものをとても上手く出来るって意味だけど、どうだい?」
『うん。じゃあ今からボクはタクミって名乗ることにするね』
タクミはとても嬉しそうだ。
「あと、俺にはもう1人精霊が手助けをしてくれているんだ。コウっていうんだけど、仲良くしてくれるかな」
コウは敏文の側でしっぽを振って挨拶をする。
『僕はコウだよ。紅炎の精霊さ。よろしくね、タクミ』
『よろしく。コウ。これから一緒にトシフミを助けていこう』
『うん』
「ところで、コウは俺に力を貸してくれるとき、左手に宿るんだけど、タクミも体のどこかに宿ったりするのかな」
『そのほうがいいね。うーん。どこがいいかな。じゃあ、ここで!』
タクミはそう言うと姿を消した。すると、右のこめかみの辺りに、少し暖かさを感じる。
「ここにいるのか?」
敏文は右のこめかみに軽く手を当てて聞くと、頭の中に声が聞こえた。
『うん。ここでいい?』
「ああ。いいよ」
敏文はとても気持ちが暖かくなって嬉しくなった。
『トシフミ。そろそろ戻らないと。午後の修練が始まるよ』
コウが教えてくれた。
「そうだな。よしっ!戻ろう!」
◇◇◇◇◇
その日の午後の修練は、驚きの連続だった。今まではダイカクとの仕合で一方的にやられるばかりだったのに、タクミが、『それじゃ、トシフミに剣の技を!』って言った瞬間、ダイカクと互角以上に打ち合えるようになったからだ。
ダイカクやブンゾーは目を丸くして、驚いている。
また、右のこめかみに軽く曲がった2本の角を象った紋章が浮かんでいることにダイカクが気がついた。
当然、何があったのかを白状させられる羽目になり、その場にいた全員(ダイカク、ブンゾー、サラ、たまたまいたアヤメとマリカ)に「一人だけずるい!」と言われ、その日をもってダイカク先生の武術講座が閉講することになった。
ダイカク曰く、
「技を司る精霊がついてるのに、わざわざ時間を割いて武術を教えることもないだろう!」
とのこと。
敏文は返す言葉もないところだが何とかお願いして、午前の魔法講座の閉講は避ける事が出来た。まだ魔法は初級の状態だし、タクミは魔法は専門外らしくダイカクに習うしかないのだ。敏文はほっと胸をなでおろした。
◇◇◇◇◇
翌日、敏文は午前の魔法の修練の後に時間が空いたので、今までゆっくり見たことがなかったミヤザの街を歩いて見ようと思って出掛けることにした。
サラはもう少し魔法の修練をしたいと言うので、一人で行こうと思っていたのだが、ちょうどアヤメが買い物に行くというので案内して貰うことにした。
ミヤザの街までは歩くと30分くらいかかる。敏文はシーバからミヤザについた後、初めてこの道をたどってダイカクの家に向かった時の事を思い出していた。
「あれからもう半月も経つのか。早いもんだな」
「そうね。その間にウチもずいぶん賑やかになったわ」
「ずいぶんと迷惑をかけてしまってるな。突然やって来て居候してしまって、済まないと思っているよ。アヤメさん。本当にササヤマ家の皆には感謝している」
敏文は立ち止まってアヤメに礼をした。
「そういう意味で言ってるんじゃないんだけどな。今までは、家に男の人は父だけだったし、私たちとナミさんだけだと少し寂しかったのよね。でも、あなた達が来てからは、賑やかになったし、父もなんだかんだ言いながら、あなた達にいろいろ教えるのが楽しいみたい。母が亡くなってから初めてじゃないかしら。あんなに楽しそうなのは」
「そうなのか」
「むしろこっちが感謝しないといけないのかも」
「そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、何時までも居候って訳にもいかないしな。そろそろ、自分で稼いだりしないと。俺みたいなある意味余所者にこの世界で仕事なんかあるんだろうか?」
アヤメは呆れた顔をして言う。
「あなた自覚が足りないわね。あなたは5属性持ちの魔法士な上に、精霊が2人も宿ってるのよ。この事が国王や他の貴族に知れたら、ほっとかないわよ」
「そうは言ってもね、アヤメさん。逆に面倒な事に巻き込まれそうな気もするなぁ」
「贅沢な悩みね。それと……」
「それと?」
「アヤメでいいわよ。あなたのほうが年上なんだし、さんづけでずっと呼ばれるのも嫌だし」
「そうか……。じゃそうさせて貰うよ。アヤメ」
それからミヤザの街に着くまでの間、敏文はアヤメが王都の高等学校にいた時どんな生活をしてたとか、マリカとの姉妹ゲンカの話とかを聞きながら歩いていった。
ミヤザの街に入って、商店街へ向かう途中の噴水のところに差し掛かった時だった。何だか人だかりが出来ていて騒がしい。
どうしたのかと思って覗いて見ると、そこは男爵が用意したシーバからの避難民が留まっている宿泊所のひとつのようだ。シーバからの避難の時に同じ馬車に乗っていた人間がいる。そして、その前に力なく泣き崩れる女性と怪我をしながら茫然と立ち尽くす男性がいた。
(あの二人は、確か…………)
「どうかしたんですか?」
敏文は二人に声をかける。二人は敏文を見てはっとして、声をあげた。
「あなたはシーバの里でキスケ達を助けてくださった……」
キスケとは、シーバでキクエに助けられた男の子だ。
「敏文です。どうしたのです」
「ああっ、助けてください! キスケが、キスケが!」
母親は取り乱している。
敏文は茫然としていた父親と母親を連れて宿泊所の一室を借りて話を聞く事にした。
二人の話を纏めるとこういう事らしい。
避難してきてすぐに男爵の斡旋でこの宿泊所に入ることが出来、食事も配給されていた。その食事の炊き出しをしていた男から、この宿泊所は直ぐに閉鎖されるらしい事を聞いたという。炊き出しの男が何人か同じ事を言うので、てっきり信用してどうしようと思っていたところ、知り合いにシーバの里の人たちの境遇を哀れんで無利子で住むところを借りるための費用と当座の生活費を貸してくれる人がいると言うので、借りにいったそうだ。
そして、お金を貸してもらって直ぐに父親は、ごつい男達3人に襲われ、お金を奪われてしまったらしい。
そのあと、貸してくれた人が新しい住居を斡旋しにきたが、お金を奪われた事を伝えると態度を豹変させ、返済する金がないならキスケをもらって行くと連れて行ってしまったそうだ。
(恐らくは最初からグルだな。炊き出しの男達に、父親を襲った男達、それにキスケを連れて行った金貸しの男)
「酷い!」
アヤメは怒りに震えている。
「そのお金貸した人の名前は何て言うの! そして、どこにいるの! 教えて!」
「ブンゴの街のキエモンという人ですだ。わしがキエモンさんに会ったのは港の第3倉庫というところですだ」
父親は手を震わせながら答える。
「第3倉庫ね!わかったわ!」
そう言うと、アヤメは飛び出していった。
「おい! アヤメっ!」
敏文は慌てて止めようとしたが、アヤメは頭に血が上っていたようで、あっという間に走っていってしまった。
敏文は仕方なく、宿泊所を出て近くの警備隊詰所を探す。街の人に聞きまくり、ようやく見つけて飛び込んだ所は第一警備隊の詰所で、そこには見慣れた人物がいた。
「トシフミ殿じゃないか! どうしたんだそんなに慌てて」
「カージさん!」
敏文は素早く事情を説明、対応の依頼と港の第3倉庫の場所への案内を要請した。
「わかった! おい、タケイ! 第二小隊から1班を連れて、トシフミを案内しろ! 俺は男爵様に連絡の上、後続の手配と対応をとる! 男爵様の顔に泥を塗るような奴はこらしめないとな! 行け!」
「おう!」
敏文はアヤメを止められなかった事を悔やみつつも、第3倉庫へと急いだ。
「アヤメ、キスケ、無事で居てくれ!」
新たな精霊がトシフミの仲間になりました。いろいろ活躍してくれると思っています。




