異種の狙撃戦
ツィー・ツィーがグラナイトと戦い始める頃。
150人を倒したシグらは、チャットを送りあった。
レイン『シグさんのMPも自分のMPももうないんで、これ以上前に進めないんで、クロエさん前線に送ってくれないっすか?』
シグ『俺からも頼む。』
イチヤ『正直敵のクリスタルに攻める要員が150人のやつだけだったらしく、誰もクリスタルに来ないから全然いいよ、クロエを向かわせるわ。』
クロエ『暇で退屈してたんで行きます!!』
自陣にあるクリスタルを守っているクロエ、日和、イチヤの3人は、1人も攻めてこないことから暇をしていた。
なので攻められることもほぼないと考えチャットによって、クロエを前線に送らせる。
イチヤ『というか、シグ本気でお前すごいわ。お前の150キル後でリプレイで見るわ。レインも的確な支援魔法すごいぞ~』
日和『うん、ほんとにすごい!!2人とも。』
レイン『ありゃす。』
シグ『150キルぐらいできるわ』
チャットで少し和んだ後シグとレインは、150人をキルした荒野のど真ん中で、クロエの援軍を待った。
そんな時だった。
流星のごとく1本の矢が、空からシグの頭上に降ってきた。
素早い察知でなにか降ってくると分かったレインは、シグに飛びついて身代わりになった。
レインは、強化系魔法の代償によってHPが残り少なかったために、白い粒子となってしまった。
いきなり飛びつかれたことにより「っえ?」となったシグだったが、目の前で空からの矢によって白い粒子になったレインを見て身代わりになってくれたことを察した。
(くっそ、警戒を怠っていた。レイン、マジで申し訳ない。)
ただそんな申し訳ない気持ちをすぐ捨て、シグはどこから放たれたかを探る。
(矢が落ちてきた角度的にあっちなのか?それとも単なる魔法で関係がないのか?俺も1発抜かれたら終わる。)
シグが、周りを見渡していると目を凝らしたことにより、枯れた木後ろに人影がいることが分かった。
(距離300メートル、328ヤード。)
遠いことから手や体の動きこそ見えなかったが、矢が流星のような光を放っていることから、放った瞬間は捉えることが出来た。
矢は空を跨ぐ放物線を描いて、シグの方に飛んできた。
シグは、慌てて矢の到達点と思われる場所を避けた。
(弓使いとの狙撃勝負か……。)
漆黒の銃を構える。
そして標準を見ることなく、シグは引き金を引いた。
しかし当然のように枯れた木に当たった。
(殺るとしたら、弓を引く瞬間だな。狙撃勝負と要領は同じだな。ただこっちは3発当てないと行けない、相手は1発で良いと考えると、相打ちになった途端負けか。動きながら狙撃をしてもいいが、1発目と2発目のエイム技術的に予測撃ちされるな。あれを使うしかない。)
シグは、考えた結果、結論に至ったが、その結論はシグにとって確信できるものでは無かった。
「残像の舞踏」
そうそれは、狐の仮面の男に貰ったが、試してみたところ思ったように使えず使うのをやめていた魔法だった。
シグの体を半透明の膜が覆う。
手の動かし具合、目線を動かす感度、足の回転率など全ての体で行うモーションが早くなっているのは、やはり前と同じく不快だった。
(そろそろ……。)
矢を放つ瞬間を狙って目を凝らして枯れた木の裏を見ていると、人影はひょっこりと出た。
シグは、それを足を動かしながら狙撃する。
しかし視点のモーションや構えるモーションが早すぎて調整出来ず全く違う場所に銃弾を放った。
しかし魔法のおかげで流星のごとく降ってくる矢は簡単に回避出来た。
「クッソ。次だ次。」
魔法を上手く扱えない悔しさから、そんな言葉がポロッと出てしまう。
しかし、2発目も3発目も当てることができなかった。
まるで全く違うゲームのような感覚に、シグは慣れることができない。
(別ゲーって考えろ、別ゲーって。ゲーム慣れも天才級に早いだろ俺は。)
シグは、1度自分を落ち着かせる。
ただ、こういうゲームにおける難しさが大好きなシグの顔は、満面の笑みだった。
シグの体の興奮とアドレナリンが止まらない。
客観的に見るとそれは本当に気持ち悪かった。
そして次の矢が落ちると同時に、シグは見事に弓使いのヘッドを抜いた。
「よっしゃあきたあ。」
当たったことで調子に乗ったシグは、枯れた木に隠れる人影まで魔法によって速くなった足で詰めた。
それに気づいた弓使いは、枯れた木に隠れることをやめて、前に出て今度は直線上に進む光の矢を射た。
しかし射た途端に、反対側から衝撃が加わり消滅した。
シグの撃つ銃弾だ。
早くなるモーションに慣れ始めたことによって、シグの早打ちがもう一段階アップグレードされる。
シグの圧倒的な反射神経と射撃技術に、魔法によって速くなったモーション(構える速さ)を加えるともはやゲームが成り立たないのかもしれない。
その後、弓使いのヘッドを2度ほど抜いた。