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二人の霊媒師  作者: 凛道桜嵐
5/5

二人の霊媒師5

霊媒師5話無事に投稿出来ました。

遅くなってしまってすみません。

コンコンコン

玄関のドアが静かに叩かれる。

私は不審に思ってふと時計を見た。

深夜二時。

こんな夜遅くに誰からも連絡無しに訪問してくるのは変だ。

もしかしたらひろしかもしれない。

浩は数ヶ月前からアプリを通して知り合い現在進行形で付き合っている彼氏である。

私は恐怖で足がすくみそうになりながらも玄関の近くまで行くと、また優しくコンコンコンという音がする。

私はドアの覗き穴から外を見ると女の人がドアの前に立っていた。

誰だろう、何の用なのだろうかと思いながらドアを開けてみると

「開けてくれて良かった。この時間だし迷惑かと思ったのだけれどじっとしていられなくて。」

とその女性は私の顔を見ずに真っ直ぐ前を見ながら言う。

私は目の焦点が合わない知らない女性に対して不審に思いながらここに来た理由を一方的に話す彼女の話を聞いていたが、途中である事に気が付いて話の途中だったが急いで玄関のドアを閉め玄関の鍵を掛けた。

私は震える手を押さえながら恐怖で乱れる呼吸を整える。

夜中に訪問してきた女性の下半身は無かったのだ。

詳しく言うと黒いもやみたいなのが掛かり全くと言って良いほど見えなかったのだ。

車椅子に乗っている訳でもないのに空中を浮いていたのだ。

下半身だけごっそり無くなって居るにも関わらず痛みを耐えている様子も無い表情にただならぬ恐怖を感じ私はドアを閉めたのだ。

私は恐怖で震えながらもハッと気付いて玄関のチェーンもかけ、ドアからゆっくりと少し離れた。

ドアの向こうでは先程の女性がまだ独りでに長々とここに来た理由を話しているのが少し離れた場所に居てても聞こえてくる。

私は急いで携帯を取りにリビングに行き警察に電話をした。

「はい、事件ですか?事故ですか?」

「事件というか今変な人が家の前に居てて!」

声が震え絶叫に近い声が出る。

「落ち着いて下さい。変な人とは具体的にどんな人ですか?」

私は言われた通りに落ち着こうと乱れた呼吸を落ち着かせるようにして何度か深呼吸をする。

「下半身が無い女性です。」

「その女性は死体ですか?」

「いえ、まだ生きているようでドアを何度もノックしてきて・・・・」

「何か話したりしていませんでしたか?」

「・・・・・・あ、ここに来た理由を言っていました。」

「具体的になんと?」

「具体的にと言っても外からここの部屋が明るいので起きているのだと思って訪ねたとか私は隣町に住んでいてある人に追われているとか。」

「なるほど。今もその女性はドアの所にいますか?」

「え、ちょっと待って下さい。」

私はドアに足音を立てないように近づき覗き穴から外を覗くとまだ小さい声で何かを話す女性が立っていた。私はそっと覗き穴から視線を外しリビングに戻って

「まだ居ます。」

「鍵は掛けてありますか?」

「はい、チェーンも掛けてあります。」

「今近くにいる警察官がそちらに向かわせるので住所を教えて頂けますか?」

「はい、・・・・・」

私は住所を言うと

「ありがとうございます。今そちら付近に警察官が丁度見回りをしているようなのでそのマンションに向かうように指示しますので、怖いと思いますがもう少しだけ我慢していて下さい。」

「こんな体験初めてでどうしたらいいのか分からなくて。」

「その女性を襲った犯人が近くに・・・・・・」

「もしもし?」

「は・・・・・・・い、もし・・・・・・・・・・もし」

ザーザーと砂嵐のような音が聞こえる。

「すみません、電波が悪いみたいで聞こえずらいのですが。」

「電波、電波が悪い?・・・・・・・・・・・・・・それでは、私がここに来た理由を述べましょう。」

急に先程までの女性の声が代わり、玄関の前に立っている女性の声が電話越しから聞こえて来た。

私は氷の様に身体が固まりただ携帯を耳に当てる事しか出来なかった。

「え。」

やっと言えた言葉がこの一言である。

「私は貴方を探していた。次は貴方の番なの。」

「・・・・・ちょ、ちょっと変な事を言うのは止めて下さい!!警察の方ですよね?なんで急にそんな事を言い始めるんですか?」

私はきっと玄関越しで話かけてくる女性とは違う女性だと信じたくて発狂するように言う。

「次は貴方の番なの。順番は前から決まっていた。お迎えに来たよ。」

「何なの?貴方誰?」

「私・・・・・・・私の名前は・・・・・・・・・・ザワザワザワ・・・・・・よ。」

「え」

ピンポーン

チャイムの音がする。

私はその音に驚いて飛び上がり早くなる鼓動を落ち着かせながらインターホンの画面を見る。そこには近くで巡回していたのであろう警察官らしき人物が画面に映っている。

「・・・・はい。」

「通報を受けて来ました。マンションの玄関ドア開けて貰えますか?」

私はその安心する声を聞いてこの恐怖がやっと終わると思いホッとした。

「今開けます。」

ロビーのドアを解除すると、電話口で奇妙な音が聞こえたので耳元に当てた。

「ギギギギギギギッギギギッギギギッギ」

歯を食いしばるような音がする。

「きゃあ!!」

私は恐ろしくなり電話を床に叩きつけた。すると

「大丈夫ですか?」

と電話から女性の声がする。

私は恐る恐る床に投げつけた携帯を手に取ると

「大丈夫ですか?途中から電波が悪くて声が途切れましたが。警察官はもうそちらに到着したでしょうか?」

と先程の玄関越しの女性とは違って通報した時に電話に出てくれた女性の声がする。

「今、今マンションのロビーの所まで来たみたいです。」

と言うと

「そうですか、安心しました。また何かありましたら通報して下さい。一旦お切りしますね。」

と言って電話を切るとタイミング良くピンポーンとチャイムが鳴った。

私はやっと警察官が着たのだと思い玄関に小走りで行き覗き穴を見ずに玄関の鍵を外し、ドアを開いた。

すると何かが倒れ込んできた。

一瞬黒っぽい色が見えたので何か分からず、固まってしまいその何かはなだれこんで来るような形で私の身体を覆い被さる。

私はよく見るとそれが先程のインターホンに映っていた警察官だと気が付くのに時間は掛からなかった。

何事かと思ってその警察官を見ると目から血の涙を流し、口は大きく開けて目も血走った様に大きく見開き呼吸が止まっている。

私は倒れ込んできた警察官を恐る恐る身体からどけると硬直しているのが分かった。

余りにも悲惨な出来事に私は悲鳴を上げる事も出来ずにただ死体になった警察官を凝視する事しか出来なかった。



「はあ~」

「あら、やだ!どうしたのよ、溜め息なんて吐いちゃって!」

と溜め息を吐く七星京采ななせ けいとに店長の現哉さんが開店の準備の為に布巾で机を拭きながら聞く。

「あー、すみません。溜め息なんて吐いて。だけどここ最近姉さんの様子が変で。」

「あら、お姉さんどうかしたの?」

「コソコソ夜中にキッチンで何かしているんです。」

「コソコソと?」

「ええ、あれは絶対男です。」

「キッチンで何かを作っていても男とは限らないじゃ無い。」

「いえ、あれは男に何かを作って渡しているんです。間違いないです。」

「あら~そうなの?でも、お姉さんももういい歳よね、彼氏の一人や二人は居るんじゃないかしら?」

「か・・・・彼氏~?」

といつもはポーカーフェイスの七星だが姉が絡むと表情豊かになり眉間にしわを寄せて現哉を見ながら声をあげる。

「あら、嫌だ眉間にしわを寄せて。」

「彼氏なんて俺は認めないですよ!大体姉さんが好きになる男なんてろくな奴は居ません!もしかしたら変な奴に騙されているのかもしれない!!」

「まあまあ、そんな興奮しないの。お姉さんだって自由に恋愛して良いはずよ?」

「自由に恋愛?そんなの駄目ですよ!姉さんは俺の姉さんなんだから!」

「大変ね~お姉さんも。こんな重度なシスコンな弟を持って・・・・・・・あら、そういえば話は変わるけれども今月の最終日シフト入って居るわよね?」

「いきなり何ですか?・・・・・・最終日は入って居ると思いますけど。」

「そう!なら良かったわ!」

「何ですか?いきなり・・・・。」

「ひょっとして忘れているの?」

「何をですか?」

「まあ、嫌だわ!この子ったら!そんなんだからお姉さんも男を作るのよ!」

「何なんですか?いきなり!」

カランコロン

京采と現哉が言い争っている時に店のドアが開く音がした。

「あら、嫌だわ!私ったらクローズにしていなかったかしら。」

と現哉は布巾をキッチンの流し台に置きドアの前に立つ女性に話掛けた。

「すみません。」

と猫背の女性?と思える人が入ってきた。

紙はボサボサで顔を覆い被さる様になっていて強風でも吹いていたのだろうか?と思える程のボサボサな頭に来ている服もシワシワでピシッとすればスタイルは良いのに勿体無いと思える程の姿勢の悪さ。

俺はその人が入って来て何か嫌な予感がした。

「あら~、強風でも吹いているのかしら。来て貰って何だけれども今お店開いていないのよ~夜にまた着て貰えるかしら?」

「あの、ここに霊媒師の方が居ると聞いて。」

女は現哉の話を聞かずに現哉にしがみつくようにし髪の毛の隙間からギョッとするような見開いた目で見つめて来た。現哉はその女の行動に驚く姿を見せずに

「霊媒師?あら!それなら七星ちゃんの事じゃない。」

といつもと変わらない声で京采の方に振り替える。京采は急に自分に振られて内心ギョッとしたがいつものポーカーフェイスで現哉の言葉を受け止めた。

「霊媒師、少しだけなら力になる事は出来ますけれど。」

と言い終わるまでにその女は京采の方にカツカツとヒールを鳴らしながら近づいて来て

「貴方が噂の?」

顔を隅から隅まで見入るように髪の毛の間から目を覗かせて覗き込んできた。京采は気まずさもあって

「ゴホン、それで相談とは?」

と聞くと女はハッとしたのか距離を取って

「実は毎晩ドアのノック音が止まないんです。」

両手をモジモジ動かしながらボソボソと話す。

「ノック音?」

と京采が聞き返す。

「ええ、ドアをコンコンコンと叩く音が毎晩続いてて。それでドアの覗き穴から外を見ても誰も居なくて。あんな事もあったし怖くて。」

「あんな事?」

「警察官がここ最近不審な死を遂げた話知らないんですか????」

と今度はクワっと顔を上げて京采の目を真っ直ぐに見て言うと京采は少し考える仕草をして

「・・・・・・・・ああ、姉さんがこの間新聞を読みながら話してたな~」

「姉さん?」

と京采の態度にキョトンとした女に現哉が素早く

「ごめんなさい、今この子お姉さんの事で頭がいっぱいで・・・・・」

とフォローした。急に現哉が話掛けたからか女は少し驚きながら

「そ・・・・そうなんですか。」

と女性は言い少しビクッと身体を動かしたかと思うと両肩の力が抜け肩を撫で下ろすと、

「その不審な死を遂げた警察官の話、私が実際に体験した話なんです。」

「え?」

と現哉が小さく呟いた。女は少し戸惑いながら

「だから・・・・だからその警察官が死んだ話を体験したのは私で、その時に起きた出来事がまだ続いているんです。もう警察に何度も連絡したけれどももう取り合って貰えなくて・・・・・・どうしたら良いのか分からなくて。それでネットでここのお店の事を知って、霊媒師の人が居るって書いてあったから。」

「まあ、霊媒師って言うのは本当ですけれど、今の話だけだと霊と関係があるかまでは分からな・・・・・・・・」

京采が最後まで言い切らず言葉が止まる。

「焦げ臭い。」

とポツリと京采は呟く。

「え?」

と現哉はキッチンの方に行くと火が付いて居ないか確認する。

「火は付いていないし、勿論料理の途中でも無いわよ。どうしたの?急に。」

と京采を心配そうに見つめると、京采は

「いや、何か焦げ臭い匂いがして。」

「焦げ臭い?」

と今度は女が目を細めながら京采に聞いてくる。

「ええ。」

と京采は答えると女はボソッと

「焦げ臭い、その匂い警察官からしてた匂い。」

京采は床を見つめ両手を掻きむしる女を見ながら

「倒れてきた警察官の死亡解剖をした時に体内では火事に遭って亡くなった人と全く同じ状況だったみたいなんです。それで最初は私が警察官を殺したんじゃないかと言われて・・・・・・・・・でも電話口のやり取りや警察官がインターホンを開けてから出るまでの時間を考えても人を殺せる程の長時間じゃなかった事が分かって。」

「長時間?」

「ええ、何でもその警察官は肺に一酸化炭素が充満した事で亡くなったので火事が起きている場所に30分以上は居ないと満たさないくらいの量だったらしく、私が最初に通報してから次の通報までは約1分。それでは人を殺せる程の時間じゃないっていう事になって。」

「1分とはやけに短いですね、そんなに死体を見てすぐに通報が出来る程体が動けたんですか?」

「それが曖昧で。無我夢中に手に持っていたスマホを操作して掛けていたみたいで、最初は言葉が詰まって出てこなくて何て言ったのかも忘れてしまったのですが、ただとにかく助けを呼ばなきゃという気持ちが働いて無我夢中で電話したんです。」

「そうですか。ただ貴方を見ている限り何かに取り憑かれている・・・・・・・」

京采は再び言葉が詰まる。

「どうしたの?七星ちゃん。」

「いえ、やはり貴方から焦げ臭い匂いがするんです。この匂いが何か解決に導く糸口かもしれない。すみませんが、姉さんに連絡を取っても良いでしょうか?」

「お姉さん・・・・・、ええ私は構いませんが。」

と女に許可を取るとスマホをズボンのポケットから取り出し電話を掛け始めた。

「もしもし、姉さん?忙しい時にごめん。実は今店に訪ねてきた人が居てそれが先月くらいに新聞に掲載されてた不審な死を遂げた警察官と繋がりがある人で。その人の家のドアが毎晩ノックされて困っているっていう相談で・・・・・うん。俺の力じゃ焦げ臭い匂いしか分からなくて・・・・・・え?電話代わるの?良いけど。」

と京采は一通り話をしたかと思うと女にスマホを差し出し

「姉さんが直接話したいって。」

と少しムスっとした顔で言ってきた。

女は少し緊張しながらスマホを手に取ると耳に当てか細い声で

「はい、もしもし。」

と言った。電話の向こうから凜とした声で

「もしもし、貴方が京采に依頼をした方ですね。貴方のお名前をお伺いしても?」

「私の名前は齋藤るんです。」

「齋藤さんですね。出来事が起きたのは一ヶ月前からで合ってますか?」

「はい、丁度今日で一ヶ月になります。」

「一ヶ月。相当我慢なさったんですね。怖かったでしょう。よく頑張りましたね。」

その優しい言葉に齋藤は静かにスゥッと涙を流しながら

「・・・・・・・あ・・・・・・有り難うございます。」

と言った。

「私が今お話をしている限りと弟が会ってみて実際に感じた事を考えると何かに付き纏われているのは確かだと思います。後日で良ければ我が家に来て頂いて直接お会いして見せて頂く事は可能ですか?」

「良いんですか?」

「ええ、勿論。困っている方をそのままにする事はありませんから安心して下さい。」

「有り難うございます。土日が仕事が休みなのでその時にお伺い出来たら嬉しいです。」

「分かりました。それでしたら明日の土曜日に是非我が家に来て下さい。」

「有り難うございます!!何時頃にお伺いすれば宜しいでしょうか?」

「いつでも。来たいと思った時間に来て下さって構いませんよ。」

「分かりました。もしご迷惑でなければ午前中にお伺い出来たらと思うのですが。」

「ええ、構いません。明日の午前にお待ちしておりますね。」

と電話越しからでも分かる位優しい雰囲気も含めてふんわりとした笑顔が見えるようなお姉さんだなと齋藤は思った。

「ちょっと電話代わって。」

と京采が齋藤の電話を無理矢理奪って

「もしもし、姉さん?どういう事?そうじゃなくても姉さん今忙しいのにこの件も受け入れたら姉さん休みないじゃないか!警視庁に頼まれている未解決事件だって連日刑事が持って来ては現場まで行ったりしているのに少しは休まないと体壊すよ?」

と少し興奮しながら京采は電話の向こうにいるお姉さんに怒りをぶつける。

「え?・・・・・・でも・・・・・・うん。・・・・・・姉さんがそう言うなら。俺も手伝いじゃなくて一人の霊媒師として動くから。・・・・・うん、分かった。」

と先程までの怒りは一瞬で消え大人しく電話越しのからの声に京采は静かに頷く。

「うん、今日は早く上がれるから。・・・・・・うん、有り難う。」

と言って電話を切った。

「ふ~・・・・明日俺も同席するんで。」

と先程までの表情からポーカーフェイスに代わり電話を切ると京采は齋藤に言った。

齋藤は頷くと京采が

「本当は俺だけで解決したいんですけど、人一人殺されているので俺だけだと無理があって・・・・・・俺がもっと力があれば良いんだけれど。」

と少し落ち込む様な声で言うと静かに見守っていた現哉が

「そんなの七星ちゃんのせいじゃないわよ!お姉さんがすぐに対応してくれて良かったじゃない!」

「でも、姉さん本当に今忙しいんです。姉さんが倒れたら意味が無いのに。今までの口コミで来る人達は簡単に払う事が出来たけれども、人を殺している霊は人一倍力を使う。簡単には祓えないんです。」

「あら、そうなの?」

「ええ、俺はまだ人を殺したりする霊を対応出来る程力を持っていない。だから姉さんを頼らないといけなくなる。」

「なるほどね、だから刑事さんが持ち込む事件もお姉さんが対応しているのね。」

「ええ、俺も同行する事もありますが、殆どは姉さん一人が戦っているんです。」

現哉と京采の話を聞きながら齋藤が

「私、本当に頼んでも良かったのでしょうか?」

と聞いて来た。

「姉さんが対応すると言ったのなら仕方ないでしょう。」

と京采は少しムッとした顔で言う。

「私のせいでお姉さんに万が一の事があったら・・・・・・・」

「大丈夫とは言い切れないですけれど俺も居るんで。俺が全力で姉さんのサポートするんで。」

「・・・・・・・大丈夫なんでしょうか。私に付き纏っている霊は人殺しなんですよね。そんな怖い者と戦うなんて。」

と齋藤は少し怯えながら京采を見る。

「仕方ないですからね。きっと解決すると思いますよ。姉さんは一度でも引き受けた事は最後までやり切るので。」

「・・・・・・そう、そうですか。分かりました。明日お願いします。」

とペコリと齋藤はお辞儀をすると京采が店の名刺の裏に七星宅の住所を書いて齋藤に渡した。齋藤はその名刺を受け取ると再度ペコリとお辞儀をして店を出て行った。

「良かったの?」

と現哉が聞いてくる。

「何がですか?」

「本当はお姉さんを止めたかったんじゃない?」

「・・・・・・・ええ、本当は姉さんを止めたかったですよ。見た感じ何かが取り憑いている感じは全くしなかったですし、ただ何か焦げ臭い匂いがしていたのが気になるだけで。何か強い念があるように思えなくて。」

「そうなのね、私にはさっぱり分からなかったけれども。」

「・・・・・・・明日姉さんが見れば分かると思います。」

京采はスマホをズボンのポケットにしまって齋藤が出て行ったドアをただ見つめていた。



「おはようございます。」

齋藤が七星宅に訪ねに来た。

「齋藤るんさんですね、おはようございます。よく来てくれましたね。」

と姉の龍王寺柑奈りゅうおうじ かんなが玄関先で対応する。

「いえ、今日は宜しくお願いします。あのこれつまらない物ですが。」

と紙袋を柑奈に渡す。昨日とは違って今日は髪を後ろに一つに纏めて派手では無いがナチュラルメイクをしている。

「え!あらまあ、気を遣って頂いて有り難うございます。さあ、ここでは何でしょうから家の中に入って来て下さいな。」

「有り難うございます。」

と齋藤はペコリとお辞儀をすると玄関から畳の部屋の客間に案内された。

「お茶どうぞ。」

と京采がお茶を出して齋藤の向かい側に柑奈が座りその斜め後ろに弟の京采が正座をする。

「早速ですが、お話を伺っても良いでしょうか?」

と柑奈が齋藤に話を聞く。

齋藤は一ヶ月前に起きた例の警察官が死んだ出来事から日頃夜中に起きている出来事を話始めた。

「警察官が死んでからノック音が毎日のように鳴るんです。その度にあの警察官の死に顔を思い出して。私の幻聴かもしれないと思って彼氏に泊まりに来て貰った事もあるんです。その時もノック音が鳴って・・・・・・・・彼氏がドアを開けて外を見ても誰も居なくて」

「ノック音が鳴ってすぐに出られたのですか?」

「恐怖な気持ちがあってそんなにすぐ扉を開けた訳では無かったのですが、それでも本当に訪ねに来たのであれば誰かが立って居るはずですしそんなにノック音が聞こえてから数分で玄関のドアを開けたはずですし。」

「そうですか。ノック音ははっきりした音なのですか?」

「ええ、玄関から寝室までそれなりに距離もありますし寝室のドアを閉めても聞こえるくらい力があるノック音です。」

「ドアを閉めても聞こえてくる・・・・・・」

「最初は怖くて玄関から部屋に入るまでの部屋のドアを閉めて寝室のドアを閉めていたのにコンコンコンとドアを叩く音が聞こえて。恐る恐るドアに付いている覗き穴で外を見ても誰も居なくて。怖くて警察に電話したんです。でも何度か来て貰って話をして巡回を強化する事とマンションの防犯カメラで不審な人物が映っていないかとか探して貰ったのですが何も見つからなくて。それで警察も段々私の虚言じゃないかと。ノック音も幻聴じゃ無いかと疑う様になり電話をしても巡回を強化しているので安心して下さいって言うだけで対応してくれなくなって。」

「そうですか、今見ている限りでは弟が感じた焦げ臭い匂いが気になるのと何か薄い糸が見えるくらいしか思えなくて。」

「糸ですか?」

「ええ、うすーい本当にうすーい糸が見えてて」

「それは何処に繋がっているんでしょうか?」

「さあ、今の状況では何とも言えなくて。もし宜しければお家に今からお伺いする事は可能でしょうか?」

「え?家にですか?」

「来て頂いて何ですが実際にお部屋を見てその糸がどこから来ているのか知りたいので。」

「それは構いませんが。」

「じゃあ、早速出かける準備致しますね。」

そう柑奈は言うと立ち上がり出かける準備をし始め、京采も無言のままお茶を片付ける等し始めた。



「お邪魔します。」

そう言って七星宅から電車で20分弱の所にある齋藤の家に龍王寺柑奈、七星京采が家の中に入る。

姉の柑奈は部屋の隅から隅まで見るようにキョロキョロと大きな目を動かし京采は姉を心配そうに真っ直ぐ見つめて居た。

「やっぱり」

そうキッチンまで入ると柑奈が一言呟いた。

「何がやっぱりなんですか?」

と齋藤が聞くと

「ここから細い糸が貴方の体に巻き付いている。」

と化粧タンスの引き出しを上から順に開けながら柑奈が言う。

「この化粧タンスの中に?」

齋藤は戸惑いながら見守ると

「見つけた!!これだ。」

と古い白い色のお守りを柑奈は見つけた。

「このお守り・・・・・・・」

と齋藤は呟く

「これ誰かからの貰い物ですよね?」

「何で分かるんですか?

「だってこのお守りに貴方を呪おうという願いが込められているから。」

「え。」

「このお守り最初はこんなに袋が膨らんで無かったですよね?」

「・・・・・・・・ええ。」

「時限爆弾みたいな感じです。お守りを呪いに変えてジワジワと時間を掛けて呪いが発動するようにされていたんです。」

「そんな、だってそれは・・・・」

と齋藤は青白い顔をしながら口をパクパクとまるで餌を貰う魚のように動かす。

「・・・これは。京都に住む祖母から貰った物なんです。東京に出てくる時に祖母が何かあったらこのお守りを触りなさいって。祖母がいつでも傍に居ることを忘れないようにって」

そう言い終わるとポタポタと大粒の涙を流し始めた。

「齋藤さんとお祖母様の間に何があるのかは分かりませんが、このお守りから貴方の体に巻き付く糸が繋がっているのは事実です。ただこのお守りは他の所にも繋がっています。・・・・・・・・・多分この先に居るのはお祖母様かと。ちょっと袋を開けても宜しいですか?」

「姉さん!」

「京采、大丈夫よ。齋藤さん塩とお水を少し頂きますね。」

齋藤は相当ショックを受けているのか柑奈の声がまるで届いていないようだった。

「京采、窓を開けて」

「うん。」

銀のボウルに塩を入れてかき混ぜながら柑奈は京采に窓を開けるように指示をする。

窓からは生暖かい風が入ってきた。

「姉さんどうするつもりなの?」

「これからこのお守りの中を開ける。多分中から何か不気味な者の感覚があるから京采は齋藤さんの傍で珠々で身を守って。」

「分かった。」

京采は齋藤を部屋の端に行かせて手首に付けている珠々を触る。

齋藤はまだ呆然としていて状況が分かっていないようだった。

柑奈はお守りを塩水の中に付けるとブクブクブクと泡がお守りから出てくる。

「これから開けるよ。京采良いね?」

「うん。」

柑奈はお守りの紐を解く。お守りはゆっくり柑奈の手で解かれていき中から真っ黒の板が出てきた。

するとムワッと焦げ臭い匂いが鼻につく。

「姉さん!」

と京采が呼んだと同時に柑奈がお札から手を離し上着のポケットから珠々を取り出しお経を唱える。

窓が開いているお陰で焦げ臭い匂いがまだ薄まっているがそれでもかなりキツイ匂いだ。

「どうして・・・」

と涙を流す齋藤の目はボウルが映りそのボウルの水面には老婆が映っていた。

柑奈はお経を唱えながら珠々をジャラジャラと鳴らす。

「お前は誰だ?」

と水面に浮かぶ何者かに問いかける。

「お前は何者だ?」

再び問いかけると老婆は

「次はるん、お前の番だ。」

そう言うとボウッと小さな炎が起き水面に浮かんでいた老婆の姿が消えた。

「今のは・・・・」

と京采が言うと

「今の老婆は齋藤さんのお祖母様ですか?」

「・・・・・・はい。」

「お祖母様は今は京都に?」

「はい。」

「この次はお前の番だとはどういう事か分かりますか?」

「分からない。分からないです。でもあの女性も同じ事を言っていました。次はお前の番だって。」

とボロボロ涙を流しながら齋藤が答える。

「これは京都に行くしかないですね。」

「京都に!?」

と京采が声を上げる。

「齋藤さん有給が取れそうな日はありますか?」

「有給・・・・京都・・・・」

まだ状況が掴めない齋藤の目は少し虚ろになっている。柑奈は齋藤の傍に行き猫背の両肩を掴んで

「齋藤さん!!しっかりして下さい!京都に居るお祖母様に直接お話をするしか方法がありません。なので京都に行ける日を今教えて下さい。」

と揺さぶりながら問うと齋藤は柑奈の方を見ながら

「待って下さい。本当に祖母が関係しているんですか?」

「辛いとは思いますが、お祖母様が何かしら関係しているのは確かだと思いますよ。ただ、呪いを掛けたかはまだ分かりません。もしかしたら違う願い事をするつもりが偶然呪いに変わったのかもしれませんし。」

「!!・・・そうですよね!!祖母が私を呪う事なんて事は無いですよね!!」

「・・・・・ええ。」

と柑奈は言うと齋藤はスケジュール帳を見る為に焦げ茶色の鞄の中を漁る。

「有給今使えそうに無くて・・・」

と申し訳なさそうに齋藤が言う。

「そうしたら今日急ですが訪問する事にしましょう。」

「今日ですか?」

「ええ、これは早く解決した方が良いです。お祖母様にも被害が及ぶかもしれない。」

「!!それなら・・・」

と齋藤は頷くと新幹線のチケットを三人分取る為にスマホを開いた。

「姉さん、本当に京都に行く気なの?」

とコソッと齋藤に聞かれない声で京采が柑奈に声を掛ける。

「ええ。だってここでお守りを浄化したところで解決にならないもの。」

と答えながら柑奈は持っていたハンカチでお守りを拭く。

「そのお守りも一緒に?」

「ええ。このお守りを持って行かないと意味が無いわ。」

と柑奈が京采に微笑んだ。



「ここが実家です。」

と二階建ての一軒家に柑奈と京采は案内された。

あれからすぐにチケットが取れて京都に来たのだ。

「立派なお家ですね。」

と柑奈が言うと

「いえいえ、七星さんのお家からしたら全然うちなんて・・・」

と齋藤は言う。

齋藤はあれから祖母が孫である自分を呪うなんて何かの間違いだろうと、柑奈が言っていたように願いを込めたのが何かの手違いで呪いに変わってしまったのだろうと考えて先程までの落ち込みが嘘のようだった。

「ただいま~」

と玄関を開けると

「あらあらあら~どないしたの~急に帰ってきて~」

と中年の女性が出迎えてくれた。

「お母さん、ごめんね急に帰ってきて。お祖母ちゃん今家に居る?」

「ええ、お祖母ちゃんなら部屋に居るで。それよりそちらの美男美女はどなた?芸能人?」

と声を掛けてくる。

「るんさんのお母様ですね。私はるんさんの友人の柑奈と申します。こちらは弟の京采です。急に押しかけてしまいすみません。」

「いえいえ~こんな美男美女が友人なんて、るん凄いやない!!」

とるんの母親は肘で軽く小突く。

齋藤の実家に行く前に新幹線の中で柑奈と京采が霊媒師である事を伏せておこうと話になっていた。霊媒師という事を言うと変な宗教だと思われることもあるので自ら柑奈達に会いに来る人以外には基本は肩書きを伏せている。

「お母さん、柑奈さん達に失礼だよ。それよりもお祖母ちゃんに会いに来たの。」

「はいはい。ほらお入りなさい。」

と家の中に招き入れて貰った。

中に入ると少し涼しく感じる。靴を脱ごうとするとドタドタと足音が家の奥から聞こえてきた。

「るん?どないしたん!!」

とあの水面に映っていた老婆が着物姿で小走りに廊下を歩いてこちらにやって来た。

「お祖母ちゃん!友達と実家のことを話していたらお祖母ちゃんに会いたくなって連れてきてん。急にごめんな~」

とるんさんが答える。

「そうなん?ほなら祖母ちゃんの部屋においで~おかき丁度買うた所やねん。」

「ざらめのおかき~?」

「そうや~るん、ざらめのおかき好きやろ?」

そう言いながら齋藤は家の中に入って行き祖母の部屋に向かって歩いて行くので柑奈と京采は急いで靴を脱いで二人の後を追って行った。

襖を開けると畳の部屋に舞妓さんの人形やオカッパの女の子の人形が洋服タンスの上に置かれている。

「それで、ほんまはどうして帰ってきたんや?」

と座布団に正座をするなりお祖母さんは、るんをチラッと見ると聞いてきた。

「どうって。」

「ご友人じゃない事は分かるで。それで何かがあったからその人達を連れて来たんやろ?」

お祖母さんにはバレていたのかと京采はこれからどう切り出そうかと考えていると

「お祖母様、本日は急に訪問してしまいすみません。実は私達は霊媒師をしております。」

と柑奈はお祖母さんの正面に正座をして頭を下げた。

「霊媒師?」

「はい。私達はお孫さんの依頼である事を解決する為に本日参ったのです。」

「それで?」

「このお守りはお祖母様がお孫さんである、るんさんを呪う為に渡したので間違いないでしょうか?」

と柑奈が先程のお守りをお祖母さんの前に差し出す。

齋藤は

「ちょっと、お祖母ちゃんは私を呪おうなんて思っていないはずよ。なんでそんな言い方するのよ。」

「齋藤さん、このお札は真っ黒に塗りつぶされています。しかもこれはペンで塗りつぶした訳では無くきっと・・・・」

「「血」」

お祖母さんと柑奈の声が重なる。

「え。」

その声は齋藤の声だったのか京采の声だったのか分からない。ただ時が止まり先程までの暑さから来る汗が冷や汗に変わっていた。

「ええ、このお守りは私がるんに渡した物や。」

「分かっていたのでは無いですか?このお札が呪いに変わることが。」

「・・・・・・」

無言になるお祖母さんに齋藤が

「お祖母ちゃん、嘘やんな?私を呪おうって思っていたなんて嘘やろ?」

と聞く。

お祖母さんはるんに肩を揺さぶられていても、るんを見ること無く柑奈をジッと見つめる。

「この血の量は何重にも重ねて塗られています。それも量が尋常じゃ無い。何ヶ月もかけて塗ったのでしょう。それ程までにお孫さんがお嫌いなのですか?」

「・・・・・・」

「お祖母様が掛けた願いが今は呪いに変わり人一人殺してしまっています。そして今度はるんさん、お孫さんが今は狙われている。」

「るんは私の孫やで、なんで呪わなあかんねん。」

「このお守りは二つの人物を繋げています。それはここに来てはっきり分かりました。まずは呪われているこのお守りの持ち主だったるんさん。そしてお守りを渡したお祖母様、貴方です。」

「それで?・・・・それが私が孫を呪った証拠になるん?」

「これは私見えているだけで証明する事は出来ません。るんさん、先程のようにボウルにお水を汲んで塩を台所から借りてきて貰えませんか?」

「え?」

「これからお守りの浄化を始めます。」

と言って柑奈は左手に上着のポケットに入っていた珠々を取り出すと左手に持ち力強く齋藤の目を見て言った。

齋藤は急いで台所に向かい、京采は柑奈と齋藤の祖母の様子を見て静かに祖母の部屋に入ると柑奈の斜め後ろに座り手首に付けている珠々を触り呼吸を整えた。

「持って来ました!」

と水を溢しそうにしながら齋藤が台所から小走りで部屋までやって来た。

ボウルを祖母と柑奈の間に置くと柑奈に塩が入った入れ物を渡した。

「ありがとうございます。それではこれからお守りを浄化させていきます。」

そう言うとお守りをまたボウルの水の中に沈める。

ブクブクブクとまたお守りから空気が漏れる。

「ここにこれから塩を入れていきます。」

齋藤はこれから起きる事を恐怖に思ってか京采の隣に正座した。

柑奈は塩を入れる。すると焦げ臭い匂いがまた部屋に漂ってきた。

柑奈はお経を唱え始めたのを合図に水面にお祖母さんの顔が映る。

「次はお前の番だ。」

と何度も復唱しながら水面に映るお祖母さんはブツブツと呟く。

「お前は誰だ?」

と柑奈が聞く。

「お前はダレだ?」

と柑奈の真似をして水面のお祖母さんが言う。

「お前は齋藤のお祖母様の血から生まれた悪霊だろう。名前が無いのか?」

「アクリョウ」

「お前の名前は無いんだな?」

「ツギハオマエダ」

「ちっ、 名前が無いのか。面倒だな・・・・ふー・・・・じゃあ仕方無い、お前は何がしたい?」

「私は・・・ワタシハ、ルンヲコロス」

そう言うと

「何を!!?」

とお祖母さんが目を見開いてボウルに向かって吠える。

「何なん?これ!!なんの玩具や!!」

「玩具なんかじゃありません。貴方がこれを産んだんです。」

「私はこんなん知らん!!」

「ワタシはシッテイル。孫をコロス」

「何なんよ!これ!!なんで、るんを殺すなんて言うん?」

と焦るお祖母さんに

「ならばどうして・・・・・どうして血なんかでお札を汚したんですか?」

「っ・・・・・・・・・」

「どうしてお札に呪いを掛けたんですか?」

「呪うつもりなんて・・・・ただこの子は私の血が繋がらない子なの。」

「え。」

齋藤は驚きで固まった。

「るんは、ミチルさんの貴方のお母さんの連れ子なん。でも本当に呪うつもりなんて無いで。血は繋がっていなくても目に入れても痛くないくらい可愛い孫やもん。」

「じゃあどうしてお祖母ちゃんはこんな事をしたの?」

「・・・・・・やから・・・・。」

「え?」

「貴方には武家の血が入ってから、せやから私の血を傍に置きたかった。」

「武家の血?お祖母ちゃん何言うてんの?そんなんの為に見ず知らずの人を殺したり・・・・・」

齋藤はお祖母さんにしがみつくようにして涙ながらに訴える。

お祖母さんはそんな孫の姿を見て涙を両目に浮かべながら

「こんなんなるって知らんかってん。るんちゃんごめんな。お祖母ちゃん間違えたな。」

「間違えたですまへんねんで!!」

「お孫さんの言うとおりです。人一人死んでいるんです。容易にこの悪霊を除霊は出来ません。その事は肝に銘じて下さい。良いですね?」

と柑奈がお祖母さんに向かって言う。

お祖母さんは孫に手を合わせながら涙を流し

「すみません、すみません。」

と繰り返すだけだった。

「京采、これから始めるわ。貴方はこれから台所に居るお母さんを呼んでお祖母さんと齋藤さんの傍に居て悪霊からの影響を防いで。」

「分かった。」

その言葉を残すと京采は走って台所に行き、齋藤が呼んでいると言って部屋に連れて来た。

「何なん?どないしたん?」

と状況が分かっていない母親だが祖母と娘のるんが泣いているのを見て何かあった事は分かった様だった。

「お母さんはお祖母様とるんさんの傍に。これから起きる事に対して大きな音や声を上げたりしないで下さい。」

そう柑奈が言うとお経を唱え始めたので京采も三人の傍に行って姉の柑奈と同じように珠々を持ちながらお経を唱え始めた。

暫くお経を唱えながら柑奈は塩を一掴みするとボウルにかける。

するとボウルの中の水が赤黒く濁っていった。

「コロス・・・・・コロス。ワタシハ使命ヲハタス」

「お前は使命を果たせない。ここで、私の力で消える。」

ムワッとまた一層強く焦げ臭い匂いがする。

「この匂い。お祖父さんの・・・・。」

とお母さんが口にするとバチバチバチとボウルの中から音が聞こえてきた。

「そうか、お前お祖父さんの魂の欠片だな。・・・お母さん、るんさんの本当のお祖父さんは火災で亡くなってますね?」

「え」

急に問いかけられた齋藤のお母さんは戸惑いながらも頷く。

「お祖父さんは子孫である孫を盗られたように感じて魂の欠片がお祖母さんの思いと結びついて呪いに形が変わった。」

柑奈の言葉が真実だったのか水面に浮かぶお祖母さんの姿が段々白髪のお祖父さんの顔に変わっていく。

「ルン・・・・オマエハ私のモノダ」

という言葉に

「ヒッ」

と小さな悲鳴を齋藤の母親が声を上げるが先程の大きな声を上げたりしないという約束だったのを思い出して両手で口を塞ぐ。

「諦めろ。あの子はお前の物にはならない。」

「ウソだ。アノコハ俺のモノニナル」

「お前なんかの物にはならない。もうこの子は齋藤家の子だ。齋藤と名乗っている以上齋藤家の子孫だ。」

「ウソだ!!!!」

「ウソでは無い!!!お前が入り込む隙間は無い!!この家族の間にお前が入り込む隙間なんて無い!!今すぐに消えろ!!」

と言い塩を全部ボウルの中に入れてお経を唱え始めた。

塩が大量に入ったボウルは青い炎を上げ

「ギギギギッギギギギギギギギギギッギギギギぎっぎ」

と声がする。

「お前は消える。今ここでな。」

その言葉を最後に柑奈は最後の準備に入る。

柑奈は珠々を鳴らすのを止めたと思ったら傍らに置いていた小さい鞄から四角い箱を取り出した。

「煙草・・・・・」

京采はボソッと言うがハッとしてお経を再び唱えた。

柑奈はボウルの炎を横に煙草を一本口にくわえると鞄の中に入っていたライターで火を付けるとフゥとボウルに向かって煙をかける。

「ギャアアアアアアアアア」

という声がする。

「スゥ・・・・・・フー・・・・・・もう一度だけ言ってやる。お前はここで消える。」

そう言うと煙草をボウルの中に入れ珠々をジャラジャラと鳴らしながらお経を再び唱え始めた。

「クソ!!!クソ!!!・・・・ギギギギギギギッギギギッギギギッギギャアアアアアアアアア!!!!!!!」

そう悲鳴が上がりボンッとボウルが爆発すると声が止みあの焦げ臭さも無くなった。

「消えた?」

と齋藤るんが言う。

京采と柑奈のお経を唱えていたのが止まる。

「終わりましたよ。」

と柑奈が先程の厳しい口調から優しい口調に変わる。

「畳の上なのに塩をまき散らしてしまってすみません。掃除大変ですよね。すみません。」

と柑奈が言う。

ボウルが置いてあった場所を見るとボウルは粉々になっていて塩が山の様になりその中心にお守りがビリビリに破かれ中にあった木が真っ二つに割れていた。

「掃除は大丈夫ですけれど、本当にこれで終わったのでしょうか?」

と齋藤が聞いてくる。

「呪いはこれで終わりではありません。一度でも呪いをかければ必ず自分に返ってきます。なのでこれからお祖母様の呪いを解かないといけません。」

柑奈は立ち上がると齋藤の肩を抱きしめているお祖母さんの傍に行った。

「何をすればいいん?」

と怯えながら聞くお祖母さんに柑奈は

「リラックスしていて下さい。」

と言うと柑奈は右手の人差し指と中指をお祖母さんの額に当てて珠々を左手に持ちながらお経を唱え始めた。

京采はただ見守るしか出来ずジッと柑奈を見つめる。

齋藤も齋藤のお母さんも柑奈とお祖母さんを見つめていた。

お祖母さんの肩が揺れる。

お経に反応してからなのか肩がユラユラと前後に揺れお祖母さんの目が段々虚ろになっていく。

「おばあちゃん?」

と齋藤が問いかけても反応が無い。

「ねえ、これ大丈夫なの?」

と京采に齋藤るんが問いかける。

京采はこんな状況が初めてで何も答える事が出来ない。

ただ姉がやっていることは正しいのだきっとそうだと信じる事しか出来ない。

「多分・・・・大丈夫。きっと」

そう答えるので精一杯だった。

「お祖母様の中に居る者出てきなさい。お話をしよう。」

そう柑奈がお祖母さんに問いかける。

「ダレ?」

だらんとしたお祖母さんの口元がゆっくり動く。

「私は霊媒師だ。お前は誰だ?」

「ワカラナイ」

「そうか、そこは居心地が良いのか?」

「イイ」

「でもそこにはもう居られないんだ。出て行く気はあるか?」

「ナイ」

「それだと無理矢理お祖母様から引き剥がさないといけない。そうするとお祖母様もそうだがお前も相当痛い思いをしないといけない。自ら離れるのであればその手助けをしよう。そうすれば痛みは少ない。どうする?」

「・・・・・・・」

「どうだ?」

「・・・・・・・」

「自ら離れるか?」

「離レナイ」

「そうか。それならばこれからお前を無理矢理剥がす。」

「ユルサナイ」

「何にだ?」

「スベテ、オマエモオマエモオマエモオマエモ!!ミンナ憎イ!!」

「お前は生まれたばかりの呪いだろう?それがどうして皆を憎いと感じるんだ。」

「ニクイ」

「そう憎いという感情からお前は生まれたのか?」

「ニクイニクイニクイ!!!!」

「お前はそれ以上の言葉を知らないようだな。可哀想に。」

「ウギャアアアアアアアアア」

「これで最後だ。」

と言い柑奈はお経を再び唱え始める。

お経が唱えられるとフラフラと肩が揺れる。お祖母さんの頭もユラユラ揺れていく。

「ググググアアアアアアアア」

とお祖母さんの口から漏れる。

するとフッとお祖母さんが倒れた。

「お祖母ちゃん!!」

と齋藤るんがお祖母さんを支える。

「大丈夫です。寝ているだけですから。」

「え?」

と齋藤るんは聞き返しお祖母さんを見ると、柑奈の言うとおりお祖母さんは寝息を立てて寝ているだけだった。

「良かった。」

と涙ぐむ齋藤るんに柑奈が

「今はこれで終わったと言って良いと思いますがお祖母さんは今回の事を自覚し反省しなければなりません。今後同じ事をすればまた同じ事が起きます。柑奈さんも同じように誰かを想ってやった行為が呪いに変わる事もあります。それを忘れないで下さい。」

「はい。有り難うございます。」

と齋藤るんは涙を流しながら答える。

「掃除なんですが・・・」

と申し訳なさそうに柑奈がお母さんに聞く。

「掃除なら構いません。私がやりますさかい。気にせんといて下さい。」

とお母さんが本当に大丈夫ですと言いながら答える。



「これで良かったのかな。」

と七星家に戻ってきてから京采が柑奈に言う。

「どうして?」

「だって、あのお祖母さん本当は呪いを掛けたかもしれないじゃん。今回はお祖母さんは偶々(たまたま)呪いに変わっただけってなったでしょう?」

「そうね、でもあれはあれで良かったと思うの。だってあのお祖母様が本当は一時の感情で孫が憎く思って呪いを掛けたのだとしてもそれを披露したところで誰も幸せにならないじゃない。」

「でも、あのお守りの板に付いてた血は尋常じゃ無かった。幸せを願って付けていたにしては怨念が籠もっているのが正しいと思うんだけど。」

「そうね・・・。でもあの場でお祖母様の本当の事を述べたとしても誰も幸せにはならないと思うの。武家の血がという答えも本当だったのかもしれないけれど。武家の血を受け継いでないからという理由でお守りに自分の血が付いた板を入れておくのも行き過ぎた行為である事は間違いないわ。でもそれを指摘したところで齋藤家の人間関係がゴチャゴチャになっちゃうだけだと思うの。」

「そうだけど。」

「京采、霊媒師として真実だけを披露するのでは無くて時には隠す事も必要になるわ。呪いもそう。思い込みで自分で自分を呪うこともあるの。」

「そんな!」

「ビックリするでしょ?今まで口コミで来た人達の中にはそういう事は無かったけれども、刑事事件に関わるようになってからそういう呪いを何度か体験する事があって。」

「・・・・・・」

「この間も原因不明で自殺した人の霊を鎮めさせる事をしたけれども、その事件も自分で自分を追い込む事で段々と呪いに変わって変死を遂げてた。ただの自殺だったらそこまで警察も関与しない。でも変死体になったら話は別。他殺かもしれないし毒物や薬物依存で自殺かもしれない。結果はどちらでも無く内臓が原因不明で破裂した事での死だった。その人は特に持病は無かったみたいだから余計に未解決事件として処理が出来なかったみたいだけれど。」

「そんな時にはどうやって対応したら良いの?」

「それは私も手探り状態なの。今までは木々達の声を聞きお経を唱えれば何とか治まったけれども、悪霊の力が強ければ。その死者の魂の声が大きければ大きいほどお経だけでは解決出来ない事もある。」

「それで煙草を使うようになったの?」

「ええ。京采は嫌かもしれないけれどある本をきっかけに煙草が悪霊に効果がある事を知ってね。それで煙草を最近は持ち歩いてお経だけでは解決出来ないと思った時には使用するようにしているの。でも安心して肺に入る前に煙は吐き出しているから。」

「そんな事が出来るの?」

「ええ、コツを掴めば出来るわ。ただ百%煙を入れないようにするのはまだ出来ないけれどね。多少は肺には入っていると思うわ。」

「姉さんは怖くないの?」

「え?」

「前と違って人を殺す霊と戦っていてもしかしたら自分の方が悪霊に負けて逆に殺されてしまうかもしれないと思ったりしないの?」

「そうね、それは考えた事はあるわ。皆が皆素直に除霊させてくれる訳では無いし、人を一人殺しているだけでも手強いのに中には数人殺し回っている悪霊も居る。そういう悪霊には自分自身対応出来るのかと不安になることもある。だから勉強しているの。そういう本を読んだり実際にそういう現場を見てどう対応したら良いのか必死に考える。本にも書いてあったわ。犠牲無しで呪いは解けずってね。もしかしたらこれから先自分の体を傷つける事があるかもしれない。でもね、私はこの力を与えられたのは何か理由があると思うの。それは人を守ることかもしれないし、悪霊を浄化する事かもしれないし。今は分からなくてもそれが分かっていくと思うのよね。」

「俺の力も意味があるのかな」

「きっとあるわ。京采は私には出来ない守りの力がある。人を守れるのは誇らしい事よ?私は霊を浄化する事しか出来ないけれども誰かを守れる力があれば周囲の人を傷つけなくて済む。その力を上手く使えるようになれば霊や取り憑かれた人が痛い思いをせずに除霊出来るかもしれない。それはとても強い力だと思うわ。私には出来たくても出来ない力よ?」

「そうかな。」

「一番大事なことは自分の力を全面的に信じる事よ。それが無くてはどんな霊でも対処する事は出来ないわ。」

「うん。分かった。俺姉さんの少しでも力になれるようにこれからもっと修行するよ。それでいつかは一緒に未解決事件も解決出来るようにする。」

「ええ。きっと京采には京采のやり方で出来る方法があるわ。それを信じて。」



「それでどうなったのよ~」

と現哉が開店準備をしながら聞いてくる。

「どうって?」

と京采は答えると

「ほら、今月の初めに来たお客さんで警察官の不審な死を遂げた事に関連してたって言ってた人どうだったの?やっぱり呪いだったの?」

「詳しいことは姉さんに言うなって言われてて。」

「あら、いつもなら教えてくれるのにあの事件の事は教えてくれないのね!」

「ええ、すみません。なんでも霊媒師は時には隠す事も必要らしくて。」

「何それ!益々霊媒師に興味が湧くわ!!七星ちゃんはいつも相談に来るお客さんの相談に乗るじゃない?どうやって本当に相談に来ているかとか分かるの?」

「ええ、それは簡単です。」

「どうやって区別しているの?」

「オーラですかね。昔から人のオーラというか纏っているのが見えてて本当に困っている人が居る時はその人の体に黒い靄が掛かっていたりちょっとした匂いの変化とかそういうので見分けてます。」

「へえ~そういうので見分けるのね~じゃあさ、除霊するのにお経唱えるじゃない?その霊が浄化したってどういう感覚なの?」

「空気が軽くなります。」

「空気が?」

「ええ、それまでどんよりしていた空気が一気に軽くなります。」

「へえ~」

「どうしたんですか?急にそんなこと聞いて」

「いや、いつも不思議だったのよね~相談に来たって言う人の中には七星ちゃん対応しない事もあるじゃない。どうして聞いてあげないのかしらって思う時もあったのよ。」

「俺の噂を聞いて来る人が殆どなもんで。きっと霊媒師という事に興味を持って来た人が殆どだと思うんですよね。」

「・・・・・きっとそれだけじゃないと思うけれどもね~」

「何ですか?」

「ううん、なんでも無いわ!」

ふふふと笑う現哉に京采は首を傾げていると

カランコロン

と店のドアが開く音がした。

「あら、嫌だ!私クローズにするのを忘れていたかしら。」

と現哉が言い扉の方に行くと

「あら!!貴方確か!!」

と声を上げる京采はドアの方を見ると小綺麗にお洒落をした齋藤るんが立って居た。

「先日はお世話になりました。お礼を言うのが本当に遅くなってしまってすみません。実はあれから引っ越ししたりして大変で。」

「あら、引っ越ししたの?」

「ええ、あれからノック音は無くなったのですがやっぱり何か起きるんじゃ無いかと思うと気味が悪くて。それで彼氏の家に引っ越ししたんです。」

「あら、事件を機に同棲を始めたのね!」

「ええ、人が死んでしまったのにこのタイミングでとは思ったのですが、一人で居るのが怖くなってしまって。」

「それは仕方無い事よ。私もネットで検索して記事読んだけれどもとても怖い思いしたみたいじゃない。それじゃあ一人で居るのは怖いって思うわよ。」

「店長さん有り難うございます。」

「いいのよ!それで今日七星ちゃんにお礼を言いに来たのね。どう?同棲始めて気持ち的には変わった?」

「ええ、自分以外の人が居るって言うだけで凄く気持ちが明るくなったというか。夜中に一人で居なくて良いというのがとても有り難くて。」

「そう、本当に良かったわね。」

としみじみする現哉とそれまで黙って聞いていた京采が齋藤に

「お祖母さんはお元気ですか?」

と聞いた。齋藤は少し戸惑いの表情を見せたが

「ええ、お祖母ちゃんはあれから大人しくなったというか。母にも今回の事をキツく怒られたというか、あれから少し大変で父にもお祖母ちゃん凄く怒られて。かなり反省したみたいで。」

「まあ、普通の親なら怒りますよね。」

「ええ、でも今は元気に過ごしているって。除霊されるまで実は健康診断で腎臓の値が高くて透析になるんじゃないかって話が出てたみたいなんですけれど、除霊されてから検査したら値が標準まで一気に下がってて。ウソみたいな出来事が起きて家族全員ホッとしたというか。もしかしたらあの除霊が無かったらお祖母ちゃん死んでたかもしれないと思ったら皆気を改めて引き締めて。ある意味良い機会だったかなって。」

「そうですか。お祖母様がお元気で過ごされているなら良かったです。姉さんにも伝えておきます。きっと喜ぶと思うので。」

「ええ、お願いします。あ、あとこれお礼にお姉さんと食べて下さい。何でもここのお菓子屋さん最近人気らしくて友達に紹介して貰って。保存は常温で日にちは長く持つものなんで。」

と言って白い紙袋を渡して来た。

「あら!!ここのお店この間テレビで紹介されてた所じゃない!私気になってたのよ。」

「テレビで紹介されていたんですね。知らなかったです。何でも恋が叶うお店らしくて」

「恋?」

と袋を渡された京采が眉間にシワを寄せる。

「あら、七星ちゃんには毒だったみたいね。」

「え、私何かいけない物を渡してしまったでしょうか。」

「いいのよ、七星ちゃん何でもお姉さんの男の事で悩んでいるみたいなのよ。そうよね?七星ちゃん。」

「姉さんあれからも毎日キッチンでコソコソ何か作っているんですよ。俺が起きて見に行くと急いで片付けて誤魔化したりしてて。なんか甘い匂いがしてて、きっと男に何か作っているんだとは思うんですけど。姉さん基本家に居るんで何処か行く時は必ず俺に連絡来ますし、他に接点があるとしたら刑事さんしか・・・・・まさか!あの刑事が例の男?!それだったら納得がいく。あの刑事姉さんと年齢変わらないし。」

「七星ちゃん、それ以上妄想しても仕方無い事じゃないかしら?」

「いや、きっとそうです。このお菓子姉さんには食べさせません。姉さんがあの刑事の事を好きだったら願いが叶ってしまう。それだけは阻止しなくては。」

ブツブツと何かを呟く京采に対して呆然と立ち尽くす齋藤に現哉が

「ごめんなさいね、七星ちゃん実のお姉さんの事になるとポンコツになるのよ。齋藤さんだっけ?お姉さんに会われたのよね?」

「え?・・・あ~あのお姉さんですよね?とてもお綺麗な。」

「あら!そんなに綺麗な方なの?」

「ええ、それは本当に綺麗な方でお人形さんみたいな方で。」

「え~!!見てみたいわ~七星ちゃんったら意地悪でお姉さんの話はするくせに全然会わせてくれないのよ~酷いでしょ~?」

「そうなんですね、でも確かにあのお姉さんが恋をした人ならその人凄く運がいい人ですよ。だってあんな美女に好かれているなんて羨ましい限りですし。」

「そんなに美女なのね。益々会いたくなったわ!!」

と興奮する現哉に

「現哉さんに絶対会わせません!」

とさっきまで自分の世界に居た京采が大きな声で現哉に言うのだった。

齋藤はお礼の品を渡し終えると再びお礼を言って帰って行った。

「今日七星ちゃん早く上がって良いからね。」

と現哉が齋藤を見送るとお店のドアを閉めながら京采に言った。

「今日は早番ですけど。」

「そうじゃなくて、早番だけどいつもより少し早めに上がって良いって事よ。」

「何でですか?」

「あらあら、忘れん坊さんなのね。まあ、良いわ。今日早く上がればお姉さんの秘密が分かるかもしれないわよ?」

「姉さんの秘密?」

「ええ、だってお姉さんキッチンでいつもコソコソしているんでしょ?いつものバイト時間で帰ると思ってたら今もコソコソキッチンで何か作っているかもしれないわよ。誰かさんの為にね!」

「分かりました。今すぐ帰ります。」

「それは駄目よ!!今七星ちゃんに帰られたら人数的に今日回すの大変になっちゃうわ!!」

「じゃあ、今日本当に早めに上がらせて下さいね。」

「それは勿論良いわよ!」

と現哉は必死に京采が帰ろうとするのを止めながらニヤニヤしていた。



「姉さん、ただいま!!」

と京采は現哉のお陰で一時間も早めに帰宅する事が出来た。

「え?京采?」

と家の奥でキッチンの方から柑奈の声が聞こえる。

「どうしよう、まだ完成していないのに。」

という声が聞こえて来て

「碧葉さん、どうしたら・・・・」

という声が聞こえて来た。

「碧葉?」

と京采は眉毛をピクリと上げる。

「姉さん!」

と急いで靴を脱いでキッチンの方に行くと姉の柑奈が凄く驚いた顔でスポンジケーキに生クリームを塗っている所だった。

「ケーキ?」

と呆気にとられていたが机の上には柑奈のスマホが置かれており、碧葉という文字が表示されてあった。

「電話?」

と混乱している所に碧葉が

「柑奈さん!何とか乗り切って下さい!失礼します!!」

と言って一方的に電話を切る。

「碧葉さん!」

と言ってスマホに縋り付くももう既に電話は切れていた。

「碧葉さんって・・・・あの刑事さん?」

と京采は柑奈に聞くが柑奈は時が止まってしまったかのように固まっている。

「姉さん、世夜中にキッチンで何か作っているのは知っているよ?なんで隠すの?」

京采は柑奈の傍に行き柑奈の両肩を揺らす。

「姉さん、何とか言ってよ!!」

「・・・び・・・キ」

「何て?」

「京采の誕生日ケーキ・・・・」

「え?」

「今日京采誕生日でしょ?だからケーキ作ろうと思って作ったんだけれど、なかなか生地が膨らまなくて、今日も失敗しちゃったから碧葉さんにアドバイスを貰いながら生クリームで誤魔化そうと思って。」

「これ俺に?」

「そう、私器用じゃ無いから下手っぴだけれど・・・」

京采は無言でフォークを持って来てケーキを一口食べた。

「・・・・美味しい美味しいよ姉さん!!」

と涙を浮かべながら京采は笑顔で柑奈に言う。

柑奈は京采がモグモグと食べているのを見てケーキを一口食べた。

「・・・・・!!何コレしょっぱい!!」

と柑奈は一口食べてウヘーという顔をする

「京采無理に食べなくて良いよ、私砂糖と塩間違えちゃったみたい。ごめんね。」

と謝ると京采はモグモグと食べながら

「俺こんな美味しいケーキ食べたこと無いよ!!美味しいよ姉さん!!」

「京采、無理をしないで!もう食べなくて良いよ!」

「何で?姉さんが一生懸命俺の為に作ってくれたんだもん。こんな嬉しい事無いよ。有り難う姉さん!」

と涙を流しながら礼を言う京采に柑奈はそれ以上何も言えなかった。



「それで俺に謝罪のクッキーですか。」

京采の前に碧葉刑事からクッキーを渡される。

「いや、君に隠れてお姉さんと個人のやり取りをしていたのは事実だから。」

作り笑顔で碧葉刑事は言うがそんな胡散臭い笑顔に騙されないぞと言わんばかりな顔で京采は

「別に俺は怒ってないですけれど。」

と膨れっ面で答える。

「怒っているよ~そういう態度だもん。俺が来てから睨み付けてくるじゃん!!」

「いや、なんで姉さんには敬語なのに俺にはタメ語なのかなとは思いますけれど」

「君のお姉さんはこう近寄りがたいというか、呪いを祓う時の態度を見ていたら軽々しく声を掛けられないというか。」

とグチグチ碧葉は言う。

「意味の分からない事を・・・」

と溜め息を吐く京采に

「まあまあ、そこまで怒らないで。」

と碧葉は宥める。

そこに柑奈がお茶を入れてやって来た。

「それで今日はどのような要件で?」

柑奈がやって来るまで碧葉は胡座をかいて居たのだが、柑奈が入ってくると急いで正座に座り直した。

「実は今日は依頼したい未解決事件があって」

「と言いますと?」

と言いながらお茶を碧葉の前に出し京采の前にもお茶を出した。

碧葉は一口お茶を飲むと

「実は新聞でも記事になったのですが、ある陸上選手がドーピングの疑いがあって。」

「それがどうして未解決事件なんですか?」

「実は何度その選手に話を聞いてもドーピングを認めなくて、そして選手の部屋からもドーピングを疑われるような薬は見つからなくて。選手の名前は繋川盈つながわ みちるで現在25歳男性、独身新宿で一人暮らしをしていてマッシュルーム王子と若い女性を中心に人気でして。彼には交際相手が居ましてその名はふつ場緑ふつば みどり、22歳実家暮らし丸の内OLをしています。交際は順調で何もトラブルは無かったと繋川は言っていました。ふつ場にも確認を取り実家も捜索しましたがドーピングに使われるような薬も怪しい物も見つかりませでした。しかし、尿検査では繋川からは薬物反応がありまして。」

「たかがドーピングで警察は介入するんですか?」

京采が聞くと

「いえ、今回のドーピングがMDMAなんです。」

「MDMA?」

「違法薬物です。」

「それが出てきて警察が介入することになったのですか。」

「柑奈さんそうなんです。でも繋川には怪しい所が無くて、摂取している様子も無いし取り締まりの際にも取り調べ室で禁断症状も出てこないし。でも調べると薬物反応が出てくるので未だに解決出来ない状況なんです。」

「何かその霊に関する事を訴えているんですか?」

柑奈がお茶を一口飲んで碧葉刑事に聞くと

「え?」

「だって、ここに相談するって事は何から繋川さんから誰かに呪われていると言う事を言って居るのでしょう?」

「実はそうなんです。繋川には熱狂的なファンが多くてその中でも以前から警察にマークされているファンがいまして。その名は野々村美桜ののむら みお23歳豊島区で実家暮らしフリーターです。」

「どんな事をして警察にマークされたのですか?」

「まず野々村がファンになったのは今から二年前だと聞き込みで情報が得ています。そして最初は大人しいファンだったようですが、半年前からフリーターとして働くようになってからは行動力になったらしく自家用車で繋川の追っかけをしたり」

「追っかけ?」

「ああ、追っかけとは応援している人を追いかけて止まるホテルだったり自宅だったりを特定する人の事を言います。」

「なるほど、その野々村さんは追っかけをしていたと。ただこれだけじゃあ呪われているとは言い難いですよね?」

「確かにそうなんですけれど、ただ野々村には噂がありまして何でも神社やパワースポットを巡っては色々お札を集めては繋川に一方的にファンレターとして送っていたと事務所側は言っていました。

お札は事務所が責任持って処分していたようですが多い時には月に二、三回は送っていたようで時には繋川の自宅に張り込んで直接手渡しで持ってくる程だったそうです。」

「なるほど。でもパワースポットとかは御利益が主なので呪いには遠いとは思いますが。」

「それが繋川は野々村が繋川をモデルにした人形を持ち歩いているのを見かけたらしく、それが今回の呪いなのでは?と考えているらしいんです。」

「バカバカしい。」

柑奈は捨て台詞のようにして言うとまた一口お茶を飲んだ。

「馬鹿馬鹿しいのは分かっています。」

下を向きながら碧葉刑事が言う。

「馬鹿馬鹿しいのはこちらも分かっているんです。でも、何か野々村は今まで見てきた人物より少し変というか今まで見た事が無い位変といういうか。」

「刑事の勘ですか?」

「・・・・・え、ええ。そうなります。」

「はあ~、碧葉さんも人が良すぎるというか。」

「すみません。」

「良いですよ。刑事の勘に従って繋川さんとふつ場さん、野々村さんと三人を見ていきましょうか。」

「有り難うございます!!」

「じゃあ、最初は繋川さんに会いに行きましょう。」

「はい!!」

「京采、ごめんなんだけれど・・・」

「俺も一緒に行く。」

「え?」

「俺も一緒に見に行く。」

「でも」

「俺も姉さんの力になりたいんだ。俺は守る方が得意だから今回の野々村さんがもし呪いをかけているのなら俺の力も役立つかもしれないし。」

「・・・・今回は人を殺している霊じゃ無いし危なくないとは思うけれどもそれでも人を呪うのにはリスクが必要になる。もしかしたら野々村さんに危険な事が訪れるかもしれない。その時は私の力よりも京采の力の方が役立つかもしれないわね。・・・・しょうがないわ、京采一緒に来てくれる?」

「良いの?」

「ここまで言われたら一緒に来る?しか言えないわよ。京采は一回やると決めたら頑なに意見を変えない子だからね。仕方無いわ、京采の事は私が守るから安心しなさい。」

京采は頷くと碧葉刑事が

「俺の事は守ってくれないんですか?」

とお茶を飲みながら姉弟のやり取りを見ていたのに急に慌て出して言った。

「碧葉刑事は今まで色んな事件を担当してきたじゃないですか、今までこんなに難しい事件を担当しておきながら何も無いって事は才能があるんじゃないですか?そんな人をわざわざ守るだなんて」

「柑奈さん!!京采君、お姉さんに何か言ってよ。酷いよ。」

「俺も姉さんと同じ意見なんで。」

「嘘!!この二人本当に怖い!!意地が悪すぎる!!」

半泣きになりながら言う碧葉刑事をクスクス柑奈は笑いながら

「意地悪してごめんなさい、碧葉刑事にこの間京采のケーキを作っている時に助けてくれなかったからお返しで意地悪してみたの。」

「あれは!!京采君が何を誤解しているのか分かったので、これ以上通話を続けても拗れるだけだと思ったので。」

「それは分かっています。でもあの逃げ方は無いですよ。」

クスクス笑いながら柑奈は碧葉を虐めるように追い詰める。

「柑奈さん本当にすみませんでしたってば~」

「クスクス、良いですよ。気にしてませんから。安心してください、碧葉刑事の事もちゃんと守りますから。」

「良かった~ほっとしました。」

「ちょっと揶揄いたかっただけです。」

心の底からホッとしたような碧葉はまたお茶を最後まで飲みきった。


碧葉刑事との和やかな空気が終わり三人は繋川宅に向かって車を出した。

運転席に碧葉が座り助手席に柑奈が座り、京采は後ろの座席に座った。

碧葉は車を出すと運転をしながら捜査内容を柑奈達に話す。

「繋川は先程も申しました通り一人暮らしをしています。ふつ場とは半同棲状態でしたが今も同じかどうかは分かりません。」

「処分は決まったのでしょうか?」

「それが証拠が出ているけれども、自供が認められずまた薬を手に入れたと言う情報を得られなかったという理由から不処分という形になりまして。今は見張りを付けながら捜査を続けていますが、難航を示しております。」

「まだ捜査中なんですね。」

「一応まだですけれど、警察としてはですが薬の事実を認めるような方向で進めている状況です。」

「それは一刻を争いますね。」

「ええ。もし事実薬をやっていないとしたら無実なのに有罪になってしまっては、警察も面潰れですし何より繋川さんの人生を狂わしてしまう。ただでさえ今の状況も繋川さんの人生はめちゃくちゃになっています。それだけは避けたい。」

「繋川さんは今は試合には出られていない状況なんでしょうか。」

「薬の反応が無くなれば試合には出られるのですが、張り込みしている刑事によれば陽性反応が出てしまって試合にはもちろん練習も出させて貰えていない状況だそうです。」

「練習もですか。」

「ええ、他の選手の士気が下がると言う理由で。」

「それは厳しい判断ですね。張り込みをしてから繋川さん、ふつ場さん、野々村さんに関して薬物を購入している様子とか見られなかったのですか?」

「繋川とふつ場に関してはその様な行動を取る事は無かったと言われています。繋川に関しては陽性反応が出てから人に会わず、ふつ場とも最小限にしか会っていないとの情報を得ています。」

「なる程。他の人とは会っていないのに薬の陽性反応が出てしまうと。」

「はい、何とも不思議な事で。また野々村に関しては警察が張り込みをしている訳ではないので何とも言えないのですが、時々繋川ファンと会っている様子は見られました。」

「繋川さんのファンってそんなに多いんですか?」

「柑奈さんは芸能界とか興味無いんですか?」

「ええ、全く。」

「推し活も知らないと。」

「推しって何ですか?」

「推しとは芸能界でも漫画の世界でも誰でも良いのですが、好きになったキャラクターや人物の活動を応援する事です。」

「応援?」

「グッズになるように消費者側が声を上げる事で生産者が反応しグッズを増やしたり、新しい仕事へ繋がったりするんです。応援される側はその声によって色んな仕事を貰えるのでファンの存在は絶対になるんです。」

「なるほど。ファンが応援すればする程その人の仕事量が増えたり名前も知って貰えたりするんですね。」

「そうなんです。それをオタクは推し活と呼んでいます。」

「具体的に応援とはどういう事をするんですか?」

「アクリルキーフォルダーを作ったり、缶バッチを購入や作ったりして鞄にいっぱいに付けてファンである事を第三者に示す行動をしたり、推しが出た雑誌や番組はチェックは勿論の事それを観賞用、保存用と分けて買う人も居ます。」

「碧葉さん詳しいんですね。」

「そりゃ~もちろん・・・・すみません!語りすぎました。でも前にも話した気がするんですけれど。」

「いや、私はその界隈に対して疎い所があるので。」

「界隈と判別が出来る時点で着実にこちらの世界に入ってきてますよ。」

「本当ですか?実は先日対応した相談者の方がオタクの方で人形の髪が伸びて気持ち悪いと言う相談で。」

「人形に魂宿っちゃった感じの系ですか?」

「ええ、その人形を大切にする事で宿った幽霊で悪さをする訳では無かったのですが一応お焚き上げに一緒に行くことがあってその時にオタクについて教えて貰ったのですがなかなかその世界が理解が出来なくて。」

「この界隈はハマったら一瞬ですよ。沼って言われてます。」

「沼なんですか?」

「ええ、だって好きになったら一瞬でオタクの沼にハマってしまうからです。」

「なるほど。ちょっと怖いですね。」

「ハハハ、柑奈さんも怖いと思うものあるんですね。」

「私だって人間ですよ?怖いと思うこと沢山ありますよ。」

「お祓いしている時は怖いとは思わないんですか?」

「守る者が居ると怖いという気持ちはありますね。私一人では何か起きても自己責任で終わりますが、他に人が居るとその人に悪霊が意識を向かないようにこちら側の魂を強く持って自分の魂を餌のようにして悪霊の目の前にぶら下げて注目させなきゃいけないので自分への危険度も高まりますし、少しでも恐怖心で悪霊を恐れてしまったら悪霊がその隙間に入り込んで守りたい人達が危険に侵される事もあるので。」

「そんなに危険なことを今までしていたんですか?」

「そうですよ?」

「私ずっと珠々とお経だけで祓える程強い力があるから霊媒師をしているんだと思っていました。」

「それだけじゃあ悪霊は特に祓う事なんて出来ませんよ。餌が無いと出てきてくれませんから。」

「魂を餌にするって具体的にどういう事なんですか?」

「自分の魂がここにあるぞと強く念じるんです。そうするとお腹辺りが温かくなって心臓の脈が大きく聞こえてくるんです。そして自分の存在をアピールさせながらお経を唱えると悪霊がいつも出てくるんです。」

「自己流なんですか?」

「ええ、まあ。」

「そんな怖い自己流の仕方ありますか!!」

「いきなり大きな声出さないで下さいよ。」

京采もビックリしたのか両耳を手で塞ぐ。

「だって、そんな危険な事をしてたなんて俺知らなかったしそんな危険な事をお願いしていたなんて怖すぎますよ。」

「一人称変わってますよ。」

「あ、すみません。でも本当に今回の事件お願いしても大丈夫なんでしょうか?」

「なんでですか?」

「だってそんな危険な事をしているのを聞いた後に今回の事件の事をお願いするなんて何か気が引けますし。」

「フフフ、大丈夫ですよ。それに今回は京采も居ます。京采の力だって私には出来ない事ですから私は頼りにしているんです。」

「姉さん。」

京采は両耳から手を離すとホウッと落ち着いたかのような顔になった。

「京采、今回も頼りにしているわよ。」

「うん!!姉さん!!」

「はあ~この姉弟は怖い。」

溜め息を吐きながら碧葉が車のブレーキをかけた。

「ここです、繋川の家は。」

近くの駐車場に駐める碧葉を横目に柑奈はそびえ立つ白いマンションを見る。

「ここが繋川さんの・・・家賃高そう。」

「タワーマンションって奴か。」

と京采が呟く。

「噂のタワーマンションだね。」

「姉さんこういう所に住みたいとか思った事ある?」

「私は今の家が気に入っているから興味無いわ。」

「だよね、俺も同じく。」

二人でボソボソ会話をしていると

「はい!到着しました!」

と碧葉が言う。

車を駐めると柑奈達は車から降りて繋川が住むマンションを再び見上げた。

「繋川は24階に住んでいます。」

「タワーマンションって何階まであるんですか?」

「さあ、このマンションは35階までですけれど。マンションによって階数は違うみたいですけれど、20階以上あればタワーマンションと判断されるみたいです。」

「へ~」

柑奈は碧葉の知識に素直に驚く。

「さあ、繋川の部屋まで行きましょう。」

と碧葉は車のロックを掛けると繋川のマンションに向かって歩き出した。



「それで刑事さんと霊媒師が来たと。」

一通りここに来た理由を繋川に述べると、繋川は柑奈と京采を明らかに怪しそうという目で見ながら言う。

繋川の目は落ちくぼみクマを作り痩せ細った顔でげっそりしている様子だった。

くたびれた上下のジャージにズボンの裾はズボンが大きいのか引きずっている。

「挨拶が遅れました龍王寺柑奈と弟の七星京采です。」

「姉弟なのに苗字が違うんですね。」

「私達異母姉弟なので苗字は違うんです。」

「訳ありって事ですね。それにしてもお二人がその、霊媒師っていう者なんですか?」

「ええ、私達二人で霊媒師をしております。」

「なんだか急にそんな事を言われても信じ切れない所がありますが、まあ刑事さんも一緒という事ですし玄関で立ち話でもなんですから、部屋に上がって下さい。」

「有り難うございます。」

繋川はまだ信じ切れていないと言う顔をしながら柑奈と京采、碧葉を家の中に招き入れた。

「それで霊が俺に取り憑いているって言うんですか?」

「それはこれからちゃんと見ないと分からないです。」

「呪われているなら分かりますけれど。」

「呪われていると言う何か具体的な症状だったり出来事がありますか?」

「症状は分かりませんけれど、あの女が俺を呪ったに違いないんです。」

「あの女。」

「ああ、俺のファンだって言っている奴で、前から警察に相談していたんだけれどなかなか行動してくれなかったからこんな事になったんだ。」

「呪われている何か具体的な状況は無いんですね?」

「具体的・・・そういえば夜中誰かに見られていると言うのはあるけれど、後はこれはその呪いとは関係あるのか分からないけれどお風呂場に長い黒い髪がよく束になって落ちてるのはあります。」

「その髪は今ありますか?」

「あ、ゴミ箱に!!」

繋川はお風呂場に小走りで行くとゴミ箱の中を探す音が聞こえた。

「あった!これです!」

長い髪の毛をほらと言うわんばかりに突き出しながら柑奈達が居るキッチンに持って来た。

「これが。」

ゴクリと唾を飲み込む音がする、チラッと柑奈がその音がした方を見ると碧葉が引きつった顔で繋川の手を見て少し震えていた。

「これって怪奇現象って言うやつですよね?」

と冷静を保ちながら繋川は柑奈と京采に向かって聞く。

柑奈は一呼吸置きながら

「それからには何も意思を感じられません。」

と言った。

「姉さん?」

と真剣な顔して言う姉に対して少し心配そうな顔で弟が姉の顔を覗き込む。

「大丈夫よ、京采。繋川さんそれは怪奇現象とは違います。」

毅然とした態度で柑奈が言うと繋川は髪の毛を床に叩付けるようにして捨てながら大きな声で

「じゃあ何だってこの髪の毛が風呂場に落ちているんだ!!俺が違法薬物が尿検査で引っかかったのもきっとあの女のせいなのに!!」

と怒鳴った。

「繋川さんはあの女が何かをしていると言う証拠でも持っているのですか?」

「それは・・・」

「それならば決めつけでそう発言しているのですか?」

「いや・・・」

「その髪からは何も感じられませんが貴方からは何か糸みたいなのが繋がっているのが見えます。」

「糸?」

「ええ、糸です。頭の先から何処かに繋がる糸が見えます。」

「それは何処に繋がっているんだよ!あの女の所だろ?」

「繋川さん、繋川さんが仰るあの女とは誰の事ですか?」

「決まっているだろ!!ふつ場緑!!緑の所だよ!」

と顔を真っ赤にして繋川は声を荒げたので碧葉が落ち着くように声を掛ける。

「ふつ場?」

と京采が眉をハの字にしながら呟いた。

「刑事さん、あの女捕まえて下さい。あいつしか俺に違法薬物を混入出来る奴いないんです!!」

「落ちついて下さい。繋川さん」

と碧葉が制止させようとしていると柑奈が

「どうしてふつ場さんが関係していると思っているのですか?まだ交際中なんでしょ?」

と聞いた。

「それは、まだ交際しているのはこの件で別れたらどう逆恨みされるか分からないからであってもう好きという感情も情も何も無いんだよ。俺は早くこの件を解決して一刻も早く別れたいんだ。」

「それが理由ですか?他にもありますよね?」

「・・・・あいつに脅されているんだ。」

「脅されている?」

「言わなきゃ駄目か?」

「言える範囲で良いので」

「刑事さんの前で言うのは」

「言えない事なのですか?」

チラッと碧葉を見ると繋川は先程までの怒号を上げていた姿から一変下を向きながら

「・・・・・・」

「なんですか?」

「賭博だよ、賭博」

とか細い声で繋川は述べた。

「以前先輩の付き合いで違法賭博をした事があったんです。その証拠を緑が持っている。」

「違法賭博だと?」

と碧葉が繋川に聞き返すと

「しょ、しょうがねーんだよ。刑事さん、先輩との付き合いで」

「そんな事理由にならない!後できっちり話を聞くからな!」

「そ、そんな~」

とその場に繋川は座り込んだ。

「繋川さん、その違法賭博を弱みに緑さんに脅されているのは分かりました。ただどうしてそれで別れられないんですか?」

「だって別れたら警察に証拠を持って行くって言われて。もうここで白状しちまったけれど」

「それと怪奇現象とどう関係するのでしょうか?」

「それは俺の思い込みなのかもしれないけれど、違法薬物が尿検査で出た時に緑が原因じゃ無いかと思って別れ話を俺からしたんだよ。そうしたら緑が別れたら違法賭博をした証拠を警察に持って行くからって言われて別れ話が有耶無耶になったんだ。俺からは何回か穏便に別れられないかと聞いてみたがその度に脅されて。そうしたら今度はお風呂場や寝室に束の髪が落ちている事が起きて。別れ話を持ち出してから緑を家に上げて無かったのにこんな長い髪が落ちているなんてアイツが何か俺に呪いでも掛けたに違い無いと思って。」

「なるほど、ふつ場さんがこの髪の鍵を握っていると。」

「ああ、それに俺から出ている糸もきっと緑の仕業しか有り得ない。」

「ふつ場さんにお会いしたいのですが繋川さんもご同行して頂けませんでしょうか?」

「俺も?」

「ええ、ふつ場さんがもし本当に繋川さんを呪っているのでしたらその場でお祓いが出来て解決出来ると思いますので。」

「そういう事なら。今日あいつ仕事休みだと思うし。」

「有り難うございます、碧葉さんふつ場さんのお家に向かいましょうか。」

「え、ええ分かりました。」

と碧葉は戸惑いつつも答えた。



「それで私の所に来たって言う訳?」

と玄関の扉を少し開けながら、ふつふつばが気怠そうに碧葉を見る。

「ええ、これは任意ですが話を聞かせて欲しくて」

みちるも一緒に来たんだ。」

と繋川をチラッとふつ場は見る。

繋川はふつ場の言葉に少し小さな反応を見せるも先程自ら違法賭博に関与した事を自白したのに対してこれからの選手生命を考えているのだろう車の中でも顔を真っ青になりながらずっと下を向いており碧葉が何か声を掛けても反応が小さかった。

「立ち話もなんですから中に入れて貰えないでしょうか?」

と碧葉が言うと

「しょうがないわね、ほらどうぞ」

とふつ場は抵抗無しに家の中に入れてくれた。

ふつ場はスリッパを履いており

「人数分は持っていないから裸足で我慢してちょうだい」

と言うとリビングに向かって歩き始めた。

「失礼します」

と柑奈が言うと京采も小さい声で挨拶をして家の中に入った。

ふつ場が住んでいる所もタワーマンションで繋川がプレゼントした家だと車の中で繋川が言っていた。

「あいつと出会った時は運命だと思ったんだ。その時は年収もそれなりにあったから結婚も視野に緑と付き合った。だけれどアイツ年々金遣い荒くてそういう所も別れたい理由だったんだ。」

と車の中で繋川はボソリと呟いた。

「他に贈り物でもしたんですか?」

と柑奈が聞くと

「鞄とか靴とか服とか数え切れないくらい贈ったよ。最初は物珍しそうにして品に触れるのも壊れ物に触れるようにそっと触っていたのにいつからか貰えるのが当たり前だと言わんばかりな態度になって。」

「そうですか。」

「なあ、これって怪奇現象と関係ある質問なのか?」

「いえ、ただの興味方位です。」

と柑奈は真顔で答えた。

繋川のマンションからそんなに距離が無い所にふつ場は住んでいた。

「それで私に聞きたい事ってなんですか?」

とリビングに皆が揃うなりふつ場が少し苛立ちの態度を見せながら碧葉に聞く。

「はい、今回の違法薬物が検出された事に対して知ってますよね?」

と柑奈がふつ場に聞く。

「ええ、知っているけれど。」

「その事をきっかけに別れ話が出たのは間違いないですか?」

「ええ、そうよ」

「何故別れ話を受け入れなかったのでしょうか?」

「それは、まだ好きだからよ。」

「それが理由ですか?」

「そうよ。それ以外は無いわ。」

「他に本当に無いですか?」

「何が言いたいのよ。」

「お金」

ぎくりとふつ場の肩が揺れる。

「自由に使えるお金が無くなるのが嫌で別れなかったのでは?」

「そ、それは」

右往左往目を泳がすと少し狼狽えるようにふつ場は目線を逸らす。

「おい、金って何だよ。」

とそれまで真っ青の顔をしていた繋川は顔色が戻ったのかいや、それ以上に顔を真っ赤にして歯を食いしばるようにしてふつ場を見ている。

「お前金が欲しくて俺に近づいたのか?」

と繋川がふつ場に聞く。

「はあ?」

とふつ場が聞き返すと

「金が目当てで俺に近づいてきて、俺に違法薬物が入った何かを混入させただけでは無く今は呪いまでかけて来やがって。」

「何の話よ!!」

「とぼけんな!!こっちはお前がしている事全部分かってんだからな!!」

「だから何の話よ!」

と二人が言い合っているのを余所に柑奈はふつ場の家の中を見渡していた。

ふつ場の家は白色に統一しているのか物もきちんと戸棚にしまわれていて、観葉植物がポツンと置かれている以外余計な物が置いて無かった。

テレビが無いのが今時の若い子らしい。

今はスマホが普及されてからスマホでテレビや映画を観る人が増えているとニュースで言っていた事を京采は思い出していた。

一方碧葉は繋川とふつ場の喧嘩を止めるのに必死になっていた。

「あの」

と喧噪した二人に柑奈は透き通った声で声をかけた。

その声に反応して繋川とふつ場は振り返る。

「ふつ場さんじゃないです。」

と柑奈は茶色の目で二人を見つめながら言うと

「何がよ!!」

とふつ場が顔を真っ赤にして答える。

「繋川さんを呪っていたのふつ場さんじゃないです。」

「呪い?さっきから何を言っているの?盈この人誰よ!!」

「紹介が遅れました霊媒師をしている龍王寺柑奈と弟の七星京采です。」

ふつ場は京采の顔を見て今初めて視界に入ったのか取り乱した髪を手櫛で梳かしながら

「霊媒師?」

と落ち着いたトーンで柑奈に聞いた。

「ええ、今回ふつ場さんの所にお伺いしたのも繋川さんが仰る怪奇現象について解決する為です。」

「怪奇現象?」

「まあ怪奇現象ではないのですが、この場ではそう例えさせて頂きます。」

「ちょっと盈どういう事よ!」

「どういう事ってさっきから言っているだろ!お前が俺を呪っているって」

「呪い?私が盈を呪っているって言いたい訳?」

「違うのかよ!」

「違うわよ!私じゃないわ!!」

とふつ場は涙を両目に溜めて否定する。

「ええ、呪いはふつ場さんじゃありません。」

「え?」

と繋川が柑奈を見た。

「だから繋川さんを呪っていたのはふつ場さんじゃありません。」

「でも髪の毛とか糸とかはどう説明するんだよ!」

「髪の毛はふつ場さんが犯人でしょう。でも糸は関係ありません。」

「糸?ねえ盈どういう事?」

と繋川に縋るようにしてふつ場が聞く。柑奈は静かに口を開くと

「繋川さんの頭上に糸が見えるんです。それが今回の違法薬物が検出した事件を解決する糸口になると私は考えています。」

「どういうこと?」

とふつ場が柑奈を見つめながら聞く。

「繋川さんは確かに呪われています。それは明白です。ただ髪の毛がお風呂場や部屋に落ちているという怪奇現象は全くの別物です。今回の呪いは繋川さんの体内から検出された違法薬物です。」

「違法薬物が呪いの現象だと言いたいんですか?」

と繋川が聞く。

「ええ、そうです。」

「じゃあ髪の毛は?」

「だからそれはふつ場さんの髪の毛です。」

「緑本当か?」

繋川はふつ場を見るとふつ場は下を向きながら小さく頷いた。

「なんでそんな事したんだよ。」

「だって」

と言葉が途切れる。

「別れたく無かったからではないのですか?」

と柑奈が聞くとふつ場は再び小さく頷いた。

「だからって」

と繋川が口を開いたのと同時にふつ場が涙を流しながら

「だって盈が別れるって言うから。」

とか細い声で言った。

「だってそれはお前が違法薬物を俺に混入したと思ったから」

と繋川は気まずそうに言うと

「だから私じゃ無いって言ったじゃない!信じてくれなかったけれど」

「それはごめん。」

「龍王寺さん本当に私違法薬物なんて使ってません。」

「ええ、分かってます。ただ髪の毛を置いて怖がらせたかっただけなんですよね?」

「ええ、呪いだって分かれば私が違法薬物を食べ物とかに混入させて無いって分かってくれるかと思って。」

「もう一度信じて貰いたかっただけなんですよね?」

「はい。」

「緑・・・・」

と繋川はふつ場を見ると

「盈・・・・」

とボロボロ涙を流しながらその場に座り込んだ。

「ごめんなさい、本当に私じゃ無いって分かったら元に戻ると思ったの。だけど盈全然私の所に来てくれ無いし。」

と化粧が落ちるのもお構いなしに涙を流すふつ場に繋川は

「信じてやれなくてごめん。」

と優しく抱きしめた。



「落ち着きましたか?」

柑奈はまだしゃくりをあげているふつ場に問うとふつ場が恥ずかしそうに頷いた。

ふつ場は先程の告白から三十分ほど泣き続けていた。

柑奈達は黙って見守っていたが、ふつ場が落ち着きを取り戻すと柑奈は口を開いてふつ場に聞いたのだ。

「すみません。」

と鼻声のふつ場に柑奈は優しく微笑む。

「いえ、大丈夫です。さて繋川さんの呪いを解きたいのですが宜しいでしょうか?」

と言うと繋川はふつ場を離し柑奈の方を見た。

「そう!俺の呪いを解いてくれよ。」

「ただここでは出来ません。もう一人会いに行きたいのですが宜しいでしょうか?」

「もう一人?」

と碧葉が聞き返す。

「ええ、この場に居ない方に私は話を伺いたいのです。」

「それは・・・・」

「ええ、野々村美桜ののむら みおさん。」

「野々村?」

と繋川とふつ場は聞き返すが碧葉はハッと気付いた顔をして柑奈を見た。

「野々村さんが今回の呪いに関係するんですか?」

と碧葉は柑奈に聞くと柑奈は静かに頷いた。

「私はどうすれば良いですか?」

不安そうにふつ場が碧葉に聞く。

「ふつ場さんは後日不法侵入した事に対してお話を聞くと思いますが今日はここで待機して頂いて大丈夫です。」

と碧葉が答えるとふつ場は再び

「盈本当にごめんね。」

と謝りながら泣いた。



「それで刑事さん私に何を聞きに来たんですか?」

と不審そうに家に来た一同を見る野々村美桜とその母親に碧葉は

「繋川盈さんの体内から違法薬物が検出された事について知っていますか?」

と聞くと野々村は碧葉の後ろにいた繋川をチラリと見ると静かに頷く。

「ええ、ネットでニュースになっていましたから。」

「その違法薬物が繋川さんの自宅からは検出されなかったんです。」

「はぁ・・・」

「それで野々村さんにお話をお伺いしたくて」

「私が関係しているって言いたいんですか?」

何かの間違いだと言う様に野々村と野々村の母親は碧葉を見る。

「それは・・・」

と碧葉の言葉が止まると繋川の後ろに居た柑奈が

「ここです。」

「え?」

と野々村が声がした方を覗き込む。

柑奈は真っ直ぐ向きながら

「ここが繋川さんが呪いをかけている場所です。」

と言った。

「呪い?」

野々村は柑奈の姿が見えていないのかキョロキョロしながら答える。碧葉と繋川は柑奈が野々村に見えるように場所を移動すると野々村は真っ直ぐ野々村の方を見る二重の茶色い目をした龍王寺柑奈と目が合った。

「ええ呪いです。繋川さんには頭上から何処かと糸で結ばれています。その糸がこの家に繋がっているんです。」

「ど、どういう事ですか?」

それまで黙って聞いていた野々村の母親が柑奈に聞いた。

「お母様、貴方の娘さんはこの繋川さんを呪っています。野々村さんどういう意味かお分かりですよね?」

「美桜、どういう事?」

と野々村の母親はわなわなと震えながら隣に立つ娘である美桜に話を聞くが、美桜は母親に腕を捕まれても柑奈から目を逸らすことが無かった。

「どういう事よ、美桜。」

と野々村の母親の声だけが木霊した。



「どうぞこちらに」

そう言って部屋に案内してくれたのは野々村美桜、本人である。

あれから野々村の母親は最初は柑奈と京采が霊媒師である事に対して半信半疑に聞いていたが、刑事が一緒に居ることを含めて娘が只ならぬ事件に首を突っ込んでいるという事を理解して泣き崩れ、玄関先で長いことやり取りをしている事に対して不思議に思った野々村の父親が出てきて母親を支えて家の中に入った。

野々村美桜はそんな母の姿に目をくれず柑奈を睨み付けるようにして見ていた。

そんな野々村に碧葉が中に入れてくれるよう頼み今に至る。


「それで呪いでしたっけ。私がその繋川さんを呪っているって。」

少し苛立ちを見せながら柑奈に野々村は睨みながら聞く。

繋川と京采はオドオドしながら野々村の部屋に入る。

「はい、ここに居る繋川さんの事は知ってますよね?」

と柑奈は野々村の部屋を見回しながら聞く。

「ええ、まあ」

と答える野々村。

野々村の部屋の壁には繋川のポスターがびっしり貼られている。

内輪やキーホルダーなどがタンスの上に綺麗に飾られている。

この部屋を見るだけで野々村が繋川のファンである事は一目瞭然だった。

「単刀直入に聞きます、どうして繋川さんを呪ったりしたんですか?」

「だから呪ったって何?何の話をしているのか分からない。」

「本当ですか?この人形が呪いの元凶ですよね?」

と柑奈は椅子に座らせていた繋川と同じ髪型をした約150㎝はあるだろう人形を指を指して話した。

「これは」

と言葉を詰まらせる野々村に柑奈は畳みかけるように

「この人形に髪の毛を飲ませていたのではありませんか?」

と聞いた。

野々村は柑奈の言葉に何も言えずただ沈黙だけが流れる。

その沈黙を破ったのは繋川だった。

「俺を呪い殺そうとしたの?」

「呪い殺そうだなんて!まさか!!」

と野々村は真っ青な顔をしながら言う。

「じゃあなんで。」

と絞り出した声で繋川が言うとボソボソと野々村が

「だって繋川さんがあの女と付き合い始めたから・・・」

「え?」

「だから!あの女狐と付き合い始めたから!!」

「女狐って。」

「だってそうじゃない!匂わせまでして。」

と野々村が吐き捨てるように言う。

「匂わせ?碧葉さん匂わせって何ですか?」

と柑奈が隣にいた碧葉にコソッと聞く。

小さい声で話したはずだが野々村には聞こえて居たようで碧葉の代わりに

「同じブランド物とかを写真に撮ってSNSに載せる事を言うのよ。お揃いの物を持っているっていう自慢よ。それをする事で親密な仲である事を匂わせするのよ」

と答えた。柑奈は納得いった顔をして

「なるほど。それだから繋川さんを呪ったんですか?」

と言った。

「呪いだなんて・・・」

と微笑しながら野々村が言うのに対して柑奈が

「野々村さん呪いをかけている事自覚していますよね?」

と聞く。野々村は肩を少し上下に動かすと微笑するのを止めた。

「ここに私達が来てから何故ここに来たのか頭の中では分かっていますよね?」

「柑奈さんどういう事ですか?」

と碧葉が聞く。

「野々村さん私達がここに来た時なんでここに私達が来たのか聞きませんでしたよね?霊媒師が来る事に対して疑問に思わなかった。私はそこが気になったんです。それと同時に警察官では無く霊媒師の私を睨み付けていた。それは呪いをかけている事がバレる、いやバレてしまった事に気が付いたからではないのですか?」

「そんな事!」

と言うがその後の言葉が出ないのか前のめりの姿勢のまま野々村の行動が止まる。

「そんな事無いですか?」

と柑奈が言う。野々村は何も言えないのか唇を噛んで下を向いた。

「その人形に込められている思いは愛情じゃないですよね。私から感じるのは憎しみ、殺意です。人形の傍に行っても良いですか?」

野々村は何も言わない。柑奈は野々村の無言が肯定だと判断して野々村の背後にある人形に近づいた。

「この人形のお腹の所はやはり空洞になっている。その人形に髪の毛を飲ませていたんですね。大量の髪が人形の中に入ってます。ついでですが、今ウィッグを付けていらっしゃいますよね?」

「え」

と繋川が小さく驚く声がした。

「それが何?」

それまで沈黙していた野々村が口を開く。

「それが何なのよ!!あんたと違って私は影で生きていくしか出来ない人間なの!!」

と大きな声、絶叫に近い声で柑奈に飛びついて胸元を掴んだ。

「ちょっと」

と京采が止めに入ろうとするが碧葉が止める。

「あんたは顔が揃っていて少し男に優しくすればすぐに向こうからアプローチしてくると思うけれど、私はそうじゃない。男には見向きもされないで今までひっそり生きてきた。繋川さんだってそう!あれだけ私に気を持たせておいて美人が現れたら私なんて捨ててすぐにそっちに行ってしまった!私がもっと美人だったら違ったかもしれないのに!」

「なんの話だ?」

と繋川が言う。野々村はその声に反応して柑奈を離すと繋川に縋り付くように涙を両目から流しながら

「だってあれだけ私にアイコンタクトしてきたり、他のファンと違って私だけ色々喧嘩とかしてきたじゃない!私だけ特別扱いしてくれたじゃない!」

「何の話だよ。俺は特別扱いした事ないぞ。」

「嘘よ!私ずっとプロポーズしてくれるのを待っていたのよ。」

「プロポーズ?おい、こいつは一体何の話をしているんだ?」

と繋川は柑奈の方を見る。

「こういう話は繋川さんの方が詳しいはずですけれどね。まあこういう話に疎い私が言える事はファンの勘違い。アイコンタクトはたまたま目が合ったのを自分だけを見てくれたとの勘違い、喧嘩は繋川さんの自宅まで行った事に対して繋川さんが怒った事。それを合わせて自分は特別だと勘違いしたかと。」

「勘違いなんかじゃないわ!!」

「いえ、勘違いですよ。それで繋川さんが女性と付き合い始めた事で恨むのはお門違いかと。」

「アンタに何が分かるのよ!!!」

「分かりません。ただこのまま貴方が人を呪い続けていたら取り返しがつかない事になるかと。」

「な、何よ!」

「私は探偵でも無いですし刑事でも無い。事件を解決するのは役が違うかと思うのでしませんが、霊媒師として言える事はこのまま貴方が人を呪い続けていたら自分にその分返ってきます。呪いをかけるなんて簡単に出来てしまいますが、その分の代償を払う事を知っている人は少ない。ただの戯言だと思っていたら罰が当たります。」

「罰だなんて・・・」

と野々村は鼻で笑う。

「その証拠に貴方の左半身動きにくくなっているのではありませんか?先程私の胸元を掴んだ時左手に力が入っていませんでした。その事が分かっていたから碧葉さん京采を止めたんですよね?危険性が無いと分かって。」

「ええ」

と碧葉が答える。

「何を!!」

と野々村が声を上げた。柑奈が野々村の左手を上に上げて手を離した。野々村の左手は途中で止まること無くブランと下に下がってしまった。

「途中で止める事が出来ない程力が上手くコントロール出来ないんですね?」

と柑奈が言う。野々村は下を向き、唇を噛んで悔しそうな顔をしている。

「野々村さん今すぐ祓わないと取り返しがつかない事になりますよ。今なら力をお貸ししますが、野々村さんがもう繋川さんを呪わないとお約束して頂けなければ意味がありませんので。例えお祓いをしても呪いをかける事を止めなければ今の状態をただ悪化していくだけですので。」

「悪化?」

「ええ、自分が一番分かっていますよね?呪いをかけた日から左半身に異変を感じているのは。」

「それが何?」

「このままだと左半身だけでは無く全身がその様な状態になりますよ。」

「バカな事を。」

「バカな事とお思いでしょうが、今現在左半身が動きにくくなっているのは現実ですよね?」

野々村は再び下唇を噛んで下を向く。

「どうしますか?繋川さんに呪いをかけるのを止めますか?」

「それは・・・」

「このままだと取り返しがつかない事になりますよ。」

「元はと言えば繋川が悪いんじゃ無い!!繋川が私に気を持たせる事をしなければこうはならなかった!!」

「それは繋川さんがファンを想っての行動だとまだ理解出来ないんですか?」

「だって・・・」

「繋川さんはファン思いの人だとここに来るまでの間取材された記事を読んでそう思いました。実際繋川さんと話をしていてもファンに対する誠実さは事実でしたし、お付き合いされている女性の方は繋川さんのファンに対してどうだったのかは分かりませんが、少なくとも繋川さんがファンに見せた一面には嘘は無いと私は思います。」

「そんな事私が一番知っているわ。でも、それでもファンという関係よりももっと上の親密な関係になりたかったの。それが叶わないと分かったから呪いをかけたの。」

「そうなんですね。」

「私がもし美人だったら繋川さんも振り向いてくれると思ってた。実際匂わせをしていた女性も美人だったし。やっぱり顔かと思ってそれが悔しくてあの女よりも私の方が繋川さんを知っていたし繋川さんを知ったのもあの女より先だもの。急に現れた女に取られるくらいなら呪った方がマシだと思ったの。でも実際呪いのかけ方なんて分からなくて自己流でやっていたら何か左手が動きにくくなって、左足もよく躓くようになるし。髪の毛もどんどん無くなっていってこのままで良いのかなと思ったけれど、あの女が匂わせする度に自分の中で抑えきれなくなって来て。」

「それで呪いをかける事を続けてしまったと。」

「ええ。」

「ただ先程も申しました通りこれ以上呪いをかけ続けていたら左半身だけでは無く全身が動きにくくなり貴方にとって良いことは一つも起きません。それに今お祓いをした所で左半身の動きにくさは元には戻りません。」

「そんな!!」

「これが呪いをかけた代償なのです。簡単に思えて後から来る代償の大きさに人は気付かない。人を呪わば穴二つ。人を呪うと自分にも必ず返ってくる。その事を理解している人はかなり少ない。」

「じゃあどうすれば良いの?」

「本日その人形と野々村さんの関係を断ち切ります。その後その人形を然るべき所でお焚き上げしてください。そうすればこれ以上左半身の動きが鈍くなることはありません。」

「その間にもし呪いを掛けてしまったら?」

「再び人形との関係が結びついてしまって身体の動きにくさが全身に伝わって最後は身体が全く動かなくなります。」

「そんな・・・」

「今日こんなタイミングでお伺い出来て良かった方です。左半身が全く動かなくなったり全身が動かなくなっていたら何も出来ない所でした。早速ですがお時間もかなり遅くなってきてますしお祓いを始めたいのですが宜しいでしょうか?」

柑奈の言葉に皆が窓の外を見る。

先程まで夕方だったのがもうすっかり夜になり暗くなっている。

「はい。」

野々村は先程までの威勢が無くなり大人しく頷いた。

「京采、早速だけど繋川さんを守って欲しいの。多分この人形には繋川さんへの想いが強く念じられているはずだから、繋川さんの身に危険が及ばないように配慮して欲しいの。出来る?」

京采に聞くと京采は腕にはめていた珠々を外し左手に持ち繋川の近くでスタンバイした。

「野々村さんはそこに居て頂いて碧葉さんは適当な所で待っていて下さい。」

「適当な所って自分は守ってくれないんですか?」

と半泣きになる碧葉に対して柑奈がふふふと笑い

「嘘です、京采の近くで待機して下さい。碧葉さんには危害加えないように私も配慮しておきますので。」

「良かった。」

と碧葉が胸を撫で下ろすと野々村が少し笑った。

「野々村さん、リラックスして下さいね。」

柑奈が言うと野々村は少し緊張気味に

「これから何が起こるのかと思うと怖くて。」

と言う。野々村の言葉通り緊張しているのか両肩に力が入り上半身が固い。

「大丈夫ですと言いたい所ですが、左半身が麻痺している所からしてお祓いするのに熱さや痛みが出てくると思います。今人形の怨念は野々村さんの左半身にべっとりと張り付いている状態なのでそれを剥がさない限りお祓いは出来ません。宜しいですか?」

野々村は柑奈の言葉を聞くと真っ青な顔になりながら

「そうじゃないと、全身が動かなくなるかもしれないんですよね。・・・・だったらお願いします。最初は私が呪いさえかけなければこんな事にならなかった訳ですし、責任を取らないと。」

と言った。最初に野々村の家に来てからの態度とは違って今は柑奈の言葉を素直に野々村は受け止めていた。

「有り難うございます。それでは早速始めます。」

そう言うと柑奈はポケットから緑の珠々を取り出すとお経を唱え始めた。



「いや~あの時はお世話になりました。」

そう客間で正座をして目の前のテーブルに羊羹を置くのは碧葉。

「あれから繋川さんの再検査したところ違法薬物が検出される事は無くなりました。今は練習も再開出来たようで本人もホッとしていると思います。まあ、ふつ場との関係は解消したと言っていましたが」

「結局お二人は別れたんですか?」

京采がお茶を出しながら碧葉に聞く。碧葉は小さな声で京采に有り難うと言いながらお茶を一口飲むと

「ええ、結構ゴタゴタ騒ぎになったらしいですがなんとか丸く収まったようで。まあ何しろマンションまで買い与えていたわけですから、すんなりと別れるわけないですよね。」

と軽くハハハと笑いながら言った。

「そうなんですね。あの後繋川さんふつ場さんの事抱きしめていたからてっきり元の関係に戻るかと思ったのに。」

「男女の関係は分からないですよね。野々村さんもあれから人が変わったように明るくなったようで親御さんも安心していました。左半身の麻痺は残っているようですが、仕事には支障が無いようで今はショートヘアーで金髪にしていましたよ。」

「へ~金髪に」

「ええあそこまで人って変われるんだなって改めて実感しましたよ。それに今は繋川さんのファンを辞めて繋川さんのライバルである日塚(ひづか)さんという選手のファンになったと本人が明るく話してくれましたよ。」

「そうなんですね。それは良かった。」

と奥の部屋から柑奈が現れた。顔色が真っ青で体調が優れなさそうだ。

「姉さん大丈夫?」

京采がお茶を差し出すと

「有り難う。ちょっとふらつく程度だから大丈夫よ。」

とお茶を受け取り笑顔で応えた。

「柑奈さん大丈夫ですか?」

と碧葉が聞く。野々村のお祓いの一件想像以上に野々村の左半身に人形の怨念が纏わり付いていたからか柑奈の力は思っていた以上に消費し、人形のお祓いも柑奈の力ギリギリまで消費したせいでお祓いが終わった後柑奈はその場で気を失ってしまったのだ。

柑奈が目を覚ましたのはそれから三日後だった。

付きっきりで看病をしていた京采が、柑奈が目を覚ましたのに気が付くと涙を流し喜び碧葉に柑奈が意識を取り戻したことを電話するほどだった。

「ご心配お掛けしてすみません。もう大丈夫です。」

「それなら良かった。あ、今日は期間限定発売の羊羹を手に入れたので持って来ました。食べられそうだったら是非食べて下さい。」

「有り難うございます。今は食欲もあって元気なので後で頂きますね。」

「ええ、是非そうしてください。」

「今日は他にも事件があっていらっしゃったのですか?」

「実は・・・柑奈さんの今の状況で言いにくいのですが霊視して貰いたい事がありまして。」

「霊視ですか?」

「子供の霊なんです。」

「子供。」

「ええ、実は母親の交際相手に殺された子供の霊視を頼みたくて。」

「どういう感情を読み取って欲しいんですか?」

「それが母親への念だそうで。母親から頼まれまして。」

「その母親は今はどうしているんですか?」

「今は交際相手とも別れ一人でスーパーでパートをしながらアパートに住んでいます。一人息子を死なせてしまってから塞ぎ込むようになって、息子に会いたいと泣きつかれまして。」

「なるほど」

「何度か自殺未遂までしているんです。事件は解決しているのですが、その母親に息子さんの気持ちを伝えてあげたくて。」

「霊視が出来るか行ってみないと分かりませんが。」

「体調が戻ってからで構いませんのでお願い出来ますでしょうか?」

「ええ、私が出来る事でしたら何でもやります。」

「有り難うございます。」

「ただ、どうしてその母親に息子さんの気持ちを伝えてあげたいと思ったのですか?」

「お恥ずかしい話なのですが、私の母親に重なりまして。私は母子家庭でして、母が幾つもの仕事を掛け持ちして眠る暇無く働いて私を育ててくれました。母も一人の女でしたから彼氏が出来る事は度々ありましたが、私は運良くその彼氏から酷い虐待や暴力を受けることはありませんでした。ただ一歩違ったら私も今回の事件で亡くなった子供と同じ目に遭っていたかもしれない、母を一人残して死ななくてはいけなかったかもしれないと思ったらその母親が私の母親と重なりまして。」

「そうだったのですね。」

「私の個人的な思いで申し訳無いのですが、是非柑奈さんに協力して頂きたくて。」

「碧葉さんの思いしかと受け止めました。是非協力させて下さい。」

「有り難うございます。日程はまたこちらからお伝えしますので。」

「分かりました。」

碧葉は一口お茶をまた飲むと柑奈の斜め後ろに座って居た京采を見た。

「京采君も再来年就活だよね。どうするの?」

「俺ですか?俺はこのまま霊媒師の仕事を続けようと思っています。今のバイトも正社員として働かしてくれるみたいなので。」

「そうなの?」

「ええ、他のバイトはすぐに首になってしまいましたが今のバイトはお客が来るから辞めないでって言われるほどなので。」

「確かに京采君目当ての女性のお客さん多いって柑奈さんも言っていましたもんね。」

「まあ口コミで霊媒師の仕事貰えたりするので良いかなっと思って。」

「なんだ、私はてっきり京采君は警察官になるのかと思っていました。」

「え?」

「だって、警察官の事知りたがっていたから。」

「それは警察官になれば姉さんの事守れると思ったから。」

「諦めたのですか?」

「諦めたというより、警察の仕事が多ければ多いほど姉さんの手伝いが出来なくなるから辞めたんです。近くに居たいのに近くに居られないなら意味が無いから。」

「なるほど。」

碧葉はまた一口お茶を飲んだ。熱いからか少しずつしか飲めないらしい。

「私の事は良いのよ。」

と柑奈が言うと京采は

「そんな事無いよ。今回みたいに力を全て使いきってしまう程の悪霊と戦わなくてはいけない時に傍に居られないのは辛いから。」

と左右に頭を振りながら言った。

「あの時はごめんね。私もっと力を付けなきゃいけないわね、これ以上京采に迷惑かけられないし。」

「迷惑だなんて思っていないよ、俺は今回役に立てて嬉しかったんだから。」

「もし警察官に本当になりたいと思ったら遠慮無しで言うのよ。」

「うん、分かった。」

と京采は笑顔で応えた。

柑奈は全くと言う顔をしながらお茶を一口飲むとアチッと言って舌を少し出した。


連載と言いながら随分時間がかかってしまいました。

昨年は忙しく小説を書くことが出来ませんでしたが、今年は沢山更新出来るようにします。

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