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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第2章 一輪の紫アネモネ
17/63

case01 かれこれ一年



 警察学校を卒業し、かれこれ1年が経過した。



「それで、それで、話って?」

「あーいや、今日はお日柄も良く……」

「何それ、ミオミオ。変なの~」



 幸いなのか、どうなのか、俺は家から通える距離の交番勤務につき、そうしてスカウトの話しも上がってきているところだった。

 1年間は互いに忙しくしており、俺も空も、明智も皆音信不通だった。空は電話をかければ繋がる事も多かったが、明智に関してはそもそも電話番号も何も知らなかったなあと卒業した後に思った。そういうわけで、と繋がっていないかも知れないが、家にまた父ちゃんも姉ちゃんもいないため、空をあげて俺の部屋の中で向かい合うように座っていた。円テーブルを挟んで、俺と空は向き合い、俺はどこから話を切り出せば良いか分からなかった。

 20になる男がこれでいいのかと聞かれれば、絶対ダメなのだろうが、親友でいると決めたくせに恋心を捨てられない俺は、どうにもきょどってしまうわけで、話の切り口を探せずにいた。



「ミオミオ」

「おっ、お、何だ」

「挙動不審すぎる。あれ?あの、異動が決まったというか、スカウトが来たって言う話し?」

「そう、それだ!」



 言いたいことを、空がいってくれたために俺は勢いよく立ち上がり指を指す。空はあんぐり口を開けて俺を見上げていたが「らしい」と笑って、俺を見ていた。

 俺は、空が察してくれたことに安心しつつ、深呼吸をする。


 そして、座り直してから、口を開いた。

 空はどんな反応を示すだろうか。

 気持ち悪いとか思われないだろうか。拒絶されたら俺は立ち直れないかもしれない。そんな重い話ではないが、それでもこれを言い出すのは少し勇気がいった。



「お、俺も異動とか、スカウトの話し来てて……ほら、捌剣市のほうに」

「捌剣市ねぇ……」



 空は、目を細めその市の名前を繰り返す。

 捌剣市とは、犯罪件数が全国でもトップクラスの街で、あそこに配属が決まれば生きて帰れないと噂されている犯罪市なのである。何でも過激宗教団体や、ヤクザの拠点があるのもそこで、スリや強盗、兎に角ありとあらゆる犯罪が日々起っている呪われた市なのだ。その点、隣の市であるというのに全く犯罪が起きないこの双馬市は平和すぎる街だと思う。捌剣市が地獄なら、双馬市は天国だろう。


 まあ、だからといって悪いものばかりではなく、観光名所や、俺達がオフロードに行ったキャンプ場も捌剣市にあるわけで、ただそれを除けばいい街だとは思っている。

 そこに、俺は異動になる。

 姉ちゃんには覚悟を決めろと言われたが、そんなのとっくに出来ている。



「オレも、そこに異動になった。でも、部署は希望通りの警察航空隊」



と、空は諦めたように苦笑した。


 まあ、空も不安じゃないわけではないだろう。あの捌剣市に異動になると言うことが、どれだけ恐ろしいことなのか。都市伝説とは言え、犯罪が日常茶飯事のように起きる捌剣市に、警官として行くなんて普通じゃ考えられない。皆、双馬市勤務がしたいだろう。変わって欲しいと嘆いているはずだ。   

 だが、そういうリスクもあると分かりながら空も俺と同じ警察官としての道を選んだのだ。

 空は、自分の意思を曲げるような奴ではないし、俺が何を言ってもきっと空は行くんだろうなと思う。というか、まず断れ無い。

 けど、俺が話したいのはそうじゃなくて。



「……同居」

「え?」

「同居、しねえかって……ほら、その方が都合いいだろ。お前、朝弱いし。これ以上、母ちゃんに起こして貰うって事、20になってしたくねえだろ?」

「それは、ド偏見。でも、確かに起こしては貰ってるけど……」



と、もじもじと空は恥ずかしそうに俯く。


 空は昔から低血圧で、寝起きが悪いのは知っている。空の母ちゃんから、まだ起こしているんです。という話を聞いたときには笑いがこみ上げてきた。だが、それをチャンスだと表しまった自分もいたわけで。 

 同居のメリットについて、俺はあれこれ話したが、結局何が言いたいかと言えば、面とは向かって言わないが空と一緒にいられる時間が増えること、それを望んでいるのだ。


 下心がないと言えば嘘になるが、そういう面もある、けど本当はただ一緒にいられればいい。そんな願いからの提案だった。願望というか、欲望というか、私利私欲まみれのこの同居の提案を空がどう受け止めるのかと、俺は小さくなってしまっていた。言い出したくせに、矢っ張りダメだよな。何て撤回は出来ない。その方が恥ずかしい。

 そんな風に待っていれば、空は「え、え」と何故か頬を赤く染めて、俺を見ていた。

 予想外の反応に、俺までつられて赤くなってしまう。



「な、なんだよ」

「そ、その、その、澪……はオレと……その、ど、同棲がいいって事?」

「……」

「沈黙しないでよ!こっちまで恥ずかしくなるじゃん!」

「あー……うん、あ!ちげえ!同棲じゃなくて、同居だ!」



 俺は慌てて訂正した。


 同居と同棲では、意味が異なってしまうから。確かに、同棲できればいいと思っているが、そんなのは望んでいないし、かなわないと思っているから初めから諦めている。

 だが、彼が言い間違えたのか、本気でそう言ったのかで、一縷の希望があるのではないかと期待もしてしまう。



「あ、あ、あ!そう、同居。同棲じゃなかった……あは、あはは……」

「だ、だよな」



 そんなわけないか。と、俺は心の中で肩を落とす。

 そもそも、俺と空は親友なんだ。そんなのは、ありえないんだ。

 俺達は親友であって、それ以上でも以下でもない。

 だから、変に意識するのはおかしい。親友でいるって決めたのに、こんなことで揺らいでしまうなんて。



「それで?空は、どうなんだよ。悪い、話じゃねえだろ?」



 俺は、平静を装いつつ、ちらりと空を見る。

 空は、ゆっくりとその青い空の瞳を輝かせ俺の目を見つめた。彼の青に、俺の赤がうつる。



「そりゃあ、勿論、答えを聞かなくても――――」





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