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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第1章 一輪の白いアネモネ
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case13 外出許可



「外出すんの、こんな面倒なのかよ」

「まあまあ、無事外出許可降りたんだしいいじゃん。お疲れミオミオ」

「それは、お前もだろ」



 外出許可が出されるのは、入校して一ヶ月経った後だ。


 それまでは、学校生活に慣れるためといって外出は一切許可が下りず、スマホも当たり前だが没収。兎に角狭くて息苦しい生活が強いられるのだ。まあ、それを選んだのは俺だから、警察になるっていった以上逃げ出すわけにはいかなかった。逃げ出したら負けだと分かっていたから。

 外出許可には複数の教官達のサインが必要となり、その様子はまるでスタンプラリーだと思った。ただでさえ、教官が嫌いだというのに、顔をつきあわせて何処に行くんだ、何時間だとか兎に角質問攻めで、まあ何処に行こうがいいのだろうが、それでも尋問されている感が半端なかった。外出許可がやっと下りた頃にはもう既にへとへとといった感じだった。


 もうこのまま帰っても良いかもしれない。


 そんなことを思いつつも、ガタンゴトンと揺れる電車に揺られながら俺は、がらがらの車内で足を開いて座っていた。隣に座っていた空と明智は邪魔だと言わんばかりに顔をしかめていたが、人がいないんだしいいだろうと言うことで、俺はそのままの姿勢で揺られていた。人が来たらそりゃちゃんとする。だが、久しぶりの外に、開放感があってどうも気が抜けてしまうのは許して欲しい。今日ぐらいは。

 電車はゆっくりとしたスピードで走っているため、景色もそれに合わせてゆっくりと変わっていった。まだ夏か梅雨か、そこら辺だったからか、紫陽花がよく見れたのは印象的だ。

 花は綺麗だとは思うが、どうも興味がねえ。何でも明智の母親は花屋だと言うが、明智も明智でうんざりするほど花の知識というかうんちくを聞かされたために呆れているようだった。それでも、子供の頃から聞かされたそれは、明智のみに染みているわけで。



「帰りは、歩きでいいか」

「それは、ミオミオだけだよ。そんな体力ないし」



 やはり、長時間乗っていると体が痛くなる。それでも、電車に揺られるのも久しぶりで、悪くはないと思った。もう少しで、終点な訳だが明智は若干の乗り物酔いで、この後いく場所、空の趣味に付合わされることになるが大丈夫なのかと少し心配に思っちまう。



(空が趣味に付合わせるって珍しいよな……)



 2輪車の免許を取ったその年は、2人乗りが出来なかったわけだが、ちょうど1年経った後に2人で何処かに行こうと双馬市を1周した。高速道路や、海岸線を走る爽快感は今でも覚えている。それから、警察学校に入る前、助手席に乗せて貰ったわけだが。



「今日は、レンタカーだけど、オレね、買いたい車があるんだ」

「ふぅん、前にいってたあれか?えっと、えむ……」

「MR-2ね!2代目SW20型、MR-2……勿論、色は白色で」

「スポーツカーって夢あるよな」



(確か、MR-2は2人乗りだし、俺がその助手席に……)



 そんなことを空と話していると、スマホをじっと見たまま固まっている明智に声をかける。先ほどまで、隣に座っていたくせに、立ち上がってスマホを触っているのだ。

 スマホもようやく触れるようになったことだし、明智もメールやら何やらを確認しているんだろう。彼奴にダチがいる感じはしないが、恋人からの連絡が来ていないか気にしているんだろう。だが、横顔を見る限り、1通も来ていないように思えた。



「励ましにいこうぜ、空」

「そうだね。ハルハルには今、オレ達がいるもんね」



 俺達は立ち上がり、もう少しで終点ということもあって明智の元に向かう。



「いつまで、ハルハル、スマホ構ってるの?」

「うわっ、驚かせるなよ」

「えーだって、反応ないし。ねー、ミオミオ」

「そうだぞ。後、終点だから降りる準備しろよー」



 声をかければ、子猫のように驚き小さくなると、明智は分かったというように荷物を下ろし始めた。



「もしかして、恋人からの連絡待ってたりして」

「……そうだな」

「明智が素直なんて珍しいな」



 俺と空の問いかけにも素直に反応して、何というか、一目で上手くいっていないんだなあって言うのが分かっちまって、これ以上声をかけるべきか迷った。

 明智でも上手くいかないことがあるのだと、イイ奴なのに、明智をほったらかしにしているその幼馴染みであり恋人である奴がどんな奴なのかと、一発殴りたい気持ちになった。明智をこんな顔にさせたんだから、ろくな奴じゃねえと、俺はそう思う。



(俺は、あんな思いしたくねえな)



 幸いにも、自分の幼馴染みは自分と同じ職業を目指し、そうして同じ場所にいて。明智は現時点で7年もほったらかしにされていることになる。

 顔を見れば、着信拒否、音信不通なんだろうと思うけど、俺はきっと余計なことしか言えねえからと、口を閉じるしかなかった。



「つか、結局何処に行くんだよ。結構な田舎まできて」



 そうして、ようやくスマホの電源を落とし振り切ったような明智は俺達に聞いてきた。 

 行き先はいっていない。ただ、空の独壇場とだけ。

 キャンプ場まで足を運べば、珍しい車がずらりと並んでいた。明智は、すぐに推理するいつもの姿勢を取って何となく察しがついたのだろう。だが、次に誰が運転するのかと疑問が浮かんだのだろう、俺を見た。



「危ねえな」

「わりぃ、わりぃ」

「キャンプでもしにきたのか?」

「ミオミオ、まだハルハルに正解いってない?」

「おうよ!今日は、空の独壇場だからな」



 車を颯爽とレンタルし、鍵を持って戻ってきた空は、いつも以上に笑顔だった。空の趣味、それはオフロードだ。俺が、ボルダリングや身体を動かすことが好きなように、彼の趣味もか成り代わっている。

 久しぶりに、車を運転できるのが空は楽しみらしく、いつも以上に首元で跳ねた髪がぴょこぴょこと動いているようにも見えた。

 空は、昔から乗り物の運転を制覇したいといっていた。勿論、免許を取らなきゃ乗れないものが多いため、全部など制覇しきれないだろう。仮にも警察官になる訳だし。



「今日は、オフロードに付合ってもらいたいと思います!オレの趣味!」



 空は満面の笑みを明智に向けていて、思わずそんな無邪気な空の笑顔を見て俺はふはっと噴き出してしまった。


 何も変わっていない、俺の可愛い幼馴染みで、親友。

 これ以上は望まないから、俺はずっと此奴らと一緒にいさせてくれと願うばかりだった。




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