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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第1章 一輪の白いアネモネ
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case12 洞察力は探偵以上



「わ~ミオミオ泣いてる。ウケる~」

「っ……うっせ…………」



 夜の暗闇の中、ライトを片手に俺達はグラウンド、校内をと周り取れた第2ボタンを探して歩いていた。

 あの後、結局みっちり叱られ、校内放送にて俺のボタンが紛失したから探すようにと同期の仲間や他のクラスの奴にまでその捜索命令が出された。大体は、同期含め全生徒は名前と顔が一致する奴らなばかりなため、俺を見るなり「お前かああ!」といった感じに無言の睨みを利かせてきた。肩身が狭くなり、早くボタンを探さなければと焦って、階段から転げ落ちたりもした。


 兎に角悲惨だった。



「警察は1つのミスも許されない。それが団体行動を乱す原因にもなる。現場であれば、犯人を取り逃がす、人質に危害が及ぶ」

「分かった、分かった。明智の真面目ちゃんは分かったからぁ……」



 そんな感じで声が裏返りながら言えば、さすがの明智も呆れたのか「泣くな」の一言の後、俺の為に必死にボタンを探してくれた。

 本当に迷惑をかけたと思っている。だが、第2ボタンなど取れてもいつ取れたかなんて気がつきもしないし、何処で落としたのかも全く身に覚えがない。それなのに、どう探せばいいのだというのだ。



「確か、お前剣道の後はまだ制服にボタンついてたよな……?」

「ああ?覚えてねえし」

「俺の記憶が正しければついていたはずだ。それに、そんな簡単には取れないだろう」



と、明智は何かを推理するように口元に手を持ってき、人差し指を軽く咥えた。


 明智は洞察力に優れているし、記憶力も俺達とは比べものにならない。さすが成績トップ優秀者なだけあると思った。普通なら、そこまで周りに気を遣っていないだろう。自分の事で手一杯だ。



「購買に行く前……教官に挨拶するために、廊下の端に寄ったときか。あの時、歩き始める前に颯佐とじゃれてたよな?」

「あ?そうだったか?空」

「多分……あー何か、ミオミオ絡んできたきがする」

「その時、ドアノブに服引っかけてただろ。なんでああなったかは知らねえけど……お前、あの時飯のことしか考えてなかったみたいだから、その時はずれたのかも知れねえな。となると、2階の階段付近、あの教室の前だろう」



 明智はそう言うと、方向転換しついてこいとでも言うように歩き出した。

 俺達は黙って後をついていくことにする。本当に良く覚えていると思いつつも、明智には感謝しかなかった。


 明智が言った通り、確かにあの時は空とふざけて肩を組んで、バランスを崩してどっかの教室のドアノブに変な風に服が引っかかった気がした。きっとその時に外れたのかもしれないと思うと、余計申し訳なく思えてくる。あの時、気づいていればこんなことにならなかっただろう。まあ、手先が器用な奴がいて縫ってくれなければあれなのだが。


 しかし、明智はこんな夜遅くまで付き合ってくれるあたり(強制的に付合わされているのもあるが)、俺の事を少なくとも心配してくれているのだろう。



「あり……がとな、明智」

「は?聞えねえ」

「だから、ありがとだっつってんだろ!?耳つまってんのか!?」

「夜に大声出しちゃダメだよ、ミオミオ」



 俺は、空に宥められつつも、明智の背中を追いかけた。ちらりと見えた明智の顔は、嬉しそうで、結局俺の感謝の言葉は聞えていたんだろうなと思った。2回言わせる辺り趣味が悪いと思う。だが、本当に感謝している。


 そして、2階の階段を上がり、俺達が夕方歩いた廊下の隅の方で第2ボタンが見つかった。少し誇りかかっており、軽いそのプラスチックの素材は吹き飛ばされやすいんだと思った。もし、掃除があったら捨てられていたかも知れないとヒヤヒヤした。

 俺はホッとして、その場にしゃがみ込む。

 見つかった第2ボタンを握りしめ、俺は立ち上がりそれを2人に見せた。



「あった」

「良かったな、高嶺。これで、泣かずに寝られるな」

「うっせぇし、泣いてねぇよ!」



 ニヤニヤとしながら言ってくる明智に対し、俺はムキになって言い返す。すると、空はそのやりとりを見てケラケラと笑っていた。

 なんだか恥ずかしくなり、誤魔化すように咳払いをして、ズボンについた埃を払う。


 ボタンも見つかり、俺達は教官の元へ戻り、頭を下げた。教官は俺の姿を見て、次からはないぞと圧力をかけ就寝時間が過ぎるから部屋に戻るようにと強く言われた。あの教官、俺の事嫌ってるんじゃないかと思うぐらい恐ろしい目つきをしていたため、俺は夢に出てきそうだなあと思いながら、2人が待つ部屋に戻る。



「おーい、戻ったぞって、電気消えてんじゃねぇか」



 部屋に戻れば、いつもより就寝時刻が遅くなったため、完全に電気を消して各自のベッドに入り寝ている2人の姿が見えた。暗闇には目が慣れている方で、空も明智もしっかりと定位置で寝ている。空は2段ベッドの上だからはっきりとは見え無かったが、時々寝返りを打つ音が聞えた。ベッドが狭いためによく壁にぶつかるのだ。



「ふぁあ……俺も寝よう」



 俺は、先ほど不器用ながらに縫い付けた制服を脱いでハンガーに掛ける。

 この学校に入ってからは、規則、規則、規則、規則とやかましいが、慣れてくればそこそこに楽しいと思う。怒られるのは別として、空と明智がいるのは本当に心強いというか、楽しい感じがした。


 ギシィ……とスプリングの音がうるさいベッドの上で寝転びながら、俺は再度欠伸をする。

 早起きは慣れているが、少しはゆっくり休みたいものだと、俺は目を閉じた。瞼には黒い闇が広がった。



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