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至福—麦、囁、絵
老人は微かに顔を綻ばせ、目の前に悠然と広がっているそれを見渡した。
まだ穂の成熟していない若緑の稲穂が小さな風に揺らされ、一斉に同じ方向へと揺れる。稲穂同士がこすれ合って、囁いているような音を出す。
老人はうっとりとそれを見つめていたが、やがて空の方に視線をよこして目をしょぼつかせた。空はまさに雲一つない青空で、太陽が空に全てを曝け出し、眩い光を四方八方に飛ばしていたのである。
「スケッチには最適、か」
老人は目頭を指で押さながらそう呟いた。一面の麦畑と青く深い空。この情景をスケッチに最適と呼ばずして、なんと呼べばいいのであろうか。
老人は羊皮紙とペン、インクを取り出し(何処から取り出したのかは説明がいささか困難である為割愛する)、スケッチをする体勢に入った。
舗装されていない道の脇にしゃがみ、インクをつけたペン先を羊皮紙にふれさせた、その時である。
「私の絵を描け」