育ち続ける者、もう育たぬ者
初投稿
テストです
「じゃ、行ってくるわ」
声変わりが始まった息子は、風邪をひいた時に似たしゃがれた声を、私に背を向けたまま放ち玄関を出た。
「いってらっしゃい、車に気をつけるんよ」
返事はもらえず、そのまま玄関はバタンと閉じる。
梅雨が明け、快晴の日曜日の朝、中学生になった息子はクラスの友達数名と自転車で校区外のイオンへと向かうそうだ。
先日、今日のこの予定を息子から聞いた時、車で乗せて行ってあげようかと聞くと
「友達に見られると恥ずかしいからいいや」と嫌そうな顔で断られたのが少しショックたった。
その事を思い出しながら私は階段を登るとベランダに出て息子の姿を探す。
ようやく乗り慣れた少し大きめの自転車に跨り、坂道をゆっくり下ってゆく息子を見つけるとスマホを向けてシャッターを切る。
…私のスマホには高価なカメラ機能など無い安物であり、画面には晴れた住宅街が映し出されていてる。その中に僅かに写る息子を日本の指でピンチアウトするも、ぼやけるだけで親でもなければ誰だか判別できない。
頬杖をつき、息子の写真を撮るのは入学式以来ぶりかと想起して眼を細めていると、自然と口角が上がる。
子育てのピークが半分以上過ぎているのではないかと、寂しくも思えた。
一緒にいられる時間を逆算しようと思索しようとした瞬間、一階のリビングから間の抜けた声が聞こえた。
「ママ〜、俺の靴下知らな〜い?」
強制的に現実に連れ戻された私は、真顔で足音を立てながら階段をおりる。
おわり