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第8話:絶望の王(Sランク)

 重厚な扉の向こうに広がっていたのは、広大な地下ターミナル駅の成れの果てだった。

 ドーム状の天井は遥か高く、闇に覆われて見えない。

 地面には、膝下まで届くほどの黒い霧——高濃度の液状化魔素——が海のように立ち込め、無数の巨大な柱が墓標のように並んでいた。

 柱の陰には、かつてここを訪れた冒険者たちの装備品が山のように積まれている。錆びた剣、割れた盾。それらはここが「勇者の墓場」であることを無言で物語っていた。

 その最奥。

 瓦礫と人骨を積み上げて作られた玉座の上に、一つの影が座っていた。

「……ん? ボスか? 人型?」

 アレスが目を凝らす。

 玉座の影が、ゆっくりと立ち上がった。

 カタリ、と乾いた音が静寂に響く。

 ボロボロに朽ち果てた王衣。手には黄金の錫杖。頭には錆びついた鉄の王冠。

 そして肉体は、完全に白骨化していた。

 だが、その眼窩には、地獄の業火のような蒼いプラズマが燃え盛っていた。

【解析完了】

個体名:不死王ノーライフキング

ランク:S(天災級)

ゼロ:【死霊支配ネクロマンシー

ブランチ:【死の威圧】【魔法無効化】【即死魔法】

クラス:【デス・ルーラー(死の支配者)】

状態:激昂(睡眠サイクル妨害によるストレス)

(……Sランク。当たりだな。通常のダンジョンボスではない、イレギュラーな進化個体だ。あの魔力密度、下層の魔素だまりが特異点を作り出したか)

 シンは荷物の陰で、小さく口角を上げた。

「……生体反応ライフ・サインを確認。……排除する」

 不死王の顎が動き、空気が震えるような声が響いた。

 それは鼓膜ではなく、脳の恐怖中枢を直接刺激する周波数だった。

「雑魚が! 生意気だ!」

 アレスが大剣を構え、不敵に笑った。

 Bランク冒険者としてのプライド、そしてこれまでの連戦連勝が、彼のリスク評価能力を麻痺させている。

 彼は気づいていない。目の前の存在が、自分たちとは次元の違う「理」で動いていることに。

「俺が正面から叩き斬る! 【爆炎斬プロミネンス・スラッシュ】!!」

 アレスの必殺ブランチ。

 数千度の高熱の刃が、不死王の頭蓋めがけて振り下ろされる。

 ドォォォォン!!

 直撃。紅蓮の炎が玉座を包み込んだ。

「……手応えあり!」

 アレスが確信した瞬間。

「……熱量不足ロー・エネルギー

 炎の中から、無感情な声が響いた。

 爆炎が、まるで映像の逆再生のように一瞬で霧散する。

 そこには、傷一つない不死王が立っていた。

 そして、アレスの渾身の大剣を、たった一本の、細い人差し指の骨で受け止めていた。

「な……!?」

 アレスの目が驚愕に見開かれる。

 物理法則の崩壊。質量と速度が乗った斬撃が、指一本で止まるはずがない。

「Bランクか。出力が低すぎる。……興味がない」

 不死王が、指を軽く振った。

 ヒュンッ。

 空間断裂音。

「……え?」

 アレスが、自分の右肩を見た。

 違和感。軽くなっている。

 そこにあるはずの剛腕がない。

 代わりに、鮮血の噴水が上がっていた。

「ぎ……ぎゃあああああああああ!?」

 アレスの絶叫が響き渡る。

 ボルトスが前に出る。

「【鉄壁の守り(アイアン・ウォール)】!!」

 Bランク最強の防御ブランチ。城門すら防ぐ盾。

 だが、不死王はただ、その眼窩の炎をボルトスに向けただけだった。

「……邪魔だ。【死王の威圧デス・プレッシャー】」

 カッ!

 重力波に近い衝撃。

 バギィィィン!!

 ボルトスの大盾が粉々に砕け散り、彼自身も壁に叩きつけられて沈黙した。全身の骨が砕ける音が響く。

「ボルトス!! 【聖なる結界ホーリー・バリア】!!」

 ミラが叫び、光のドームを展開する。

 しかし、不死王が指先で触れた瞬間、その結界はガラス細工のように砕け散った。

 魔力逆流バックドラフトでミラが血を吐いて倒れる。

 たった数秒。

 ネメシス最強を誇った「紅蓮の獅子」が、何もできずに機能不全ダウンした。

続く

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