貧乏令嬢と成金令息はダンスパーティーで周りに見せつけたい
「クレア。とりあえずこんなデザインはどう?あ、こっちもあるんだけど。あとこれは?どれも君をイメージしてデザインしたんだけど、君の好みのものはある?あ、もちろんドレスに合わせて装飾品も用意するつもりなんだけど。このドレスにはこの指輪はどうかな。そうだ、それならいっそ靴も作らせようか。どんな靴がいいかな。クレアはどう思う?」
「坊ちゃん、落ち着いてくださいませ。クレア様があまりのことにフリーズしていらっしゃいます」
「え、クレアどうしたの。大丈夫?」
「あの…このドレスのデザインは全部リヒト様が…?」
「そうだよ。可愛い君のためだもの。当然だろう?」
にこやかに微笑むリヒトに対してクレアは思わず目眩がした。
「装飾品のデザインも…?」
「もちろん」
「おまけに靴までデザインすると仰る…?」
「うん。クレアは嫌?」
「いえ、大変有り難いのですが…」
最近リヒトとクレアは攻守が逆転した。リヒトが物凄い熱量でクレアを溺愛し、恋愛耐性があまりないクレアは顔を真っ赤に染めてぽやぽやしつつ受け入れていた。今がまさにそうである。
「せっかく婚約者との初めてのダンスパーティーなんだ。君の魅力を最高に引き出したい。お金は俺が出すから、ね?」
「そ、そんな!ここまでしていただいたのですからせめてお金は自分で出します!」
「だーめ。大人しく俺に甘えて?俺は君に喜んで欲しくてここまでしてるんだけど?」
「リヒト様…」
「クレア…」
そっと触れるだけのキスをする二人を、リヒトに仕える執事は見ないフリをした。
ー…
「リヒト様、準備出来ました」
「…」
「リヒト様?」
「ー…綺麗だ」
リヒトは思わずクレアの頬に手を伸ばす。そっと撫でられクレアはドキドキした。
「あの、リヒト様…?」
「…こんなに美しいと、外に出したくなくなるな。今日のパーティーはサボるか」
「坊ちゃん」
「チッ…さあ、お手をどうぞ。マイレディー」
「はい、リヒト様」
リヒトにエスコートされて馬車に乗り込むクレア。いよいよダンスパーティーに参加するのだ。クレアは緊張しきりだったが、馬車の中でリヒトがたくさん話しかけてくれたためそのうち緊張も緩和された。そして会場に入場する。
「リヒト・ロドリグ様、クレア・パトリス様ご入場です!」
「ご覧になって。成金男爵令息と爵位だけ伯爵令嬢ですわよ」
「最近では男爵家のお金で贅沢を覚えたとか」
「婚約者の家に出資させてお金を稼いだと聞きましたわ」
「なんて浅ましいのかしら」
「リヒト様も、あんな地味な子直ぐに飽きて…」
ひそひそ言われながら内心ドキドキしつつも胸を張って入場したクレア。リヒトが全身全霊をかけて最高に魅力を引き出したクレアの姿に、二人を馬鹿にするような雰囲気だった会場はしんと静まり返った。一拍おいて会場がざわついた。
「な、なんであんなに可愛くなってるんだ!?こんなことなら俺が捕まえておけば良かった!」
「嘘…あんなに可愛くなるなんて、どんな魔法を使ったのよ!?」
「り、リヒト様はすぐに飽きると思っていたのに!あれじゃ付け入る隙がないじゃない!」
「待って、私失礼な態度を取ってしまいましたわ!?あんな綺麗なお姉様になんてこと!」
「まるで月の女神のようだ…リヒト殿が羨ましい…」
そんな会場の雰囲気に、バカな奴らだと鼻で笑ってその後とびきりの笑顔をクレアに向けるリヒト。クレアもそんなリヒトに優しげな微笑みを向ける。そんな二人の様子に何人かのご令嬢が悲鳴をあげる。まったくもって罪な男である。
その後甘いダンスの時間を過ごす。楽しく踊った後、シャンパンを飲みつつ休憩していた二人にダンスのお誘いが何度もあった。しかしリヒトへのお誘いは全て本人が断り、またリヒトはクレアに悪い虫がつかないようにと徹底して男を追い払う。そんなこんなで二人だけで楽しくダンスパーティーを堪能し、その後はさっさと馬車で帰る二人に会場は大いに盛り上がった。
「じゃあ、クレアも無事に伯爵家に帰した訳だし、俺はもう帰るよ。またね、クレア」
「お気をつけて。あの、今日は本当にありがとうございました!とっても楽しかったです!」
「それは俺のセリフだよ。また、クレアと踊れる日を楽しみに待ってるよ」
そっと額にキスを落とし、赤面するクレアの様子に満足して帰って行くリヒト。クレアは真っ赤に染まった顔のまま、リヒトの馬車が見えなくなるまでそっとお見送りをして屋敷に戻った。