第12話 試技室 ※
2014.4.18 話を大きく修正しました。
翌日、康司は牢から出されて、ちゃんとしたベットが置かれた部屋に移されることになった。
(これからはちょっとはましな生活が送れそうだ。昨日までは土の床に這いつくばって暮らしてたからな……)
「おい、これに着替えろ43号」
「だから、オレはヤマシタ……」
「あ~? なんだって? 服も飯もいらねぇのか?」
「わかったよ」
この扱いはそのままらしい。
康司は白衣を着た男から受け取った服に着替えた。綿のシャツとズボン、それに紐で足を固定するタイプのサンダルだ。動きやすくはある。
(自分で着替えができる。これだけで気持ちが違うな)
そして、やっと牢から出れることになった。
老師と白衣を着た男が3人やってきた。
「どうじゃ、気分は?」
「ああ、今までとはずいぶん違うぜ」
「ふぉっふぉっふぉっ。それはそれは」
老師は長い髭をいじりながら笑っている。
「服を貰えるのはいいけど、オレが来てた服や靴は何処にあるんだ?」
「ああ、あれか。血だらけじゃったからの捨てたわい」
「なっ」
康司は喉元まで文句が出かかるが、一先ずそれを飲み込む。
「で、これからオレはどうすればいいんだ?」
「そうさな。その腕という力を得たお主に何ができるのか、これから調べさせてもらおうかの。こっちにくるのじゃ」
康司は老師達についていく。
(今はおとなしく従っておくことにしよう。いずれこの場所から逃げ出すにしても、わからないことが多すぎる。少なくとも、グーラやアヴァについても、じいさん達の方が詳しいだろうしな)
◇◇◇◇◇
そこは、康司がいた牢に似ているが広い部屋だった。バスケットコートぐらいはあるだろうか。天井は高く、周りは黒い岩で覆われていて、明かり取りの穴が天井にいくつか開いている。通路との境は目の細かい白っぽい金属の格子で囲われている。1箇所だけガラスがはめられていて、老師や白衣の男達が外から中をのぞいていた。
「ここは?」
「ここは、いろいろなことを試すための試技室じゃの」
「どんなことを試すのさ?」
「お主のように新しい力を得たものがどの程度その力を発揮できるのか、試す場所じゃの」
「やっぱり。何かやらされるとは思ってたけど、オレは実験の道具にされるってことかよ」
康司は毒つく。
「お主は、あのままでは死ぬところじゃったのじゃ。ワシ等の力で生かしてもろうておるのじゃから、ちぃーっと協力してくれてもよいとは思うがの。どうじゃ?」
「しょーがねぇな。わかったよ。で、どうすればいいんだ?」
「まずは、試技室にはいるのじゃ」
「へいへい」
康司は試技室とよばれれる場所の中に入ってみた。軋む音をたてながら格子扉が閉められた。中にいるのは康司だけだ。
試技室の真ん中には、小石の小山と、曲がった青銅の剣、鉄くず、そして普通の鉄の剣が土に刺して置かれていた。
「お主の右腕に、まずは小石を食べてもろうて見てくれんかの」
「ああ、わかった。グーラ。頼めるか?」
「いいぜ。あれを食えばいいんだろ」
康司は小石の小山に近づいて、片膝をついて右手をのばす。
グーラはバリボリ音をたてながら小石を食べ始めた。
「おい、グーラ大丈夫か?」
「ああ、ここにあるのはただの石みたいだしなっ、て、かてぇ。何だよこれ」
「ふぉっふぉっふぉっ。さすがにそれはまだ食えんかの」
「じいさん何を混ぜたんだ?」
「ん、それはの、貴鋼石というての。この世界では硬い鉱石で通っておる」
「かぁーっ、ちっきしょう。まだ今のおいらじゃ食えねぇや。しゃーねーな。そのまま飲み込むしかねえな」
「食うのと飲み込むのは違うのか?」
「食ったものは自分を変えるのに使えるが、ただ飲み込んだものは、腹の中にためとくしかできねえのさ。成長すりゃ、それを使うこともできるだろうさ」
「そっか、なんでもって訳にはいかねえのか」
「チッと成長すりゃ、食えるようになっからよ。他のもんをがんがん食わせてくれ。おっ、こっちの剣や鉄くずは食ってもいいんだろ」
「じいさん、食わせてもいいか?」
「ああ、構わんよ。その為に準備したんじゃからの」
「おい、グーラ食ってもいいってよ」
グーラは、青銅の剣や鉄くず、鉄の剣を次々に食っていく。よくよく見ればあれだけ食べているのに康司の腕は膨らんでない。
「なあグーラ。お前が食べたものはどこにいくんだ? 大して腕が膨らんでないってことはどうなってるんだよ」
「おいらの腹の中は別の空間があってな。量はいくらでも入るんだよ。あと食ったもんについては腹の中で、種類ごとにきちんと整理されてっから使うときはちゃんと何に使うかで使い分けも出来んぜ」
「もしかして石や金属以外も保管して出し入れ出来たりするのか?」
「ああ、出来るぜ」
「意外に器用っていうか、まめなんだな。見直したぜ」
「くくくっ」
アヴァが笑っている。
「何だよ、おいらのことどういう風に思ってたんだよ」
「ほらほら、無駄口叩いてないで早く食べちゃいなさいな。老師が待ってる見たいよ」
「わかったよ」
グーラは、最後の鉄の剣を口のなかで咀嚼して、ゴクッと飲み込んだ。
「ほい、言われた通りに食ったぜ」
「次はどうすりゃいいんだ? じいさん」
「そんじゃ、まずは右腕には剣に変化して貰おうかの。恐らく出来るじゃろう?」
「グーラ、聞こえたか?」
「おう! あれぐらい食ってれば剣ぐらいにはなれるぜ。ほいっと」
グーラはすぐさま体を変化させる。そうすると、康司の右手首から先が1メートル程の鉄製の両刃の直剣になった。手首の部分には鍔も付いている。オレは右腕を軽くふって見た。少し重く感じるが何とか振れそうだ。
すると、老師が指示をしてくる。
「次は、盾になってもろうてくれんかの?」
「出来るか?」
康司が右手の剣を眺めながら言うとグーラは即座に応える。
「大丈夫だぜ宿主」
グーラは手首から先を変化させた。すると、上半身を覆うぐらいの大きさの盾が現れた。
「大きさはこんなんでどうだい、宿主」
「ああ、扱いやすいな」
でも、これだと攻撃か防御のどちらかしかできない。
「なあ、グーラ。オレがどう変化して欲しいかは口に出して伝えないと伝わらないのか? 戦ったりすることになった時、いちいち剣になれ、盾になれって言うのもなんだなあと思ってな」
「ああ、そういうことか。それは宿主が頭で考えればその通りになるぜ」
そう言われた康司は盾の形を変えたり、剣にしたり、あるいは日本刀見たいに片刃の刀に変えてみたりした。グーラは思った通りの変化をしてくれる。
「グーラ、お前凄いな」
「だろう? だからいったじゃねえか。おいら達は働くって」
「さて、少し扱いに慣れたかの。では、実践で試して見るとするかの」
「おい、ちょっと待て! オレは今まで戦闘のようなことはやったことがねえんだぞ! いきなり実践とか、どういうことだよ」
康司は叫ぶ。
「大丈夫じゃよ。訓練じゃ。訓練」
そう言うと老師は、白衣の男に合図する。すると康司が入った方とは反対の方から、筋肉質のごっつい体の男が入ってきた。頭はスキンヘッドで背は康司より15センチほど高くボディビルダーみたいに筋肉ガチガチだ。手には幅の広い大剣を持ち、上半身が隠れる位の盾を持っている。
「何だよ、俺の相手はこんなひょろい奴かよ。おい、さっきの話は本当なんだろうな」
「ああ、もし言うた通りにできたらの」
老師の言葉に男はニヤリと笑った。
「美味しい話にありつけそうだぜ」
「おい、何だよ美味しい話って」
「いや、こっちの話だよ」
「それじゃ、始めるのじゃ!」
老師の声と同時に男が動き出す。我体の割に素早い動きだ。
康司は右腕の剣でオッサンの斬撃を受け止めようとしたが、吹き飛ばされて後ろに転がった。
「いってぇ。いきなりひでぇじゃねぇか」
「すまねえな。あまり力のねえもんをいたぶるのは趣味じゃねえんだが、今回ばかりはな。仕官の話がある以上、本気で行かせて貰おう」
「仕官って何だよ?」
「俺はな、帝都ロマニールの剣術大会で優勝してな。ある貴族のわがままなお嬢様の護衛という仕事をしてたのさ。そこで濡れ衣を着せられてな。いつの間にかお嬢様を襲ったことになってた。それ以来どこの貴族にも仕官を断られてな。今の有り様さ」
「それが何の関係があんだよ」
剣を構え直しながら男が言う。
「今回お前と仕合ってお前を倒せば、金をもらえる上に、仕官の手はずも整うことになってるって訳だ。さて、おしゃべりはここまでにして、さっさと決着つけようぜ!」
そう言うと、男は剣を中段に構えた。
「おい、じいさん話が違うんじゃねえか!」
「さて、どうじゃろうの? わしは訓練としか言うとらんがの」
「ちきしょう。嵌められた」
(くそっ! どうすりゃいい。あのオッサンの話だとオレを殺すつもりで来るってことか!)
「あら、私のこと忘れてないかしら?」
アヴァが話しかけてくる。
(そうか、オレにはこいつもいたんだ。やるしかねえな)
「覚悟はできたか? いくぞ」
男が突っ込んでくる。
康司は男に向かって突進しつつ、右腕を男に向けた。
「グーラっ!」
康司は右腕から、石のつぶてを大量に男に浴びせながら近づく。
それでも、男は石のつぶてに耐えつつ、剣を降り下ろす。康司はグーラを盾に切り替えて防ぐと、左手を男の腕に触れた。
「アヴァ!」
オレはアヴァに男の剣の技術と体力を奪うようにイメージを送った。
「りょーかい!」
その瞬間、康司は左腕から強い力が流れ込んでいるのがわかった。
流れ込んでいる最中から男の力が無くなって行くのが康司にもわかった。力の流入が終わると康司は後方に飛び下がった。
「お前俺に何をした! 何をしたんだ!」
男は剣を持つ手を見ながら震えている。
「剣が重い! どう戦っていいのかわかんねえ。お前、お前、俺に何をしたぁ!」
「オッサン、オレを殺すつもりだったんだろ。俺だって死にたくはねえからな。悪く思うなよ」
そして、オレは右腕の盾を元の手に戻しながら、じいさんが覗いている窓のそばに行った。
「とりあえずは、これでいいのか?」
「まだ、終わっておらんぞ」
「え?」
その時背後に気配を感じる。
「返せぇ……、俺の力を返せぇ……」
男が康司めがけて剣を降り下ろそうとしていた。
康司は咄嗟に男から奪ったスキルを使ってかわすと右手を剣に変えてそのまま男を下から切り上げる。
「あ」
康司はそこまで覚悟を決めて動いた訳ではなかった。咄嗟に体が反応してしまったのだ。
「ぐぎゃっ!」
その声と同時に大量の血しぶきが上がり康司の顔と服は返り血で真っ赤に染まる。
「な、な…………」
康司は声を出すこともできない。
男は剣を構えたまま棒立ちになっていたが、そのまま仰向けに倒れていった。
「お、おい、だいじょ……」
康司はよろよろと男に近寄るが、男の眼は見開いたまま動かなくなっており、もう事切れているのは明らかだった。
「おい、じいさん。じいさん! 殺しちまったのかよ! オレ人を殺しちまったのかよっ!」
康司は動揺を隠せない。血まみれの両手を見てがたがたと震えている。
「お主、変わったやつじゃの。今自分でやったことじゃろうに。この世界じゃ珍しいことでもあるまい」
そう言うと老師はふっと笑う。
「おお、そうじゃった。お主はこの世界のものではなかったの。ふぉっふぉっふぉっ」
康司は両膝をついて、呆然としていた。
「どうやら初めて人を殺めたようじゃな。おい!」
老師が白衣の男達に指示をする。
男達は康司の両脇を抱えその場から連れ出していった。
「まあ、いいんではないかの。今日のところはの。部屋に戻ってゆっくり休むといい」
老師はにやりと笑う。
「明日からはもっといろいろ試さなければの。ふぉっふぉっふぉっ」
◇◇◇◇◇
服をはぎ取られた上にバケツの水を何杯もかけられ、石鹸で血を落とされた康司は着替えさせられて新しい彼の部屋に放り込まれた。
ベッドに横たわったまま、呆然としている康司にグーラとアヴァが話しかける。
「宿主ぃ、元気だしなよ」
「この世界じゃ、あれでへこたれていたら生きていけないわよ。ここの外ではあんなこと普通にあるんだから」
「……なんでそんなこと知ってんだよ」
「だって、ねぇ。私たち宿主が死ぬと幼生に戻って、実験だ~ってまた別の宿主につけられちゃうのよね。前の宿主の時に何度も経験しているもの」
「俺は今まで人なんか殺したことなかったんだよ。それがいきなり血しぶきなんか浴びりゃ……」
「わかるけどよ。でも、ああしなきゃ宿主が死んで終わりだぜ。おいらたちゃまた幼生に逆戻りだ」
「この世界で生き延びたかったら、慣れないとね」
「慣れたかねぇよ。こんなこと」
康司は寝返りを打って、壁に顔を向ける。
「じゃ、ここで誰かに切られて死ぬ?」
「えっ?」
アヴァの言葉に康司は驚く。
「たぶん明日もこんなことさせられるわよ。もし、あなたがそれを嫌がってやらないのなら、あなたは実験の価値がないって、殺されておしまい。私たちは新しい宿主にまた植つけられるだけ」
「そうなっても、宿主には何の得もないだろ。だったら割り切るしかないよなぁ」
グーラの言葉にも一理あった。
「くそっ。オレには何の選択権もないってことか」
「どうだろうね。いつまでも、老師の下で働くのか、それともそれ以外の道を探すのか。宿主次第じゃないかしら?」
アヴァが言う言葉に康司は疑問を感じた。
「お前たちは老師の使い魔みたいなものなのか?」
するとグーラが答えた。
「確かに使われてはいるけどな。でもおいら達は別に老師に恩なんかないよ。宿主が死ぬと死体が回収されて、また誰かにつけられるということの繰り返しだっただけさ」
「そうね。たまには違う人生歩みたいものよね」
アヴァも呟く。
「そうか。じゃオレとやってみてくれるか?」
康司の表情が変わっていた。
「お、宿主やる気になったかい?」
「顔が変わったみたいね」
「ああ、オレはまだ死にたくない。なら、やるしかないんだろ。オレにくっついたのも何かの縁だ。やれるところまでやってやるさ。つきあってくれよ」
「あら、いい感じじゃない。いいわよ、付き合ってあげる」
「うまくおいら達を使いこなしてくれよっ!」
「ああ。頼んだぜ」
翌日から康司は老師に言われるまま武術家、槍使い、弓使い、盗賊、そして魔法使い達との命懸けの[訓練]をさせられ、その度に相手の能力を奪っていった。
コウジに少しずつですが力がついていきます。




