フルダイブゲームはフルダイブから⋯⋯
2050年。
近年、世界的に流行っているものがある。
それは、フルダイブ型のオープンワールドゲームだ。
数あるフルダイブ型オープンワールドゲームの中でも特に世界で流行しているゲームである、中国の有名ゲーム企業と日本の有名ゲーム企業が共同開発した『isekai』は、プレイ人口1億人を軽く超えている。
夜中12時30分。
詩草冴斗は4年間毎日やり続けているフルダイブ型FPSゲーム『ガンライズ』の公式ホームページを見ていた。
その公式ホームページには、大きくサービス終了の文字が書かれている。
『ガンライズ』は、2,3年前は絶大と言っても過言ではない程の人気があった。
フルダイブ型のバトルロイヤルという男心をくすぐるようなそのゲームは本当に人気があった。
しかし、1年前『isekai』というゲームがこの世の中にリリースされた。
このゲームは、グラフィックやリアル感、ワールドの広大さなど全てが他のフルダイブ型ゲームに圧倒していた。
なので『ガンライズ』のプレイヤーが『isekai』に流れてしまったのである。
それが原因でプレイ人口が減り、サービス終了とまでなってしまった。
「俺のガンライズ人生ももう終わりか……。」
冴斗の心には、不思議と悲しさはあまり無かった。むしろ自分の人生を楽しくしてくれたという感謝というものがあった。
そして冴斗は、『isekai』に対する嫌悪感も抱いていた。
その嫌悪感は、『ガンライズ』のプレイ人口を奪うようなゲームは、どんなゲームなんだろうという好奇心であった。
なので冴斗は、『isekai』をプレイしてみることにした。
フルダイブ型ゲームをプレイするには、ヘッドギアの装着と、黒いことからブラックスーツと呼ばれる特定の服の着用が必要になる。
この2つをすることによって脳と体をゲームが操れるようになるのだ。
『――装着完了――脳と体とのリンクをスタートします……』
『リンク完了……』
『ゲームisekaiのサーバーに接続中……』
『接続完了……』
『ゲームスタート……』
冴斗が目を開いた時。
幻想的な場所に立っていた。
ただその場所がどこかというのは、周りを見渡すことにより答えが出た。
雲の上だった。
そう雲の上。
雲の下には広大なマップが広がっていた。
この時、冴斗はこの幻想的な場所への驚きとは別にもう一つだけ驚きがあった。
それはリアルさであった。
リアルさというのも、呼吸、心拍など細かい部分まで現実と変わらなかったということだ。
『ガンライズ』には無いこのリアルさに冴斗は驚きを隠せなかった。
しばらくして目の前に神様らしき影が現れた。
その神様は、冴斗に言葉を放った。
「『isekai』へようこそ……。」
そう。この現状を語るならば、異世界系のラノベが好きな人が見飽きているような展開と説明が着くだろう。
転生した主人公が初めに体験するアレである。
おそらくこのゲームの製作者もそれを再現したのだろう。
次に神様はこう話した。
「ユーザーネームとニックネームを決めてください。」
二言目を聞いて、神様の声はあの人気声優だと冴斗は気づく。
「ユーザーネームとニックネームねぇ。」
冴斗は、右手の親指と人差し指で、探偵が推理する時のように顎をつまんで考えた。
冴斗の前には、タッチパネルがあり、ユーザーネームとニックネームをうてるようになっていた。
《【ユーザーネーム】SIG552》
《【ニックネーム】シグ・ザウエル》
冴斗は昔からゲームの名前は、名字が詩草であることと、好きな銃の名前がシグ・ザウエルであることからシグという名前を使っている。
ただこのゲームはニックネームに、異世界系ライトノベルのようにしたいがためか・が着いているため、名字はそのままザウエルにすることにした。
そして、タッチパネルの右下にある決定ボタンをタップした。
すると画面が切り替わった。
そこには《武器選択》とあった。
様々な武器の名前が、見本の写真と一緒に選択肢として映し出されていた。
(考えていなかったな……。武器を選ぶのか。)
《片手剣,両手剣,斧,槍,杖,大盾,短剣,弓,刀,手甲,魔法銃,双剣,剣盾⋯⋯》
様々な種類ある武器だったが、シグは考えてもいなかったのに対し迷いもなくある武器を選んだ。
魔法銃。
長年バトルロイヤルをやってきて、名前も銃の名前であるシグは、その選択肢しかなかった。
武器の選択が完了すると、タッチパネルが消えて、神様が話し始めた。
「登録完了。良き冒険を、良き『isekai』ライフを。」
神は、光のつぶてとなってシグの前から消える。
推測としてここでワープが入って雲の下に広がるマップに足をつけるはずなのだが、そのような気配はなかった。
すると、シグがたたずむ雲が少しづつ薄れていった。
シグは非常に嫌な予感がした。
「ちょっと待て!!まさかァァ、!!」
2秒後には、思った通りになった。
フルダイブゲームの雲からフルダイブをかましたのだ。
現実のスカイダイビングのように、心臓が浮いたような感覚と、猛烈な風圧にあう。
時速200キロといわれる速度で大地に向かって落ちていった。
ゲームとはいえど、気持ち悪さを感じた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
「死ぬゥゥゥゥゥ!!!!!」
大地からビル1つ分くらいの距離に至った時、落下の加速は止まり、体が浮遊した。
大地に頭から突っ込むと想像していたシグだったが、ゲームのシナリオが彼を救ったようだ。
「飛○石持ってなくて、焦ったわ!!シナリオ書いた人さんよォォォ!!」
シグの『isekai』ライフは、ゲームシナリオの著者への怒りから始まるのだった。