第81話 シルビアさんの家に行こう
特にやることなく俺達は宿で過ごす。
街はミヒャエル達の公開処刑の件と人攫いの一件が騎士達の尽力によって片付いたことに盛り上がっていた。
貴族の騒乱への見せしめの処刑と人攫いという庶民の不安が解決したのだから、その浮かれようは想像できる。
そんな問題解決の立役者ともいえるシルビアさんが忙しい中、俺達を訪ねて来てくれた。
「すまないな。君達への謝礼を早く手渡したいのだが、処刑の準備と人攫いの一件の事後処理で、部下達も手一杯になってしまっていてな。」
「いえ、仕方がないですよ。それより、民の間で評判のシルビア様がこのような所に来ていてよろしいのですか?」
「言うな。事が終わっては私のような者は裁可を下すだけだから、事が終わるとさほどやることがなくてな。」
「それも大切な役目ですよ。シルビア様がどっしり構えていればこそ、人心が安定すると言うものでしょう。」
「大した見識だな。そう言ってくれる者は中々いないぞ。
しかし、すまんな。本来なら両方の問題の解決の立役者である君らの名をもっと広めなければならないのだがな。」
シルビアさんはそう言って俺達に頭を下げる。
それはまぁ、自領のことを冒険者風情が片付けたとあっては、公爵家の面目を潰してしまうし、そこは仕方ないだろう。
俺達もあまり騒がれて、目立つのも嫌だしな。
「いえいえ、俺達は冒険者です。名誉より貰えるものを貰える方がありがたいですよ。」
「だが、名を売るのも必要と思うがな。」
シルビアさんはそう言って俺を眺め見る。
何か値踏みされているみたいだな。
「あまり名が売れすぎると、頼まれごとも多くなりそうですし、厄介事は御免被りたいですからね。」
「そうなのか。まぁ、今回の件だけでも褒賞がかなり出るから、そこは期待して欲しい。」
「ありがたいことです。」
「それと私で良ければ何か出来ることはないか?君らのおかげで、私には分不相応な評価が得られたのだ。何かしてやりたいのだが。」
「そういわれましても。」
シルビアさんに頼むようなことか。
向こうも俺達のおかげで名声を手に入れて、その埋め合わせをと言うことなのだろうが、困ったな。
俺がそう悩んでいると、リアが俺に話しかけた。
「なら、シルビア様の家の厨房を借りることが出来ないかな?」
リアは、旅に出て家でお菓子三昧を考えていたからな。我慢できなくなったか。
まぁ、家を出すにしても街からかなり離れないとだし、今の状況で街の外に出るのも難しいし、それでいいか。
一応、ディートにも確認しておくか。
「いいのかな?どう思う。ディート。」
「いいのではないでしょうか。どうせここに居ても暇にしているだけですしね。」
「と言うことだ。シルビアさん、邸宅の厨房を借りられないだろうか?」
「それは構わないが。そんなことでよいのか?」
シルビアさんは不思議そうに俺を見る。
「ええ、よければお願いしたいのですが。」
「そんなころで良ければ。で、何時が希望なのだ。」
「よろしければ、今からでも構いませんでしょうか。料理人の都合があるから難しいかもしれませんが。」
「いや、我が家は公爵家に仕えている法衣男爵家なので、普段は料理人や使用人などいないから、貸すのは構わないが。本当にそんなことでいいのか?」
下位の貴族家だとさすがに常時使用人を雇う財力がないのか?
あまり詳しく人様の懐事情も聴けないので、その辺は軽く流して、問題がないことだけを伝える。
「もちろん構いません。」
「やったぜ。」
それを聞いてリアが喜ぶ。本当に楽しみだったのだろう。
悪いとは思ったが、シルビアさんも特に今日は予定がないとのことだったので、申し訳ないがお邪魔することにした。
シルビアさんは騎士団の詰所からここまで歩きで来たらしいので、シルビアさんのお宅に伺う方法を聞く。
少し考えて、シルビアさんは屋敷の場所は貴族街の外周部に近いので、馬車でもある気でも構わないと言われた。
なら、ここからならそこまで遠くないようなので、みんなで歩きで向かう事にした。
今回の材料は馬車から取り出した風を装い、手持ちで持ち込むことにする。
まぁ、材料が足りなかったり、不足していたりしたら鞄から取り出せばいいから、それらしい材料だけを持っているだけだけどな。
道中でシルビアさんの家の事情を聞かせて貰う。
当主は父上だそうで、文官として跡継ぎのお兄さんと共に公爵に仕えているとのことだった。
そのお父さんは公爵の従兄らしく、それでシルビアさん自体公爵に気に入られて、本来ならどこぞの貴族家に嫁いでいたのだが、今の地位にいられるらしい。
それと男爵家の娘なので、本来は身分的には貴族とは扱われないらしい。貴族を名乗れるのは侯爵家の令嬢からだそうだ。
ただ、騎士という地位なので地位的には貴族扱いされているという状況らしい。
地球のヨーロッパの大陸系貴族家は、その家に生まれれば皆貴族という扱いだったが、厳しいのだな。どちらかというとイギリスのような貴族制度に近いのかな。
あと、この世界でも二十歳には結婚していないと行き遅れとの評価になってしまうよう時代のようだ。 衛生面はやはりまだあまりいいとは言えないから、いつ自分達が死ぬかわからないから、早めに子孫を作らないとだからな。
だが、シルビアさんは役職にもついているので、結婚どころではないようだが、本人は今の地位に満足しているようなので、その辺は気にしていないのだろう。
家に着くと、当主夫人、つまりシルビアさんのお母さんとシルビアさんの妹さんに迎え入れられる。
普段は使用人を使っていないとのことだったので、当然と言えば当然だ。
お互い、挨拶をした後、厨房を借りる話をして、許可を貰う。
妹さんは、俺達がお菓子を作ってくれた人だと聞いて、美味しかったと喜んで感想とお礼を言ってくれた。
せっかくなので、シルビアさんと妹さんも交えて、菓子作りをすることにするか。
今まで教えてない料理なら彼女らにレシピを教えても構わないよな。
一緒にお菓子を作って、いくつか作り方を覚えるかと妹さんに聞いたら、喜んで了承してくれた。
見たところ幼いけど十歳から十二歳くらいだろうか。
名前はハイデマリーというそうで、マリーと呼んで欲しいと言っていたけど、扱い的に貴族の身分でないとはいえ、貴族の娘さんを愛称呼びしていいのだろうか?
厨房に向かう途中、シルビアさんが俺達に小声で妹さんは、愛称呼びしないと機嫌が悪くなるので、是非とも愛称で呼んで欲しいと言われた。
シルビアさんとは年が離れた妹なので、皆からも可愛がられたこともあり、貴族としての落ち着きがなく、どうも感情豊かになるとこもあるので、そこは勘弁して欲しいと言われた。
その辺の性格は貴族的でないのかもしれないが、俺としては問題ないので、全く問題ないと答えておいた。
案内された厨房は一通りの魔道具が揃えられていた。
これなら、問題なく一通り作れるだろう。
それに厨房もそれなりの広さがあった。
聞けば、普段こそ使用人も料理人もいないが、パーティーをそれなりに開く必要もあるので、厨房と食堂は広い作りになっているそうだ。
普段は質実に努め、パーティーでそれなりに振舞うとかしなければならないのだろうな。
そう考えると地位の低い貴族も実入りがそれほどないだろうに大変だな。
リア達には普段作っている菓子をいくつか作って貰うとして、俺はさて簡単な菓子をシルビアさんとマリーさんに何を教えようかな。
この時代になる材料で、もうあまり本格的な菓子は思いつかないけど、甘い物ならいいだろう。
ただ、あんことか食べ慣れてない物は嫌われる可能性もあるから、洋風な物で行こうか。
でも、今度別の時に家であんこ物とかも試して見たいな。リア達はどんな反応するのだろう。
そんなことを考えながら、役割を振り、調理に取り掛かった。
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