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第102話 会長夫人と調理をしよう

 調理場への移動中は、ディート親子の会話が主になり、移動する。

 母親の問いにディートは恥ずかしそうに答えたり、はぐらかしたりしている。

 なんだかんだで、仲は良いようだ。

 そこで、俺は奥さんにも調理を一緒にしますかと誘う。


 「もしよろしければ、奥様もディートと一緒に作りますか?」


 「私も結婚してからはあまり調理場に立っておりませんが、よろしいのでしょうか?」


 「ええ、その方がレシピの配合とかも一目見ても分からないでしょうから、構わないでしょう。」


 「なら、参加させて貰いましょうか。案内したら、ちょっと着替えさせて貰いますね。さすがにこの格好で料理をするわけには行きませんしね。」


 そう言って、軽くドレスをたなびかせる。


 「お母様。よろしいのですか?」


 「あら、大丈夫よ。昔はしっかり自分で作っていたのよ。」


 そう言って、ディートに微笑みかける。


 「ギリーも本当によろしいのです?」


 お母さんには勝てないと判断したのか、今度は非難の矛先を俺に向けてきたが、それにお母さんが割り込む。


 「あら、大丈夫って言ってたでしょ。では、私はちょっと着替えて来るはね。その間に先にやっててくださいね。」


 調理場への案内が済むとそう言って、下がって行った。

 それを見送ったディートは俺にまだ何か言って来るかと思ったが、特にないも言わず、調理場に入って行く。

 替わりにリアが俺に何を作るか聞いて来た。

 それには今回は貴族でないから、俺達が普段食べている料理を中心でいいのではないかと答えておく。


 リアは少し悩んでから、主に食材を入れてある鞄からいくつかの食材と調味料セットを取りだす。

 そして、みんなに簡単な指示を出す。

 それを聞きみんなが、てきぱきと準備に掛かる。

 あれ、パルマにはこっちの差配をしてくれと言われたのに、こっちもいらない子になっちゃってる?

 まぁ、最近は他の料理を思い出したりした時に、指導をするくらいだったし、こんなものなんだけどね。


 そんな感じで準備を進めていると、ディートのお母さんが調理ができる格好に着替えて戻って来た。

 うん、調理場に最近は立っていないと言っていたけど、全然そんな雰囲気を感じさせない出で立ちだ。

 さて、何を手伝って貰おうと考えていると、リアが、ディートと二人で行えるような作業をディートに話して、一緒にするように言っていた。

 そうだね。もともとは、二人の会話の時間を取ってあげようという趣旨だし、気を使わないで済むようディートと一緒の作業をして貰うのがいいね。

 その辺も俺が指示するより、リアが指示した方がスムーズに事が運ぶだろう。

 リア、なかなか良い気づかいだな。

 俺はリアにそう思い、親指を立ててグッドサインを送った。

 だが、リアはそのサインが判らなかったのか?はたまた、俺が何で褒めたのか分からなかったのか?首をかしげるだけだった。

 ここで意図を話す訳にも行かないので、仕方がない、俺も指示をされた仕事をしておこう。


 調理は順調に進む。

 ディートのお母さんも久しぶりとは言っていたが、全く経験していない訳でないようなので、手慣れた様子で作業をしていく。

 むしろ最近腕を上げたディートの方が危なっかしい印象さえある。

 それでも、お互い気心知れていることもあり、慣れてくると実に楽しそうに調理をしていた。

 うんうん、こういう状況を眺め見るのはいいよね。

 ただ、お母さんと俺と二人になった時に声を掛けられた言葉にどっきりした。


 「ねぇ、ギリーさん。あれだけの布を持って来たのに、随分な食材の量ね。どうやったら、こんなに持ってこれてたのかしら?」


 「布の方は鞄二つ分ですし、食材にしても、いつもより指定の人数が多かったこともあり、残り三つの鞄にかなりギリギリまで詰めてきましたのですよ。」


 「あらあら、そうなのね。布を持ってくるの知らなかったから、私たち以外にも声を掛けた分、夕食も作って欲しいなんて頼んじゃったけど、悪かったかしら?」


 「いえいえ、そんなことありませんよ。宿に泊まっていると宿の食事が主体になってしまうので、こう言った調理場を借りて作ることが出来るのは嬉しいですよ。」


 「そうなのね。よかったわ。」


 ディートのお母さんはそう言って、ふふふと笑い俺の反応を楽しんでいたようだ。

 俺が誤魔化せたというより、敢えてこれ以上触れないでいてくれたという感じだった。


 

 そんなこんなもあり、料理の準備もあとは最後の仕上げをして、食卓に出すだけとなった。

 パルマも準備の途中にこちらに顔を出すかと思ったが、商談が長引いているのだろうか、結局こちらに顔を出すことがなかった。

 そんな訳で、やることがなくなった俺達は商談をしている応接室とは別の部屋に通されて、一休みする。


 「ごめんなさいね。まだ、商談も終わってないようですし、息子達も戻って来ていないので、ちょっとここでゆっくりして頂戴ね。」


 ディートのお母さんは給仕にお茶を出させて、そう言うと、さすがにこれ以上娘と一緒にいるのも、俺達に悪いと思ったのだろう、給仕と共に下がって行った。

 

 「なぁ、パルマ遅くないか?」


 俺は思ったよりパルマが時間がかかっているのが気になりそうディートに声を掛ける。


 「せっかくの交渉の場ですから、自分の納得がゆくまで交渉しているのでしょう。」


 俺の問いにそう涼し気に答える。

 まぁそうか。お互いある程度知っている間柄だし、自分の今の能力でどこまで自分の選んだものを売り込めるか試すいい機会でもあるか。

 そんな風に納得をしながら、辺りを見回す。

 調度品もなかなか高そうな物が飾られているな。

 でも、シルビアさんマリーさんの男爵家でも思えばこれほどの調度品はなかったような。


 「なぁ、ここの調度品って高いものなのか?ほら、エーデルシュタイン公爵の親戚だと言っていたシルビアさんの屋敷でも結構質素だったろ?」


 「うーん、あまり詳しくはありませんけど、どれもそれなりの物のはずですよ。あと、財力的には対外的贅沢が貴族ほど必要がない分、調度品類にお金を回せるのでしょう。」


 「ああ、そう言えばパーティーとかいろいろ大変だと言っていたな。」


 俺はディートの言葉を聞いて納得する。

 ただ、実際はそれもあるが、男爵、子爵の収入より、大きな商会の収入の方があるという事実もある。


 やがて、しばらくするとパルマが戻って来た。

 戻って来たパルマを見ると、満足いった結果が得られたのだろう。少し疲れてはいるが、満足そうな表情をしていた。


 「少し長引きましたが、話をまとめてきました。ご確認いただきよろしければ、サインをして頂ければと思います。」


 そう言って、パルマは俺に契約をまとめた書類を渡してきた。

 え?俺がサインするの?パーティーのリーダーにはされたが、商売に関しては俺でなくディートだろ?

 俺が困った顔をしていると、ティアが目を通してサインをするよう言ってきた。


 「先方が、ギリーさんがディートさんの婚約者であるのを知っているので、ギリーさんがサインをする必要があるのですよ。」


 「それに今回の品は冒険者として得た物ですから、確認をしてください。」


 ディートもそう言って俺に任せる旨の発言をする。

 うーん、男系社会だからそうなってしまうのか。 

 仕方なしに、俺がそれを受け取って目を通す。

 一応、問題がないのを確認してから、念のためディートにも確認をして貰う。 

 問題がないとディートに了承を貰い、俺は書類にサインをする。

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