第106話 魔道具店に行こう
二日後、朝食を取り終え、寛いでいると、宿の店員が部屋をノックしてきた。
俺は用件を聞くと、外に侯爵家の馬車が来たそうだ。
随分早く届けてくれたな。ありがたいことだけどな。
店員にチップを渡し、礼を言う。
とりあえず、馬車を受け取りだけなので、俺だけで行く。
俺の姿を見つけ、向こうは頭を下げてきた。
「朝早くから、わざわざ馬車を届けてくれてありがとう。」
俺はそう御者に声を掛ける。
「いえ、仕事ですから。それより、こちらこそ操車を行えずに申し訳ありません。」
「気にしないで欲しい。一昨日、急に話が入ったのだし、仕方ないさ。それより、侯爵家に急なのにわざわざ馬車を用意してくれた礼を伝えて欲しい。」
「わかりました。上の者に伝えておきます。それと私のような者にそんな丁寧な口調は不要ですよ。」
御者はそう言って笑うと、再び頭を下げ、一緒に来ていた荷馬車に同乗すると戻って行った。
彼はああ言っていたけど、俺も冒険者だし、身分的にはこっちの方が低いのだから、問題ないのではと思っていたのだけど、そこは口に出さずにありきたりな話お互いに交わす。
あとで、この点について、ディートやティアから説明を受けた。
俺の話し方が貴族のような喋りでいけないそうだ。普通はもっと雑な会話を周りの人達はしているでしょと言ってきた。
確かに、意識はしていなかったが、俺の喋り口調が丁寧すぎるそうだ。
とは言え、ビジネス口調が染みついているし、ギリーの口調とかそう言った記憶は入ってないんだよな。
馬車も来たので、約束どおりアーベレ魔道具工房に向かった。
道も商業地区とは違い、馬車で来る客もさほど多くないので順調に到着した。
工房の扉をノックするといつもの奥さんのカーリンさんではなく、工房主のフリッツさんが顔を出した。
「おう、早いな。まぁ、入ってくれ。」
「早すぎましたか?」
「あ、いや、そんなことはない。ただ午前中の約束でこんなに早く顔を出す客が珍しいなと思っただけだ。ただ、カリーナはまだ来てないから、大したもてなしは出来ないのは承知してくれや。」
うん、先程、神殿の鐘が鳴ったから十時頃だけど大きな街でないと鳴らないし、鐘の音が聞こえない場所も多いのであまり気にする人もいない。
なので、時間を気にする人はあまりいないので午前中の約束でも本当に昼直前に会いに来るのが普通といった時間感覚が一般的なのだ。
でも、約束を取り付けたカーリンさんがまだ顔を見せていないということは、早い時間に会いに来る人が本当にいないのだな。
ただ、事前にカーリンさんから俺達の用件を聞いていたようで、すでに話した内容の続きから始められた。
何度も同じ話をせずにすむから、その辺は有難いね。
やはり、不調の原因は使用頻度の多さらしい。
ただ、解決策は魔石を大きな物に付け替えるというだけでは済まないらしい。
利用者も多く、利用頻度も多いのでこのままだと魔道具自体が持たなくなるそうだ。
トイレが移動途中に壊れてしまうというのは困る。
「では、なにかいい方法ってありますか?」
「うーん、普通に備え付けのトイレのような構造にすればいいのだが。それはちょっと難しいし、かと言って処理量多くすれば、大きくて邪魔になってしまう。どうしたものか。」
「えーと、備え付けと移動用の違いって何があるのです?」
俺はフリッツさんの言葉に備え付けと移動用と何が違いがあるかわからないので、そう聞いてみる。
「違いか。そうだな一番大きいのが処理した物をどうするかという違いだな。移動用は本当に最終状態にまで処理するが、備え付けは衛生的な面の処理だけだ。」
「つまり、備え付けなら処理工程が少ないから魔力消費が少なく問題が無くなるということですか?」
「細かく話すと長くなるから、そんな物だと思ってくれればいい。それでカリーナともいろいろ話したのだが、なかなか解決策が思い浮かばなくてな。もうちょっと待ってもらえればと思う。」
フリッツさんはそう言ってきた。
専門家でも解決策がすぐに思い浮かばないような問題か。
なら、ここは任せることにすべきかな。
そう思いつつも、こちらで何かできることがないか考えてみる。
ちょっと、待てよ。
「あの少し俺達だけで話をしてもいいですか?」
「あ、まぁ、構わないが。しばらく工房にいるから終わったら呼んでくれ。」
フリッツさんはそう言いて、工房の方に向かった。
「ありがとうございます。そう時間は取りませんから。」
俺はそう言って、フリッツさんが工房へ消えるのを見送る。
「で、なにか思いついたの?」
フリッツさんが消えたのを見て、ディートが俺に話しかける。
「それはだな。」
俺はそう言って、説明をする。
普通ならトイレの度にそれなりの穴を掘って、そこにトイレを設置するなんてできないが、『地形操作』を使って穴を作って、終わったら塞ぐというのはどうだろうかと話す。
「移動中、トイレは大体三回位使いますよね。家での魔石への魔力補充を含めると私の魔力ですとかなりギリギリかとは思いますが、出来ると思います。」
「でも、家を設置するために更地を作るほど魔力は使わないし、一度に使う訳でもないから、実際にはかなり余裕があると思うよ」
ティアが述べた考えに、同じ魔法使いであるミサが考えに修正を加える。
それを聞いて、ティアも考えを変える。
「そうですね。そうを考えれば大丈夫そうですね。」
「ならば、据え置き型のトイレの仕様で移動用として作って貰おうか。」
「おう、これで解決か。さすがギリーだな。」
俺の決定に、リアはそう言って同意してくれたが、ディートとパルマから待ったがかかった。
「ちょっと待ってください。フィリップさんに『地形操作』を使えるなんて話せないですよね。どう言い訳するつもりです。」
「そうですよ。『地形操作』が使えるなんて知られたら、不味いですよ。」
「そこはだな。俺の『強化付与』で身体強化して穴を掘って、埋めると説明しておくのはどうだ?」
俺はそう言って、反対した二人を見る。
二人は少し考えてから、お互い納得をする。
一応、他の仲間にも意見を聞くが、特に他に問題点も上がらなかった。
よし、これでこの一件は片付くかな?
そう思い、俺は工房にいるフィリップさんに声を掛け、呼び戻す。
そして、言い訳の理由を述べて、移動用のトイレを据え置き型の仕様に替えられないか話す。
フィリップさんは少し考えてから、「よし、やってみよう。」と言って、俺の考えを了承してくれた。
それから、今回は念のため細かな仕様等もお互い確認し、再度、問題がないことを確認をする
問題をクリアしたことをお互い確認すると、後で実際に掛かる経費等を確認し、金額が折り合えば契約することで話はまとまった。
そして、話がまとまった頃、カーリンさんは顔を出した。
約束した自分が遅れたことを謝ってくれたが、無事話し合いは済んだのだし、その辺は問題ないと、こっちも伝えた。
カーリンさんが遅れた原因だが、いつも俺達が菓子をくれるので、オーベルマイヤー侯爵とクライン商会が出したお菓子の店に菓子を買いに言ってくれてたらしい。
そう言えば、戻ってから菓子店に顔を出していなかったな。
話がまとまったら、挨拶がてら顔を出しておこう。
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