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第89話 送別会に出席しよう

 翌日からは、餡子の作り方を教えるため、俺達の宿でなく、マリーさんのお宅に伺うことにする。

 宿では火を使うとなると携帯用の魔導調理具を使って作ることになるので、それは不便なので、マリーさんのお宅でとなった。

 最初は、そこに公爵家も、この餡子の作り方とその他のパン類レシピを知りたいので一緒にと言ってきたが、そこはマリーさんに個別に教えて貰うようにお話しした。

 そうしないとレシピの配分金とか、面倒になるからな。


 「本当に公爵家へのレシピの譲渡の取り分をすべて、私にと言うことでいいのですか?」


 「ああ、今回の公爵領への店の出店が現実になれば、両方の料理が料理人によって、さらに洗練されて、そこで食べれるようになるからな。面倒な調理をせずに街で食べることが出来るようになれば、俺達にもメリットがあるんだ。そのための資金にもなる訳だし、気にするな。」


 「ギリーさん達が納得してくれるのでしたら、いいのですけど、私としたら、いろいろと便宜を図って頂きすぎているような気がします。」


 「そこは、先程の言葉どおり、見方次第だよ。俺達とマリーさんだけで見れば、マリーさんの言うとおりかもしれないが、だが、そこにお互いの都市で共通のメニューがある店が出来れば、冒険者として移動する俺達にはありがたいことになるんだよ。」


 「うーん。」


 俺に話を聞いても、いまいち納得できないような顔でそう言って黙り込む。

 そうだよな。この街から出たことがない人には、いまいち納得できないかもだな。

 まぁ、とりあえず、餡子の作り方を教えて、揚げパンやピロシキ風の包み揚げに入れた物を作って貰う。

 餡ドーナッツや揚げあんまん風の食べ物になる。ほんのり甘くて洋風の菓子にない味で美味しい。 

 うん、普通のあんまんや普通あんパンでも食べたくなるま。

 蒸すという文化はこの辺りには、ないようなので普通のパンに包んでもおいしそうな味だねと付け加えておく。

 ただ、この世界のパンはミルクや砂糖を入れないで作るから、もっさりしているパンなので、素朴な味ではあるが、あんパンにして合うのかな?

 というか、パンにミルクや砂糖を加えるパンが主流なのって地球でも日本だけだったらしいから、あまりミルクや砂糖を入れるという助言はおかしいから、しないでこくよ。

 まぁ、今のままだと、パサついてうまくなさそうだけどいいか。たまには、助言が失敗するのもいいし、マリーさんが上手くアレンジして作り直せれば、上達にもつながるしね。


 家にいたマリーさんのお母様に味見をして貰い、貴族の砂糖たっぷりのお菓子よりは食べやすくおいしいと評価を頂いた。

 そう言えば、公爵家で食べた焼き菓子もドライフルーツが練り込まれていて食べやすかったな。

 そんな話意をしたら、恐らくは公爵閣下が、シルビアさんとマリーさんのために二人の好きな菓子を用意していたのだと、マリーさんが教えてくれた。

 俺達が公爵邸から退出した後、マリーさん達も味わったらしい。

 普段のパーティーでは、公爵家でもかなり甘めのお菓子が出るそうだ。

 高価な物をたくさん使って出すのが贅沢というのが、王都やこの辺りの貴族のパーティーマナーらしい。

 なので、パーティーでは味が二の次になってしまうことがあるようだ。 

 

 試食が終わり、何気ない話をしていると、マリーさんが意を決したように、明日送別会を開きたいので、また来てくれないかと話しかけてくれた。

 俺達は特に用もないので、その誘いを喜んで受けることにした。

 ただ、せっかくだから、変わった料理を味わって貰おうと、料理を作るのは俺達に任せて欲しいと頼み出たのだった。

 マリーさんもマリーのお母さんも、その申し出には驚いて、さすがにそれは悪いのではと断ろうとしていたが、半ば強引に俺達が作るのを納得させたのだった。

 ただ、パン類はマリーさんが作らせて欲しいと言われたので、そこは了承することにすることにした。 




 次の日は、約束どおり、送別会と称した食事会の料理を振舞うことにする。

 今日はシルビアさんは、騎士団の仕事で出ているので、マリーさんとマリーさんのお母さんと少し今日の挨拶をした後、少し話をして過ごす。

 私達が来るまでにすでにマリーさんはパンを作り終えていたようだ。

 マリーさんの作ったパンを食べられるのも、明日の出立は早いし、たぶん今回が最後だろうしな。

 だいぶ、パン作りも上達しているし、もし今度会えれば、かなり楽しみパンが作れるようになっているだろう。


 今回は試食といったイベントもないので、マリーさん達と何気ない話をして過ごす。

 本当に話を聞いていると、マリーさんは若いながらいろいろ考えているしっかり者だというのがわかる。

 そんな話も一段落して、いい時間になったので、調理場に向かうことにする。

 マリーさんが案内を買って出てくれたので、そこはお願いする。人の家を俺達だけで移動するのは、場所は知っていてもなにか落ち着かないからね。

 さすがに、この辺のレシピまでただで教えることはできないので、調理場を借りて俺達で作ることにする。

     

 「せっかくの送別会なのに、ギリーさん達が作るのって変ではないでしょうか?」


 マリーさんが俺達を一応案内しながら、そう言ってきた。


 「ははは、そうだけど、マリーさんだって、珍しい美味しい料理を食べたいだろ。」


 「そうですけど、やはり主賓に料理をさせるのはどうかと思いますわ。普段の見栄比べのパーティーメニューではなく、ちゃんと味優先の料理に致しますわよ。」


 マリーさんは、昨日話していた味が二の次の料理が出るのを俺達が心配して、申し出たのかと思ったのだろうか、そう言ってくれた。


 「ギリーは私達が作ったこの辺りに無い料理を食べて貰いたいという我儘で申し出ただけですので、どうかお気になさらずに。」


 ディートが俺をフォローするように、そう言ってくれた。

 フォローというかディートの本心な気がしなくもないが、まぁ、いいだろう。


 「そういうこと、出来上がりを楽しみにしてて欲しい。」


 「はぁ、わかりました。お任せしますわ。」


 マリーさんは、諦めたようにそう言うと、後は俺達に任せて退出する。

 確かに、昨日、招いてくれた時に俺達が作るといった時も揉めたが、やはり俺が考えても、やはりこれは変だよなと思いつつ、調理に取り掛かった。

 今までも作ったことがあるいくつかの料理を、俺達は適当に分担して作って行く。


 食事は、いちおう貴族となので肉をメインに構成する。

 あとはスパニッシュスプリングロールや中華スープなどを用意する。

 この辺は、侯爵家でも評価を頂いた料理を中心に作ったから大丈夫だろう。

 再び、マリー様達と、男爵様やご子息様、シルビアさんが戻って来るのを待つ。

 やがて、皆さんが揃ったところで、食事をすることにする。


 男爵様の乾杯の挨拶の後、酒に口を付け、食事に入る。

 日本の宴会のように挨拶をしまくったりはしなようなので、その辺は助かる。

 まぁ、挨拶があれば、事前に考えるように言われていただろうけど、どうも、挨拶は苦手だったな。

 給仕もいない食事会なので、料理は初めから全部テーブルに並べられている。


 マリーさんは、興味深そうにそれぞれを熱心に眺め見ながら、味わうように食べている。

 本当に研究熱心だな。

 男爵とご子息は、冒険者である俺がこんな料理を作れるのにしきりに驚いていた。

 俺は、いつもの両親の話をして、料理の腕については誤魔化す。

 冒険者として各地の料理に詳しくなってと言われれば、冒険者のことなど詳しくわからないだろうし、それに納得するしかないだろうしな。

 

 また、男爵様は、マリーさんのパンについても、日に日にうまくなっていると、手放しで褒めていた。

 その辺は、本当でもあるが、親としての子供可愛さの心情もあっての評価なのだろう。

 男爵家の皆さんも男爵様に同意するように、マリーさんを褒めたたえる。


 「もっと頑張って、腕を磨いて、この街一番の店をつくって見せるわ。」


 マリーさんは、みんなの誉め言葉を聞いて、そう答える。

 公爵閣下からの出店のお許しが出たのが嬉しいのだろう。

 俺も、イオナに戻ったら、この街への出店の話をしっかり、まとめないとだな。


 肉料理も美味しいと褒められたが、卵を春巻きに巻いてあげたスパニッシュスプリングロールのパリッとした衣の食感から、半熟のスクランブルエッグの柔らかなくり触りが気に入って貰えたようであった。

 中にチーズを入れてさらにアクセントをつけたものも喜ばれた。

 そして最後にあらためて、俺達の旅の無事をシルビアさんに願われて、美味しい料理とパンでの食事会は無事に終わった。


 そして、帰る際の見送りの時に、マリーさんから貸した金貨2枚が手渡された。


 「おじさまから、パンのレシピを教えるためのお金を、前借いたしましたの。お返ししますわ。」


 公爵閣下もマリーさんには、おじさまか。

 俺は受け取った金貨をマリーさんに返して、こう言った。


 「まだ、店を出す際の共同での出資になるが、それでも資金や料理の研究でいろいろ入用になるだろう。まだ、預けてくよ。今度店が出来て、食べ日来た時返して貰うさ。その時までしっかり稼いでいくといい。」


 「わかりました。今度会う時は、ギリーさんに完璧に納得いただけるパンを作って見せますわ。その時は金も、利子を付けて返して見せますわ。」


 マリーさんは、俺の言葉を聞いて、金貨を受け取ると、力強くそう宣言した。


 「ああ、楽しみにしている。」


 そう言って、今日のところは別れることになった。

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