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第84話 騎士達と手合わせしよう

 やがて、ミヒャエル達の刑の執行の日が来たが、その日は街中が騒がしくはなったが、俺達はその日は宿を出ることなく過ごした。

 娯楽としての一面があるのは理解しているが、だからといって、会話を交わしたことのある人物、まして俺達が捕らえることになった人物の刑の執行を見るのを楽しいとは思えないからな。

 その後もしばらくは処刑の話が街ではもてはやされていたようだが、宿の従業員も仕事の合間に話をしていたくらいだからな。


 公爵領都とはいえ、人口二、三万人規模の都市、日本の市町村で言えば、町程度の規模の人口しかない。しかも、その人数が狭い街中に密集して住んで居る。

 そんな規模の街だ。特に買い物も出立が決まるまで必要もないし、見るべき所もすでに見て回ってしまった状態なので、俺達は必要がない限り外に出ることはなかった。


 俺の方も副管理者からのノートへの返答もないし、はやく捕らえた人攫い共の財産の引き渡しの処理が済まないかと待っているしかなかった。

 だからといって、部屋で何もせず過ごしているかと言うと、そうでもなく。

 シルビアさんのお宅にお邪魔してから、毎日のようにマリーさんが尋ねて来ている。

 もちろん、貴族の幼い息女が一人で街中を出歩ける訳もない。

 街中を身形の良い子供が一人で歩き回れるほど治安が言い訳ではないし、まして、人攫い騒動だってあったばかりだし、給仕さんがいないので、シルビアさんかお母さんが同行して来ている。


 なにしに来ているかと言うと、あの日以来、平パン作りに嵌まったようで、俺が教えたレシピやを基に作った物や、マリーさんなりにアレンジした物を持って来てくれて、感想を聞いていた。

 最初はシルビアさんから今回の人攫い騒動の進捗状況や俺達への金銭の支払いなどについて報告に来てくれていたついでに、マリーさんが同行してきたのだった。

 だが、その時、女性陣で話が盛り上がり、毎日のようにパンを持って来てくれるような感じになったのだ。

 貴族を毎日のように呼びつけているみたいにみられるので、まずいとは思って、こちらが伺うようにしましょうかと言ったのだが、マリーさんは外に出られるのが楽しいらしく、それは断られてしまった。

 なので、ミヒャエルの刑の執行前後は、さすがにシルビアさんも忙しく、お母様が同行してくれていたりして、毎日俺達の宿に顔を出していた。


 以前、マリーさんのお母様にどうせなら、俺達でなく、貴族のお友達とかに振舞ってはいかがですか?と聞いたことがあったが、お茶会となるとその時は給仕を雇入れなければならないし、招待状を届けるための人も雇わないとなので、恥ずかしながら我が家ではそう簡単には開けないのでと言われてしまった。

 ああ、俺の子供の頃のように、近所の遊びに来た子供にお菓子を出すといった簡単な話ではないのか。

 貴族って、本当に大変だねぇ。

 なので、気軽に会える冒険者である俺達の存在が、マリーさんには嬉しいのだろうと話してくれた。

 いや、お母様、普通冒険者ってもっと忙しい存在のはずですよ。


 でも、気軽にと言っても、お母様やシルビアさんを付けて、ここまで来ると言うのもほぼ毎日となると大変な気がするけどな。

 そう思っていると、お母様はシルビアさんのようにやることがないからと剣を振るって、騎士団などに入るような子になるより、マリーさんは食事を作ったり、ここで会話を楽しんでくれた方がよっぽどいいと笑っていた。

 やっぱり、貴族階級の女性が剣を振るうのは、よく思われていないんだね。

 それでも、騎士になったシルビアさんもマリーさんには甘そうだったけど、結構我が強いのかな?


 そして、処刑の処理が一段落して、約束のシルビアさんとの訓練の日になった。

 宿屋の裏庭で体を動かす程度にしていた俺達にとって、久しぶりに体をまともに動かせる機会だ。

 それと普通の冒険者と見せかけるため、使える技能は初級の武芸の書だけの技能で戦わないとなので、どこまでシルビアさんと遣り合えるかも楽しみである。

 シルビアさんは見たところ、中級の武芸の書の技能をある程度使える実力のようだし、技能ではかなわなくても力や能力で上回れれば、いい勝負になるだろうと考えている。

 だけど、シルビアさんの力量ってどのくらいなのだろう?

 盗賊という名の他領の兵士と戦った時に一緒に戦ったくらいで、正確にどの程度かはわかんないんだよな。

 でも、あの若さで団長を務めるくらいだから、かなり強いのかな。


 俺達は、久しぶりにまともな冒険者装備をして、騎士団の訓練場に向かう。

 訓練場の入口に着いて、名と用件を告げると話は通っているらしく、スムーズに中に通される。

 俺達ももうここには三度目なので、案内の兵士の後を慣れた感じで中を歩き、訓練場に到着する。

 そこで、俺達は軽く体を慣らしていると、装備に身を固めたシルビアさんが四名の騎士を引き連れやって来た。

 よく見ると最初にシルビアさんと会った時に同行していた騎士だった。

 その他にもマリーさんもおり、彼女はシルビアさんに頼んで見学に来たようだ。

 俺達はシルビアさん達に挨拶をし、今回の手合わせを受けてくれたお礼を言う。

 マリーさんは律儀にも今日もパンを渡してくれた。

 それにもお礼を言って受け取る。お昼にでも食べさせて貰おう。


 どうやら、同行の騎士も俺達の相手をしてくれるようだ。

 だよね。俺達四人を相手にして、シルビアさん一人じゃ、大変だものね。

 彼らは最初に会った時にシルビアさんに同行していた騎士だった。

 なんでも、実力的にはシルビアさんより上の実力があるそうだ。

 では、なんでシルビアさんが団長なんだと思っていると。 


 「まぁ、俺らは剣ばっかり振るっていたので、事務能力なんてもんはないんで、団長の露払いが役目なんですよ。」


 と彼らの一人が俺の考えを察してか、そう答えてくれた。

 まぁ、剣の実力だけじゃ、部隊を率いることはできないもんな。

 そう納得し、協力してくれる彼らにも改めてお礼を言う。


 「そうなのですね。ここのところお忙しかったでしょうに恐れ入ります。」


 「いいですよ。それにギリーさん達も冒険者にしては中々の実力のようですしね。」


 「そうそう、偶には同じ顔ぶれ以外の実力者とも剣を交えないと、臨機応変に対応が出来なくなるってもんですよ。」


 「ああ、ギリーさんの言うように忙しくて、剣を人と交えるのも久しぶりですから、楽しみです。」


 「ですよね。今日は色々と勉強させて貰います。」


 俺の挨拶にそう答えが返って来る。

 剣を交えるのは久しぶりか、さすが忙しくても剣は握っているようだ。


 武器については、刃が潰された武器がいろいろと用意されていて、その中から、それぞれの得物を選ぶ。

 俺は、元々、刃物が付いていない六角棒なので、その魔案自分の武器を取る。 

 さて、どんな感じになるやら、そう思いつつ、訓練という名目の模擬戦が始まった。

 今回は騎乗していないため、本来の武器なのだろうか、騎士達も剣でなく思い思いの武器を取る。

 中には槍を選んだ騎士がいたので、なぜ騎馬でも槍を扱わなかったのか聞いてみた。


 「それは、森を抜けて、追撃していたので長柄武器は邪魔になるからね。あと重い武器を携えて脚竜に長時間騎乗するのは、脚竜が二本足の動物なのでバランスを取るのも大変だし、疲れてしまうからね。

 そんな訳で確かにリーチは短くなるが、取り扱いは剣がいいのさ。

 戦場のような集団戦では槍が有効だけどな。」


 騎士の一人がそう答えてくれた。

 やはりゲームのように単一の武器を扱うと言う感じではなく、状況状況で武器を換えられるように鍛錬しているらしい。

 俺達も今の武器の武芸の習得が終わったなら、もっといろいろな武器に慣れるべきなのだろうか?

 でも、ディート達は本来の目的は商売だし、そこまで真面目に冒険者をするかもわからないから、どうなのかな。


 実際に模擬戦を行ってみると、確かにみんな強く、初級技能だけではやはり、戦闘技量ではうちのツートップのリアやディートでさえ、シルビアさんや二名の騎士には敵わない。

 魔法も使える二名の騎士には辛うじて互角に渡り合えている感じだ。

 パルマは防御主体と言うこともあり、防御は良いが、攻撃は軽くいなされるという感じだったので、騎士の攻撃を受け止められるが、攻撃に転じるとそこを突かれて崩されるといった感じだった。

 俺はリーチの長い武器と見慣れぬ武器捌きいう利点こそあったが、手の内が判ってしまったら、まるで歯が立たないと言うありさまだった。


 俺達はいかに騎士達が冒険者より上の存在かが分かったので、その辺はよかったといった感じだ。

 それに俺達自身、上位まで技能を使えば圧倒できそうであるという実感もつかめたしね。

 シルビアさんはマリーさんに自分の力量を示せたのが嬉しかったようだ。

 マリーさんには俺達、冒険者って大したことないのねと言われてしまった。

 けど、貴族の軍より冒険者が強かったら、恐らく冒険者なんて存在が許されなくなっちゃいますよ。


 そんなことは貴族に言えるわけではないので、苦笑いで答えておく。

 シルビアさんも、マリーさんの言い分はさすがに言い過ぎと思ったのだろう。

 俺達にすまなそうな目線を向けてくれたが、マリーさんが可愛いのだろう。

 マリーさんの言を咎めてはくれなかった。

 正直にものを言うのはいいが、その辺は教育しておかないと、貴族社会では生きていけなそうだけでいいのかな?

 まぁ、そんな感じで訓練という名の模擬戦は有意義に終わった。


 その後、シルビアさんに米を使った料理をいろいろ試して見たので食べて行かないかと言われた。

 恐らく俺達が来るのに合わせて、用意してくれたのだろう。

 ここで断っては悪いと思い、それを受けるとする。

 どうも、庶民の味には薄味で合わない部分もあるが、それでも俺達が作った料理に触発されたのだろう。

 かなり濃いめに作ってくれていた。

 その点を指摘して、料理長を褒めたら、小麦より安い米を使っているので、その分塩などにお金を回せるからだと言っていた。

 そんな感じで、作られた料理はどれもおおむね満足が得られる味であった。


 その後、シルビアさんから、俺達が得た物の換金が終わる日程や、布の権利を俺達に書き換えた書類の整う日を提示された。

 ようやく、これでイオナに戻るための日程を考えられるようになった。

 マリーさんは俺達のところに来れなくなるので寂しく思われるかもしれないが仕方がない。

 そう思い、マリーさんを見るとシルビアさんの言葉を察してか、寂しそうな顔を浮かべていたが、ここでは何かを言うことはなかった。

 その辺は甘やかされて我儘のように見えて、以外にも貴族教育が行き届いているのかな。

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