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至福スケッチ  作者: 詠琉
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至福—繋、手、明

 先ほど老人が作り出した不可思議な現象、人はこれを至福スケッチと呼んでいた。

 流れ自体はごく普通のスケッチと同じもので、目の前の風景や物体を大まかに写し取る行為なのだが、この至福スケッチ、普通のスケッチとは全く違うものだといっても過言ではない。

 特殊な紙、特殊なペン、特殊なインク、特殊な技法、そして特殊な手。それらが全て揃って初めて完成する至福スケッチは、スケッチしたものと完成したスケッチに「繋がり」を持たせるのである。

 例えば、花や草をスケッチすればその羊皮紙からは花や草の匂いが伝わってくるし、その羊皮紙を燃やしてしまえば、スケッチされたものも簡単に燃えてしまう。

 ただ、至福スケッチは誰もが使いこなせるものではない。

 前述したように、至福スケッチは特殊な紙、特殊なペン、特殊なインク、特殊な技法、そして特殊な手が揃わなければ完成しない。紙やペン、インクは購入すればいいだけの話であるし、技法は修行を積み重ねれば習得できるものなのだが、「手」というのは常人には持つことが出来ない。

 至福スケッチには適した手というものがあり、それは誕生した時から持っていなければならない、所謂“資質”なのである。

 しかもその手を持って誕生したものは、百万人に一人いるかいないかの大変貴重なものなのである。

 そしてこの老人、百万人に一人いるかいないかの手を持つ、百万人に一人いるかいないかの至福スケッチの使い手なのであった。


 先ほどの焚き火を使って朝食をすませ体を温めた老人はテントを手際よくたたみ荷物をまとめると、それら全てを背中にしょいこんで歩き始めた(前にも述べたが、年老いた彼のどこに荷物を背負って歩けるような力があるのは全くの謎である)。

 暗幕で覆われているのかのような暗く陰気な森は、ゆっくりと、しかし確実に明るくなっていく。しばらく歩いていくとぬかるんでいた地面もしっかりしたものになっており、老人にまとわりついていたじめじめとした空気も何処かへと消え去っていた。

 そして、数十分ほどの時間が経ち——急に老人の視界が光に彩られ、視界に一面の麦畑が顔を出した。

 

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