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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
プロローグ
1/63

お前だけは



「なあ、お前は死なないよな」

「ん?」



 思わず零してしまった一言に、幼馴染みは俺の方を見た。

 澄んだ青色の瞳は快晴の空を思わせる。その瞳は俺を心配するようにじっと俺だけを捉えていた。



「いや、悪ぃ……変なこと聞いちまった、つか言っちまった」

「泣きたいときは、泣けばいいと思うけどなあ」



 そういって幼馴染みは、今は亡き友人の墓に手を合わせた。長いまつげは影を落とし、友の死を悼むその横顔はどこか神秘的だった。

 ああ、そうだ。こいつはこういう奴だ。

 普段は能天気で馬鹿丸出しなのに、時折こうして大人びた表情をするから。


 するから――――


 伸ばした手を俺はすぐに下ろしてグッと拳を握る。


 青黒い髪は首の辺りで全部外に跳ねており、どれだけアイロンで直そうが直らないほどの癖ッ毛だ。そよそよと吹く風にその跳ねた髪が少しだけ揺れる。

 俺の隣にいる幼馴染み、颯佐空さつさそらは「今度はミオミオの番じゃない?」といつも通り変なあだ名で俺の事を呼ぶ。


 俺は、空に促されて友人の墓の前で手を合わせる。


 数週間前に死んでしまった警察学校時代の同期の墓。優秀だった彼奴は、会わないうちに警察を辞め探偵になっていた。そして、知らぬ間に恋人を作っていた。その恋人が死んだ仇討ちを半年奮闘し、そうしてその相手に殺された。

 最後見た彼の死に顔はとても幸せそうで、何だか悔しい気持ちになった。

 仇は取れていないのに、恋人の元にいけるから幸せだ、みたいなそんな顔をしていた。凄くずるくて、許せなかった。


 俺はここ数年の間にそいつとそいつの恋人――――2人の友人を失った。



「ミオミオ大丈夫そう?」

「……ああ」

「泣かないの?」



 俺の顔をのぞき込んで、空は言う。 

 俺よりも泣きそうなくせに、俺の事ばかり心配してくるのは本当にずるいと思った。まるで、俺だけが弱いみたいに。

 空だって、死んじまったそいつ「明智春あけちはる」に懐いていたくせに、明智春の恋人の「神津恭かみづゆき」とも仲が良かったくせに。悲しんでいないわけじゃないだろう。けれど、彼は俺の前では泣かなかった。本当は彼が目を腫らしているところを見たのに、いつ泣いたのかすら分からなかった。


 だからか、俺は泣かないと決めた。決めたのに……



「そろいもそろって、お前らってほんと酷い奴らだよな」



 死人に何を言っても帰ってこない。墓に話し掛けても尚更だ。

 明智がここにいれば「酷いって何だよ」と睨みを利かせてきただろうがいないわけで。


 ただ、酷く胸が痛かった。


 俺が泣かないのは、俺よりも悲しんでいる奴がいるからだ。とくに空は。



「じゃあ、ミオミオ帰ろっか。今日は非番だったけど明日は普通に仕事あるし。同居してるって言っても、部署が違うしね」



と、空は笑う。先ほどの雰囲気とは一変して、いつもの無邪気な笑顔を俺に向けてくれていた。強がりか、それとも切り替えが早いだけか。


 俺は、引きずりまくっているのに。現実を受け止められずにいるのに。

 先を行く空を目で追いながら、俺は明智の墓を振返る。



「お前は死なないと思ってたんだけどな」



 ほんと人生何が起るか分からない。

 親しかった友人は2人とも死んでしまった。残る1人は俺の横にずっといてくれるだろうか。

 ああ、きっとずっとも永遠もないのだろう。



「お前は何処にも行かないでくれよ」



 大切な幼馴染みで親友。

 そして、俺の初恋で今も恋い焦がれている相手――――



「空……」



 俺、高嶺澪たかねみおは遠くなっていく親友の背中をおって1歩を踏み出した。






今日から10月の上旬くらいまで毎日更新、連載をします。


前作、前々作『百日草の同期』、『追憶の探偵』に出てきた高嶺澪が主人公のお話になります。未読でも楽しんでいただけると思います。読むとよりいっそ面白い! と思ってもらえるとは思います。

ジャンルは前作同様、BL&ブロマンスなので、苦手な方は、どうぞブラウザバックして下さい。


それでも、おつきあいして頂ける方がいれば、ブックマークや☆5評価、感想、レビューなど貰えると励みになります。おつきあいいただけると嬉しいです。


他にも、連載小説や、短編小説もあげているのでそちらも是非。



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