第83話 食事を一緒にとろう
「あの、甘いマリーのパンでよろしいのですか?」
シルビアさんも満足気味だったので、俺は一応確認しておく。
それでいいならそれでいいのですけどね。
「ギリーさん、なにか不満ですの」
マリーさんは俺の問いかけに不思議そうに聞き返す。
「いえ、そう言う訳ではないのですが、それだとマリー様が甘いのと思われてしまうのでは、せめてマリーの甘いパンの方がよろしいかと思いまして。」
問題はなさそうだけど、一応、一般論を話して確認を取る。
物事を進める時、クライアントの言をそのまま受け取らず、疑問を感じたら、ちゃんと聞いておかないと、あとで大事になる可能性もあるからな。
こういうことは、しっかり聞いとかないとね。
「なるほどです。でも、わたくしが甘い方が楽しくないですか。なので、これでいいのですよ。」
「そうなのですね。」
「ええ。そうです。」
よくわからないけど、確認をしたし、それでいいならいいや。
名称として長すぎる気がするけど、命名権を渡したのだからね。
味については、仲間のみんなからも合格が貰えたので、俺達三人で残りも作り始める。
それと、マリーさんが食事としてのパンも食べてみたいとのことだったので、もう一度生地を作り、準備することにする。
リア達は彼女らが食べたいメニューをお互い話し合いながら、作っている。
もう慣れたもので、手早く協力しながら、作り上げていく。
シルビアさんの家の人は、両親、お兄さん、シルビアさん、マリーさんの五人、こちらは六人なので、それに見合うよう少し多めに作っておく。
今日の夕飯に食べられないなら、明日の昼くらいまでなら、大丈夫だしな。
最初は慣れない手つきで、作っていたシルビアさん達もだんだん慣れたのだろう。
段々綺麗にまとまって来た。
「シルビアさんもマリーさんも、なかなか上手いですね。」
「そうだろうか。まだまだな気がするのだが。」
「そうですか。ありがとうございます。」
シルビアさんは完璧な出来でないと満足できないのか、最初に比べればだいぶ上手くなっているが、不満げな返事だ。
一方、マリーさんは褒められ慣れていると言ったところか、俺の言葉にそうニッコリ返してくれる。
いかにも、姉と妹といった感じの返答だなと二人の回答を聞き、そんな感想を浮かべる。
お菓子を焼き上げた後、食事用と言うことで、まずはガーリックバターのみの物を作る。
これは、二つにはさむ必要がないので丸く伸ばしたままの状態で焼き上げる。
続いて、野菜と香草を挟んだものをだそうと思ったが、貴族に供するにはまずいと思いチーズとハムをはさんだ物を作ることにする。
これもイタリアのパニーニの定番みたいな組み合わせだから、どこかにある料理だろうしね。
ただ、マリーさんに野菜と香草の餡の作り方も聞かれたので、作り方だけメモを渡しておく。
シルビアさんにもメモを見て貰いこれで作れるか確認する。
その時、レシピを教えて貰っていることに気付いたのだろうか、シルビアさんがレシピ代についてどうしたものかと聞いて来た。
もちろん、お金をとるつもりはないので、異国の普通の料理やそれをアレンジした物だからお金はとる気はないと答えておく。
でも、シルビアさんは貴族として無料で教えを乞うのを気にするだろうから、後日、前衛と俺に稽古をつけて欲しいとお願いしておく。
どうせ、ここにいる間やることもないし、騎士団長の実力を見ておくのも悪くないと考えて、そうお願いした。
シルビアさんも、体を動かすのは嫌いでないようで、二つ返事で了承を貰った。
そして、お菓子も順次出来上がった。
お菓子とパンだけでは、夕食としてはバランスがいまいちなので、適当に肉料理を二品ほど作る。
シルビアさんには、お菓子を急に作り来た割には、肉や野菜も用意周到だと言われたが、その辺は今日はここに来なければ馬車の中で料理を作るつもりだったので、という苦しい言い訳をどもりながら、説明しておいた。
でも、シルビアさん達の分もあるのは明らかにおかしいしな。
幸い、シルビアさんはそれを疑るような感じで聞いてなかったから助かったが、注意深く聞かれていたら危なかったかもしれない。
結局、いろいろ作っていたら、結構遅い時間になってしまった。
肉も十一人分、二品分も焼かないといけないので、貴族の調理用の魔道具を使っても、一品につき、二回分作ることになるので、調理器具を被らないようにして作ったが、それでも時間がかかってしまった。
なので、作り終えて、屋敷を後にしようとしたが、一緒に食事をと勧められたのと、マリーさんも家の女性陣と話したがっていたので、半ば押される形で夕食を一緒にすることになった。
侯爵家で一度経験しているのと、シルビアさんやマリさんと多少親しくなっているのと、今回は家格の落ちる男爵家ということもあったこともあり、多少気軽に対応できるのでいいけど。
男爵夫人、シルビアさん達のお母様も気さくな方で、男爵と息子さんが戻って来るまで、俺達を温かく迎え入れて話をしてくれた。
夫人は俺達のような冒険者と関わることはなかったようで、冒険者のことを聞き、それを楽しそうに聞いてくれた。
やがて、一同が揃い、夕食をすることになる。
ワインで乾杯をしたのち、談笑しながらの食事となる。
子供のマリーさんはワインといってもかなり水で薄められたものだが、貴族は普段の食事で水のみを飲むと言うという習慣はないそうだ。
料理もパンも、香辛料などがたっぷり使われているので味に深みがあり、男爵家の人達にも満足して貰えた。
「これは、美味いな。毎日でも食べたいくらいだ。」
男爵様からもそうお褒めの言葉を頂いた。
「そうですわね。お父様。わたくしも毎日食べたいです。こんなに豊かな味の食事は普段なかなかできませんからね。」
マリーさんの言によると、普段はここまで香辛料をふんだんに使えないのかな?
そうなると、宿の食事の方が男爵家の食事より美味いのか?
まぁ、領地持ちでないから、給金だけの生活になると本当に厳しいようだ。
でも、俺達がいるのにマリーさんがあんな言葉を言っても怒らないとか、本当に甘やかされているんだな。
その後も楽しく食事が続く。
デザートに入るが、リア達が張り切って作ったようで、かなりの分量になっていた。
焼き菓子系は多少日持ちするし、テーブルに出す菓子は少し絞ることにする。
シルビアさん達が作った菓子は出す事にして、あとは比較的軽めに菓子を二つ出す事にする。
それでも、俺としたらかなりのデザート量に感じるけどね。
ゆっくりお茶とお酒を楽しみながら、デザートを食べ始める。
いろいろ話を交えながら、間を持たせるために、口に運んで食べるので、意外と量を食べうことができる。
ただ、もっぱら男爵と夫人の相手は俺がつとめて、シルビアさんとマリーさんの相手はうちの女性陣がしてという感じに分かれている。
まぁ、女性同士会話に加わるのも疲れるから、男爵たちの相手でも別に構わないけどね。
そんな感じで会話をしながら、食事は進んで行き、テーブルの上の物もあらかた片付いた。
そろそろ時間的にもよい時間になったので、切り上げることになった。
そして、平パンの作り方を教えて貰った礼を改めて、男爵からも頂いた。
それについては、シルビアさんと手合わせの機会を貰ったことを、こちらからもお礼を言っておく。
また、シルビアさんと手合わせの機会を日時を決め、騎士団の練習場で行うことを約束をしておく。
こうしてシルビアさんの提案に乗ったかたちで、リア達のお菓子を食べたいと言う欲求も満たせたので、いろいろあったが満足いく結果になったかな。
男爵家もイオナの街に行かないと食べられないような菓子を食べたり、新たなパンの作り方を教えて貰ったりもしたのだから、特に文句もないだろう。
今回のことは急遽起こった出来事だったが、問題なく事を進められたかと思う。
宿に帰り、一応みんなに今回の対応を聞いたが、完璧に上手く対応したと思っていたが、やり過ぎでしたとディートには言われてしまった。
新たなお菓子まで教えるのはやり過ぎだと言うことだった。
あの程度の提案で済ませられるような、等価では済まないそうだ。
どうもその辺の感覚が、日本じゃ、レシピなんてネットでただで手に入るんだし、そんな価値があるようなものって、意識があまりないんだよ。
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