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有閑マダムのお悩み相談室

有閑マダムのお悩み相談室〜生さぬ仲は難しい

作者: 藍田ひびき

皆さん、こんにちは(ボンジュール)~!

『フランのお悩み相談室』のお時間ですわ~!


 今日もこの私、フランが皆様の抱えるお悩みをさくっと解決しちゃいますわよ~。


 はい、今日の相談者様は王都ルベルィアにお住まいの「悩める母」さんです。


 もう魔電話は繋がっておりますのよ。

 もしもし、「悩める母」さんでいらっしゃいますか?

 初めまして。わたくし『フランのお悩み相談室』のメインパーソナリティを務めるフランと申しますわ。


 あら、いつもこの番組を聞いて下さっているのね。ありがとうございます~。


 早速ご相談の内容ですが、義理の娘さんに関するお悩みということで宜しかったでしょうか。


 はい、はい。「悩める母」さんは後妻として嫁がれて。二人の娘さんがいらっしゃるのですね。

 お二人とも継子ですの?ああ、上の娘さんだけなのですね。失礼しました。


 ちなみに娘さんたちはお幾つでらっしゃいます?

 15歳と13歳。それはまた……難しいお年頃ですわねえ。


 ええ。それで上の娘さんと上手くいっていない、と。

 まあ、家出?それは大変。

 

 あ、今は友人の家にいらっしゃるのですか。それならとりあえずは安心ですわね。よろしゅうございましたわ。


 それで、家出の原因はお聞きになりましたの?


 ふむふむ。妹と比べて自分にだけ厳しいと仰ってるのですね。

 「悩める母」さんにはそのようなご自覚はおありですか?

 

 え、無い?あの娘は元々ひねくれているから、そんな風に思いこんでいるだけ?

 あらあら、駄目ですわよ。母親である貴方が娘さんを貶めるような事を仰ったら。子供というのは、親の言動をよく見ているものでしてよ。


 それに、最初からひねくれている子供などいませんわ。

 そんな風に育ってしまったのならば生育環境に何かしらの原因があると、私は思いますのよ。


 ああ、いえ。「悩める母」さんがお悪いと言ってるわけではないのですよ。

 ただ、実の親子とは勝手が違いますからね。貴方もこれまでいろいろと大変だったでしょう?


 はい、はい。

 自分は姉を妹と同じように育てたつもりだと。


 あのね、「悩める母」さん。生さぬ仲というのは、非常に難しいものでしてよ。

 実の母娘で有れば、幼い頃に愛情を注がれた記憶もあるでしょう。多少厳しくしたとて、愛情という礎があれば問題無いでしょう。


 けれどね、上の娘さんにはその礎がないのですわ。親の愛を信じられない状態で厳しくされたら……そりゃあ、多少はひねたことを言ってしまうのも仕方がないのではなくて?

 

 まず上の娘さんにいっぱいの愛情を注いで、信頼関係を築くこと。

 今の「悩める母」さんがやるべきことは、そういうことだと思いますわ。


 それじゃあ間に合わない?

 あら。お急ぎになる理由がございますの?

 

 婚約が決まりそう。あらまあ。お目出度いことでございますわね。


 そうですか、ご本人が嫌がっておいでなのですか。

 もしや、家出の真の理由はそちらなのではございませんこと?


 家同士の結婚ならば、当人の意志など必要ない?

 それはまあ、貴族で有ればそうでしょうけれど。家出するほど嫌がっているのですもの。いったん婚約は保留にして、娘さんとよく話し合うべきだと思いますわ。


 そんな悠長なことをしていたら、婚約が無くなってしまうかもしれない、ですか。

 それならそれで仕方の無い事じゃございませんか。今回は縁が無かったということですわ。


 それじゃあ困る、何とか説得して連れ戻す方法を知りたいと。

 あらあらまあまあ。何をそんなに急いでらっしゃるのかしら。


 先ほど申し上げた通り、「悩める母」さんはまず何よりも娘さんと信頼関係を取り戻すことを始めなければなりませんわ。婚約するしないは、その後の話ですわよ。

 

 まあ、上手くいくとは思えませんけれどもねえ。

 どういう意味かって?

 

 ねえ、貴方。本当になぁんにも御身に覚えがございませんの?

 

 例えば実の娘さんには豪奢な服や装飾品を与え、継娘さんには着古した服や使用人が着るような服を与えたりとか。

 継娘さんの誕生日だけ無視したりとか。

 家族旅行に一人だけ置いて行ったりとか。

 継娘さんと仲良しの侍女を、何の理由もなく解雇したりですとか。


 あら、どうなさいましたの?語尾が震えてらっしゃいますわよ。


 そんな事はしていない?

 彼女は跡継ぎだから、心を鬼にして厳しく接したこともあったかもしれない、と。

 左様ですか。


 これは私が友人から聞いた話ですけれどね。

 お宅様と同じく、姉妹の上の娘さんだけが前の奥様のお子さんで。

 本来ならば継娘さんが婿を取って跡を継ぐはずだったのに、何故かその婿と下の娘さんが婚約することになったらしいんですのよ。

 代わりに上の娘さんは、どこぞの貴族の後妻へ嫁がされるとか。

 

 ねえ。ずいぶん酷い話でしょう?

 まさか「悩める母」さんは、そのような事をなさっていはいないと思いますけれども。


 あら、もうよろしいのですか。お悩みはまだ解決されていないのではなくて?


 ……あらあら。魔電話が切れてしまいましたわ。ずいぶんせっかちな相談者様でしたわね。


 尻切れトンボで、リスナーの皆様にはご不満だったかしら。まあ、たまにはこんな日もありましてよ。ほほほほ。


 それでは今日はこれで失礼致しますわ。

 また来週、お会い致しましょう。さようなら(アデュー)~!



 ◇ ◇ ◇



「大奥様。アンダーソン前公爵夫人からお手紙が届いております」


 王都中心部の貴族街、その一端にあるガーネット侯爵のタウンハウス。

 自室でお茶を楽しんでいた前ガーネット侯爵夫人フランシスは、侍女から手紙を受け取り優雅な所作でその封を開けた。


「まあ。フレデリカ・エドワーズ男爵令嬢から連絡が来たのですって。隣国でつつがなく過ごされているそうよ」

「お悩み相談室に義母が電話してきたというご令嬢でございますね」

「そうそう。電話口ですぐにぴーんと来たのよ。ああ、これはメイヴィス様がお話ししていたご令嬢のことだって」


 フランシスの友人メイヴィスは、孫娘から同級生のフレデリカのことで相談を受けていた。


 母親を亡くした後、フレデリカの様子がおかしい。

 以前は明るい少女だったのに、いつも暗い顔をしている。艶やかだった髪はバサバサで、皺の寄った制服を着ていることすらあった。

 エドワーズ男爵が早々に後妻を迎えたことは聞き及んでいる。何かしら事情を抱えているだろうということは、誰にでも想像がつく。


 そして校庭の隅っこで泣いている姿を見かけ、見るに見かねた孫娘が声を掛けたのだそうだ。


「後妻が前妻の子供を冷遇するのは、嘆かわしいけどよくある話よ。貴族平民に限らずね。だけど例え継子が目障りだったとしても、貴族の娘として最低限の体裁を整えるくらいはしてあげるべきじゃなくて?まあ、後妻は平民の女だったらしいけど。長年男爵の愛人として日陰の身だったのが、正妻にして貰えたもんだから図に乗ったのでしょうね。恥知らずだこと」

「私も番組を聞いておりましたが、継娘と後妻の娘の年が近いのを不思議に思いました。愛人関係の間に産んだということでしょうか」

「そうらしいわ。父親は元々、正妻とはあまり仲が良くなかったらしくてね。今は若い後妻の言いなりなのですって。フレデリカ様は気丈な娘でね、そんな扱いにもじっと耐えていたそうよ」


 長々と喋って喉が渇いたのか、フランシス夫人はティーカップを手に取り、お茶を飲んだ。置いたままだったお茶は、侍女によりすでに温かいお茶へと取り替えられている。

 良い香りを放つ飲み物を口にして落ち着いたのか、夫人はほうっと溜め息をついた。


「だけどフレデリカ様も、婚約者を妹と取り替えろと命じられて、流石に我慢の限界になったの。しかも新しい嫁ぎ先と言うのが、ワイアット伯爵だったのよ」

「ワイアット伯爵ですか?伯爵令息ではなく?」

「ええ、当主のほうよ。若い娘なら誰でもいいって公言している下品な男。正妻以外にも妾をたくさん抱えているのに、まだ増やそうっていうのだから呆れてしまうわ。それでも伯爵領には鉱山があるから羽振りだけはいいのよね。金に困った貴族が娘を差し出すものだから、選び放題だったみたい」


「つまり、エドワーズ男爵家も財政難だったということですか」

「鋭いわね。その通りよ」


 エドワーズ男爵は金遣いが荒かった。

 前妻が生きているうちは、彼女が睨みを利かせていたため、何とか保ってたらしい。だが彼女が亡くなり、散財を止める者もいなくなった。後妻はいわずもがなである。現在、かなりの借金を抱えている状態らしい。


「それで娘を売り飛ばそうと?親の所業とは思えませんね」

「本当よね。最初は妹の方を伯爵に嫁がせようとしたのだけれど、後妻と妹が泣いて嫌がったから姉へ取り替えたらしいの」


 孫娘からフレデリカの境遇を聞いたメイヴィス・アンダーソン前公爵夫人は激怒。すぐにフレデリカを保護した。

 娘を返せとメイヴィス夫人のもとへ押しかけてきたエドワーズ男爵夫妻だったが、男爵風情が公爵家に逆らえるはずもない。すごすごと帰って行ったそうだ。


「フレデリカがいなければ、後妻は自分の娘をワイアット伯爵へ嫁がせるしかないわ。それで焦って、相談室へ電話をしてきたのよ。継娘に自ら家へ帰って来させたかったのでしょうね。自分に都合の悪いことはぜーんぶ伏せてるんだもの。電話口で吹き出しそうになったわよ」

 

 メイヴィス夫人は、フレデリカを隣国の伯爵家へ嫁いだ親戚のもとへ送った。今は侍女として伯爵夫人へ仕えている。

 フレデリカからの手紙には、こちらは皆よくして下さる、仕事が楽しいと書かれていたそうだ。


「フレデリカ様は、母方のご実家には頼れなかったのでしょうか?」

「ええ。お母様は子爵家のご息女だったのですけれど、あちらはあちらでちょっと跡継ぎ問題でごたごたしていてね。フレデリカはそれを知っていたから遠慮していたのよ。賢い子ねえ。母方の祖父母は、男爵夫妻の所業を聞いて何もしてあげられなかったと嘆いていたそうよ。フレデリカを引き取っても良いとも仰っていたけれど……この国にいたら、どうしたって醜聞の的になるでしょう?それならいっそ新天地でやり直した方がいいと、メイヴィス様が説得なさったそうよ」


 今は隣国の伯爵家がフレデリカの身元引受人となっている。

 侍女として数年働いて行儀作法が身につけば、然るべき所へ嫁がせる予定だそうだ。


「エドワーズ男爵は、やむにやまれず妹の方をワイアット伯爵へ差し出そうとしたけれど、結局その縁談も無くなったらしいわ。伯爵家も今それどころじゃないもの。借金はどうするのかしらねえ。返せなかったら、爵位返上もあり得るのじゃないかしら?」

「そういえば、ワイアット伯爵がなにやら違法取引をしていたと話題になっていましたね。王家から取り調べを受けているとか」

「そうそう。犯罪組織に鉄鋼石やミスリル石を流して儲けていたらしいわ。最近()()それが明るみになったのよね。何でかしらねえ、ふふふ」

「不思議ですねえ」

 

 意味深な笑みを浮かべるフランシス夫人に、侍女はしれっとそう答えてお茶のお代わりを入れた。

 今日もガーネット侯爵邸は平和なようだ。


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[一言] 昔あった生き別れの家族などを探すTV番組で相談内容と事実が違って拒否された。 なんて事が有ったなと思い出しました。 面白かったです。
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