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第88話 公爵閣下と交渉をしよう

 「すまなかったな。ギリー殿。実は、私とマリーも本日は別件で公爵閣下に呼ばれていたのだ。」


 シルビアさんが申し訳なさそうにそう言う。

 あー、だから、昨日マリーさんを誘った時少し困った顔をして、シルビアさんに確認してたんだ。

 それと、マリーさんもこのことを知っていたか、こうなることを察していたのだろう。


 「いえ、こちらも確認せず。いきなり誘ってしまったのですから、申し訳ありません。」


 俺も毎日、俺達の宿に来てたから、誘っても問題ないだろうと軽く誘ってしまったから、素直に謝る。


 「こんなことがあるとは知らず、いつものようにシルビア達を呼ぶよう命じてしまっていたのだ。それで、カルステルとの話と言うことであったが、儂もこの席にお邪魔させて貰ったのだよ。」


 公爵閣下は、そうここにいる理由を追加で説明してくれた。

 たまたま重なったようなことになっているけど、この辺はカルステルさんが調整したんだろうなということで流すことにする。

 偉い人達には逆らう必要がない時には、逆らわないのだよ。


 「いえ、公爵閣下も同席して頂けるのは喜ばしいことです。ぜひ私どもの提案を聞いていただければと思います。」


 俺は公爵閣下の言葉を受けて、そう言うと頭を下げる。


 「ほう、いいだろう。話すがよい。」


 公爵閣下は俺の言葉を聞いて、そう続きを話すように促した。

 そこで、俺は改めて、この公爵領での出店計画について説明をする。


 「うむ、オーベルマイヤー侯爵から王都でも菓子を振舞われたので、あの菓子の味はわかっている。

 是非とも、我が領都でも食べられるようになるのであるなら、嬉しいことであるし、儂の妻子も喜ぶであろう。

 ただ、マリーの作ったパンがその交渉に見合う物になるのか?そこが気になるところではあるな。その辺が納得できるものなら、そなたらにオーベルマイヤー侯爵との交渉を任せても良いと思う。」


 「では、もしよろしければ、マリーさんに用意して貰いましたので、実際に食べて見て頂ければと思います。」


 今日は執事長のカルステルさん相手のつもりだったので、試作品を持って来て貰うようにマリーさんに頼んだが、公爵閣下は貴族だけど、親戚の子の料理なら、食べて貰っても問題ないだろう。

 そう考えて、そう提案する。


 「うむ、マリーの作る菓子を食べられるとはな。是非ともお願いしてよろしいかな。カルステルよ、構わぬな。」


 「はい、今日は私人としての席です。よろしいでしょう。」


 公爵閣下の問いに、カルステルさんはそう言って許可を出す。

 俺との面会は、本来同席予定がなかったから、私人扱いなのか?

 まぁ、自分の家だから、その辺はある程度自由なのだろう。


 それを聞いて、マリーさんは緊張気味に揚げパンをいく種類か取り出す。

 カルステルさんはそれを受け取ると、一旦席を外した。

 そして、数名の給仕と共に再び戻てくると、いくつかの皿に切り分けられたパンが取り分けられ、並べられていた。

 そして、それぞれの前に皿と共に、お茶も一緒に置かれた。


 「では、どうぞ。」


 カルステルさんはそう言って、試食を勧めてきた。


 「あ、俺達は良いので、感想は多い方がよいと思いますので、カルステルさんと先程の給仕さん達も味わっていただければと思います。」


 そこで、俺はそう提案した。

 カルステルさんは、それを聞いて困ったような顔をしていたが、公爵が俺の言葉に同意してくれたので、別室でであるがカルステルさん達はマリーさんのパンを食べることになった。

 替わりに俺達にはこの辺の焼き菓子が供された。

 よかった、なんかリア達は食べるつもりでいたみたいで、辞退した時になんか殺気を感じたからな。

 これで許されただろう。許されてるよね。


 俺達は、みんなの試食の間に、頂いた焼き菓子を摘まむ。

 いかにも素朴な焼き菓子であるが、甘酸っぱいドライフルーツが練り込まれている。

 クランベリーのような感じのフルーツだ。

 そういえばイチジクのようなドライフルーツも市場で売っていたけど、クッキーのような焼き菓子に練り込むならあれは甘するかもだし、これくらいの甘みのほうが菓子に練り込むにはいいか。


 公爵閣下はマリーさん達と、試食用のパンを食べている。

 最初はかわいいマリーさんの作った料理といえど、公爵閣下も初めて見るパンに恐る恐るといった感じで口に運んでいた。

 だが、しっかりと味の付いたパンに気に入ったようで、顔をほころばせながら、口に運んでいる。

 そして、別室で食べているのであろう、給仕たちの美味しいという声も思わず聞こえて来た。

 本当は、公爵閣下はそれ叱責をしなければならないのでが、マリーさんの作ったパンの美味しいという素直な感想で盛り上がっているためか、特に騒ぎ立てずにいてくれたようだ。

 また、マリーさんも初めは緊張していたが、公爵閣下や給仕らの反応を見聞きし、自信を深めたようだった。

 

 公爵閣下の試食が終わり、カルステルさん達からの感想も公爵閣下へ伝えられる。

 それを聞いて、公爵閣下は自分の舌の評価と合わせて判断したようだ。


 「うむ、これならここに店を出す際の交換条件の一部になら、十分であろう。少々見合わない所はあるが、その辺は考えよう。ギリー殿、話を進めて貰ってよいかな。」


 「わかりました。必ず満足いく回答をお伝えします。それと、ついでにと言いましょうか。少々お願いもありますので、私の作った物も一品アイテムに加えて頂ければと思います。」


 「頼んだぞ。儂もオーベルマイヤー侯爵に手紙を送っておこう。して、その一品とやらに興味があるな。それと頼みとはなんだ?」


 「手紙の一件はお願いします。その一品は今回はその中身だけお持ちしました。これを揚げパンの中に混ぜたり、今回はお持ちしておりませんが平焼きパンに包み込んだりして食べて頂ければと思います。今回は昨日作らせていただきました菓子に挟み込んで食べて頂ければと思います。」


 「それを食べさせて貰おう。」


 公爵閣下にそう言われ、俺は手早く用意をする。

 昨日試作した時同様にラングドシャに挟んだものを取りだし、。公爵閣下とカルステルさん、シルビアさん、マリーさんとそれぞれに差し出す。

 

 「豆を菓子に挟んだ物か。けったいな物を作るな。」


 公爵閣下を俺の渡した菓子を眺め見て、そう感想を漏らし、口に運ぶ。


 「なんじゃ。豆が甘いぞ。普段は、豆なんぞ美味くもないのであまり食さぬが、これは甘いので美味いな。」


 「はい。食べ慣れぬ味ゆえ、いささか奇妙ではございますが美味しゅうございます。」


 「ああ、これは美味いぞ。」


 「ええ、見た目も美しい色合いですし、甘い菓子に挟んでも負けない、独特の甘みは美味しいです。たしかに揚げパンと一緒に食したら、美味しそうですね。」


 四人ともそう感想を言ってくれた。

 評価の言葉的に合格を貰えたようだ。

 よし、そのまま、公爵閣下へのお願い事も話しておこう。


 「それで、こちらを提供する替わりにお願いとは、マリーさんのパンは焼かずに油で揚げておりますので、今後油が大量に必要になりますので、油を搾るための作物と今の料理に使った豆の増産をお願いします。」 


 「なんだ、そんなことでよいのか。」


 「はい、美味しい物を作るために是非ともお願いします。」


 「あい、わかった。油を増産させれば、元が高価な物だ売り先さえ確保できれば、喜んで領民も作るだろう。あと、これに使われた豆だな。こちらも公爵家で専売を行い作らせよう。」


 「はい、荒れ地作物としても豆は優秀ですし、畑を広げるにも役立つはずです。よろしくお願いします。」


 「ほう、さすが冒険者だな。色々なことを知っておる。カルステルも、円滑にこれらの方策を行うように、文官へ伝えてくれ。」


 「はい。お任せくださいませ。」


 こうして、公爵閣下に直接お願いすることになってはしまったが、上手く話を進めることが出来て、俺達は予定どおり、イオナに向けて旅立つことが出来るぞ。    

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