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第1章 泥だらけのエスケーパー(part 7)

 「おっ、これは?」

 俺の眼に最初に止まったのは、チーズのブロックだった。

 手に取ると、重さは3Kg程度だった。

 俺はナイフでそのチーズを二人分、ブロックから切り取ると、そのひとつをハルカに手渡した。

 「パルミジャーノ・レッジャーノね」

 「無難な選択だ。あの極楽鳥、案外、真面まともなのかもな」

 栄養価が高いチーズがこれだけ有れば、当分、餓死する事は無いだろう。

 「ジュンイチ、これビーフジャーキーじゃない?」

 ハルカが手にしたブロックは、確かにビーフジャーキーの1Kgブロックだった。

 外は寒いから、2~3週間は持つだろう。


 後は、青エンドウ、レッドキドニーのビーンズ缶詰が2缶ずつ、銀紙の袋に詰められた容量が1Kgのパンプキンとトマトのスープが各2袋。

 野菜類が不足しそうだったから、極楽鳥のこの選択は俺には有り難かった。

 更に、蟹、ツナ、ホタテ、アサリの魚介類缶詰が各2缶、オレンジ、チェリー、アップルの果実類も各2缶が支給されていた。

 そして、これからの主食に成るであろう5Kg入りの乾パンが1袋。

 「これだけ有ったら、10日以上は楽に過ごせそうね」

 「極楽鳥が持っているルーレットの基準が分からないけど、恐らく今回は、当たりの部類だろう」

 「ネオエデンで配給される食料品より、こっちの方が絶対に美味しそうね」

 ハルカの顔が嬉しそうに成った。

 「確かにな」

 ネオエデンで市民に配給される食料品の生成には、2040年代に食糧難に喘ぐ発展途上国の人々を劇的に救った「フードメーカー」が使われていた。

 ネオエデンで天然物の食品が配給されるのは、毎月の月始めと15日、それから記念日だけなのだ。

 「フードメーカー」は、スグル・カツラガワ・ジェファーソン博士の偉大な発明品のひとつで、不要な物資を分子レベルにまで分解して食品に再構築する装置だった。

 それは飢えに苦しむ人々に取っては大いなる福音だったが、肝心の味の方が天然物には遥かに及ばなかったので、先進国では貧民層以外の者は所有していない装置でも有った。


 最後に俺は、丈夫そうな木箱に詰まっている「お楽しみ安物サービス品」を点検した。

 「ほうほう、ワインが6本か?」

 俺はこれからハルカと乾杯するから、その中の1本を手に取って見た。

 「流石は安物。ハルカ、このワイン、キャップを右に回すだけで開栓できたよ」

 「栓を開けるのが楽で良かったじゃない」

 ハルカは俺に向かって片目を瞑って見せた。

 「ま、まあな」

 最初の支給品の中には、多機能のマルチツールも入っていたから、俺はコルク詰めのワインでも開けられた。

 只、チープな栓だったお陰で、ハルカからウィンクをされたけどな。

 俺は思わず苦笑した。

 「ジュンイチ、煙草は20本入りが6箱よ。これも他の支給品と同じで、メーカー等の記載は無いわ」

 「煙草だけマルボロのパッケージに入っていたら、逆に驚くがな」

 「ふふふ、それはそうね。それから珈琲は粉状だわ。濾過器と紙のフィルターが付属している」

 「珈琲はドリップで飲めって言う事か?」

 「珈琲の袋を開けると、直ぐに湿気しめりりそうだから、ワインの空瓶に移しましょう。栓を強く締めれば湿気らずに済むわ」

 「成程。それは良い考えだ」



 一通り、食料品の見分が終わったので、俺は一番気に成っていた衣服類を確かめた。

 俺の分は、思った通りレトロ感が漂ってはいるが「ミリタリー」のコンセプトで統一されていた。

 裏ボア加工が施されたミリタリー防寒ジャケットとパンツ、ポリエステル素材に裏起毛が施されたミリタリーベスト。

 どれもダークグレーで統一されたアンサンブルだ。

 インナーは、かつて英国特殊部隊が着用していたタクティカルシャツにこちらは旧米国陸上部隊が使用していた多機能マウントレール付ヘルメット。

 それに手首調整が可能なタクティカルグローブとファスナー式コンバットブーツ。

 軍用ブーツは通常、編み上げ式だが、これはファスナー式なので素早く脱ぎ履きが出来るので助かる。

 マフラーはタオルで代用するとして、満点とは行かないまでもこれだけ衣類が揃えば、防寒対策は万全だろう。

 色目もダークグレーとブラックで統一されているから、俺は軍人に戻れた気分に成った。


 一方、ハルカの方のコンセプトは「トレッキング」だろう。

 こちらは防寒、耐風を強く意識した裏ボア加工のアウトドア専用アンサンブル。

 インナーシャツは防寒効果も有りながら動き易い裏起毛加工が施された物だ。

 それに防水に優れたトレッキングブーツにエアソフトヘルメット。

 おまけにスタビライザー付トレッキングステッキ、シャフトにアルミニウム合金を使用した4段スライド式の優れ物まで揃えられていた。

 「あの極楽鷲、怖い顔して割とヤルもんだね!」

 「そうね。あの鳥さんはきっと、只のボケワシじゃ無いみたい」

 ハルカも俺の意見に同調した。


 俺達は、先刻まで着ていた衣服を全て袋に入れて、たった今手に入れたばかりの衣服に着替えた。

 ずっしりとした感覚は有るが、思った以上にスムーズに動けた。

 「この服、暖かいね」

 「そうだな。焚火は獣除けだけで良さそうだ」

 「ねえ、ジュンイチ。これから何処どこに向かって進むつもり?」

 ハルカが俺に訊ねた。

 「西に向かって進もうと思う。先刻さっき、小枝を拾いに行った時に確認したんだが、ハルカが滑った池は池と言うより湖と呼ぶ方が相応ふさわしかった。そしてあの湖は西の川から雨水や湧き水が流れて来ている様なんだ」

 「西の方角にその川沿いを進めば、少なく共、水には困らないと言う事ね」

 「そう言う事!だが西は山越えに成るから、その分大変ななんだが、物資交換用のキノコや洞窟から石を拾えるチャンスが多いと思うんだ」

 「ジュンイチ、頑張ってね。頼りにしているから」

 ハルカはそう言うと、チロッと舌を出した。

 「はいはい、頑張ります」


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