紫髪と少女vs男2人組①
ゲームを始めて2日がたった。
レベル上げ欠かさずを行っていたシグは、飽きてきたので、中世ヨーロッパのようなこの【始まりの街ヴェネラ】を観光気分で散歩していると、気になる看板を目にする。
(この先、射撃訓練場⋯⋯。)
2日前のスライムやハンマーラビットとの戦いで、このゲームの銃撃に快感を覚えたシグは、無性にまた引き金を引きたかった。
(行ってみるか⋯⋯。)
近づくにつれて、魔法銃の射撃音が聞こえてきた。そして、レンガの塀に囲まれた場所が見えてくる。
入口には、《この先射撃訓練場なため、魔法銃使用者のみ出入り可能。》と書いてあった。
レンガで積まれた素朴な入口をくぐると、ざっと30人位のプレイヤーが的に向かって射撃の練習をしていた。
そんな中で、騒がしい人溜まりがあった。
そこから、男の低い声から生まれた怒鳴り声が聞こえた。
「賭けするやつはもういねーのか?!?!2対2の100メートル射撃勝負。」
(なんだあれは⋯⋯。)
シグは気になってその人溜まりの方へ向かった。
どうやら男2人組が、100メートルの的当てによる賭けをしているようだった。
周りを見て察するに、賭けを行っている男2人組は割と上手い部類に入り、相当自信があるのだろう。
(やりたいけど、2対2なのか⋯⋯。)
そんなふうに思っているシグだったが、起点が生まれた。
人溜まりにいた1人の少女が男2人組の前に出て呟いた。
「やりたい。」
男2人組は、それを聞いて質問をした。
「お嬢ちゃん。まぐれで当てられたとかを防ぐために、2対2にしてるんだ。まずは友達作りからだな⋯⋯。アッハッハ。」
二人の男は、手をお腹に当てて嘲笑った。
「おい。俺も混ぜてくれよ。そうすりゃ、2対2だろ?」
シグは、男2人組の嘲笑いが空気を作る中、右手を上げてそう言葉を放った。
周囲の目線は、シグに向いた。
「おっ。じゃあやるか。2対2。ルールは、1人3発の点数制。的を見れば分かるが、中心が10点だ。魔法の使用は禁止な。賭け金はそっちが決めていいぞ。」
このゲームの通貨は、リアで統一されていて、実物はない。
1000リアで良い金属でできた剣を1本買えるくらいの値段だ。
少女は、シグの一瞬ちらっと見た。
(賭け金を決めたいのかな?)
「俺は、任せるよ。」
「なら、1人10万リアの20万リアで。」
少女は、平然な声でそう言った。
場は騒然とした。
10万リアというのは、ゲーム内に置いてすぐには手放したくないような大金だからだ。
シグは、自分のウィンドウを開いて所持金を確認する。
「すまんが、あいにく自分は、1万リアしか持っていない。1万リアにしてくれないか?」
「ならお二人さんは10万リアずつ賭ける。こっちは私が19万リアを賭けて、紫髪が1万リアを賭ける。それでいい?お二人さん。」
(紫髪⋯⋯。名前は知らないとはいえ、そう呼んできたか。)
シグは、少女が肩代わりしている理由がわからなかった。
(なんで、こいつ、俺の分まで⋯⋯。どんだけ勝てる自信と、俺への見込みがあるんだ?)
男2人組は、賭け金の高さに少し仰天しながらも、自信があるのか、了承した。