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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第2章 一輪の紫アネモネ
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case05 失言が祟る



 さっきの失言が悪かったんだろう……かなり罰が当たった。



「いい、お前が介抱してくれないなら、高嶺にしてもらうから」

「お、おい、俺は酔っ払いの介抱なんてしねえぞ!?離れろ、明智!」



 ヤケ酒した明智は、たったビール一杯で酔っ払っちまって、完全にできあがった明智は神津に構って貰えないからと言って俺にすり寄ってきた。そこに恋心も好意も何もない。ただただ虚しさを埋めるような、慰めて欲しいとでも言うような幼稚な態度に、俺は動くことが出来なかった。明智が酒に弱いことを知ったため、もう2度と飲ませない方がいいと思いつつも、介抱もしてやらない恋人である神津にまた苛立ちが積もる。



「んだよ、神津」

「春ちゃん、引っ付くなら僕だけにして」



 そう言いながら、おいで。と手を広げる神津。

 どうも、俺は神津が苦手だった。だが、此奴に何をしてもかなわないような気がして、喧嘩をふっかける気にはなれなかった。だが、ダチである明智を泣かせるのであれば、此奴は明智の恋人を名乗る資格がない思う。



(つか、何か俺やけになってんなぁ……)



 明智のことを知っていたようで何も知らなかった。その不甲斐なさや、寂しさ。俺達よりも矢っ張り恋人のことが大切なのかと実感させられた事による敗北感か。


 それとも――――



「いーやーだ、神津はそっちの女性達と仲良くすれば良いだろうが。俺は、高嶺と颯佐と仲良くするからー」

「うわぁ~巻き込まれ事故」



 だだっ子のように、明智は俺と空に助けを求め縋り付いてきた。その様子は子供そのもので、多分酔っ払っちまってて何も考えられないのだろう。ちらりと、神津の顔を見ればそれはもう、イケメンがしてはいけないような真っ黒な顔に染まっており、正直背筋と胃がキュッとなった。そんなに嫉妬するなら初めから、女達に絡まれたときに何も答えなきゃ良いのに。だから、明智は勘違いしてしまうんだろうと。

 どうやら、明智は恋に関しては奥手で不器用らしい。

 そういえば、電子機器の扱いも不器用だったと、人間らしい一面も持ち合わせていたことに気がついた。と言っても2年前の話で、それ以外は本当に完璧な男だった。だからこそ、そんな男の弱いところを見せて貰っている……ということは、信頼されているのではないかと思った。明智は孤高な存在だったから。



「みお君」

「……俺は悪くないからな」



 よいしょ。と、神津は明智の腕を引っ張って立ち上がらせた。明智は、スッと俺の方を向いたが、涙目で助けを乞うているようだった。

 もしここで、神津にお前らが悪い。何て言われたらどうしようかとヒヤヒヤしたが、俺達の事なんて眼中にないのか神津は明智だけを見つめ、肩を抱くと一瞬だけ俺の方を向いた。



「分かってるよ。ごめん、僕達帰るね。春ちゃんの分も僕が払うから。空気悪くさせちゃってごめんね」

「まあ、今回の場合明智が悪い気が……」



 いいや、悪いのはお前だ。とは言えないため、取り敢えず場をどうにかするためにそういう。すると、空が後ろから足で蹴り「蛇足だ」とでも言わんばかりの視線を感じる。

 目を合わせるのも怖くて、億劫で、俯いていれば神津が1枚の紙を俺に向かって差し出した。何かと見てみれば、そこには数字と英語の羅列があった。



「俺の連絡先。また、探偵事務所訪れるからそん時はよろしくな。今回の謝罪もかねて」



と、にこりと紳士のように微笑むと神津はお金を机において明智と共に店の外に出て行ってしまった。あの後、明智と神津がどうなるのか気になったが、別れる、何てことにはならないだろうかと、少しひやりともした。彼奴らに限ってそんなことはねえだろうけど、もしそうなったら、今度こそ、しっかりした合コンに誘おうと思った。


 そうして、二人が出て行った後女達の方に目を向ければ完全にしらけてしまったのか、飽きてしまったのか。神津狙いだった女達も多かったらしく、彼奴が出て行ったことでムードは駄々下がりで、結局はお開きにする事になった。盛り上がったわけでもなく、俺は集まった女達とも喋れなかった。まあ、好みの奴もいなかったし、雰囲気だけ楽しんだだけだった。



「ミオミオ飲み直す?」

「んん?ああ、家でなら」

「おっ、珍しい」



 店の外で、帰りのタクシーを捕まえるまで俺は空と話すことにした。

 空は、なるべく先ほどの話題に触れないようにしてくれているのか、飲み直そうとか、残念だったね、とか……そういう話をしてくる。でも、俺が聞きたいのは明智と神津は、空から見てどうだったのかと言うこと。俺は、意を決して聞いてみることにした。

「なあ、空」



「何?ミオミオ。お腹空いた?」

「じゃなくて……その、明智とさ、神津。お前から見てどう思う?」

「どうって……うーん、そうだな。上手くいってない、かな」



と、空は言う。やっぱりそうなのかと、思ったと同時に、俺達は上手くいっているよな。などと、自分たちに置き換えてしまった。


 あっちは、恋人同士、こっちは親友同士。同じ幼馴染み同士でも関係性が全く違うと、比べるまでも置き換えるまでもないと思った。

 確かに、神津は完璧だし、あのルックスと、スペックとその他諸々できっと家事とかも出来るんだろうなっていう誰もがうらやむような人間だが、果たして明智と合うかどうかだ。そもそも、10年も離れていて、未だに心が繋がっているとかそんな幼稚なこと言っている場合でもないだろうし。一緒にいないと思いは薄れるものじゃないかと思った。

 それに、俺だったら10年など耐えられない。



「ミオミオ」

「んだよ、空」

「何か機嫌悪ーい?」

「いや、そんなことねえし……つか、何だよ」

「ううん、矢っ張りちょっと飲み直そっか」



 そう言って、空はにへらっと笑って俺の手を掴んだ。





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