第69話 遭遇戦をしよう
シルビアさんは、パルマの声に反応して、後方に目を遣る。
確かに後方から土煙が迫って来ていた。
シルビアさんはそれを見て、手早く指示を飛ばす。
「何者かが近づいている。警戒体制を取れ。
罪人の馬車も道脇に寄せろ。後方警備の騎士は魔法で援護を出来るようにしておけ。
ギリー達ももしかしたら戦闘になる可能性がある。ただ、こちらから先に手を出さないようにするようにしてくれ。」
「わかった。前衛はシルビアに従ってくれ。ミサとティアは俺と後方に下がるぞ。馬も邪魔になるから連れて下がるぞ。」
俺はシルビアさんにそう同意し、仲間達にそう指示を飛ばす。
前衛に個別に指示を飛ばして綻びを見せるより、シルビアさんの能力を信用して、一括運用して貰った方がいいと判断した。
後衛に関しては、馬車の護衛についている騎士も魔法を使えるようだが、魔法使いか、魔法が使える騎士かいまいち判断が付かないので、うちの魔法使いだけでまとまって指示を飛ばすことにした。
俺の指示を聞いて、シルビアさんも異を唱えなかったので、リア達を指揮下に置くことに異論はないようなので、任せることにする。
シルビアさんはリア達の実力を確認している訳でもないので、自分達の後方に置く。
俺は気付かれないようにリア達には強化と防御の魔法を施しておく。
本当はシルビアさん達にも施したいが、俺が中級魔法を使えるのを知られないため、シルビアさん達には念のため、初級の小強化と防御の魔法をかけると断ってから、施しておく。
魔法を受ける方は体感的に小強化も強化もあまり変わらないので、強化魔法に慣れてなければ気付かれないと思うが、ばれる機会はなるべく少ない方がいいと判断して、そうしておく。
それでもシルビアさん達騎士は俺に礼を言ってくれる。
多少であれ、能力が上積みされれば、それだけ生き延びる確率は上がるからな。
それに人数も向こうの方が上だし、保険は少しでも多い方がいいよな。
仮に向こうも騎士のような階級なら、冒険者より技能も上だし、そう考えるとシルビアさんは俺達を普通の冒険者と見ているから、純粋な戦力は向こうの半分くらいと考えているかもしれないな。
しかし、本当に襲撃なのかな。
皆には言わなかったが、てっきり、今更あいつらを救い出しても、もう役立たなそうだから、襲撃はないと考えて、仕事を受けたのにな。
とんだ見込み違いになったな。こりゃ。
出来るだけ、魔法は初級魔法で迎撃をするようにミサ達に指示をする。
でも、どうしても危ない時はやむを得ずに中級は使ってもいいと伝えておく。
こんな関わらなくても問題ないような依頼で、しかも手抜きして、仲間を失うのは御免だからな。
やがて、騎影がはっきりしてきた。
見た目は盗賊のような身形だが、全員が馬に乗って、早駆けをしながら、陣形を保っている。
あれだけの馬を運用出来て、しかも訓練も行き届いているなんて、傭兵にだってなかなかいないだろう。
どう見ても騎士とような者達が偽装していると見た方がいいだろう。
シルビアさんも怪しいと感じたようで、騎士二人を前に出し、そこで連中を止めるように指示を出す。
向こう騎馬隊はこちらが向こうに正対し、迎撃できる構えをしているのに気付き、速度を落としてきた。
そして、方針が決まったのか左右に騎馬を広げてこちらを半包囲するような陣形で近づく。
ここまでされて、敵意がないと言うことはないだろうと、前方で制止させようとしたこちらの騎士二名を下がらせる。
そして、シルビアさんと二名の騎士は脚竜から降りて、脚竜を後方に逃がす。
相手を脚竜で威圧する必要はなくなり、迎撃をするためには、かえって機動力は邪魔になると判断したのだろう。
実際に馬に乗ったままとか、脚竜に乗ったまま剣を振るうと言うのは、剣に力を籠められないし、体勢を整えて剣を振るのも難しいからな。
槍とかの長範囲の刺突武器でないと騎乗して正攻法で遣り合うと言うのは現実的でない。
相手はやがて、声の届く距離まで近づく。
彼らは俺達に追いつくためか、移動に邪魔になるような長柄武器も所持しておらず、弓兵もいないようだ。
純粋な剣士だけなら、何とかなるかな。
「そこの者達、武器を置いて、立ち去れば命は助けてやるぞ。」
中央に居る人物がそう脅しをかけてきた。
彼らは装備こそ、ばらばらであるが、見な異様に新しい装備である。
やはり盗賊にしてはちょっと金持ち過ぎるし、傭兵にしては装備にまとまりがないという印象である。
それでも、盗賊として振舞うつもりなのだろう。囲い込むようにして威圧しているが、どうみても盗賊の動きではない。
「そちらこそ、武器を納めよ。我らはエーデルシュタイン公爵麾下の騎士である。それに盾突くことがどのような事かわからぬほど無知ではあるまい。」
シルビアさんが相手の脅しにそう返すが、当然のように狼狽えるような感じはない。
明らかにこちらがどこの誰かが判って襲ってきたと思われる行動だ。
「公爵家の騎士が数の不利が判らぬと見えるな。皆の者、蹴散らせ。」
ちょっと盗賊の設定忘れてないか?
喋りが丁寧すぎるだろ。
そう思っていると、相手は騎乗したまま両翼を狭めて来た。
どうやら、左右から挟み撃ちするようだ。
ここは草むらだし、魔法での二次被害は出さないようにしないとだな。
「ミサは左側、ティアは右側から近づく敵を頼む。『風弾』か『礫弾』の魔法で馬の足元を狙え。」
俺はそう指示を飛ばす。
二人はそれぞれ左右に魔法を放つ。
一頭の馬の足元に土つぶてが撃ち込まれる。
馬が体に魔法をぶつけられて驚いて立ち上がる。
馬乗り手は馬を制御できずに暴れる馬から投げ出される。
別の馬も魔法が直撃し、体勢を崩して、乗り手を乗せたまま前のめりに倒れ込む。
それを見た味方の騎士側の魔法使いも同様に魔法を撃ち込む。
敵は魔法を撃ち込まれたのを見て、騎馬を左右に身を振りながら回避行動を行いながら、近づく。
最も、馬の回避速度より、魔法の放出速度の方が速いので、魔法を上手く躱せず、近づく前に次々と落馬をさせられる。
そして近づけた騎馬も突撃の攻撃を躱されてしまう。
そればかりか、逆に強化魔法による機動力と力が強化されたこちらの前衛に馬を斬られ、落馬をさせられる。
さらに悲劇にも近接で落馬した敵はすぐさま剣を突き立てられ、息の根を止められる。
魔法で落とされた敵は怪我がなんとか立ち上がれる者もいるが、馬が足に乗ったりして足が折られたりして立ち上がれなくなった者もいる。
正面の騎馬達は囲い込んで浮足立ったところを襲うつもりだったのか動かなかったので、左右の騎馬が次々に潰されるのを見て、慌てふためく。
それでも、落馬して立ち上がった者達と正面の敵は連携を取り、まだ立ち向かおうとする。
シルビアさんはまだ諦めない敵を見て、正面の無傷の敵に詰め寄るように指示をする。
まぁ、この時点でこっちの前衛は六人、向こうは五人、更にこっちは後方に魔法使い四人と補助魔法の使える俺が控えている。
そんな訳で、断然優位になっている。
向こうもこっちに思いもしない数の魔法使いがいたことに計算違いがあったにしても、こうも一瞬で形勢が逆転するとは思っていなかっただろう。
そして、向かってきたシルビアさん達に備え、騎馬から下馬して迎え撃とうとする。
馬で一撃離脱戦法を取ると、こちらの前衛と離れたところを魔法で狙われるし、馬では小回りが利かないため、ただの的になってしまうので、当然の選択ではある。
ならと、俺は『弱体化』や『金縛り』の魔法を個別に敵に掛ける。
成功率こそそれなりでしかないが、個別に仕掛けられるので効果的に敵に弱体出来る。
魔法使いは魔法使いで味方の剣に纏い系の強化魔法を掛ける。
こうして、近接に持ち込むにしてもこっちの能力と敵の能力極端に差が出て来る。
リア達でさえ、初級技能しか使えない制約があるが、能力値で強化で+50、弱体化で-25、更に剣への属性付与までされている。
純粋な能力的に見ても能力値は二倍以上の差になっているはずだ。
その上、上手くいけば金縛りで相手の動きを一時的に止められたりもしてるので、断然優位に動けている。
こうして、無傷の敵を先に潰しにかかったことで、周囲の手負いの敵がシルビアさん達に到達する頃には、敵の数は減らされており、数の優位も維持し続けれれた。
それ以前に近づく敵は魔法で狙らわれたこともあり、まともな状態で近づけない状態にもなっていたし、こちらの遊兵を作らずに戦えたのは効果的であった。
結局、終わってみれば敵は数の優位を生かすことが出来ずに一方的に潰されてしまった。
敵で生き残ったのは、怪我で動けなかったのと、敵の指示を出していた男をあえて殺さず捕らえられた男だけだ。
「冒険者にしては、中々の技量だったな。」
シルビアさんは騎士達と同等に動けていたリア達に感嘆して、そう声を掛ける。
「いえ、魔法の援護がこっちにあったからですよ。向こうに魔法や弓とかいれば、また違てましたよ。」
魔法で騎士達より能力が向上していたのを、ディートがそう言って誤魔化してくれる。
しかし、魔法使いの数で優位に立てたのもあるが、ここまで圧勝できるとは思わなかったな。
さて、それで捕らえた連中どうするのだろ?
みんな怪我してるんだけど、馬に括りつけて運んでいくのか?
俺が痛みだけでも取るため、治療するようなのかな?
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