速度系魔法とトラップ系魔法を操る者
ギルド総力戦の舞台となる古戦場跡の1区画。
傾斜によって他からはあまり感知されない通り。
グラナイトと他4名は会話をしながらゆっくりとその通りを進んでいた。古戦場跡にある土塁などでその通りは見えにくかった。
グラナイト一行の狙いはクリスタルだ。
150人部隊という最強部隊の裏でコソッとクリスタルを壊す気でいた。
しかし一行が、鉄甲冑のカシャカシャという音を立てながら歩いていると、前に1人の影が現れる。
「やっぱお前は単純だから、こっちだよな。」
グラナイト一行は、声からツィー・ツィーだと察して個々武器を構えた。
「久しぶりだな、ツィーツィーさんよ、挨拶ご苦労さん。単純で悪かったな。でもお前の負けだわ。だってここにお前を誘導して、あっちの方を手薄にさせたとしたら、俺の方が上手だよな??」
グラナイトは、少し遠くに見える150人の部隊がいるであろう荒野の方を指さした。
「グラナイト、お前目悪いのか??よく見ろよ。」
ツィー・ツィーは、グラナイトが指を指した荒野を見てあることに確信を抱き、強めの言葉でそう言った。
グラナイト以外の一行は元々気づいているため、腰を抜かしている。
グラナイトは、目を凝らして荒野を見た。
そして、指摘されたことにより気づくことが出来た。
「おいちょっと待てまさか……。なんでそうなった?」
グラナイトは、慌ててログを開いた(+。+)。
ログは、このギルド総力戦の状況を見ることが出来る。
「150人全滅してる……。」
ログを見た途端、ログに書かれていたギルド【北方騎士団】残り人数43人という数字が目に飛び込んだ。
グラナイトは、目を丸くした。
「150人を2人にやられた感想はどうだ?グラナイト……。」
ツィー・ツィーもいつも言われっぱなしではと思い煽った。
「ハッハッハ。150人やられたか。まぁーいいや。俺とこいつらエグゼクティブが4人残ってれば全員倒せるしな。」
グラナイトは、煽りに負けないようにすぐ気持ちを切り替えて、後ろにいる4人のエグゼクティブの背中をトントンと叩いた。
気合を入れたグラナイト達5人を見て、ツィー・ツィーは2本の剣を召喚する。
「そういえば、ツィー・ツィーお前ってやっぱり気取ってるよな。《俺バト》の時使ってた剣初心者用だったよな??その2本の剣じゃなくて。初心者が多い《俺バト》では本気を出しませんってか?アア?保険かけてんじゃねーよ。だせぇなぁ。」
「違う。あの時はこの剣達を精錬してもらってて、使えなかったんよ。」
「言い訳はいらんわ。まぁ本気じゃない俺に勝ったって……とか思ったんだろ?あの紫髪に。」
「いや、シグには実力で負けたわ。武器どうこうじゃない。」
「へー……。まァァいいや、お前らやれ!!」
面白い会話でも興味深い会話でもない、たわいもない会話に飽き飽きとして、4人にそう命令を下した。
4人は、命令を受けツィー・ツィーに向かって走り出した。
(左から杖、剣盾、手甲、弓か……。グラナイトとの戦いのために多少のMPは残さないとな。)
「音波刃」
「分身の矢」
剣盾使いが剣で空を切ることによって発生した音波の刃と、
弓士が放った1本の矢が倍増した30本程度の矢はツィー・ツィーに向かって突き進んだ。
「アイシクルバレット、」
しかし、ツィー・ツィーは全武器使用可能の魔法である氷の礫を、向かってくる音波の刃にぶつけた。
このゲームには、武器指定の魔法と全武器使用可能魔法がある。全武器使用可能魔法は、どの武器のプレイヤーでも使える魔法で、杖で使うと攻撃力が増加するが、素手で使うことが多い。
「高速双撃」
音波の刃を片付けた後、矢の処理にお気に入りの魔法である双剣用魔法、高速双撃を飛んでくる矢に向かって使用した。
高速で行われた2度の斬撃は、30本の矢を折る。
そして……。
そこからは一瞬だった。
「超高速移動」
距離を詰めてきている4人の戦士との距離を一瞬にして、ツィーツィーは詰めた。
「双剣強襲」
4人の中で一番先頭に立っていた剣盾を持つ戦士の体に目掛けて、黒色のオーラを放つ2本の剣が振り下ろされる。
あまりにも早い事で、剣盾を持つ戦士は対応できず、盾を持つ意味が無かった。
剣盾を持つ戦士は、グラナイトが突っ立っている場所までノックバックし、HPも3分の2削られた。
ただツィー・ツィーの高速で行われる攻撃はまだ終わらない。
「おい!!大丈夫か??」
弓を持つ男がノックバックした剣盾を持つ戦士の様子を伺った隙を見て、弓を持つ男の前に向かって方向転換をする。
方向転換をしてから弓を持つ男の前に辿り着いたのは、言わば心臓の拍動と同じ時間だった。
そんな速さに、隙を作った弓を持つ男が対応できる訳もなく、弓を持つ男も双剣強襲を受けた。
ただ剣盾を持つ戦士よりHPが少なかったために1発で白い粒子となった。
ツィーツィーは、このまま攻撃を続けると敵が速さになれてしまうと思い、バク転で後退した。
が、後退した意味はもうひとつあった。
ツィー・ツィーは、片方の剣を逆手で持ち替える。
そして、野球のオーバースローのフォームに入った。
「投剣」
剣先を前に、ツィー・ツィーの投げた剣は勢いよく風をまとい突き進んだ。
狙いは、ノックバックにより膝を地面に着いているHPが3分の1残った剣盾の戦士だった。
予想だにしないその行動にグラナイトも含めた4人は驚きを隠せない。
剣盾の戦士は、ツィー・ツィーの片方の剣が突き刺さり白い粒子となる。
「まじかよ、剣を投げて刺しやがった……。」
投げたことにより地面に刺さるツィー・ツィーの剣を見て、グラナイトは驚きを隠せない。
残った2人の杖を持つ魔術師と手甲をはめる男は、驚きながらも剣が1本になったツィー・ツィーに対して今しかないと思い一斉にツィー・ツィーに向かって襲いかかった。
この時、グラナイトの頭の中でツィー・ツィーの過去の映像が流れた。
それは3ヶ月前のツィー・ツィーの戦闘だった。
「待て!!お前ら!!罠だ。こいつがバク転した時こいつ何かを口上した。」
なにかに気づいたグラナイトだったが、もう遅かった。
ツィー・ツィーがバク転を行ったあたりを2人が通った時、大爆発と落雷が2人を襲った。
そうツィー・ツィーは、速さを得意とする攻撃以外に、トラップ系統の魔法も得意なのだ。
2つのトラップ魔法に引っかかった2人は大ダメージを受けて白い粒子となる。
古戦場の一角にはグラナイトとツィー・ツィーだけが残った。