ラストスパート
「シグさん、お待たせしました……。」
灰色に染まる荒野の中を全力で走ってきたクロエは、シグを前にして両手を膝に着く。
対するシグは、弓使いを討ち取った枯れ木の今にも折れそうな芯の部分に漆黒の銃を立てかけて座っていた。
クロエは、呼吸を整えて当たりを見渡す。
しかし、いるはずであるレインがいないことに気づく。
「あれ?レインさんは?」
「やられちまった。チャットの後、急な襲撃にあってやられた。」
折れそうな木を背もたれにして座っている状態で上を見上げクロエと話す。
「そうなんだ……。」
「あぁ。しかも俺のMPももう0だから、クリスタル破壊はほぼクロエにやってもらうしかないかな……。」
「頑張る。」
「おう。」
シグは立ち上がり、敵のクリスタルの方向にクロエと歩き出した。
空は見渡す限り、赤のグラデーションが綺麗に広がる夕方。
地面に多数刺さっているボロボロの剣や枯れた木は赤く染まり、いかにも戦場跡というような鼻につく火薬の匂い。
150人と戦っていた時は必死だったため分からなかったが、改めて全体を見渡すと、このマップの凄さが伺えた。
この景色を細かく書く絵師さんやここまでのクオリティに仕上げるゲームクリエイターにシグは無性に驚いた。
「クロエ。このゲームほんとにすごいな。クオリティのレベルが違うっていうか……。なんというか。」
周りを見渡しながら、隣にいるクロエにいきなり感想を述べた。
「え?いきなりですね。ほんとにすごいのは分かります。こことか《繁栄の街エディン・エレン》以外にもすごい場所いっぱいありますよ。スチームパンクモチーフの街とか、すごく綺麗な渓谷とか。」
「スチームパンクの街とかやばそうだな。行ってみたいな。」
「是非行ってみてください!まじで驚きます!」
ギルド総力戦途中とは思えないような会話をしながら、敵のクリスタルをめざして進んで行く。
すると、前に敵が現れる。
「クロエ、2人だ。」
「イヴニャー出します。」
敵2人が武器を構えたのと同時に、クロエはイヴニャーを魔法陣から召喚した。
「光線の矢」
「爆発弾」
リボルバー型の銃を持つ男と、白く大きい弓を持つ女は一斉にふたつの魔法を発動した。
「プロテクトウォール」
しかしクロエの命令でイヴニャーが、魔法の障壁を作ったためどちらも当たらなかった。
「イヴニャーって初手の方のモンスターだよな?プロテクトウォールなんて使えんのか?」
「育てかたによったら使えるんじゃない?確かテイマーってモンスター同士の合成とか強化とかできるし。」
「そういうことか。」
レアな魔法であるプロテクトウォールをイヴニャーが使ったことに驚き男は女に聞いた。
「まぁ俺だってランク10位ギルドのギルドメンバーだ。やる時はやるぜ。」
銃を持つ男はそう格好つけた。
「粉砕の引金!!」
男の構えるリボルバーの銃口に、エネルギーが集まる。
そしてある程度の大きさになった時、そのエネルギーは、銃口から飛び出した弾と共に発射した。
相当な威力が放たれたことに、クロエは驚く。
ただ、グイグイと進んでくる巨大なエネルギーを纏う弾丸にかんがえているひまはなかった。
「プロテクトウォール!!」
先程と同じく魔法の障壁を作ったが、為す術なく貫通する。
「なら、炎帝の暴炎」
魔法の障壁を破られたクロエは、違う魔法をイヴニャーに発動させた。
その魔法により放出された業火により、巨大なエネルギーを纏う弾丸は消滅した。
「え?、、、俺の最強魔法が相打ち?というかイヴニャーがそんな魔法使えるのか?」
銃を持つ男はものすごく目を丸くした。