テイマーな白髪の少女
神々しく緑色に火照る木々。
無数に浮かぶ緑色に光る球体。
【神秘的な精霊の杜】。
シグは、ツィー・ツィーにいわれて、そのマップで《精霊の玉宝》というアイテムを探していた。
《精霊の玉宝》は、ギルド設立において必要な《ギルド設立建白書》の素材である。
(超低確率で木に埋まってたりするってツィー・ツィーが言ってたけど、どこにあるんだ??もう買うじゃダメなのか?)
様々な木を見ているが、一向に見つけることが出来ない。探し始めてから1時間は経っている。
シグの脳内では、マーケットなどでの高額転売を買った方が楽なのではないかという考えが生まれた。
少し呆れながらも《精霊の玉宝》を探していると、爆発的な物騒な音がした。
《精霊の玉宝》を探しているであろう同業者は沢山いたが、こんな物騒な音は聞こえるはずがないくらい静かな杜だった。
音が少し近いことから、気になったシグは、その音の方角に向かった。
音の正体は、キツネっぽいモンスターの魔法だった。
ほんの少し開けた場所で、大きなクマのようなモンスター2体が白髪の少女に襲いかかっていた。
白髪の少女の近くには、青い炎をともしたキツネっぽいモンスターが動きを封じられている。大きなクマのようなモンスターの仕業と推測できる。
シグは、キツネっぽいモンスターは白髪の少女がテイムしたモンスターで、大きなクマのようなモンスターに襲われていると判断した。
少しヒーロー心をくすぐられ、急ぎでアイテムボックスから漆黒の銃《ブレイク・ノヴァM1000》を取りだして、クマっぽいモンスターを2体とも撃退した。
すると、白髪の少女はシグのことを少し眺めて、軽く礼をした。
「あっ、ありがとうございます、」
礼儀正しく挨拶されたシグは、その少女の可憐な姿に少し見とれてしまった。
「あっ、いや全然いいよ。倒したから経験値にもなったしね。」
シグは、見とれたのを隠すように、少し笑いを作りながら慌てて言葉を返す。
実際のところは、モンスターとのレベルが離れていたためにそこまで経験値にならない。
「じゃあ、俺は行くね。」
と言ってその場を離れようと振り返ると、白髪の少女が話しかけてきた。
「あのー、お礼になるか分からないんですけど、これ……。」
もう一度振り向いて白髪の少女の小さな手を見ると、そこには求めていた《精霊の玉宝》があった。
(あれだ、《精霊の玉宝》!!)
「さっき、木に挟まってて、アイテムだったので取ったんです。使い道とか分からないけどどうぞ!!」
「いやいいよ、お礼なんて。しかもそれめっちゃレアなヤツだから、マーケットとかで売るといいよ、」
多少欲しい気持ちはあったが、お礼とは言っても超低確率なアイテムを貰うほどでは無いと思ったシグは断る。
「いや、貰って欲しいです。お金には困ってないですし。」
「いや、いいよ。全然恩とか気にしなくていいから。」
「えっ、、でも、、」
白髪の少女は、貰った恩は返さないと気が済まない性格なのか、なかなか受け取ってくれないシグに少しキョトンとする。
(まいったなー。貰ったら完全に俺が得すぎるし。)
「じゃあさ。貰ったら俺が得すぎるから、平等にするために、君が今やってる事を手伝うよ。それでどう?」
納得がいったのか、白髪の少女は少し笑顔になった。
それからシグと白髪の少女はフレンド交換をして、パーティを組んだ。
パーティとは、6人以内で組むことが出来る一種の機能で、モンスターとの戦闘において経験値を分割することが出来たり、HPやMPを共有で見れるようになる。
「で、えっと、なんて呼べばいいかな?」
フレンドになったことによって分かったプレイヤーネームを口にしようとしたが、さすがに女の子ということもあり気を使い、どう読んだらいいか聞く。
「クロエでいいです。」
「分かった。じゃあクロエ。何を手伝えばいい?」
シグは、イチヤやツィー・ツィーと話す時より優しい声で話す。
「えっと、私テイマーなんですけど。今このマップにいる神秘な不死鳥っていうモンスターを探してて。」
おそらくテイムモンスターであるキツネっぽいモンスターをなでなでしながら、クロエは答えた。
「わかった。ならその神秘な不死鳥つうモンスターを探せばいいって事ね。」
「はい!お願いします。でも裏モンスターなのでそんなに出ないと思います。」
シグとクロエは神秘な不死鳥を探し始めた。
基本的にモンスターは3種類に分けられる。
通常モンスター、ボスモンスター、裏モンスター。
通常モンスターはマップにて、その辺で湧く多数いるモンスターで、ボスモンスターは1つのマップに1体いるとされる強いモンスター。
そして裏モンスターとは極低確率で出現するレアモンスターである。
裏モンスターの出現確率は、最近フルダイブが実装された某モンスター系ゲームの色違いの出現率とそうそう変わらない。
「そのキツネのモンスターはなんて言うんだ?」
ただ、探すだけでは面白くないので、先頭を歩くシグは話をもちかけた。
「炎尾狐っていうモンスターで、私はコンちゃんって読んでます。」
コンちゃんと名付けられたその炎尾狐は、主であるクロエに呼ばれて鳴く。
「クロエはいつから『isekai』やってるの?」
「私は、5ヶ月前とかです。シグさんは?」
「1か月前とかかな。」
「1か月でこのレベル帯に来てるんですか?すごいですね。」
「まぁ、毎日学校終わったらすぐやってるからね。」
シグは部活をやっていない。中学2年生までは部活動としてサッカーをやっていたが、《ガンライズ》でプロを目指したいと思い部活動をやめた。それから帰宅部という部活に属している。
探している中、多数のモンスターに出くわしたが、手伝うと決めたシグが何なりと撃退する。
時間が経つにつれて、お互いに緊張が解けてきて、少しづつ仲良くなっていることが雰囲気から察せる。
そんな時に事件が起こった。
「待って、無理……。」
クロエは、小声でそう呟いて、木の影に隠れた。
そして、うつ伏せるようにしゃがんでいる。
「えっ、いきなりどうした?」
そのクロエの突然の行動に、ハッとした。
「シグさん。私、虫無理なんです。」
(え?虫?)
シグは辺りを見渡すと、正体に気づいた。
前に立つ木に光を発する蜘蛛のようなモンスターがいたのだ。
その蜘蛛のようなモンスターは、ライトスパイダーといい、現実の蜘蛛より数倍大きく、見た目が少し気持ち悪い。しかも、それだけではなく光っていることから気持ち悪いモンスターとして有名である。
「あー、ライトスパイダーか…………。」
ここでかっこよくモンスターを殺る事が話として成り立つのだが、シグの顔は青くなる。
「………。クロエ、すまん。俺も無理なんだわ。あーいう気持ち悪いの。」
青くなった顔でシグはそうクロエにつぶやいて、クロエと同じ木の影まで後退した。
《精霊の玉宝》を探している時も、ライトスパイダーにあったら逃げるを繰り返していた。
ただ、ここはいうならお化け屋敷だった。
逃げた先にも……。
「待って、、シグさん、後ろ……。」
クロエは軽く失神する。
「キャーーーーー!!」
木の影の後ろにある木から糸によって別のライトスパイダーが落ちてきた。
シグは、自分より年下の女の子より先に、叫びながらも本能的に魔法銃を取りだして、そのライトスパイダーに射撃した。
その木の裏から2人は5分間動かなかった。