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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第1章 一輪の白いアネモネ
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case03 淡い期待



「いぃ~負けた!ミオミオ、格ゲー強すぎ。嫌だ!」

「はは~ん、全勝!格ゲーでは俺、空に負ける気がしねえな!」



 画面にはK.Oの文字がデカデカと表示されている。

 二人で並んで座り、コントローラーを握っていたのだが、結果は一目瞭然である。

 空は悔しいのか唇を噛み締めており、俺が笑えばさらにむくれてしまった。



「あーあー!ゲン直しに、カートゲームやりたい」

「いや、俺あれ弱いし……」

「弱いの知ってるからやりたいの!」

「クソ性格最悪じゃねえか」



 ゲン直しってそういうものでしょ? とケロッとした顔で、先ほど格ゲーでぼこされた人間とは思えない表情を俺に向けてきた。切り替えの早さは本当に見習いたい。

 俺が嫌そうにしていれば、せっせとカセットを入れ替えて、引き出しからハンドル型のコントロールを引っ張り出してくる空。



「オレのドラテク見せてあげるから!」

「いや、中学生でドラテクとか……つか、俺やるって言ってねえぞ」

「負けるのが怖いんだ。ふーん、負けるのが怖いんだ、ミオミオ」

「うっぜぇ~」



 こうなったらやけだと、俺は渡されたコントロールを握りしめる。一度も勝ったことが無いどころか、ガードレールにぶつかるわ、谷底に落っこちるわで、多分大人になってもこんな運転するんだろうなと、今から免許を取るのが怖い。

 それに比べてこういうのは空は得意なため、自信ありげに少し胸をはってコントローラーを握っていた。その姿から、勝手に運転席に座っている空が浮かび、まるで自分が助手席に乗っているような感覚だった。勿論、まだ普通車の免許は取れない。来年になればバイクの免許は取れるのだろうが。

 空の口車に乗ったことは少し後悔している。



「そうだ、ミオミオ。何かかけようよ」

「はあ?絶対お前勝つだろ。弱い奴に勝って楽しいのかよ」

「だから燃えるんじゃない?強者に勝つ、飛んだことのない高さを飛ぶ……選手として燃えるでしょ?ミオミオはこういうの」



 言い返す言葉が浮かばなかった。


 確かに空の言うとおりで、強者に勝ってこそ、記録を超えてこそ意味があり、快感を得ることが出来る。

 高い壁を越える。それは選手として常に高みを目指すものとして付きまとうものだった。いいや、越えてこその壁だ。



「やる気になった?」

「少しだけな!ひぃ、ひぃ、言わせてやるからな!」

「その意気だよ!よし、じゃあスタートね」



 空の合図と共にレースが始まった。

 空の操作する車は、ドリフトを決めながら俺の車を抜かす。俺は慌ててブレーキをかけ、追いつこうとアクセルを踏む。しかし、空の方が上手いらしく中々差は縮まらない。

 そして、空の車がゴールラインを越えた瞬間、俺の車は派手にクラッシュして、俺は地面に這いつくばった。

 あまりのショックに俺は暫く動くことが出来なかった。

 隣では空がゲラゲラと笑い転げている。



「あっ、あははは!焦りすぎ、ミオミオ。大激突じゃん~!あははは!」

「くっそぉ……コントローラーが壊れてたんだよ」

「いやあ、もう真正面から突っ込んでたじゃん。ウケる~」

「曲がりきれねえだろ」

「いいや、曲がりきれたよ。オ・レ・な・ら!の話だけど」



と、空は俺のことを指さしながら言った。


 どうも、この男は煽らないと死ぬ病気かなんかなんだろうか。

 悔しかったので俺は空の頭を思いっきり叩けば、痛い~と言いながらも嬉しそうな顔をしていた。



「つか、何かかけるんじゃなかったのかよ。結局なーんも賭けずに終わったんだが?」

「あっ、そうだった。しまった~せっかく格好良くドリフトできたのに」



 空は、自分で言ったくせに忘れていたと言わんばかりに残念そうに肩を落とした。だが、何かをふと思い出したかのように顔を上げ、捨てられた子犬のような目を俺に向けてきた。



「じゃあ、今からお願い聞いてくれる?」

「いや、無効試合だろ」

「え~じゃあ、もう1回やる?どーせまた、ミオミオ突っ込んで終わりじゃん。恥晒すだけだよ?」



 そんな風に、空は自信があるのか俺をただ煽りたいだけなのか少し強い言葉を投げてくる。まあ、それを全て許してしまう俺も大概だし、此奴の煽り癖はもしかしたら俺のがうつったのではないかとすら思っている。

 俺も大概口が悪い。いいや、かなり口悪い自覚がある。



(まあ、それは置いておいてで……すげえ、捨てられた子犬みたいな目してるが、何要求するきだ?)



 予想がつかず、空の次の言葉を待っていれば、空は言いにくそうにモジモジと上目遣いで俺を見てきた。その仕草が可愛くてキュンとハートを射貫かれる。俺よりも何㎝か低い空。顔も小さけりゃ、何故か良い匂いもするし、本当にそこら辺の女よりも可愛いと思う。

 幼馴染み、恋愛フィルターがかかっているのかも知れないが。



「えっとね、今日泊まらせて欲しいな……とかいったら、迷惑かな!迷惑じゃないよね!お泊まり会!」

「何か最後開き直っただろうが!つか、姉ちゃんも父ちゃんも帰ってくるし……」



 そう言いかけたとき、スマホに二通連絡が入る。

 画面には姉ちゃんと父ちゃんの文字が。慌てて画面のロックを解除して確認すれば、姉ちゃんは友達の家でパジャマパーティーだと、父ちゃんは遅番の後飲み会に行ってくるから宅配頼んどけだと、そういう内容が書いてあったのだ。


 つまり、二人とも帰ってこない。


 俺のスマホを覗いていた空と、俺は顔を上げたと同時に目が合った。互いに数回瞬きした後、プッと吹き出して笑った。



「タイミング良すぎだろ」

「タイミング~狙ったようだったね。でも、これで気兼ねなくお泊まり会できる!」

「いや、別にいてもいいだろ」

「や~だ。二人っきりがいいの。ほら、オレ達って年頃の男子じゃん?」



と、ウインクをしながら言ってくる空。


 確かにそうだ。空の言う通り、俺達は思春期真っ只中の男同士……だからといって何があるというわけではないが、確かに姉ちゃんには邪魔されたくないと思った。姉ちゃんは俺が空に恋心を抱いていることがバレているから尚更。

 それに、俺だって空と一緒にいたいし、二人きりになりたいという気持ちもある。

 空が家に来てくれることは嬉しいし、断る理由なんてどこにもない。こんな賭けしなくても、言ってくれればよかったのに。



「そーだ、ミオミオ。さっきコントローラー探してたら、こんなの見つけちゃって~」



 そう言いながら、空はバッとDVDを取りだした。でもただの映画などではなくいかがわしいえっちなビデオだった。きっと父ちゃんのだろうと思いつつ、少しの好奇心で空を見る。空は何故か純粋にわくわくとそれを見つめていた。内容を知らないわけではないだろうに。

 口にするも恥ずかしい、いやらしいタイトルで父ちゃんの性癖を引いたが、興味がないと言えば嘘になる。



「ね?どうどう?」

「そんな、みたいかよ」

「何事も経験だって~」



と、空はあれよあれよという間にそれをDVDカセットにセットして再生ボタンを押してしまった。


 始まった映像はかなりきわどいものだった。



(うわぁ、すっげぇ……これ、ヤバいんじゃねえの) 



 そう思いつつも、目は離せない。空も「ヤバっ、うわぁっ」と手で顔を覆いながら、その指の隙間から覗いている。

 好きな奴の隣でえっちなビデオを見るなんて誰が想像ついただろうか。でも、俺はそんなビデオよりも恥ずかしそうにそれを凝視している空の方が気になってしまった。その視線に気づいたのか空は「何?」とこちらを見る。



「な、なあ……俺達もやってみねえ?」

「えっと、こういうの?」

「抜きあいでもいい……いや、そういうの興味あるお年頃だろうが。俺達」



 何て、先ほど空が言った言葉をパクって俺は恐る恐る聞く。どうせ却下されるだろうと思っていたため、空の「いいよ」の一言に面食らった。



「え?」

「えって、ミオミオが言い出したんじゃん。オレ別にいいよ?あ、でも抜きあいだけね」



と、空は少し恥ずかしそうに言った。そんな空を見て俺は固唾をゴクリと飲み込む。


 それからのことは、曖昧で覚えてねえ。

 焦った拍子でリモコンに手がぶつかり、DVDは途中で切れていた。



(何やってんだろうな……)



 この先にすすめたら……何て淡い期待もあったが、結局は「親友」同士の好奇心で終わってしまったのだ。




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