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第13話 脱出 ※

2014.4.21

4.18に差し替え漏れをしていました。

申し訳ありませんでした。

 訓練を繰り返すうちに康司は多少は老師に認められたのか、この施設内の一定のエリアについては、行動の自由が許されるようになっていた。と言っても監視つきだが。

 

 いつかこの施設から逃げ出すときがくるかもしれない。そう思った康司は出来るだけ施設の中を把握しようと、少しずつ時間を見つけては歩き回った。



 その結果、この施設は山の中の洞窟を改造して作られた施設であること、施設内には老師以外にも白衣の男達と警備の男達を含めて300人以上がいることがわかった。

 外へ通じるような場所には必ず警備の男達がいるようなのだが、意外に通路の枝分かれが多くて、どこを通れば外に出られるのかがわからない。あとはどこかに康司が山の中を逃げ回っているときに最初に落ちた穴があるはずだ。


 通路や部屋の明かりは蝋燭や松明でとられている他は、老師達がいるような場所は電灯もないのに明るく照らされている。魔法なのだろうか。そう言えば、外の明かりらしいものって試技室の天井の明かり採りからぐらいしかわからなかった。


 それ以外にわかったことと言えば、康司と同じように実験の対象になっている者が少なくとも10人以上いるということだった。

白衣の男達に連れられていたり、監視の男がついている人間がそれくらいいるのを康司は目にしていた。康司の番号が43号という時点でその数の人数はいたことになる。


 康司としては正直早くこんなろくでもないところからは逃げ出したいのだが、出口がわからないのであれば闇雲に警備の男に突っかかる訳にもいかない。


 康司が施設の中を歩き回っていると、向こうから32号と名乗った女の子が歩いてくる。康司はなんとなく声をかけた。

「よう」

「だいぶ元気になったみたいね」

「ああ、お前にちゃんと飯食えって、いわれたしな。不味くても頑張って食ってるよ」

「そう」


(この娘は今までずっとこんなところで暮らしてたんだろうか……)

 そう思った康司は尋ねてみる。

「お前はずっとこんな暮らしをしてたのか?」

「そうね。物心ついた時からここにいるわ」

「じゃあ、外の世界のことは知らないのか?」

「そうね。知らない」

「知りたいとは……」


 彼女は、少し間をおいて答えた。

「知ってどうするの? 私は目が見えないし、外の世界は怖いだけ」


 そう言われると康司は返す言葉がなかった。悲しそうな彼女の顔を見ているうちに、康司は彼女が32号と呼ばれている以上、同じ境遇なんじゃないかと考え始めた。

「なあ、お前もオレみたいに戦わされたりしてんのか?」

 彼女は少し辛そうな表情をしたが、すぐにもとに戻ると言った。

「人のことより自分の事を考えた方がいいわ。ここでは他人のことにかまわない方がいい」

 そう言うと彼女は去っていった。


(やはりオレと同じようなことをされているんだろうか……)


 康司がそう思っていると、通路の向こうから白衣の男がやって来た。

「43号。ここにいたのか。老師様がお呼びだ。直ぐに試技室にこい」


 康司はまたかと思いつつも、仕方なく試技室に向かった。


◇◇◇◇◇


 試技室についた康司は老師に毒づく。 

「じいさん、今日もかよ」

「そう嫌がることもあるまい。でも、そうじゃの。今日の検証がおわったら、ひとまずはお主の戦闘の検証は終わりにしようかの。ふぉっふぉっふぉっ」

「おおっ。まじかよ。やっと終りか。それでその後はオレはどうなるんだ?」

「やってもらいたい事があるでの。ただ、その話は今日のが終わってからにするとしようかの。ふぉっふぉっふぉっ」

「そうか、じゃ、とっとと終らせようぜ」

「なんじゃ、急にやる気になりおって」

「そりゃ、こんな事の繰り返しだったからな。それが終わると思えば……」

「そうかの。じゃが、今日の相手は今までとは少し違うぞ。心してかかる事じゃの。ふぉっふぉっふぉっ」


 そして、康司は試技室に入った。


「じいさん、いいぜ」

 康司が言うと、老師が白衣の男に合図する。そうすると反対側の扉が開いて、小柄でローブを纏いフードをかぶって顔が見えない人間が現れた。男か女かはわからない。その人間は何も話さず、試技室の反対側に立っている。


 そして老師が実験の開始を伝える。

「始めるのじゃ」


 康司は相手の出方を伺おうと、右腕のグーラを剣の状態にして待った。


 そうすると小柄なローブを纏ったその人間は右手を挙げて小さく動かしている。


 そうするとそのローブの影から、康司にとって最も見たくないものが現れた。それは…………。




 あの時の2頭の灰色の狼だった。




「お前は!」

 康司はその時の恐怖が蘇る。

「ちきしょう。あの時の2頭はお前の仕業だったのかよ。お前のお陰でオレは両腕をなくしたんだそ! すげぇ痛かったし、今でも夢に出てくんだよ。じいさん! 当然こいつの事知ってるんだよな。こいつにオレを襲わせたのはじいさんの仕業って事か! 答えろよ!」

「わしはその者にこの施設に近づく者を排除するように指示しておっただけじゃ。お主が勝手にこちらの施設に近づいたので襲われたのではないかの。ふぉっふぉっふぉっ。わしと話してなどおってよいのかの。ほれ、今のお主の相手はそこにおるぞ」

「ちきしょう」


 康司は老師に思い知らせるのは後にして、まずは目の前の灰色の狼とローブの人間を相手にすることにした。

「まずは、お前達からだ!」


(オレは前のオレとは違う、今なら奴等にやられねえっ!)

 そう言い聞かせた康司はまずグーラに指示をする。


「グーラっ! 鉄弾!」

 康司はそう叫ぶと、灰色の狼の1頭に向けて右手の人差し指を向ける。人差し指からは、飲み込んだ鉄から作った先の尖った弾丸が5連発で発射された。

「どうだっ!」

 鉄弾は5発とも命中した。が、いずれもその身体で弾かれてしまう。


「なにっ!」

 驚く康司にもう1頭の狼が体当たりしてくる。康司は武術家から奪った気功術で体を強化しつつグーラを盾に変えて、狼の突進を受け流す。これも剣術の男から奪った能力だ。


「鉄を通さないのならばっ!」

 康司は今度は、溜めた気を左手に集めて一気に放出した。

「気弾ならばどうだっ!」


 すると、狼をよろけさせることは出来たが、そこまでだった。

「オレの気功術のレベルじゃここまでか!」


 今度は狼どもが2頭連携して攻撃してくる。1頭が正面から飛びかかって来ると同時に壁を蹴って左からもう1頭の狼が襲ってくる。康司は正面の狼を盾で殴って右に弾きつつ、左の狼に左手をかざす。

 左手からは雷が飛び出して狼に当たった。

「ギャウン!」

 狼が弾け飛ぶ。

「そうか! 魔法ならばダメージありか!」

 ただ、倒しきれてはいない!


(どうすればもっとダメージが与えられる?)

 康司は必死に考えた。そして1つの方法を思い付いた。

(ただこの方法はオレにもダメージがあるかもしれない……)

「宿主っ! 大丈夫だ! 纏うだけならダメージはない! やってくれっ!」

 グーラが康司の考えを読んで叫ぶ。


「わかった! 信じるぜグーラっ!」

 康司は左手に意識を集中し、さっきよりも強い雷の玉を発生させる。そして右手の剣に手首から剣先に沿わせて纏わせる。

(右腕に若干痺れが走るが何とか持ちこたえられるか!)

「纏った雷はそう長くは持たねえから早めにやっちまってくれ!」

 グーラの声に康司は、応える。

「おう!」

 雷を纏わせた剣を倒れている狼に降り下ろす。その時右からもう1頭の狼が飛び込んでくるのが見えた康司はとっさに腕を右に振り放つ。

「ギャウン!」

 右からきた1頭は吹き飛んだ。そして康司がもう1頭にトドメを指そうと剣を構えたとき、ローブが飛び込んできて狼の上に覆い被さった。

 康司は剣の軌道を変えようとしたが間に合わず、ローブの左腕を切り落とした。

「……!!」

 ローブは左腕を押さえてうずくまる。

「お前には悪いが、能力を貰うぜ!」

 康司はローブの背中に左手を触れてその能力を取り込むようにアヴァに指示する。すると、左手から力が流れ込んできた。


 力を奪った後、康司はローブ姿の人間にいい放つ。

「これでオレはもう灰色の狼に怯えなくて済むな。恨むなよ。オレも生き残りたいからな」

 狼たちは1頭は全く動くことはなく、ローブがかばった方ももうこちらを襲おうとはしていない。ローブはよろよろと立ち上がろうとしたが、上手くいかず仰向けに転がった。その時被っていたフードが外れる。そこから現れたのは………


「おい…………、嘘だろ…………。何でお前なんだよ! そんなのってねえよ!」



 そこに仰向けに倒れていたのは、32号と名乗るあの娘だった……。




「おい! しっかりしろ!」


「ううっ、腕が片方でもないのって辛いね……。ごめんね。腕を両方とも取っちゃって」

「今は喋るんじゃねぇ。おい! じいさん! この娘にすぐに治療を!」


 ところが老師は素っ気ない。

「なぜ治療せねばならんのじゃ?」

「何だって! これまであんたの指示に従って働いてきたんだろ! 手当てぐらいするんじゃねえのかよ!」

「その娘はもう働けまい。お主がその力を奪ってしもうたからの。今までは暗闇でも気配で周囲が解る知覚の能力と魔獣を使役する能力があったればこそ、この場でも使うてこれたが、その両方を失うてはの。普通に暮らすこともできまいて。まして、せっかくわしらが与えた力をたかが魔獣1頭守るのと引き換えにしてしまいよった。これから先、何らかの力を与えたとしても、こちらがかけたものに見合うた結果は出せまいて」

「何てこと言うんだよ!」


 その時、32号が残った右腕で康司を引き留めた。

「もういいの。魔獣を使って人を傷つけたりするのはもうイヤなの。だからお願い。もうやめて」

「そうは言っても!」

「それよりお願いがあるの。このグレイウルフは、元々普通の狼だったの。でもここの実験で魔力を沢山浴びて無理やりグレイウルフになってしまったの。あなたを襲ったのも私が命じたから。だからこの娘には罪はないわ。本当はとても優しい娘なの。だからこれからあなたにこの娘の事をお願いしたいの」

「えっ、でも」

「お願い。この娘を影に匿うことでこの娘が受けた傷は治療されるわ。あなたがこれから私が持っていた力を使って使役する魔獣達も同じ。残念だけど、もう1頭は死んでしまったわ。だからこの娘だけでも!そしてあなたはこんなところから早く逃げて」

 そう言い終わると彼女はさらに何かを伝えたいのか康司に顔を寄せようとする。

 康司は彼女の口元に耳を寄せると、彼女の話を聞き取ってそして言った。

「わかった! だからもう無理をして話すな!」

「最後に……。お願い。あなたの本当の名前を聞かせて……」

「オレの名前はヤマシタコウジ、コウジだ」

「ありがとう。コウジ。私の本当の名前はイーリス……」

「わかった。イーリス。グレイウルフのことは任せてくれ」

 康司はそう言うと、自分の影をグレイウルフに掛かるようにして匿うようにイメージした。するとグレイウルフは影の中に沈んで見えなくなった。

 康司は後ろを振り返って彼女に話した。

「これでいいか、イーリス」

 ところが返事はなかった。もう彼女は息をしていなかったのだ。


 康司は試技室の窓ガラスの向こうでこちらを見ている老師に向かって叫んだ!

「オレは絶対にお前を許さねえ!」

 老師は余裕の表情で鼻で笑っている。

「なんじゃ、急に正義漢面しおって。お前の命を救ってやったばかりか両腕までつけてやった恩をもう忘れておるのか。こりゃ、犬以下じゃの。仕置きが必要なようじゃ。おい!」

 老師が隣にいた白衣の男に合図すると、警備の人間が試技室を取り囲むのが金網越しに見える。とてもあの人数にかないそうもない。これは逃げるしかない。

 そしてすぐに両側の扉が開いて警備の男達が入ってきた。

 康司は試技室の中央に立つと、右手を真上に向けた。

「グーラっ!」

 すると鉄弾が真上に発射され明かり取りの天窓のうち、1枚だけ少し大きかったその窓を打ち砕いた。そして金属化した右腕がするすると伸びて天窓の外に掛かる。

「よしっ! グーラっ!」

 そう叫ぶと康司の身体は、右腕が縮むと同時に天窓の外に飛び出していった。

 飛び出した先の周りは山の中だった。

「イーリス……。本当にごめんな」

 康司はそのまま残してきたイーリスに泣いて謝りながら、山の中を走り出した。 

コウジはマッドサイエンティストのじいさんからひとまず逃れます。

ただ、逃げ切れた訳ではないかもしれません。

次話からまた、ホーエンに話の舞台を戻します。



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