隠者忍法帖
俺の通り名は『ネトゲ廃人』。間違えた『ネトゲ魔人』。
今ハマっているのはこれだ。甲賀忍者となって伊賀忍者に見つからないよう隠れながら里へ帰る。
このかくれんぼゲー、その名は『バジリスク』。間違えた、『隠者忍法帖』。
PCの前に座った時が一番の天国だ。
課金して手にいれたバジリスクコラボの朧コス。それを自分でエディットした黒髪ロング美女に着せる。18禁モードを期待したが一瞬で着せかえは完了……。
いざ、隠密行動開始!
林道のステージ。敵の位置は、左下のマップで確認。
さてどう隠れようか?
おっ、他プレイヤーがきたぞ。全身忍装束男だ。あいさつしとこう!
だが、返事がない。しかも今時従通ってハンネはないだろ。スルーしようとしたら、従通がコメントしてきた。
「今、お菓子食べてるよ」
頼むから隠れる手段のコメントを!
「サーロインステーキ食べてるよ」
じゅるり……ゲームの話をしろよ!
俺はスルーしてとんずらしようとしたが、止めた。敵に見つかりゲームオーバーになってしまうからだ。
仕方なく従通と行動することにした。また従通から珍妙なコメントが。
「今、ベッドの中だよ」
あんたは俺の彼女かっ!
「今、ベッドから出たよ」
そのうち『愛してるよ』とか言いそう……。
「今、ベッドから3歩進んだよ」
しらねえよ、3歩進んで2歩下がっとけ!
「あたし、実は女なの…」
忍装束野郎の姿でそれ言う?
「君、ベッドの下にフィギュア隠してるよね?」
なぜそれを? 彼女通り越してストーカーだっ!
「掃除してたら見つけちゃった」
ストーカーの癖にお母さん気取りか?
「さて、そろそろ……」
なんだよ、昼のワイドショーでも見るのか?
「入れ歯洗わなきゃ!」
ばあさんかよ!
女と聞いた俺のときめきを返せ!
「やっぱり洗ってもらおうかな。ねぇ、あんた!」
えっ、俺?
「これから毎日入れ歯洗ってください」
なにプロポーズ風に言ってんの? しかもそんなプロポーズ初めて聞いたわ!
ちょっとイラついたので催促してみる。
「あの、敵に見つかるから早く隠れ身の術を使いましょうよ!」
「あたしはもう隠れてるよ!」
うそつけ、画面にバッチリいるじゃん! しかもカメラ目線で!
「あたし、もう隠れてるよ」
「どこにですか?」
「探してみて! 10円あげるから」
うまい棒も買えないし!
「じゃあ、100円!」
ピザポテトも買えないし!
「しょうがない、10万円! 振り込むから口座教えて!」
詐欺じゃん! 昨日来たスパムに同じこと書いてあった!
よし、諌める必要があるな。
「詐欺なんてやるものじゃない。故郷のお袋さんが悲しむぜ」
なんで俺がベテラン刑事になってんだよ!
「そうね、じゃあお金なしで。あたしを探して!」
「めんどくせ」
「ベッドの下にいるラビットハウスの娘たちがどうなってもいいのかな?」
マジで!? 俺のベッドの下を知られてる! リゼやシャロ、ココアの安否が心配だっ! 急げっ!
PCから離れ、ベッドの下を覗くため敷き布団をめくる。まるでスカートをめくるような背徳感にドキドキしてたら、白骨死体と目が合った。
「うわぁっ!」
俺は驚いて飛び起きたら、
「あたし、ガイコツで醜いよね。醜いよね……」
画面からバリバリと何かが剥がれる音がしたので目を向ける。なんと、男の忍装束が剥がれ中からガイコツが姿を現した。
「さびしい、さびしい。醜い、醜い!」
ひぇっ、ベッド下のガイコツに足を掴まれたっ!
仰向けの俺、ギシギシと軋む音は画面からも聞こえてきた。
「あなたもあたしと結婚してぇ!」
たっ、助けてっ! PC画面からガイコツが飛び出してきた。
頭と足をがっちり掴まれた俺にガイコツはステレオで語りかけてくる。
「さあ、これからあたしと同じキャラメイクしてあ・げ・る。あなたを食べてあげるから!」
ガイコツの口が胃を穿つ! いてぇっ! 腕をかじられた! 顔も腹のぜい肉もっ! 助けてー!
さぁ、いこうか。俺に彼女ができた。お揃いのキャラメイクで。
次のターゲットは画面の外のあなた。食べてあげるから。
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