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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第1章 一輪の白いアネモネ
15/63

case14 同期三人との約束



 ――――それからだったか。


 明智は、どうも中高時代、青春というものを送ってきてなかったらしく、ダチと何処かに遊びに行くという習慣も何もなかったみたいだった。だから、俺達は明智の「遅めの青春大作戦」を決行し、週末、外出許可が取れた日には明智を色んな場所に連れ回した。

 カラオケもいったし、ボーリングもいったし、バッティングセンターもいった。

 兎に角明智に色んなものを見せてやった。彼奴が、恋人を忘れられるぐらいには。だが、きっと明智は片時も忘れてはいないんだろうな、と俺は密かに思っていた。明智の恋人は明智の足枷だと思う。明智は楽しむときは楽しんでいるのに、その余韻に浸ってはいない。何処か、恋人も一緒だったら楽しいだろうに何て遠い目をしてやがったから。


 それが、何だかイラついて、今目の前にいる人を大事にしてくれと思ってしまった。

 それより、何よりも……明智が可哀相だ。



「久しぶりの外出~だあ~死ぬかと思った」

「お前、赤点ギリギリだったか?」

「実は、オレも相当危なかった」



 テスト期間を終え、外出許可をかっさらい、俺達は電車に揺られ、当てもなく何処かに揺られるまま向かっていた。

 テスト期間というものを初めて味わい、期間中は外出が禁止され、机に貼り付け状態。俺は勉強が苦手な人間だったから、それはもう逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。だが、逃げ出せば教官達のしかりと、圧にやられて渋々部屋に戻ることになる。あの明智でさえ必死にやっているのだから、もう何だか全て負けてしまったような気がした。

 でも、普通それぐらいやるんだろうなと、俺がだらけているだけだと思った。

 空も空で、やる気なさそうにぐったりと机に突っ伏していたし、それでも赤点を回避できたのは明智のおかげだろう。明智は、俺達のせいで無駄……にはならいないだろうが、余計に勉強をさせてしまった。それでも、俺達に弱みを疲れているところを見せないのはさすがだと思った。本当に尊敬している。



 揺られ揺られて、ついた駅で俺達は降り、辺りを見渡す。


 すると、若い女性達が俺達のほうによってきた。どうせ明智狙いだろうと思ったが、俺と空に話し掛けてきたため驚いた。モテるのか、とかそういう邪な思いを抱きながらも、ちらりと空の方を見る。空は女性が好きな弟タイプだからそんな嫌がる素振りも見せず、ニコニコとしていた。もしかしたら、空も嬉しかったのかも知れない。



(そう思うと、何だか複雑だな)



「お兄さん達、観光ですか?」

「良ければ一緒にまわりませんか?」



 明智の方を見れば、呆れたように1人たそがれ紅葉を眺めていた。

 季節は秋、ちょうど紅葉も見頃だった。明智は「春」という名前なのに、どの季節の花や葉の前でも似合うもんだなあと俺はどことなく未亡人感が漂う明智を見ながら思った。まあ、「未亡人」と思ってしまうのは、恋人と離ればなれになっているからか。



(モテるのはいいけどよぉ、今日は明智と空と来てんだ……どうにか、離してくれねえかな)



 女性達は、大学生のように見えたが、どうも苦手だった。女性が苦手というよりかは、勝ち気、男勝り、食い気味、肉食系……これらの要素が含まれる女性がタイプではなかった。否、姉もそういう人間だったかだ。

 そんな風に俺がどう切り抜けるべきかと思っていれば空が俺の手を握った。



「ごめん、お姉さん達。オレ達今日ね、久しぶりの友達とのデートだから、また今度ね」



と、持ち前の可愛さを生かして空が女性達に謝る。俺もぺこりと頭を下げれば、何故か黄色い歓声が飛び「可愛いから許す」といって手を振って何処かに行ってしまった。まあ、一件落着な訳だが、その可愛さは他に見せて欲しくねえなとも思っちまった。



(それよりも、明智だ)



「明智、おい、明智」

「わっ……って、何だよ。さっきの女性達は?」

「ハルハルが黄昏れている間にいっちゃったよ。というか、一緒に回れませーんって断っちゃった」

「何で」



 俺と、空は顔を見合わせる。


 先ほどのを見ていた為に、俺達が女性達を帰らせたことに驚いているのだろう。何か、また失礼なことを考えてそうだなあと思いつつも、俺は空にも明智にも感謝しねえといけないと思った。



「何でって、だって3人で遊びに来てるのに」

「いや、そうだけど」

「まあまあ、明智、堅いことは気にすんなって。俺たち3人でまわろうぜ」



 俺は、明智のかたをがしっと組んだ。逃がさねえという風に体重をかけてやれば、明智は面倒くさそうなかおをしながらも、何処か嬉しげに微笑んでいた。

 そういう顔をしていて欲しい。矢っ張りダチには笑っていて欲しいと、俺は単純にそう思う。

 それから、暫く歩き、黒いアスファルト一面にイチョウが広がっている道に出た。



「すっげえな。この間の雨でけっこう落ちたのか?」

「何か、掃除大変そう」



 俺も空もそんな感想しか出てこなかった。


 単純に、綺麗というよりかは、凄え真っ黄色。レモンをひねり潰したらこうなるのかとかそういう、色に対しての感想しかなかった。空に対しては掃除が大変そうなど、警察学校のことでも思っているのだろうかと笑えてきてしまう。人の感じ方などそれぞれだし、明智はそんな俺達を見て、子供だなあ何て目を向けてきたわけだが。



「来年もまた来たいな」

「いや、今来たばかりだっつーのに来年の話かよ」

「いいだろ別に。そう、外出許可ぽんぽんと取れる出もねえし、それこそ雨で散っちまうかも知れねえじゃねえか」

「確かにな」



 来年。という単語が明智から出たのが衝撃的で、俺は手を叩いた。空も同じように叩き、嬉しそうに笑っていた。

 明智が、少しでも俺達と一緒にいるのが楽しいと思っていてくれるだけで、それだけでいいような気がした。彼奴が、恋人を忘れられるなら。忘れなくてもいいが、俺達といるときは俺達のことを考えて楽しんでくれればいいと思ったのだ。



(3人……さんこいちとか言うんだっけか?明智とか、そういうことばしらなそうだけど。後、空には古いとか言われそうだな)



「じゃあ、来年も来ようよ。来年じゃなくても良いけど、兎に角ここに。3人で」

「そうだな、空が言うとおりだな。来年は忙しいだろうし、そもそも俺たちは何処に配属されるかもわかんねえからな。都合がいいときに」

「じゃあ、指切り~」



 空は声を上げ、俺と明智は小指を出し、それぞれ絡めた。

 こういうの、いつもの明智だったらガキ見てえとかいいそうだが、今日は違ったのだ。それが、少しずつ明智が前に、俺達に馴染んでいる証拠だと言うこと。

 青春はいっぱいしてきたつもりだったが、またこうして新たに出会えた同期と新しい約束をするというのは、楽しくて仕方なかった。


 未来の約束は楽しい。スケジュール管理はド下手くそだが、何か予定が入っていると自然と楽しくなる。辛いこともどうにか乗り越えようと思える。

 俺は単純だから。



「指切り~げんまん、嘘ついたら針千本の~ます」

「「「指切った」」」




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