第37話 給仕を雇入れよう
それから幾日かして、オーベルマイヤー侯爵家より俺宛てに書状が届いた。
「なんて書いてありました?」
手紙を書いてくれたディートが、心配になったのだろう、そう聞いてきた。
「三日後の昼過ぎに、馬車を寄こして下さるそうだ。」
「お、よかったじゃないか。」
「そうなのかな?なぁ、ディート、普通、貴族がこんな早く会ってくれるものなのか?」
俺は、リアの言葉に反応して、そう言った。
「用件次第ですね。向こうの条件に合致する用件なら、今回のように早めに会ってくださることはあります。」
「俺の用件って、そんな用件じゃないよな。」
「まぁ、早く勤め先を変えたいような人がいればあり得ますが、普通そんなことありませんよね。」
「そうだよなぁ。はぁ、会いたくなくなってきた。」
現代で言えば、社長に貴方のところで働きたくないから、新しい職場を用意してくれ、なんて要求をするような社員はいないよな。
仮にいても、こっちも雇いたくないけどな。
それか、会社のミスをそいつに押し付けて、体よく辞めさせたけど、一応、次の職場を紹介しようという感じなら、あり得るか。
いや、それでも、そんな訳あり採用したくないなぁ。
「面会を申し込んでおいて、今更行かないとは言えませんよ。覚悟を決めて下さい。」
結局、三日後、俺はみんなを引き連れて、侯爵家へ行くことにした。
リアとミサは、そんなお偉いさんのとこ行きたくないとごねたが、俺だって同じだ。有無を言わせず、同行させた。
一応、紹介されたら、余程のことがないと断れないから、みんなで面通しをしといたほうがいいというのが、表向きの理由だ。
前回は、向こうに呼ばれたので、普通の冒険者恰好で面会に行ったが、今日は、こちらから尋ねるということで、一張羅を着ての訪問だ。
リアとミサも着飾っていたが、着慣れない衣装でどこか落ち着かない様子だった。
ディートとパルマはそれなりに着る機会があったようで、佇まいも様になっていた。
宿屋に寄せられた馬車は、前回は、普通の箱馬車だったのに侯爵家の紋章入りの馬車だ。
待遇がなんかよすぎないか?
ディートに聞いたが、普通、大商人だろうと平民相手に紋章入りの馬車を使うことは普通はないそうだ。
なんか、ますます行きたくなくなってきたよ。
そうも言ってられないので、みんなで馬車に乗り込む。
お屋敷に到着すると家令の方が出迎えてくれて、俺達を案内をしてくれる。
俺達は、大人しくその後を付いて行く。
応接室に通され、ここで待つよう言われる。
メイドさんが、慣れた手つきで、お茶を入れてく入れる。
お菓子もセットで出される。
菓子は、俺が教えた物だ。
菓子を口に運ぶと、あれから洗練されたのだろう。
俺が作った物より数段上手くなっている。
女性陣もお菓子を口にして、目を丸くして驚いている。
さすが侯爵家の料理人さんだ、よくも、この短期間でここまで洗練された味にさせたな。
そんな風に感心していると、ドアがノックされ、侯爵が入って来られることを知らされる。
俺達は、席を立ち、頭を下げて出迎える。
侯爵が席に着くと、俺達も座るよう言われ、席に着く。
それから家令が、手紙に書かれた内容を侯爵に告げる。
そしてようやく侯爵様が口を開く。
「慣れない場だろう。楽にしてくれて構わないよ。」
「ええ、それはありがたいです。何か失礼がありましたらお目こぼし願いますよ。」
「ははは、若いのに中々しっかりしていると聞いてるよ。それで給仕の件だったね。」
「はい。」
「丁度、他所様の貴族に任せられない者が居てだね。おい。」
侯爵様は、そう言って、横に控えていた家令にその人物を連れてくるよう促す。
何?他所の貴族に任せられない人って、面倒は嫌ですよ。
暫くすると、家令が一人の女性を連れて来た。
給仕にしては、若くないか?この場に控えている給仕と比べても、明らかに若い。
ハニートラップか何かですか?
「初めまして、私は、ティアと申します。」
「この娘は、儂の庶子でな。これの母親は既におらず、行き場がなかったので、ここで働いていたのだが、ちょっと色々あってな。」
「旦那様の庶子だということが、奥方様方に知られてしまい、ここに置いておけなくなりまして、そう言った事情ですので、他所の貴族に預けては争いの種になる。
かと言って、放り出すのもと、旦那様が悩んでおられていたのです。」
ぼかした説明をしようと侯爵様はしたが、家令がそう直接的な説明をしてくれた。
まぁ、こっちも細かな事情が分かっていた方が良いのでありがたいが、でも、後で叱責を受けたりしないのかな。
しかし、侯爵様の娘なんて、ハニートラップより厄介でないか?
「そう言ったわけで、其方が預かって貰えないだろうか?
もちろん、給仕としての仕事はしっかりできるぞ。
それに其方が望んでいた魔力もかなりある。どうだ?」
うん、条件的にはこれ以上ないけど、庶子とはいえ、侯爵様の娘だろ?そんな人を俺達が使っていいのかな?
どうするべきか、ディート達の方を見る。
ディート達も予想外の人物の紹介に戸惑っているようだ。
すると、ティアさんがこう切り出した。
「あの、今回のことで私はこの街に居られなくなります。
身寄りも既にないうえ、新たな土地に一人で向かうというのも、不安があります。
あの、ご迷惑でなければ使っていただけないでしょうか。」
なるほど、確かにここに居たら、どこからか侯爵の娘ということが漏れて、政争の具に使われかねないから、別の街に行くのか。
だが、馬車で遠征してみてわかったが、街の外に身一つで出るというのは確かに危険だし、なにより俺達といれば、侯爵様と会う機会もあるかもしれない。
ここは、侯爵様の話に乗るか。
「どうだろう?条件的には問題ない。雇っていいだろうか?」
一応、女性陣にも確認を取る。
給金を出すのは俺だか、一緒にいることになるんだし、彼女らの了承を取っておいた方がいいだろう。
「あたいは、ギリーがいいなら、問題ないぜ。」
「私もです。」
「ええ、ギリーさんが良ければ 問題ありませんです。」
「はい。」
みんなから、特に反対意見は出なかった。
なら、雇用するとしよう。
その前に侯爵様にも確認を取る。
「あと、侯爵様。もし、ティアさんが俺のところが嫌で、別の街で奉公に出たりしても構わないか?」
「そんなことは言いません。」
ティアさんは、そう否定してくれたが、これは、侯爵様が今後ティアさんをどう扱うのか確認しているだけなので、それには構わず、侯爵様を見る。
「もちろんだ。儂は給仕として雇用しているだけだからな。
其方のところに勤めた後は、もう儂には関係ない。」
侯爵様は、俺を侯爵様の庶子のティアさんをただのティアさんに変えるための身の上洗浄に使う気なのだろう。
なら、その役目を買いましょう。
「わかりました。では、雇入れましょう。」
「よろしく頼むぞ。」
「よろしくお願いします。」
ただ、俺達はまだ、ティアさんを家がまだできていないため、受け入れられないので、ここで預かってもらえないか聞いてみた。
短い期間なら、融通が利くとのことで了承された。
でも、雇用面の話などもあるので、明日にでも宿に来て貰うようにお願いはした。
さすがに、侯爵様の前で雇用条件の話は出来ないからね。
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