友人が見つかったっぽい 〈side 六花〉
連れて行かれた先にいたのは、件の御曹司と、ボンキュッボンな女性。六花は思わずその女性の胸元をまじまじと見てしまった。
「失礼しました」
「いいえ。興味津々で悪意のない視線というのは初めてですので」
朗らかに女性が言う隣で、パソコンをいじっていた御曹司がだんだんと不機嫌になっていく。
「葛葉」
「ふふふっ。兄様、わたしの着る服には口出しをしないお約束でしょう?
柳瀬 六花さん。ご挨拶が遅れました。わたし、兄様の従兄妹で婚約者の四条院 葛葉と申します」
「こちらこそ挨拶が遅れました。柳瀬 六花です」
なんで連れて来られたか全くわかりませんが。一応、その言葉は飲み込んだ。
流れるような動作で、葛葉と名乗った女性は御曹司の隣に座る。動きもお上品なこと。などと、全く関係のないことを六花は思った。
「兄様から伺いましたわ。ご友人をお探しだとか」
「……まぁ、音信不通になっている友人ならたくさんおりますので」
事実である。引っ越し歴の長い六花は、そらもう音信不通の友人も多い。
「あら、あの方との共通の友人で音信不通なのは、お一人では? その方とお会いできる環境をこちらでご用意いたします」
思いっきり舌打ちしたい。どうやら、数日で六花と晴海のことを調べたらしい。
「その御心配には及びませんので」
対価なぞ取られたらたまらん。
カタカタとパソコンをいじっていた御曹司がやっと顔をあげた。
「登坂 晴海と接触したそうだ。間もなく来るぞ」
「ちょっ!?」
あたしが来れば、はるちゃんのところに行かないんじゃなかったんかい!!
「安心しろ。登坂 晴海と接触したのは四条院の人間じゃない。お前も知る奴だ」
「ありえないっ!!」
うわいあ、やっちゃったよーー! と思いながらも、あの厭世的な親友が、御曹司と繋がりがあるとはとても思えないのだ。
「断言できる当たり、流石ご親友」
感心したように葛葉が呟いたその時だった。
六花のスマホが鳴り響いた。
その部屋から慌ててでて、六花は電話を取る。あ奴らには聞かせたくない。
「はるちゃん! だいじょぶ!?」
『りっちゃんっ!! なっちゃんが見つかったの!!』
六花の問いに被せるかのように、晴海が叫んだ。
ちょいマテ。叫ぶな。そう言えたらどれだけ楽か。厭世的な友人が見つかって叫ぶのが分かるだけに、六花は止められない。あの部屋から少しでも離れるべく、走るしかないのだ。
「で、見つかったって」
『うんっ! パパが勤務している病院に来てたの! 相変わらず、すっごい不愛想な美人さんだった』
着替えを持っていったらね、ばったり会ったの! と嬉しそうに話す晴海に思わずほっこりしてしまう。
「ってことは、傍になっちゃんがいるの?」
『うん。今私とりっちゃんの携帯番号を、なっちゃんの持ってるスマホに登録した』
「あとで、あたしに教えてくれ」
『SMSで送るよー』
送るのは間違いなく晴海だ。厭世的な友人は機械音痴である。
『そういえば、どしたの? さっきダイジョブって聞いてきたけど』
「……あ」
その瞬間、六花の肩をぽんとたたく感覚がした。
スマートフォンを落としてしまったのは、悪くないと思う。
葛葉さん、あなたは出てくる予定じゃなかったんですが(;'∀')
カオスでしかねぇ