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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第1章 一輪の白いアネモネ
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case10 向上心の塊



 カッ、バチ、バチ……ダンッ!



 道場に響くのは竹刀同士がぶつかる音、それを払い落とす音、力強く踏み込み地を鳴らし真っ直ぐ一本打ち付ける音。

 目の前にいる男を睨みつけながら、相手の胴を狙って打つ。しかし、それを相手は軽々と受け流す。

 剣道は中学以来やっていない。授業でやったぐらいだが、ブランクがあるにしても、こんなにもてこずるとは思わなかった。1から教えて貰えるといってもずっと続けてきた経験者もいるわけで、そういう奴らにはやはり勝てない。

 俺が勝つのは無理だと悟ったのか、向こうから勝負を仕掛けてくることはなくなった。だが、こちらが少しでも隙を見せれば容赦なく攻め込んでくる。

 そして今まさにそれが起こっているわけで、俺は防戦一方になっていた。剣道なんて、引いてしまったら負けだと言うことは一番分かっている。それに――――



(負けたくねえよな。少なくとも、自分には……!)



 相手は俺が初心者だから手を抜いているのか、いいや、抜いていないのだろうが相手も相手で強い奴らと戦いたいという意思が見れた。俺も分野は違うがスポーツを続けてきた身、越えられない壁こそ越えてみたくなる、諦めるのは早いと思っちまうたちだ。

 俺は、一瞬出来た隙を見逃さず、思い切り振り切った。


 バシイィイン!!  大きな音が響き渡った。





「……お疲れ様だな、高嶺」

「おう、明智も終わったのか」

「まぁな」



 1本を決めたことによって勝敗がつき、俺は次の同期と交代することになった。面を外し、後からきた明智も同じように外しながら座った。



「どうだったよ」

「経験者には劣る。だが、諦めなければチャンスは来るもんだなって」

「そーか、そーか」



 俺が気のない返事をしてやれば、明智は面白くなさそうな顔をする。その表情はまるで拗ねている子供のようで、思わず笑いそうになった。



「何笑ってんだよ」

「いーや?明智もそんな顔するのかと思って」

「……」

「悪い意味じゃねぇよ。初めは気にくわねえ奴って思ったけど、今はそうでもないからな」

「……だから?」



と、明智は俺の方を見てきた。少し期待に満ちたその目を見ているとまた可笑しくなっちまう。


「つか、お前、柔道選択じゃなかったんだな」

「あー、そーだな。何となく、剣道がやってみたかったんだよ。まっ、柔道とは違うが、身体がぶつかるっていうなら逮捕術もあるし、そういう意味では剣道を選んで世界だったかも知れねえ」

「要約すれば、自分がやっていない分野をやってみたかったと。そうだったな、お前陸上だったから」



と、明智は1人推理を披露し、何処か自慢げに笑っていた。

 明智の言う通り過ぎて、何も補足の必要がない。


 確かに、明智はいけ好かない奴だ。だが、一緒に生活するうちに癖や性格も分かってくるもので、中々に世話焼きと言うことが分かった。鬱陶しいと思うこともあったが、口下手で、明智なりに伝えようとしてくれるのは分かった。だからこそ、そういう律儀というか真面目すぎて空まわっている明智のことが人間として好きになった。

 ただの完璧人間であれば、そこまで好きにならなかっただろうが。

 俺は多分、単純で素直な奴が好きなんだろうなと思う。明智が素直かと言われればすぐ頷けはしないが、思いを伝えるのが下手なりに努力しているのは見て分かった。



「明智ってダチ少ねぇだろ」

「はあ?別に、俺は……」

「ほ~ら、目が泳いだ。少ねぇんだな」

「……」



 そう俺が言えば、肯定の意味を含みながらも苛立ったように俺を睨み付ける明智。

 図星を突かれて悔しいんだろうと分かる。

 俺達は似ていないようで似ている。

 だからこそ分かってしまうのだ。俺はまあ、ダチは多い方だったが、一番の親友と聞かれたら空、と答える以外はないだろう。そういうダチが、きっと明智にはいないのだと思う。というか、ダチを作るの下手そうに見えるし。



「お前、今、絶対失礼なこと思っただろ」

「い~や、思ってねえよ」

「ハルハル、ミオミオお疲れ!」



と、大量の汗をかきながらその面を外し、俺達に笑顔を振りまきながら空が帰ってきた。空は、俺と明智の間にわざわざ割り込むようにして座り込む。



「颯佐どうだったんだ?」

「うぅ~負けたよ。これはさ、言い訳にしたくないんだけど、身長差がね。あーでも、それでも頑張って勝ちに行くって言う姿勢で頑張ったよ!」



 空は、負けたことを悔しがりながらも最後まで諦めなかったと、俺達にいってきた。俺と明智は顔を見合わせて笑うと、空は不思議そうに俺達を見つめていた。

 確かに、空が戦った相手は自分より20㎝も高い相手だ。それを相手にしただけでも凄いことなのだ。だから、もっと自信を持ってもいいのだが、本人は納得していないようだった。そういうところが、本当に可愛いと思った。誰に似ているのか分からないようだが。

 そして、この感情は明智も同じらしく、空の頭を撫でていた。明智も、ここに来て大分変わった気がする。未だにいけ好かない奴ではあるが、そういう所も含めてダチって感じがしていい。彼奴はどう思っているか分からねえけど。



「でも、今度は絶対勝つよ。オレ、ミオミオと一緒で負けず嫌いだから」



 そう言った空の表情は輝いて見えた。



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