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第1章 泥だらけのエスケーパー(part6)

 俺はすっかり腹が満たされたので、蒔の代わりに成りそうな物を探しに、再度、テントを出た。

 今回は、池のほとりに出る北の方角では無く、西側の場所を探索して見る事にした。

 その辺りの森は広葉樹群だったが、大半は常緑広葉樹で、落葉樹は僅かだった。

 これじゃ葉は乾燥させないと、燃やすのにガスを無駄遣いしてしまう。

 やはり、ここは小枝の方を持って帰るべきだな。

 俺は、藪の様に成っている低灌木の枝をナイフで切り取ると、一袋だけ支給されていた大きな麻袋にそれを詰めた。 

 小枝がぎっしりと詰まった麻袋を引き摺りながら、俺はテントの近くまで戻って来た。

 その頃には、既に陽が落ち始めて気温が急に低く成って来ていたし、空の雲が今にも泣きだしそうにも成っていた。

 「おーい、ハルカ、俺だ。テントから出て来て呉れ」

 テントの中からハルカが出て来た。

 「やっと蒔の代わりに成る小枝を取って来たぞ。これで今夜はこの寒さをしのげるだろう」

 「お疲れ様、ジュンイチ。だけど蒔の代わりだったら、そこのウッドチップを燃やした方が簡単じゃ無い?」

 「えっ?」

俺は何と言う馬鹿者だったのだろう。

此処ここの何者かは、ちゃんと蒔の代替品を大量に用意して呉れていたのだ。

「そ、そうだったな。俺は君に言われるまで、その事に気が付かなかったよ」

俺は、思わず自分の頭を掻いた。


 その時、遠くの方で大きな羽搏はばたきの音とキーッという鳴き声が聞こえた。

 「ほう、例の極楽(わし)が約束を守って、物資を俺達に渡しに来たのか?」

 ハルカもそちらの方向に眼を向けた。

 「鳥さんが来たみたいね」

 「ああ、あの石が旨い物に当ってると良いがな」

 やがて今朝の極楽鳥と、優に彼の2倍の大きさが有る化け物の様に巨大な極楽鳥が、俺達の上空に現れた。

 「鳥さん達、こんばんわ」 

 ハルカが極楽鳥に夕方の挨拶をした。


 「オヌシらがわしに渡した石のポイントが、僅かの差だったが本日のトップ賞に輝いタ。だから一番最初に来てやったゾ。ほれ、これがトップ賞の安物のウィスキーなのダ」

 そう言うと、極楽鳥は俺の眼前にウィスキーを放り落とした。

 「あっ、馬鹿!貴重なウィスキーが割れてしまうだろ!」

 俺は慌てて、そのウィスキーを拾いに行った。

 「成程な」 

 そのウィスキーは「真鍮製20オンスのスキットル」に入れられていた。

 この極楽鳥は、丸切りの阿呆鳥では無さそうだ。


 「これがオヌシらの注文品ダ。受け取レ!」

 化け物仕様の巨大極楽鳥が、幾つかに分けられた袋毎、地面に彼らの商品を落とした。

 こう言う渡し方をされるんじゃ、これからは割れ物は注文出来無いな。

 俺は一瞬そう思ったが、ウィスキーの件を思い出して、きっと何かの工夫が凝らされているに違いが無いと俺は確信した。

 そうじゃ無いと、サービス品の安物のワインだって俺達に無事に渡せない。

 この世界は、俺達が思っている以上に緻密な計算が施されている世界なのかも知れなかった。


 「ところで極楽鳥さんよ。お前の隣にいる、化け・・・あっ、いや、体格が良くて貫禄が有るお仲間は、一体、誰なんだ?」

 「このお方の事カ?、このお方はわしと一緒に行動しているるカミサンだ。人の言葉は喋らないがナ」

 「まあ、鳥さんには奥様がいらしゃったのですね?」

 ハルカが嬉しそうな声を上げた。

 「奥様?それは何ダ?彼女のくちばしは恐ろしい程の強さを持っていル!だから、わしが物資を運ぶのを手伝って呉れているのダ」

 「それを内助の功って言うのでは?鳥さんは素敵な奥様をめとられたのね」

 尚も、ハルカは嬉し気だった。

 「その何ダ、彼女はわしの追っ掛けみたいな存在で、我が一族の族長のうら若き娘さんなのダ。名をカミサンと言う」

 極楽鳥の言葉に俺とハルカは、お互いの顔を見合わせた。

 まぎらわしい名前の鳥だ!

 その前に、それが明らかな偏見だとは承知していても、その巨大な極楽鳥がうら若き娘さんだとは、俺にはどうしても信じられなかった。


 「さあ、ブツは渡したゾ!じゃあナ」

 「あっ、待て!お前に質問が三つ有る」

 「何ダ?言ってミロ」

 「先ず、お前達は何時からこの仕事をしている?」

 俺の質問を聞いた極楽鳥の眼がギラリと光った。

 此奴こいつは俺をにらんでいるのか?

 「オヌシらにはそれは答えられン。それが此処の決まりなのダ!」

 「そうか、それなら仕方が無い。分かったよ。次の質問は、俺は煙草を止めてから久しい。お前から貰った物資は他の品と交換する事が出来るのか?」

 この手の質問は受ける事が良く有るのか、極楽鳥は「ワハハ」と笑った。

 「一旦、受け取った商品は、返却して払い戻す事も他の商品と交換する事も出来ない。だから注文は慎重にする事ダ!サービス品は選べないから、不要だったら途中で出会った者とでも交換するのだナ」

 「分かった。これが最後の質問だ」  

 化け物仕様の、族長のうら若き娘カミサンが、その大きな羽根をバタつかせ始めた。

 彼女はれ初めているのだろう。


 「わしらは忙しい!早く言エ」

 「今日、俺達は銀色の花を7本も偶然に見付けた。物資を渡す時にお前が新たな注文を受けない事は知っている。只、銀色の花7本の交換レートが知りたい」

 「銀色の花カ?ここでは石は銀よりも金が価値が高いが、花は金よりも銀の方が価値が高いと言う事だけを伝えて置こウ」

 「銀色の花の方が、金色の花より価値が高いのか?」

 「時間ダ!さらばダ」

 そう言うと、2羽の極楽鳥は俺達の元から飛び去って行った。

 「ねぇ、ジュンイチ。わたし達、あの鳥さんのルーレットで当ったのかしら?食料品がかなりの量、こちらの袋に入っているんだけど」

 「何?」


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