表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/120

第80話 エピローグ・世界への宣戦布告

 城塞都市(フォート・シティ)ネメシスに、新しい風が吹いていた。


 王城の尖塔には、長きにわたり掲げられていたゼノリス王家の「双頭の鷲」の紋章旗はもうない。  代わりに翻っているのは、漆黒の地に深紅の糸で描かれた、巨大な「蜘蛛」の紋章旗である。


 『アラクネ共和国』。


 それが、この国の新しい名前だ。  街を行き交う人々の表情は明るい。重税から解放され、レギオンによる無償の食料配給を受け、かつてないほどの豊かさを享受しているからだ。  市場には活気が溢れ、大通りは整備され、夜には魔石灯が街を真昼のように照らし出す。


 一見すれば、そこは地上に現れた理想郷ユートピアのように見える。  だが、鋭い観察眼を持つ者がいれば、その異様さに気づくだろう。


 路地裏から犯罪者の姿が完全に消えていること。  市民たちが、まるで「見えない糸」に操られているかのように、あまりにも規律正しく、レギオンを崇拝していること。  そして、街の至る所に潜む「影」から、常に何者かの視線を感じること。


 ここは楽園ではない。  巨大な飼育箱だ。  幸福という名の餌を与えられ、思考を放棄した家畜たちが肥え太る、絶対管理社会。


 その頂点に立つのは、新女王セリス・ゼノリス。  彼女は今日もバルコニーに立ち、人形のように美しい笑顔で手を振っている。  その背後で、レギオンの幹部たちが冷ややかな瞳で「資産」を値踏みしていることになど、誰も気づかないまま。


          ◇


 地上の繁栄とは隔絶された、次元の彼岸。  地下宮殿(アンダー・ネスト)、玉座の間。


 始祖(オリジン)・シンは、巨大な大陸地図の前に立っていた。  その手には、黒いインクを含んだ筆が握られている。


「……まずは、一角」


 シンは、地図の中央北部に位置する「ゼノリス王国」の領土を、無造作に黒く塗りつぶした。  白い地図の上に広がった黒いシミ。それは、彼が支配する領域が物理的に確定した証だ。


「楽な仕事だったな。人間というのは、恐怖と利益を交互に与えれば、いとも簡単に魂を売り渡す」


 シンは筆を置き、グラスのワインを煽った。  傍らには、三禍(トリア・カタストロフ)のルシリウス、夜霧、リリアが控えている。


「シン様。地上の統治は順調です。ジェイドとヴィンセントが、飴と鞭で見事に民衆を調教しております」


 ルシリウスが恭しく報告する。  シンは満足げに頷き、視線を地図の「西側」へと移した。


 そこには、中央大陸でも最大規模の版図を誇る軍事大国――『鋼牙帝国アイゼンガルド』が広がっている。


「次はここだ」


 シンが指差す。  その瞳には、王国を落とした時以上の、獲物を狙う捕食者の光が宿っていた。


「帝国は、魔法と科学を融合させた『魔導機工(マギ・クラフト)』を操ると聞く。……前時代の遺物を必死にかき集め、兵器利用している猿真似国家だ」


 シンは冷笑する。  彼にとって、科学とはかつて世界を滅ぼした忌むべき記憶であり、同時に喰らい甲斐のある「味」でもある。


「奴らは我々の『技術』を狙ってくるだろう。シノとヴォルカンが作った魔導兵器……あれを見れば、軍事国家が黙っているはずがない」


「迎撃しますか? それとも……」


 夜霧が好戦的な笑みを浮かべて問う。  シンは首を横に振った。


「いや。……こちらから行く」


 シンは立ち上がり、黒いロングコートを翻した。  その背中から、どす黒い覇気(オーラ)が噴き出し、玉座の間を震わせる。


「王国は『内部』から腐らせて奪った。だが、帝国は違う。  奴らは力を誇示する覇権国家だ。ならば、我々も『力』で応えよう」


 正面からの蹂躙。  圧倒的な武力による破壊と征服。  それが、次なるシナリオだ。


「アレスたちに伝えろ。……休暇は終わりだ、と」


 シンは地図上の帝国領に、深紅の×印を刻みつけた。


「鉄の国か。硬い殻を噛み砕くのも、悪くない余興だ」


 王城での「ごっこ遊び」は終わった。  これより始まるのは、大陸全土を巻き込む本格的な侵略戦争。


 シンは虚空を見据え、世界に対する宣戦布告を口にした。


「さて……次は大陸制覇だな」


 黒い太陽が、西の空へと移動していく。  レギオン【蜘蛛(アラクネ)】の進撃は、まだ始まったばかりである。

お読みいただきありがとうございました!  これにて第2章が完結となります。


 ギルバート王子の断罪、そして「アラクネ共和国」の誕生。  一国の歴史が終わる瞬間を、シンの視点と共にお楽しみいただけたなら幸いです。


 ここまでお付き合いいただき、本当に感謝です。  もし「面白かった!」「3章も読むぞ!」と思っていただけましたら、  ブックマーク登録や、下の【☆☆☆☆☆】評価をポチッと押していただけると、執筆の燃料になります!


 それでは、第3章の戦場でお会いしましょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ