甘口
怖いな~
恐いな~
ブラブラと放浪しながら旅をする。
結構大変でした。
特にお金。資金が尽きた時は、皿洗いやら、雑用なんかしながら食い繋いでいましたね。
当時は結構緩かったので、見ず知らずの私でも、理由を話せば、短期で仕事を貰えました。
当然ですが、お金を節約する為に野宿なんて事もざらです。
当時は道の駅なんてなく、大体は駅の軒下を間借りしたり、無人駅の待合室で始発まで夜を明かしていました。
後は、バスの停留所のベンチだったり、交番もありますね。
制服を着た人から根掘り葉掘り質問されました。
あれは、とある県境で無人駅で一夜を過ごした時の事です。
夏も終わりに近付き涼やか……なんて事はなく、残暑が厳しくムシムシした日でした。
田舎って駅が閉まるのが早いです。
早い所では八時に最終なんて事もあります。
私は電車の連絡に失敗して、その終電を逃しました。
計画では、その駅から街まで出て近くの漫画喫茶で仮眠。と考えていました。
結局は、駅の待合室で始発まで待つ事になってしまい、晩御飯を菓子パンとカロリーメイトで手早く済ませ、後は寝るだけです。
無人駅って、大抵は電気は点けたままの所が多いんですよ。
特に田舎になると防犯の為か、駅全体を明るくしています。
時刻は九時を回った位ですね。
明日の段取りを時刻表を見ながら組み立てると、後は暇な訳です。
暇すぎて、駅の周りをブラッと回る事にしました。
肝試し?そんな風情はありません。
駅から少し離れると、閉まった古びた商店と明かりの漏れる民家、後は田園風景。
不気味と言えば不気味。しかし街灯が所々にあるので、その不気味さは半減。
痴漢注意の看板が目立つので『あぁ、成る程ね~』と納得。
三十分もすると飽きて、駅に戻ろうと、道を引き返しました。
道を半分位戻った位です。
街灯の柱の影、目立たない場所に動く物体がチラリと見えたのです。
気の性と思いましたが、近付くに連れて、物体は確かにあり人の形をしてました。
ゲッマジか?と及び腰、私は鶏ハート。
幽霊だったらどうしよう?と割りと本気で考えてました。
しかし、見栄っ張りな部分が『こら!鶏は寝てろよ、只の影だろ?なんかあったら蹴り入れろよ!』と訴えます。
因みに、親戚にガチの格闘野郎がいて、練習に付き合わされていたので、一応の心得はあります。
フルコン空手、日本拳法、ムエタイやら、やけに殺傷力の高いものばかりです。
土地勘もなく、回り道とか知らないし、見栄っ張りな部分が勝ち、そのまま進む事にしたのです。
テクテク。
影はモゾモゾ。
テクテク。
モゾモゾ。
近付くに連れて、影はやはり人だと確信できて、少し安心。
しかし、近付くにつれてモゾモゾと蠢く動作が活発になります。
コワッ!
と不気味さと恐怖を抱きながらも、ここは虚勢一発、堂々と歩きます。
二メートル位ですかね。
電柱の影からバッとその影が飛び出したのです。
外国の映画で『キャーー!』と悲鳴を上げるでしょ。
アレッて本当だったりします。
『ウォー!』『シャー!』『ワー!』っだったか、私は悲鳴を上げました。
ただ、キレた場合もそうです。
悲鳴を上げて、思いっきり踏み込んで、間合いを詰めて蹴り上げました。
伝わるのは人体を殴打した時の独特の感触。
『グブォっ』って影が呻くのです。
本来なら、人間だと解った時点で、止まります。
しかし、あの時は脳内麻薬がドバドバ状態。
後、反復練習って怖いですね~。
相手が怯んだらコンビネーション。
掌打と肘で一気に決める。
気付いたら、肘が見事に相手の頬を撃ち抜いてました。
漸く、冷静になってみると………痴漢ルックのオッサンが泡吹いてました。
真夏に黒のロングコートとスニーカーのみ。
痴漢ルックでしょ?
絶滅危惧種の痴漢ルック。
絶滅推奨の痴漢ルック。
ゲキレアですよ奥さん。
前はペロンとはだけて、誰も得しないポロリ状態。
取り敢えず逃げました。
全力で逃げました。
十分ほどした位ですかね。
駅で息を整えていると、微妙に大きな音のサイレントが聞こえてきました。
心臓バクバクしながら、急いでゴロッとタヌキ寝入り。
始発までドキドキして、一睡も出来ませんでした。
電車に乗り、街の漫画喫茶の個室に入るまで、色んな意味でドキドキでした。
因みに私は男です。
身長は有りませんが、体格は良いです。
格好もジーンズ、Tシャツ、スニーカーと普通です。
強いて言えば、少しロン毛気味位です。
何故、私に来たのでしょうか?
後日談として。
地元では名士な人が逮捕された事を風の噂で知りました。
逮捕の状況が、あまりに間抜けなので、一気に広まった見たいですね。
信じるか信じないかは、あなた次第