第一話(前編)
第一話、前編です。
後編は後日公開します!
「なあ、この記事読んだか?」
部室で先輩に見せられたのは、「投稿者に聞いた!編集部調査レポ!」という『オルト』最新号のページだった。
「まだですね。というか、これ最新刊じゃないですか!いっつも奥井先輩が真っ先に読んでますよね?ちょっとズルくないですか?」
「まあ落ち着けよ、龍。とにかくこのページだけでも先に読んどけ。おもしれーから」
そう言って、奥井先輩は僕に雑誌を押し付けて「じゃ、オレこの後授業あるから!」と部室から出て行ってしまった。
一人部室に取り残された僕は、仕方なくその記事を読み始めた。
この『オルト』は、某有名雑誌に飽きた奥井先輩が取り寄せて以降、定期購読している雑誌だ。
「これ……まさか……そんなことあっていいのか……?」
先輩に勧められて読んだだけの記事。ただそれだけのはずだったのに、僕の背中には冷たい汗が滝のように流れていた。
その直後、部室の扉が開いて後輩たちが入ってきた。
「恩田先輩?大丈夫ですか?怖い顔して固まってますけど……」
「先輩、これ最新刊の『オルト』ですよね?そんなにヤバい記事ありました?」
「あれ?奥井さんいないですね。授業ですか?」
そう矢継ぎ早に色々聞かれたが、僕には返事をする余裕は無く「ごめん、後で」と言って駆け足で部室から出た。多分、後輩たちの頭にはクエスチョンマークが十個くらいついているだろう。
部室から出た僕は急いでコピー機に向かい、あの記事をコピーした。財布をポケットに入れておいたことが功を奏した。
印刷した記事は、小さくたたんで財布に入れた。
ふと、後輩を完全に置き去りにしてしまっていたことを思い出し、僕は急いで部室に戻った。
「あ、恩田先輩!急に出ていくからビックリしましたよ〜」
心配そうに話しかけてくる後輩に対して、僕は「あぁ……ごめん。ちょっとこの記事見て驚いちゃって」としか返せなかった。
「だからって持って行っちゃうことはないじゃないですか!」
「いや、ホント、マジでごめん!これ、サークルの備品扱いだもんな。勝手に持ち出しちゃったこと、奥井先輩にはナイショな」
「そういうこと言うんだったら、ジュースの一本でも奢ってくださいよ?せーんぱいっ」
「本っ当にそういうとこちゃっかりしてるよなぁ、お前ら……。分かった。今度な」
「やりぃ!」と笑い合う後輩たちを見て、平和だと感じた僕は僕自身がおかしくなってしまったのかと思ってしまった。
どうでしたか?
毎週日曜日の20時に投稿しています。
これからも読んでいただければ幸いです…