初フレンド、初戦闘
空からダイブしてたどり着いた場所は、割と大きな街の大通りだった。
中世のヨーロッパを意識しているようなレンガ造りの街は、心をくすぐる。
大通りは、たくさんのプレイヤーとNPCによって賑わっていた。
大通りの脇で笛を吹いているNPCの曲が、ゲームのBGMのような感覚をもたらす。
ウィンドウという愛称がある、ステータスやマップを確認できる、半透明のパネルのようなものを見てみると、この街が【始まりの街ヴェネラ】という名前だということがわかった。
(さて、ログインはしたものの、何をすればいいのかが分からないな⋯⋯。)
経験上ゲームに関してはFPS1本だったのでとても困った。
(とりあえず、モンスターと戦うゲームなんだし、モンスターがいるところに行こう。)
シグは大まかな行動の予定を立てて、足を踏み出し始めた。
大通りを、南に進んでいくと街の外に出れた。
街の外は、大きな草原だった。
マップを見たところ、【ヴェネラ草原】と言うらしい。
【ヴェネラ草原】には、半透明な水色の小さな物体や、ハンマーを持つ白い兎など様々なモンスターがいるようだった。
【ヴェネラ草原】をモンスターに接近しないように探索していると、ある自分とおそらく同い年くらいの男が話しかけてきた。
このゲームは、目の色と髪の色以外は設定できないために、現実と外見がほとんど同じだ。
なので、年代がはっきりしやすい。
「君、始めたばっか?」
その男は、背中に大きな槍を装備していた。
最初の武器選択で槍を選んだのであろう。
「そーだけど⋯⋯。」
シグは、いきなり話しかけられたことから、緊張でなかなか言葉が出ない。
「見るからに高校生ぐらいだよな?俺も3日前に始めたんだ。同年代のゲーム友達を作りたくてな⋯⋯。一緒にモンスターと戦わないか?」
少し恥ずかしながらそう話す男に、シグの持っていた緊張は消える。
(良い奴そうだな⋯⋯。どのみち1人じゃ何も分からないわけだし⋯⋯。)
「シグ・ザウエルだ、よろしく。」
シグは、右手を出してそう答えた。
シグがうちとけてくれたことから、男は笑みを浮かべながらシグの右手を掴んだ。
「俺は、イチヤ・カイ。ちなみに本名な。現実では名前がカイだが、ゲームではイチヤが名前だからイチヤって呼んでくれ。」
「オーケイ、よろしくイチヤ。俺のことはシグって呼んでくれ。」
結局、予想通りシグとイチヤは、同じ高校二年生17歳で同年代だった。
同年代ということもあって、2人は話があった。
「シグは、なんでこのゲーム始めたんだ?」
「《ガンライズ》っていうずっとやってたゲームが、サービス終了したんよ。で、これを始めてみたって感じ。」
「あー。《ガンライズ》か、やったことないけど知ってるわ。FPSは、やったことないんだよな。」
話に没頭していると、目の前の草むらから、半透明な水色の小さな物体が2匹出てきた。
それにすぐさまイチヤは、察知して戦闘態勢に入り、背中の槍を構えた。
「おっと、スライムだ。シグ!俺たちの初共闘と行こうじゃないか。シグは、そもそも初戦闘ってことになるか。」
戦闘に、心が奮い立っているイチヤに対して、シグは質問をする。
「ちなみに、武器はどうすれば貰えるんだ?」
「そっか、そっからか⋯⋯。えっと、ウィンドウを開いて、アイテムってところに、銃だったらノーマルガンみたいなのがある。それを召喚すればいい。」
イチヤがシグに武器の出し方を教えている最中、スライムはイチヤに対して口から水を噴射した。
それを槍で防ぎながらイチヤは答えた。
シグは、言われた通りにウィンドウを開いて、アイテム欄から《ノーマルガン》と書いてあるものを召喚した。
するとシグの前に魔法陣が現れ、顔ひとつサイズのマグナムが出てきた。
それをシグは、右手で取る。
(重量感もリアル感も申し分ないな。あとは射撃か。)
銃の召喚に成功させて、銃を手に取ったシグを見て、イチヤは言い放った。
「シグ!もう1匹のスライムを頼んだ!」
イチヤは、1匹のスライムによる水の噴射を受けている。
シグは、その銃をもう1匹のスライムに向かって構えた。
スライムは、ぴょんぴょん跳ねている。
(さて、このゲームの初射撃と行きますか。)
シグは、右手の人差し指で引き金を引いた。
シグの持つ銃は、引き金が引かれると同時に銃口に魔法陣を出現させて一発の弾丸を放った。
その弾丸は、跳ね始めようとしたスライムのど真ん中に命中した。
スライムは、花火のような消滅の演出を見せて、跡形もなく消え去った。
(このゲーム良いかもしれない。腕に来るこの銃の反動、銃声の響き、全部俺好みすぎる。気持ちイイイイイ。もっと撃ちたい。)
シグの顔には、快感が溢れている。
シグ・ザウエル、本名詩草冴斗は、マジの銃好きであり銃オタクである。
そして、シグ・ザウエル、本名詩草冴斗は、銃を撃つことに快感を持っている。
スライムを片付けたのか、イチヤは、槍を背中に戻し、シグに駆け寄った。
「おい、見てたぞ、シグ!!1発で当てたな。魔法銃分からないが、普通にすごいんじゃないか?」
「イチヤ、ヤベェ。『isekai』ハマったかもしれない⋯⋯。」
この時からイチヤは、シグの顔を見て気づいていた。
(こいつそっち系か⋯⋯。)