isekai最強のイヴニャー
2人は、ライトスパイダーを躱しながら森をさまよっていると、奇妙な洞窟を見つけた。
いかにも入ってこいというような洞窟だった。
2人はそこに足を踏み入れる。
奥に行けば行くほど、だんだん薄暗くなるその洞窟は恐怖でしか無かった。
「待ってください、シグさん。普通に怖いです。」
「あー、すまん、すまん。」
シグは、怖がっているクロエの歩幅に合わせる。
奥に進んでいくと、いかにも作られたような空間に出た。
薄暗い中周りを見渡すと、着火されていない篝火が空間の周りに等間隔で置いてあることが見て取れる。
そんな風にシグが周りをキョロキョロしていると、突然その篝火が1本ずつ炎を咲かせる。
いきなり炎が上がったことに少し驚いたが、薄暗さが無くなったことにより変な緊張感が消えた。
そして、全部で12本の篝火から炎が上がった時、シグとクロエの前に1つの光が出現した。
その光は、空中に上がってピカッと光る。
眩しいために、目を瞑ったシグとクロエ。
目を開けた途端、目の前にいたのは、とんでもない光量で発光している赤色の炎の鳥だった。
シグがウィンドウで確認をすると、それは思った通り、神秘な不死鳥だった。
シグは戦闘態勢に入った。
「俺がヘイトかって動き回るから、クロエは後ろからなんか頼んだ。」
シグが、神秘な不死鳥のヘイトをかるために突撃しようとすると、クロエが声を張って言った。
「シグさん。待ってください。私がやります。」
シグは足を止める。
《召喚》イヴニャー
クロエの足元に現れた魔法陣に、クロエのテイムモンスターであるイヴニャーが現れる。
ただイヴニャーは世間的に、裏モンスターをやれるという程の強さを持つモンスターではなかった。
イヴニャーというのは、このゲームにおいて看板的モンスターである。そのため、人気は高くキャラデザもしっかりしていて、序盤のマップで出現することが多く、全プレイヤーから親しまれている。
看板的モンスターであることからイヴニャーについてはシグも知っているために、疑問を持った。
「クロエ、イヴニャーで倒せるのか?」
「私のイヴニャー舐めないでください!!」
少し強く言われたシグは、クロエの背後に後退した。
「シグさん、見ててください。私のイヴニャーの力。」
《龍神の逆鱗》
イヴニャーによって放たれた1本の剣は、不死鳥に向かってぐんぐんと進む。
剣は、火、水、風、土、雷の5属性の力が纏っている。
しかし不死鳥の鼻の先にたどり着いた時、不死鳥の体は炎になって、不死鳥の体を貫通する。
その時だった。
その1本の剣は、刃を上向きにブレーキをかけ、ドラゴンのような演出を見せる。
そして、その演出とともに辺り一帯に、暴風、落雷、燃焼、豪雨、地震が起こる。
その現象によるダメージにより一瞬にして不死鳥は消え去って粒子となった。
それを見ていたシグは、驚いた。
(どゆこと??イヴニャーがそんな魔法使えるわけ……。)
思ってもみないイヴニャーの魔法に驚きしかないシグとは裏腹に、クロエはイヴニャーをなでなでしながら勝ったことを喜んでいる。
「シグさん。やっぱ私のイヴニャーは凄いでしょ。」
「感服した。」
シグはクロエが倒せなかった時のために構えていた《ブレイク・ノヴァM1000》を下ろして、正直にそう伝える。
ただ、本当にイヴニャーのありえない強さは謎でしか無かった。
「なんでそのイヴニャーそんな強いんだ?ちなみに。」
「秘密です……。でもシグさんなら言ってもいいかな。私、ゲームの看板モンスターのイヴニャーが可愛すぎてこのゲームを始めたんです。でも始めてくうちにイヴニャーをテイムしてもイヴニャーが弱くて勝てなくて、、、だからラスボスって言われてる《西を収めし神竜レフティア》をテイムしてイヴニャーと合成させたんです。」
クロエは、神秘な不死鳥からドロップした宝箱を漁りながらそう語る。
「あったー。これが欲しかったんです。」
クロエは、目星だった神秘な不死鳥のドロップ品である《神秘な羽根》を手にとって言った。
「ドロップ品目当てだったんだ、テイムしたいのかと思ったわ。」
シグは、クロエはテイムをしたいために神秘な不死鳥を探していたと思っていた。
「いや、シグさん。あんな可愛くないモンスターはいらないよ?可愛いモンスターが正義なので。」
平然とそう言うクロエにシグは少し恐怖を感じた。
《西を収めし神竜レフティア》は、ラストモンスターと言うだけありレベルは470。
倒せることすら無理と言われているこのモンスターをテイムできる確率は0.01。
後にわかるが、クロエは一発で倒して、一発でテイムをしたことになる。
全『isekai』プレイヤーの中で《西を収めし神竜レフティア》をテイムしたプレイヤーは、1人である。
しかし、合成によってそのレフティアの姿はもう無い。