繁栄の都市エディン・エレン
「要件って?」
シグは、イチヤに聞き返す。
「一緒に、【繁栄の都市エディン・エレン】に行かないか?」
「エディン・エレン……。」
聞いたこともないカタカナの語が耳に残ったので、シグは繰り返しつぶやく。
(新しい街か……。)
イチヤは、検討しているシグを見て、【繁栄の都市エディン・エレン】の良さについて語り始める。
「シグ。フレンド欄からお前のプロフィール見たが、レベル70代だろ?なら中級者が集まるエディン・エレンに行こうぜ。なんでもあるぞ。」
(正直、この街にずっといる理由はない。でも、この街結構雰囲気が好きなんだよな。この中世の感じとか。)
シグは、ちょっとした迷いを決断に繋げるため、イチヤに【繁栄の都市エディン・エレン】の良さを聞く。
「ちなみに、どんな感じなんだ?エディン・エレンは。」
「まず、規模が違う。この始まりの街を本拠地にしてるプレイヤーの30倍のプレイヤーがいる。そして、プレイヤーがプレイヤーに直接アイテムを売れるマーケット市場とか、クエストを受注できる職業連合、後はPvP闘技場とかなんでもあるんだ。」
(30倍、マーケット、PvP凄そうだな。)
シグは、イチヤの説得に押されて、【繁栄の都市エディン・エレン】に行くことを決意した。
【繁栄の街エディン・エレン】は、遠いために、NPCによって動かされる馬車に乗る。
シグはイチヤと、獣の耳をつけた獣人のNPCが馬を操る黒い馬車に乗って、約1週間お世話になった【始まりの街ヴェネラ】を後にした。
【繁栄の都市エディン・エレン】までは、1時間かかる。
(速いな。)
シグは、思ってたよりも馬車の速度が早いことに少し違和感を感じた。シグが知っている漫画やアニメの馬車より断然に速い。車の速さくらいな馬車には、本当に違和感しか感じなかった。
(まぁ、ゲームの仕様ってやつだな……。)
馬車の中は、対面に2人ずつ座れるような4人分の席があるが、4人いると少し窮屈と感じるような大きさで、周りはガラスでできていて景色が見えるようになっている。
シグとイチヤは、1時間という馬車での時間において、ずっと会話をしていた。
シグの白撃竜撃破の話や、お互いの現実においての学校生活などだ。
話の中でシグは興味深い話をイチヤから聞く。
シグが驚いたのは、イチヤが現実において彼女がいるという突然と申告された事実についてだ。
「そう。彼女いるんですよ。俺。」
少し笑いながら話すイチヤに、彼女がいないシグは嫉妬と興味が湧く。
「まじかよ。まぁ見た感じ結構イチヤイケメンだもんな。顔整ってるし。でも、ウザイな。リア充死ねって感じ。」
「まぁ、どんまいシグ。俺の勝ちだ……。」
上から目線で、イチヤはニコニコでシグにそう告げる。
(このクソが。まぁ負けたことに変わりはないけどな。)
「ちなみに、どこまでやったんだ??その彼女さんとは。」
「どうだと思う?」
「知らねーよ。言えや。」
高校生男にありがちな質問に対してニコニコしながら、聞き返してきたイチヤに多少腹がたち、言葉が悪くなるシグ。
結局のところ、青春をする高校生と言うだけあってイチヤのこの彼女がいるという話が二人の中で1番盛りあがった。
恋バナが終わると、イチヤはシグに聞く。
「そうだ!シグってさ【ガンライズ】実力的に結構上のランカーだったと思うんだけどさ。何位ぐらいだったんだ?気になってたんだよね。」
トップランカーだったということだけ知っていたイチヤは、能天気にそう聞いた。
「あー。世界1位っす。ちなみに、2年間のシングルプレイの大会全部ね。」
「あっ……。え??まじ?!?!」
イチヤは、何においてもすごいとされる1位という単語に驚きが隠せない。
「そう。1位。すごいっしょ。」
(まぁでも、あのエイムはただのプロじゃ無理だよな。でもやっぱこいつすごいやつなんだよな、多分。)
シグと初めて会った時の200メートルからのスライム射撃、がイチヤの脳内で再生された。
「いやーやっぱお前すごいな。ちなみに賞金とか貰えたのか?」
「貰えた貰えた。全大会合わせて1億くらいかな?確か。」
「へ?」
イチヤは、1億という本来ならば聞かない数字に、驚きを超えて頭が追いつかない。
「あのさシグ。俺ら友達だよな?」
イチヤは、少し笑いながらそうネタを言った。
宝くじに当たった友達に言うアレである。
「それ、クラスみんなに言われたわ。」
シグは、笑いながらそう返した。
そんなふうに笑いに満ちた話をしていた2人を乗せる馬車は、【繁栄の都市エディン・エレン】に着いた。
2人は、馬車をおりる。
降りた途端、目に飛び込んできたのは、街全体がアートのような街だった。
2人は、その街に見とれて10秒ほど足が動かない。
縦横に綺麗な音を立てる水路。
ビル5階くらいに高さが統一された、洋風な建物。
前に見える円状の道路の真ん中にある特大大きな噴水。
人で埋め尽くされている、綺麗に整備された大きな道路。
奥にそびえ立つ大きな宮殿。
どこを見ても完璧な街だった。




