↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第2章 一輪の紫アネモネ
28/63

case12 死なせるか



 目の前で上がる黒煙に、ゴムボールのように地面にたたきつけられて転がっていくダチを見て、頭の中が真っ白になった。



(――――目の前で、目の前で死なれてたまるかよ!)



 口より先に身体が動き、俺は転がっていく明智を追いかけた。爆発のせいで吹き飛んでしまったガードレールの先に、あと少しからだがはみ出していれば落ちてしまうような所まで明智は吹き飛ばされていた。景観を重視した海の上の高速道路は周りの障壁がない。そのため、先ほどの爆発によってせめてもの障壁であるガードレール類が吹き飛んでしまい、今にも明智は落ちそうになっていた。犯人の安否を確認する余裕もないほどに、俺は明智を引き上げることだけを考えていた。

 何とか気を失わず、腕一本で掴まっているが落ちるのも時間の問題だろう。

 腕が痺れてきたといわんばかりに顔をしかめていた明智の腕を俺はやっとの思いで掴むことが出来た。後ろで泣きそうな声で明智の名前を呼んでいる神津の事を考えると気が気ではない。



「おい、死ぬなよ。お前が死んだら誰が神津の面倒みるんだよ」

「たか……ね?」



 幽霊でも見るように俺を見るので、思わず笑って力が抜けそうだった。助けに来たのが神津だったら……何て考えていたのかも知れない。

 悪かったな、俺で。という意も込めて笑ってやれば、明智は少しだけ眉をひそめた。まだそんな余裕があるなら大丈夫そうだ。



「そんで?明智、お前いつまでそんな顔してんだよ。引き上げるから、腕上げろ」

「あ、ああ……」



 俺に言われ、いつもは素直じゃない明智が、素直に腕を上げる。俺はそれを掴んで一気に明智を引き上げた。此奴食ってんのか? と思うぐらい軽くて驚いた。偏食もしないタイプだったし、食事を残しているところも見たことが無い。まあ細身だなとは思っていたが、こんなに軽いとは思わなかった。

 コンクリートの地面まで引き上げると、明智は動けないとでもいうようにその場に倒れ込んでいた。あんな手榴弾を目の前で受けて平気なわけもなく、寧ろこれだけの傷で助かったのが奇跡に近い。あのまま海に落ちていれば高さの問題でまず助からないだろう。それに、今は冬に限りなく近い秋だ。海に放り出されれば凍死してしまう可能性もあるだろう。


 そんなことを思いながら、明智の様子を見守っていると俺を押しのけて明智にタックルする勢いで飛びついた亜麻色の髪が見えた。



「俺の事見えてねえじゃん……」



 それは先ほど礼を言おうと思っていた神津で、本気で心配だったのか彼も彼で普段は見せない表情を明智に向けていた。



「うおっ……」

「春ちゃん!よかった……生きてる……」

「勝手に殺すなよ……大丈夫だから、な。ちょっと離れろ。全身いてえから」

「やだ、離れたくない」



 そんなことを言いながら抱きしめる神津は、自分の力を分かっていないのか、明智は凄いほど背中が反っていた。ありゃ、痛いだろうなと遠目から見ても思う。

 しかし、犯人は自殺しちまったわけで、道路も粉々で同収拾をつければいいか、また怒られるに違いないと思った。いえば、明智達一般人を巻き込んでしまったわけだし。

 犯人を無傷で制圧、は出来なかったのだ。



「春ちゃん、僕を置いて死なないで。何処にも行かないで」

「何処にも行かないでって、それはこっちの台詞だ。そうだな、死なねえよ。だから、お前も死ぬなよ」

「うん……うん、約束」



(つか、目の前でいちゃつくなよ……)



 レス期が終わったのか終わっていないのか不明だが、あの様子じゃ今回のこれでようやく前に進めるのではないかと思った。どっちも意地を張っていて、まあ10年も離れていればそうなるわな、と言う話でもあるが。



「っけ……助けてやったのは俺だって言うのに」

「まあまあ、皆生きてたんだし。それに、ユキユキはハルハルの恋人だからね。そりゃ心配もするでしょ。だから、今だけは大目にみてあげようよ。ね?澪」

「……しゃーねーな」



 ようやく泣き止んだのか、俺の肩をポンと叩き空が俺の隣までやってきた。久しぶりにちゃんとした名前で呼ばれて、むず痒かったが空なりの優しさなのだと感じた。

 潮風に煽られ、さっき明智を助けた際にほどけた髪が揺れていた。伸びすぎたし切ろうかとも思ったが、それを空がひょいと掴んだ。



「どーしたよ、空」

「ん?何か触りたくなっちゃって。ほら、オレって癖っ毛じゃん?だから、ミオミオのつやつやの髪羨ましくて」

「でも、伸びてきたから切ろうかと思ってんだよ」

「えー勿体ない!将来禿げるよ」

「何でだよ!」



 何となく想像してみたが、ハゲた自分をイメージすると何だか悲しくなってきた。

 だが、まあ空が切らないでというのであれば、切る必要はないと思った。俺は換えのゴムで申し訳程度に結び直し団子にくくる。


 そうしてそんな会話をしながら、俺たちは警察が来るまで現場検証をすることになった。俺達も警察だからな、と本職を一連の騒動があって忘れていたような身に染みすぎていたような感じだった。俺達の目など気にせず抱きあっているバカップルなど放っておいて俺達は潰れた犯人とMR-2を見、警察や救急車、さらには消防車のサイレンの音を聞きながら歩き出した。


 結局、母ちゃんを殺した犯人も手がかりもこの後一切分からなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。