脳筋だらけの魔王軍四天王会議
人間界に「勇者」なる強者が現れたという。
魔王軍が誇る最高幹部「四天王」の面々が、その対策のためにさっそく一堂に会した。
四人がテーブルにつき、会議が始まる。
まず、四天王の一人目――“怪力”のゴンザレスが言った。
「勇者なんざよぉ、この俺が叩き潰してやるぜ!」
その異名通り、ゴンザレスは筋骨隆々。全身が太く厚く逞しく、腕には血管が浮き出ている。その溢れんばかりのパワーで四天王まで上り詰めた豪傑である。
「まあ見てろ! この俺様が勇者をやるから、てめえらの出番はねえ!」
拳で胸を叩くゴンザレス。が、これを見て、二人目の四天王が笑った。
「ガハハハハハ……!」
「てめえ、何笑ってやがる!」
「これが笑わずにいられるかってんだ!」
ゴンザレスを笑ったのは“豪腕”のギリアム。丸太のような巨腕を持ち、恐るべき膂力を誇る魔族だ。
「ゴンザレス、てめえ如きじゃ勇者にゃ勝てねえよ」
「ンだとォ!?」
「勇者はこの俺がやる! このギリアム様が叩き潰してやる!」
角を生やし、岩のような力こぶを見せつけ、豪快に笑うギリアム。ゴンザレスはそんな彼を睨みつけ、今にも飛びかからんばかりだ。
だが、そこへ――
「雑魚ども! なに勝手に揉めてやがる! 勇者を叩き潰すのは、この“筋肉”のプロテン様に決まってるだろうがァ!」
“筋肉”のプロテン。全身を盛り上がった筋肉の鎧で覆われた、典型的なパワータイプの魔族である。そのパワーは建物ですら片手で軽々と持ち上げてしまうほど。
「これで会議は終わりだ! ま、てめえらは城で俺様の活躍を指をくわえて見てやがれ!」
プロテンが立ち上がろうとする。
「なに勝手に仕切ってんだ! 勇者は俺が倒すんだよ!」
“巨漢”のジャンボアが割って入る。3メートル近い長身を誇り、その巨大な体から繰り出される技の破壊力は圧巻の一言。
「勇者を叩き潰すのはこのジャンボア様よォ!」
これで四天王全員が打倒勇者に名乗りを上げたことになる。
ゴンザレスがテーブルを殴る。
「ふざけんなよジャンボア!」
ギリアムが顔を真っ赤にしている。
「勇者をやんのは俺なんだよォ!」
怒りつつ、見下すように笑うプロテン。
「貧弱なてめえらに勇者は倒せねえ!」
ジャンボアも今にも沸騰しそうな表情。
「やんのかてめえら!? 勇者をやる前に三匹まとめて叩き潰してやるぜぇ!」
睨み合う四天王。
「叩き潰してやる!」
「決着つけようぜ!」
「やってやんよォ!」
「かかってこいやァ!」
四者の怒号が飛び交う会議室。今にも同士討ちが始まりそうだ。
「いい加減にしねえか、てめえら!!!」
四人が振り返ると、そこには“魔王”デモルがいた。
「魔王様……!」とゴンザレス。
「さっきからギャーギャーうるせえんだよ! バカどもがァ!」
青筋を立てて怒るデモルに、ギリアムが弁解する。
「そいつはすまなかったな。だが、誰が勇者をやるかなかなか決まらなくてよ。いっそ魔王様が決めてくれねえか?」
するとデモルはこう言った。
「勇者は俺がやるに決まってんだろがァ!」
「ハァ?」となる四天王。
「頼りないてめえらにこんな大仕事は任せてられねえ。この俺が勇者を叩き潰してやる!」
デモルのマントの下は、恐るべき肉体美で覆われていた。そう、デモルもまた物理攻撃に長けた魔族だったのだ。
これには四天王も猛抗議する。
「ざけんじゃねえぞ!」
「勇者は俺がやるんだ!」
「魔王様だからってここは譲れねえ!」
「かかってこいやァ!」
こうなると上司であるデモルも引けない。一触即発の事態になる。
「おいおい、魔王様までなにやってやがるんだァ!」
現れたのは“参謀”のシュプーラス。
デモルの腹心の部下で、魔王軍No.2の地位にいる上級魔族である。
「ちょうどよかった! シュプーラス、この四天王どもを黙らせてくれや!」
「黙るのはあんたもだ、魔王様!」
「ンだとォ!?」
「どいつもこいつも誰を差し置いて打倒勇者の話なんざしてやがる! 勇者を叩き潰すのは俺に決まってんだろォ!」
シュプーラスも勇者と戦いたいらしい。ジャンボアが問いただす。
「シュプーラスさんよぉ、あんたは参謀だが、どんな策があるってんだ?」
「策ゥ? 決まってんだろ! この俺様のパワーで……勇者を叩き潰すのよ! それが最上の策だァ! ガッハッハッハッハ!」
シュプーラスは黒い鋼鉄のような自身の肉体を見せつける。むろん、魔王も四天王も全く納得していない。険悪な雰囲気になる。
だが、そこへ新たな魔物がやってきた。スライムだ。
「この“スライム”のスラレスを無視して、勇者を倒す会議を開くなんざどういうことだァ!?」
「スラレス、下っ端の出る幕じゃねえぞ、引っ込んでろ!」とプロテン。
「うっせえ! 勇者はこの俺のパワーで叩き潰してやんよ!」
そういうスラレスの肉体は、全身スライムでありながら圧倒的な“力”でみなぎっていた。彼は長年のトレーニングでこのような体を手に入れたのだ。
さらに、“スケルトン”のティーボンや、“ミミック”のラバッコもやってくる。
「このティーボン様が勇者を叩き潰す!」
「いやいや、勇者を叩き潰すのはこのラバッコ様よォ!」
ティーボンは全身骸骨にもかかわらずとてつもないパワーを誇り、ラバッコは宝箱のモンスターでありながら腹筋がバキバキに割れている。
しかも、会議室にはまだまだ大勢の魔族が駆けつけてくる気配があった。どいつもこいつも「勇者を叩き潰すのは俺だ!」を連呼している。
“怪力”のゴンザレスは「これ収拾つくのか?」と一瞬不安になったものの、所詮は脳筋、すぐに不安は吹き飛び、
「楽しくなってきやがったぜェ!」
と笑いながら叫ぶのだった。
***
一方その頃、人間界では“勇者”である青年ラクーンが国王に謁見し、旅立とうとしていた。
「んじゃあ陛下! 魔王とその配下のゴミどもは、勇者である俺様が叩き潰してやる!」
ラクーンは鍛え抜かれた肉体を誇示するようにポージングを決めた。彼には剣も鎧も不要、己の肉体こそが最も頼れる武具なのである。
だが、これに玉座に座る国王が激怒する。
「ちょっと待てや勇者ァ!」
「ああ!?」
「魔王を叩き潰すのは“国王”である俺様、ファブールに決まってんだろ!」
「ンだとォ!?」
ファブールは立ち上がると、玉座をデコピンで破壊した。彼は高齢でありながら巨躯を誇り、その肉体に比例する超人的なパワーを身につけていた。
「年寄りの冷や水になっちまう! ジジイは大人しく城で待ってな!」
「国王に向かってその口の利き方はなんだァ! 今ここでてめえから潰してやろうか!?」
すると――
「な~に勝手なことやってんだ! 雑魚どもがァ!」
ファブールの娘である“王女”マリアが参上した。
彼女は女性でありながらドレスがはち切れんばかりの筋肉を身につけており、その剛力はその気になれば城を瞬く間に瓦礫にできるであろう。
「勇者もお父様も必要ねえ! 魔王を叩き潰すのはこの私よォ!」
必要ないとまで言われ、プライドが傷ついたラクーンとファブールが反論しようとすると――
「ガハハハハ! 魔王を叩き潰すのは“兵士”の俺様だァ!」
鍛え抜かれた厚く太い四肢を持つ、城を守る一般兵であるダガンがやってきた。
さらに、
「おいおい待ちやがれ! なに勝手に話を進めてやがる! 魔王を叩き潰すのはこの“村人”のピート様って決まってんだよ!」
鋼の肉体に包まれた村人が現れ――
完
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