ツィー・ツィー
コーヒーのマークが書かれた看板が玄関にかかっている喫茶店。
カウンター席が8席、テーブル席が全部で20席。
中には、机、カウンターにポツポツとプレイヤーが座っている。
シグとツィー・ツィーは、そんな中空いていたカウンター席に座った。
カウンター内では、耳が長いいわゆるエルフの見た目をしたNPCがコーヒーを入れていた。
このゲームでは、元々ゲームとしてあるNPCの店とプレイヤーが開いた店が存在する。
ツィー・ツィーは、行きつけな店な為にメニューも見ず、オリジナルコーヒーを頼んだ。
すると、NPCが現実の店員のようにツィー・ツィーへ視線を向けて、「分かりました。」と答えた。
そして、NPCはあなたは?というような目でシグの方を向いてくる。
なのでシグは、「同じので。」と言った。
シグは、そのNPCの動作のリアル感に少し気味の悪さを覚える。
「とりあえず挨拶からだな。ツィー・ツィーだ。みんなには呼びにくいからってツーツーって呼ばれてる。まぁ呼び方はなんでもいい。」
突然、自己紹介から始めてきたツィー・ツィーに少しビクッとしたシグも、自己紹介を返した。
「えっと、言ったと思うけどシグ・ザウエルです。高校2年生。それくらいっすね。」
敬語が苦手なシグは相手が歳上に見えたために、戦闘の時とは違い少し固くなる。
言葉的にはすごくおかしいが一応シグにとってはこれが敬語なのだ。
固くなっている事を悟ったツィー・ツィーは右手を振りながら、「敬語じゃなくていいわ。まじで、やめてくれ。」と頑なに言い張った。
「でも、お前高二なのか。3つ下になるのか……。俺も老けたな。」
少し笑いながらそう話すツィー・ツィーにシグは若干緊張が取れた。
「それで、シグ。なんか聞きたいことがあるって言ってたけど、なんなんだ?なんでも答えるよ。」
少し緊張を取ったと思えたツィー・ツィーは、本題に入った。
「強くなる方法教えてくれねえか?正直、あのアイテムがなかったらツィー・ツィーさんにもフルボッコにされてたし、結果59位だったし。」
(あーね、そういうことか。こいつはまじの初心者で、銃の実力だけで59位という相当すごい順位を取ったバケモンでありながら、それが規格外なことも気づいていない。しかも悔しんでいるのか。)
「レベル上げやな。お前のその腕はもう神がかってる。それは俺がいちばん知ってる。」
「レベル上げかァ……。」
(シグも結構悔しんでるけど、どちらかというと俺の方がしんどいんだよな。レベル72に負けたのか。)
レベルが大差あるプレイヤーに負けたことをツィー・ツィーのプライドが許していなかった。
そんな中、シグとツィー・ツィーの前に、湯気が出ているふたつのオリジナルコーヒーが置かれる。
シグはそれを取って、あまり好きでは無いコーヒーに口をつけた。
そのコーヒーはほんのり苦く感じたが美味しかった。
このゲームにおいての、飲食は現実の体に対して食べたことにはならないが、味だけは脳を伝って楽しむことが出来る。
どれだけ食べてもなんの変化もないために、食べるためにこのゲームを始める人もいる。
「そうだ。それで、ツィー・ツィーさんの要件は?」
少し会話が途絶えたところでシグが、思い出してそう話を切り出した。
「ああー、俺の要件は……シグ・ザウエル、俺とギルドを作らないか??」
「ギルド?」
「そう、ギルドだ。」
「ギルドって主にどんなことをするんだ?」
「ギルドがどんなことをするねぇ。難しいな。とりあえず一つだけ言えるとするなら、お前が絶対ハマるギルド対抗戦に出られる。ギルド対抗戦はこのゲーム随一の醍醐味だ。」
シグの心は、随一の醍醐味と聞いた瞬間、踊ってしまった。
「楽しそうだなギルド。やりてえ。」
「まじ??一緒にやってくれるか?」
「あぁ。やろう!!ギルド。」
そして、シグとツィー・ツィーは具体的なギルド設立について話して、喫茶店を出た。
ギルド設立には、5人以上のギルドメンバーが必要ということでシグは、レベル上げと同時に仲間集めをすることになった。
―――――
【繁栄の都市エディン・エレン】の西にドスンと構える大きな建物。
現日本サーバー内ギルドランク10位。ギルド【陰陽旅団】のギルドホーム。
「おい。ツーツー、ほんとに辞めんのか?」
「辞めるわ。もっと面白いことを見っけた。」
「まぁ、めっちゃ貢献してくれたし良いよ。でも、フレンドではいような。」
「あぁ。呼んでくれれば全然会いに行くよ。」
そうして、剣を2本持った男は10人くらいの人にお見送られながら、ギルドを去った。