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第90話 イオナの街に旅立とう

 翌朝、まだ多くの馬車が行き交う時間にシルビアさんが、宿屋に迎えに来てくれた。


 「昨日は、馳走になったな。楽しい話も聞けて面白かったぞ。」


 「そう言って頂けるのは、有難いことです。今日はシルビアさんだけですか?」


 「なんだ、マリーに会いたかったか?」


 「いえ、そう言う訳ではなく、他の騎士の方はいないのかと。」


 「なんだ、マリーが聞いたら、悲しむぞ。それと今日は他の騎士はいない。ちょっとこれから、忙しくなるのでな。」


 シルビアさんは、最初の方は揶揄うように楽し気に、後半は陰鬱な表情を浮かべて、そう言った。

 どうやら、人攫い事件を起こした子爵は大人しく首を差し出さなかったようだな。

 それで、一悶着あるのだろう。

 でも、公爵家の手勢と子爵家の手勢では多勢に無勢のような気がするが、子爵家は援軍の算段でもあるのか?

 貴族同士の話に下手に話を聞いて関わることになるのもあれなので、そこには触れずにおく。

 俺達も、馬車と騎馬に分乗して、シルビアさんを先頭に貴族の出入り口の東門へと向かう。


 今日は俺たち以外、馬車や馬は見られない。

 今回は、スムーズに門を出ることが出来そうだ。

 そう思っていると、貴族街の方から一台の箱馬車が東門へと向かって来た。

 あれ、あっちの馬車の方が速いな。

 向こうの手続きが早く済めばいいなと思っていると、シルビアさんが馬車の御者台に脚竜を寄せて来た。

 ただ、馬を驚かさないよう距離はかなり取ってくれている。


 「ああ、あれは我が家の馬車だ。すまんがあれが止まったら、横付けしてくれぬか。」


 そして、シルビアさんはそう言ってきた。

 

 「わかりました。」


 馬車で来るなんて、なんだろう。

 向こうの御者台を見ると確かに、シルビアさんのお兄さんが馬車を操っていた。 

 俺は言われたとおり、向こうの馬車が停まったのを確認し、そこへ横付けする。

 大分馬車の扱いも上手くなったな。

 俺は御者台にいるお兄さんに頭を下げる。向こうも、こちらの挨拶に気付き、会釈をする。


 俺が馬車を寄せ、停まると向こうの馬車の扉が開く、中からマリーさんが出て来た。


 「間に合ったようですね。お兄様お忙しいところ、ありがとうございました。」


 マリーさんは御者を務めたお兄さんにそうお礼を言うと、俺達の馬車に近づいて来た。


 「ギリーさん、おはようございます。」


 「おはよう。マリーさん。何かあったのか?」


 俺は心配して、そう聞く。


 「いいえ、しばらくはもう私のパンを口にして貰えないと思いまして、今日も作ってきました。お昼にでも食べて頂きたく、お持ちしました。」


 そう言って、脇に抱えていたバスケットを俺に差し出す。


 「ありがとう。朝早くから作ってくれたのだろ?ありがとう、あとでゆっくり食べさせて貰うよ。」


 俺もそう言って、バスケットを受け取る。

 本当に作ったばかりなのだろう。

 まだ、温かく、よい香りもする。


 「これからも頑張って、パン作りを続けてギリーさんを驚かせるような、美味しいパンを作くれるよう頑張ってみますわ。」


 「ああ、楽しみにしているよ。」


 「ええ、それとつまらない未来しか考えられなかった私に、新たな道筋を作って頂きありがとうございます。可能性を広げて頂いたギリーさんのためにも、私も自分が納得できるよう生きてみせますわ。」


 「おう、マリーさんが幸せに生きてくれるとうれしいからな。頑張れよ。」


 「はい。」


 マリーさんはそう返事をするとニッコリ笑った。


 「マリー、すまないが、そろそろ私も仕事に行かないと行けないんだ。」


 マリーさんのお兄さんがそう声を掛ける。


 「はい。では、ギリーさん、また会えることを楽しみにしていますね。」


 お兄さんに返事をすると、俺にそう言って踵を返して、馬車に乗り込む。

 そして、馬車の扉を閉める前に手を振ってくれた。


 こちらも馬車の中にいたティアとディート、リアが顔を出して手を振って別れの挨拶をする。

 また、馬上のパルマとミサもマリーさんから見える位置に馬を動かし、手を振って別れの声を掛けた。

 やがて、馬車の扉が締められると、マリーさんを乗せた箱馬車は、元来た道を戻って行く。

 俺達はそれが見えなくなるまで、見送る。


 「では、手続きも終わったので、町の外、私はそう少し途中まで送ろう。」


 シルビアさんはマリーさんと話をしている間に手続きを済ましてくれたようで、マリーさんが乗った馬車が見えなくなったのを確認してから、俺達にそう声を掛けてくれた。


 「ありがとうございます。もう少し、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。」


 俺がそう言うと、馬車と騎馬で隊列を組み、俺達は東門から街の外へ向かう。

 前回は、怪しい馬車を追っての移動であったが、今回は王都を経由せずにイオナの街へ向かう進路を取る。

 俺は移動中に、何度か一応探査のスキルを使うが、特に怪しい反応はなかった。

 やがて、王都へ通じる道とイオナの街がある方向へ通じる道への分岐に差し掛かる。

 先導してくれていたシルビアさんが、声を掛けて来た。


 「すまないが、見送りはここまでにさせて貰う。」


 「はい。出会いはあれでしたけれど、ここまでの道中、いろいろとありがとうございました。」

 

 「確かに色々あったな。お陰ですいぶん助かったぞ。」


 「そう言って頂けると、依頼を受けた甲斐がありますよ。それに懐も暖かにさせていただきました。」


 「うむ。こちらもマリーにいろいろして貰ってありがとう。最近、貴族への嫁入りのための話などが出て、元気がなかったのが、今ではすっかり、以前の、いや、以前以上の元気を取り戻したのを私や家族も嬉しく思っているぞ。その件も本当にありがとう。」


 シルビアさんはそう言って、頭を下げると、道を外れて、俺達に道を譲る。


 「では、シルビアさんも気を付けて、ご健勝にお過ごしください。」


 俺達は追い越す際に、俺はそう声を掛け、他のみんなもそれぞれ声を掛ける。


 「では、道中の無事を祈る。」


 シルビアさんも最後に俺達にそう声を掛けて、見送ってくれた。

 さて、思ったより時間をくってしまったが、さっさとイオナの街に戻るとするか。

 イオナでも公爵領都での出店の話も進めないとだしな。

 あと、途中までになっていた習得も終わらせないといけないな。

 こっちの世界に来てから、何だかんだで、いろいろやることが増えてきたよな。

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