シグの勘と洞察力
2人に襲われた場所から少し行った場所に、クリスタルはあった。
クリスタルは、高さ5メートルくらいの見やすいもので、薄暗い世界観にあっていないような光を放っていた。
そのクリスタルの周りを20人程度のプレイヤーが囲んで守っている。
先程シグとクロエと戦っていた2人が、指示を出してその20人を奮起させている。
「来たぞ~!!」
「守れーー!!」
シグとクロエがクリスタルの近くまでやってきたことに気づいた守っている1人の男がそう叫んだ。
周りを囲んでいた20人程度のプレイヤーは、一斉にシグとクロエを意識した。
ルール上、半径5メートルの範囲からしかクリスタルに攻撃できないために、遠くからのクリスタル破壊はできなかった。
そのため、なんとしてでも防衛戦を突破し半径5メートル以内に入る必要があった。
「クロエ、俺は後ろから手助けするけど、MPは0でHPは1000しかないからすぐ死ぬと思う。マジであとは頼んだ。」
「分かりました、、、頑張ります。」
「イヴニャー、お前も頑張れよ!」
「にゃあーーーあ」
四足歩行のイヴニャーは、右手を上げてそう答えた。
その可愛らしい行動は、シグの心を掴んだ。
そして一発攻撃を受けたら白い粒子になるという中、シグはクリスタルに向かって走り始めた。
「来たぞーー!!」
クリスタルの前を固めるプレイヤー達は、武器をシグに向けた。
守りやすいため、盾持ちや弓使い、杖使いで構成されている。
「鈍化の矢」
「猛毒の矢」
軽装備を着る2人の弓使いの女性が、慌てて弓を引き、魔法の矢を放った。
魔法の矢でも、普通攻撃の矢にしてもHPが0になることは分かるために、魔法陣破壊はしなかった。
シグは、飛んできた矢を瞬時に左に躱す。
(待てなんかおかしい。俺が左にかわすように右側に寄せて撃った気がする……。)
シグの勘に何かがふれる。
そう思ったシグは、体勢をグイッと切り替えて右に倒した。
長年ゲームをやっている男の勘は、正しかった。
「クッソ!!なんでバレたんだよ、、、」
「まぁしゃーねー。なんかトラップを探知するスキル持ってたんだよ。あいつが……。」
クリスタルの前にいる1人の青年が悔しがった。
相手は、シグがトラップ探知系のスキルを持っていると考えるが、無論シグのゲームセンスである。
ただ、矢を右寄りに放ったのを見て左にトラップがあると、予測できるプレイヤーが何人いるだろうか。
普通のプレイヤーは外しただけと思うだろう。
(やっぱ、なんかあったか……。このゲームには踏んだら起動するトラップの魔法があるんだな……。設置型の爆弾的な感じか。)
(ってことは、トラップ魔法は他にも設置されているのか……。なら、トラップの場所を割りだせ。さっき戦ったあの二人がクリスタルに戻れたってことは、トラップがない通り方があるのか?それとも味方にトラップは起動しない?いや違うな。)
周りの状況を頭に刻み込み、シグはトラップ魔法の位置を割り出した。
「クロエ!!俺より左側一帯は、トラップ魔法が多数仕掛けられてる!!破壊しに行くなら、俺より右側に行け!!」
「くっそ、トラップを探知できるスキルを持ってるのか……。厄介だな。」
「バレちゃったらしょうがない。」
クロエに叫んだ言葉を耳にしたクリスタルの前に群がるプレイヤーは、トラップの位置がバレたと焦り出す。
ただ、トラップがある場所をシグが割り出せたのは、もちろんスキルではなく、れっきとした理由が存在した。
その理由は2つあった。
1つ目は、このフィールドの様々なところに落ちている枯れた小さな枝木だった。シグよりも右側の枝木は折れているのが多いのに対して、左側の枝木は1本も折れていなかったのである。そのため、トラップを最初に設置したためにそこに足を踏み込めなかったと推測ができた。
2つ目は、敵のクリスタルを守る配列だった。トラップが設置されている左側は遠距離型で守りが薄いとされる弓使いや杖使いが多いのに対して、トラップがない右側に大盾使いなどの守りに特化したプレイヤーが集まっていたことだった。
(やっぱトラップは左側だけなんだ。まぁ楽勝だな。んじゃ1人くらい倒しておさらばしますか。)
自分の洞察力や勘によってトラップをあばいたシグは、優越にひたってプレイヤーが多くいるクリスタルに突っ込んだ。
そして、1人のプレイヤーのヘッドをぶち抜いたあと、敵プレイヤーの一振の剣が体を貫き、白い粒子となった。
(あとは、頼んだぜ。クロエ……。そして……ツィー・ツィー……。)